原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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【27階層の悪夢】君の理想はそこまでか?【女神タレイア顕現】

 

27階層の悪夢。

闇派閥による嘘の情報に集められた有力な冒険者達が怪物進呈(パスパレード)を仕掛けられ、ほぼ全滅。

地獄の光景が広がり、闇派閥も冒険者も多数の死者を出す。

今回も首謀者はオリヴァス・アクト。

死の7日間を生き残り、ヴィトーも捕らえられている今、唯一残った幹部の彼は起死回生の策として打って出た。

 

そして、地獄と化した27階層で身を起こす者が、1人。

 

「うっ……ぁ……」

 

フィルヴィス・シャリアは逃げずに仲間の助けを受けて、【穢れた精霊】に挑んだ。

結果、無駄死にし、【怪人エイン】となり、化け物と化した。

そして、化け物になった自身への絶望のまま帰ったフィルヴィスは、とある神と出会う。

その神は、フィルヴィスを受けいれた。

フィルヴィスを愛した。

その絶望の縁を利用しようと……してくれた。

 

―――嘆く君を愛すると。

 

―――そうだ、他の皆を【君と同じ】にしようと。

 

そうすれば、私は1人じゃないと。

 

 

 

「ダメだ。ほんと~~~にダメだな、デュオニソス。君はいつまで経っても、その程度の言葉(セリフ)しか吐けない」

 

 

『……!?』

 

 

デユオニソスとエインの元に1人の女神が割って入る。

彼女は地下部屋の階段をゆっくりと降りてくる。

どこから侵入してきたのか、エニュオは彼女を睨む。

 

「君は……」

「エ、エニュオ様。彼女は一体……女神様、ですか?」

 

困惑するエインがデュオニソスを見るが、彼はその女神が現れたことに衝撃を受け、瞠目したまま。

女神はそんな彼の様子を見て、口角を上げる。

 

「そうだな……()は、【女神タレイア】と、でも名乗っておこうかな?」

「なっ……!」

 

女神タレイアなる神物(じんぶつ)が名乗ると、デュオニソスがさらに目を見開いた。

 

「なぜだ?なぜ、彼女(タレイア)の名を騙る?」

「はは~ん、君は僕がタレイアかそうじゃないかなんて知らないだろぉ?所詮君はその程度の役者、というわけさ」

 

指摘されたデュオニソスが顔を顰める。

確かにデュオニソスにも彼女の正体はわからない。

タレイアを騙るようなことを言っているが、本当はタレイアでなにか意味があって思わせぶりかもしれない。

でも、本当にタレイアじゃないかもしれない。

分かるのは、彼女が女神ということだけ。

そもそもなぜ自身のことをあやふやにするのか、その意図もわからない。

 

そうして、その女神タレイア"かもしれない"神物が遂に同じ床に降り立ち、視線を合わせてデュオニソス達と対峙する。

 

そもそも、彼女は何をしにここに現れたのか。

デュオニソスもエインも警戒する。

 

「フィルヴィス・シャリア。僕の目的は君だ。ディオニソスに興味は無い」

『……!?』

 

2人が瞠目する。

タレイアは、標的の彼女を見て不敵に笑う。

 

「フィルヴィス・シャリア。君に問う。デュオニソスが君に提示した【不特定多数怪人化による孤独からの解放】で君は本当に満足なのかい?それが君の望みか?理想か?君の欲望はその程度か?」

「待て!タレイア、君は何が言いたい……?フィルヴィスを唆すつもりか!?」

「あぁ、そうだ。さっき言っただろう。反復台詞は嫌いだね。一発で呑み込みたまえ」

 

指摘され、エインの瞳が揺れる中、デュオニソスの横槍を受け、タレイアの標的は変わる。

先にこいつを場外にすると。

 

「デュオニソス。君の書く物語(シナリオ)は実に退屈だ(つまらない)。君の舞台に彼女程の役者は勿体ない」

「な、何を……言っている……!」

 

デュオニソスは表情を歪める。

彼は、高尚な自認が理解できないもの、自身の展望や欲望を邪魔されるのを嫌う。

だから、格が低いんだ。

 

「ディオニソス、君は僕と同じだ。小物の神。今回のシナリオは君にしてはいい線をいくだろうが、それは彼女を見つけることが出来たおかげ。つまりが運が良かっただけだ」

 

タレイアは部屋を練り歩く。

2人が警戒し、攻撃性を帯びているのはわかっている。

だが、無駄だ。

エインより遥かに強いアマゾネスがこの部屋で身を隠している。

襲いかかってきてもいいが、後悔するのが関の山だろう。

 

「僕は脚本家(ライター)であり、評論家(しょうひしゃ)でもある。見るに堪えない同業者は―――不快だね」

『……!』

 

タレイアの雰囲気が変わる。

温度が下がる。

その冷たい目はエインへと向けられる。

 

「フィルヴィス・シャリア。君は本当にお仲間が増えれば満足なのかい?孤独から開放されればいいと?それは【妥協】ではなく、本当に【天望】かい?君が絶望する前に、諦める前に望んでいたことはそれか?弱ったところに漬け込んできた耳心地のいい言葉に脳がやられている君の、本来の思考回路を取り戻せ」

「な、何を……」

 

エインが狼狽える。

タレイアが何を言っているのか理解できない。

だが、なぜだか、言葉が響く。

刺さる。

特に、妥協ではなく天望か?という問い。

本当の欲望、本当の望み。

それは。

 

「いい加減にしろ!」

「……!」

 

デュオニソスが激昂して、エインがハッと我に返る。

そうだ、エインが好きなのはデュオニソス。

エインが崇拝するのはデュオニソス。

忘れてはならない。

 

「タレイア。私も君が不快だ。私のフィルヴィスを横取りしようとする者は許さない!」

「ペ~~~ライ。ペラいペラいペラい。本当に台詞がペラいな君は。まるで玩具を取られて駄々を捏ねている子供にしか見えない。仮にも脚本家(ライター)の自認なら言葉で勝負しないか。それともメルヘンドラマでも書くのかい?なら彼女に恋を誤認させてお人形遊びをしているといい」

「なっ……!」

 

タレイアはマトモに相手をしない。

少しでも既定路線(プロット)からズレて狼狽えるような黒幕気取りの神がやることと言えば、思い通りにならないと嫌だとごねることだけだ。

そんなものを相手にしようという気など起こるはずもない。

 

「フィルヴィス。僕はディオニソスとは違う。自身の欲のためにつけこみ、君を利用しようとする搾取だけの存在。孤独で承認を求める君に盲目を与えて依存させる三下屑(DV)などとはね」

「惑わされるな、フィルヴィス!この女もお前を利用しようとしているだけだ!正義の神などではない。邪神と大差はない!」

「デュ、デュオニソス様……」

 

エインの視線は未だデュオニソスに傾いている。

当然だ。

タレイアはまだ手札を殆ど切っていない。

デュオニソスを激情させることが第1章(プロセス1)だ。

エインはまだエニュオを信仰している。

こんな私を、受け入れてくれた彼を。

―――それをここからぶち壊す。

 

「フィルヴィス・シャリア。確かに私も君を利用しようとしている。ただ、僕としては正直()()()()()()()

「……!?」

「僕はデュオニソスが気に食わないから君を奪いたいだけだ。困るんだよ、彼みたいなのが好き放題できる世の中じゃ。それじゃあ【ゼウス】に認められなかった僕が阿呆らしくなるだろ?」

「な、なんの話しをしている……。いい加減にしろ」

 

デュオニソスがそろそろ限界だ。

彼を一瞥して、フッとタレイアは笑う。

 

「フィルヴィス・シャリア。正直君の特異性なんて、大したことはない。世の中にはもっと特別な存在がごまんといる。君の価値なんてその程度だ。だから、僕が君を求める理由はない。それでも僕は君に手を差し伸べる。なぜかわかるかい?」

 

タレイアは尋ねる。

当然、答えは返ってこない。

答え合わせは本人の口から。

 

「"ほぼ""慈悲"だ」

「……!」

 

ここで初めてフィルヴィスの視線がタレイアへと移った。

 

「デュオニソスを退場させるついでに節介してやろうということさ。君が後悔しないようにね。もちろん君が私につくならその力は利用させてもらうが、君も僕を利用するといい。寧ろ、君の方が比率は高い。君も僕に付いてきたくなるはずだ」

 

1拍置いて、タレイアは「僕の計画を知れば、ね」と口にする。

 

「計画?」

「まあそれはここで出すのはまだ早い。だが、間違いなく僕の計画を利用すれば君が求めるものは手に入る」

「も、求めるもの……」

 

デュオニソスの疑問を無視してタレイアはフィルヴィスに語り掛ける。

フィルヴィスは思い悩んだ。

相手が神だから、間に受けているのだ。

神の言葉はそういった魔力がある。

人智を超えた存在に、人は期待する生き物だからだ。

そして、フィルヴィスは知りたくなった。

女神が言う自身の『本当の望み』とやらの全貌を。

 

「ここで勿体つけた落とし文句を満を持して公開しようか、フィルヴィス・シャリア。君の本当の望みを私が言葉にして示してあげよう」

「……!」

 

ちょうど、知りたいタイミングで刺激される。

惹き付けられる。

フィルヴィスは目を見開いた。

知りたい。

どうしても。

 

「フィルヴィス・シャリア。君の望みは【孤独からの解放】ではない。君の望みは―――

 

 

 

【人間に戻りたい】、だろ?」

 

 

『なっ……!?』

 

エニュオも、フィルヴィスも瞠目する。

それは、そりゃそうだ。

わかっていたことだ。

でも、不可能だからこういう話になっている。

こいつは馬鹿か?

エニュオは、嗤った。

 

「ははっ。はははははっ!あっはっはっはははは!!何を言い出すかと思えば!!そりゃそうだろう!!だが、不可能だ!!だからこそ、私の提示した答えが唯一の救いなのだ!タレイア、君はそんなことを言うためにここまで勿体つけたのか!?なんて愚かなんだ!!」

 

エニュオは足元にあったアルミ缶を蹴りあげる。

タレイアは……未だに余裕の笑みを浮かべたままだった。

 

「"できるよ"」

『え?』

 

それは、一言にして絶大。

2人が固まるにしては十分。

そして、エニュオが我に返る前にタレイアは"方法"を提示する。

 

「―――世界を、創り変えればいい。私の計画の最終到達地点。全ての段階(ステップ)を消化すれば、可能だ。今の世界を滅ぼし、新しく世界を構築する。そして、今いる者たちは生まれ直す。その時、君は―――以前のように【ただの人間】だ」

「……っ!?」

 

フィルヴィスが動揺する。

目の前の神の言っていることは壮大すぎる上にトンチキすぎる上に異次元すぎる。

そんなことが本当に可能なのか。

にわかに信じられない。

 

「そ、そんなことは不可能だ!何を言い出すんだ、君は」

「可能さ。君も心当たりがあるんじゃないか?」

「……!ま、まさか君は……」

 

エニュオが詰まり、フィルヴィスが凄い勢いで彼を見る。

言い淀んだ。

言い淀んだ……!

デュオニソスからしても、心当たりがあるという証拠。

まさか。

他の神も認めるなら現実を帯びてくる。

まさか。

 

―――本能に可能なのか……?

 

「き、君は……迷宮(ダンジョン)を【完全攻略】するつもりか?」

「えっ」

 

フィルヴィスがタレイアを見る。

彼女は、口角を上げる。

 

「ふ、不可能だ!全ての神々が内心無理だと思っている。子供たちの無謀な挑戦に口出しすることを禁じられているだけだ。不可能(むりげー)を本気で成し遂げようとしている神はいない!」

 

衝撃の言葉の連続が理性を失ったエニュオから発される。

フィルヴィスは、今、とんでもないやり取りを聞いているのではと、これを聞いて自身は大丈夫なのかと2人の神を交互に見る。

その狼狽えもタレイアの視界には映っている。

 

「安心したまえ、フィルヴィス・シャリア。それが為されるのであれば、なんの問題もない。不可能だから禁忌の扱いになっているだけだ。だが、それが可能ならば?」

「ありえない!!」

 

デュオニソスに強く否定されて、タレイアは……ニタァと初めて、デュオニソスですらギョッとする笑みを浮かべた!

 

「可能なんだなぁ~!これがぁ!ハッハッハ!僕の唯一の眷属!!神化への切符を既に掴んだ【Lv.12】。彼が我々【超越存在(デウスデア)】を超えた

 

―――【絶対存在(アブソリュート・デア)】となる時!!それは為される!!これが僕の物語(シナリオ)だ!!」

 

『……!!』

 

力強く、訴えるタレイア。

あまりの内容に衝撃を受け固まった2人を置いて。

彼女は、フィルヴィスに手を差し伸べる。

 

「フィルヴィス・シャリア。あとは君が選択するだけだ。別に僕はどちらでも構わない。それに、君が僕についてこなくとも僕が勝手に計画を完遂すれば君は何もせずとも本当の望みが勝手に叶う」

 

だが、とタレイアは続ける。

 

「世界が再構築されるまでの間、君はその身体で残りの人生をデュオニソスの稚拙な作文程度の短編に付き合うことで消化するのかい?デュオニソスに尽くすか、僕の仕事を選ぶか。やりがいのある方を選ぶといい。前者を選んでも僕は君を否定しない。まあ……嘲笑はするけどね」

 

盲目な信仰、偽りの救い、色恋の模造。

現を抜かしてボケて過したいなら好きにするといい。

しかし、もし、自身の欲に向き合うなら。

自身がまだ、誇り高き高潔なエルフだと言うのなら。

そのプライドは、その気品は、どちらを選ぶ?

 

「……タレイア様」

「待て!待て!!待て、フィルヴィス!!私を置いていくな!!こいつの妄言に等しい世迷言が本当に現実味を帯びていると思うのか!!よく考え直せ!!」

「デュ、デュオニソス様……」

 

腕を引かれ、困惑するフィルヴィス。

だが、もう勝負は明白だ。

 

「どうかな。例え世迷言で嘘偽りだとしても、君の誤魔化しと大差があるかな?本心から逃げた先の自暴自棄よりも、にわかに信じ難い『夢』の方が人を惑わす力がある。デュオニソス、君は勉強不足だな。人は欲の生き物だ。君は……人間をもう少し勉強しておくべきだった」

「タ、タレイアぁ!」

 

デュオニソスが激昂する。

が、その上からアマゾネスが降ってきて抑え込んだ。

 

「ぐあっ!?」

「……っ!」

 

押さえ付けられたデュオニソスを見て、タレイアに向かって歩み始めたフィルヴィスは少し反応するも、名前を呼ぶことも、助けようと動くこともなかった。

その姿を地に這いながらデュオニソスは目に焼きつける。

 

「うっ……うぅ……!」

「憎悪と悔しさで涙か。まるで子供だな。まあ、君のさっきまでの態度に相当な稚拙さだとは思うが」

「タレイア……!許さんぞ、貴様だけは……!」

「お好きにどうぞ。所詮君は彼女を見つける運があっただけだ。君の腕ではもう巡っては来ない。君を野放しにしても役者不足で足を引っ張られることはないね」

「き、貴様……!」

「……仕方ない。少し、()()()()()()()()

「……!」

 

タレイアがデュオニソスの頭に触れる。

瞬間、タレイアが思い描く計画のシナリオが彼の頭の中に流れた。

下界で許される領域の個々の特有の【神の力(アルカナム)】だ。

フレイヤの魅了と同じ。

タレイアの思い描く考えが流れ込んできたデュオニソスは。

 

「な、なんだこれは……そ、壮大すぎる……そして、凄まじい【理論】だ……だ、ダメだ。私では……私では、勝てない。役者が違いすぎる……」

「ま、そういうことだね」

 

タレイアが手を離す。

彼は呆けた。

 

「デュオニソス。君は僕の行為を鑑賞してるといい。特等席でね」

 

彼からの返事は無い。

おそらくデュオニソスはこれから自ら天界への送還を選ぶだろう。

神にとって、打ちのめされること以上のことはない。

結局は全能に自負を持っている生き物だからだ。

そして、快楽・娯楽に飢えた生き物だからそれを得られないとわかると引くしかない。

 

「さて、行こうか。フィルヴィス。【繁栄の役者(アクターズ)】が君を待っている」

「【繁栄の役者(アクターズ)】……?」

「彼女もその1人さ」

 

タレイアがデュオニソスから離れたアマゾネスを指す。

彼女は強面で冷たい声を放つ。

 

「タレイア。私はカーリーさえ討てたら貴様の何事にも干渉しない。だが、その女にここまでする価値はあったのか?」

「君の言うこともわかるよ、テシレア。確かに脚本家が舞台に上がり演技をするなんて、慣れないことをした。今後は終盤まで出番はないさ」

「……だといいが」

「まあ役者に対する出演交渉だとでも思ってくれ」

 

テシレアは納得しないが、どうでもいいので「そうか」とだけ返す。

その態度もタレイアは気に入っている。

Lv.9相当の怪人(クリーチャー)、テルスキュラにてアマゾネスの元女王たる彼女のレッテルが起用理由ではあるが。

 

「フィルヴィス。デュオニソス。君達に【繁栄】を。この繁栄を司る女神たるタレイアが、君達の今後の未来を願おう」

 

我は、【女神タレイア】。

【繁栄】の神なり。

 

 

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