原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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灰色の厄災(ジャガーノート)

 

「なるほど。『27階層の悪夢』……そういう事でしたか」

 

【アストレア・ファミリア】が動き始めた頃にはもう手遅れだった。

大惨事となった事件の惨い現場だけを見て、後処理だけを行った【アストレア・ファミリア】。

その光景を見て、ルシアを始めとした正義の眷属たちは異臭漂う27階層で顔を顰める。

 

「【勇者(ブレイバー)】もえぐい事を考えるというか……」

「……フィンさんの判断は間違ってはないかと。惨殺事件は囮。その間に逃げおおせる闇派閥の神々を多数、天界に送還できたのは功績です」

「【勇者(ブレイバー)】が悔いていたぞ。お前がいれば両面を救える策を講じれたかもしれんとな」

「千里眼の後遺症でくたばって機能しなかったなんて言い訳にはなりません。ただ大事な時に体調(コンディション)を整えられなかった私の失態です」

「そうか」

 

だから文句を言わないんだなとでも言いたげな輝夜の視線に、ルシアは視線を落とす。

正直、この結果は満足できない。

ルシアは死体を見下ろしながらそう思う。

しかし、肝心な時に役に立たず、他者がその場で下した最良の選択にケチをつける権利がないのも事実。

今回に関して、ルシアから辛口になることはない。

 

「ちなみに、ルシアから見て今回の闇派閥の思惑は邪神様達の雲隠れだけだと思う?」

「さすが団長。可能性を追求する姿勢、大好きです。そうですね。神々を逃がしたとなると、他の重要人物も同じと考えた方がいいですね」

「闇派閥の幹部か。確か【殺帝(アラクニア)】もフィンの奴が取り逃したって言ってたしな~」

「……」

 

いえ、私が殺しましたとは言えないルシア。

殺したことに後悔はない。

ヴァレッタが生き残っていればより多くの被害が生まれるのは容易に想像できる。

あそこで息を止めたのは必ず正解になる。

そう考えるルシアを輝夜も一瞥する。

幹部はヴァレッタ、オリヴァスやヴィトーだけではない。

闇派閥の勢力はかなり大きい。

そう視線で訴えているのだ。

ルシアもこっそり輝夜に頷く。

 

「引き続き闇派閥は潰していく必要があります。それがこれから起こる被害を防ぐことになる。私がいたとしてもフィンさんに近しい案を出していたと思います」

「そう。この光景を見てるとやるせないけど……フィンやルシアにも限界はあるものね。最上に近い選択ができたなら今は今後について考える方が建設的ね」

「はい。その通りです」

 

ルシアは頷く。

そして、せめて埋葬してあげようという冒険者達の以降により、死体の回収が始まった。

ルシア達もそれを手伝うことになる。

彼女達の活動を前に、アリーゼは悲惨な景色を見渡し……近寄り隣に立った輝夜を見る。

 

「……さっそく失格かしら?私」

「今回は仕方ない。ルシアの予言からこれほど早く事が起きることは想像できなかった。これで貴女を卑下するつもりはない」

「そう。よかった、というべきなのかしら。複雑な感情ね」

 

状況が状況だけに、どんなやり取りをしていても言葉を選ぶ。

 

「今回のことよりも次が問題だ」

「そうね。リオンの……いえ、私たちのことだもの」

「あぁ。そもそも次のルシアの予言を防がねば、貴女がルシアを救えるかどうか判断するどころか我々は全滅だ」

「【灰色の厄災】、だったかしら。なんの事かサッパリね。でも、未然に防がないと。それに、この世のあらゆる問題を解決してルシアを予言から解放する。やること山積みね」

 

内心、頭を抱えるアリーゼ。

2人は天を仰ぐも今考えても仕方ない。

今はアリーゼと輝夜も死体の回収に参加することにした。

そうして活動をしたあと、彼女達は一連の事件の後処理も終わり、地上へと戻り帰路につく。

 

それは、夕暮れの時。

 

「ルシア・マリーン」

「……!」

 

とぼとぼと暗い気持ちで帰る【アストレア・ファミリア】。

重い足取りの最後尾を歩いていたルシアにだけ聞こえるような声量。

どこか篭ったその声は、路地の隙間から聞こえた。

ルシアは立ち止まり、そちらを見る。

 

すると……フードを深く被った者がいた。

名を、『フェルズ』という。

 

「なんでしょう?誰ですか?貴方は」

「私は……フェルズ。君が千里眼の使い手であることを知っている者だ」

「……なるほど」

 

全く理解できない。

が、ルシアは舐められないために聡明なフリをした。

今、目の前で起きている出来事はまるでわからない。

この男はなんなのか。

なぜルシアが千里眼を持っていることを知っているのか。

なぜ近づいてきたのか。

どうせ問いただしたところで答えは返ってこないと、ルシアは判断した。

故に自分で探ることにして、話術による臨戦態勢だ。

 

「……なるほど。恐ろしく賢いな、君は」

「要件を聞いているのですが」

「あぁ、すまない」

 

ルシアは冷静に指摘するが、それは主導権を握られないためだ。

本心では、ルシアは思考が読まれて焦っている。

聡明なふりは見透かされている。

それでも、フェルズはルシアを賢いと評し、優位に浸らず会話という平等を選んだ。

ここで彼に悪意がないことはわかる。

寧ろ何か善意があって、必要だからルシアの前に現れ、何かを伝えに来たのだとルシアは察知した。

 

そして、彼はその通り、忠告してくれる。

 

「ルシア・マリーン。【ジャガーノート】に気をつけろ」

「ジャガー、ノート……?」

 

言葉の意味がわからず、ルシアは訝しむ。

その反応を見て、フェルズは補足する。

 

「君が【灰色の厄災】と称した予言の正体だ。奴はモンスターではない。ダンジョンの装置(システム)だ。階層を、迷宮を著しく傷つけた時に。修復作用を急ぐ為、『原因』の排除を担当(プログラム)されている」

「……」

 

ルシアは黙って聞く。

正直、「はぁ……?」と困惑気味に言いたいどころだが、その態度を見せるのは得策ではないため引っ込めている。

だが、言ってることがサッパリ理解できないわけではない。

 

とにかく、何らかがあって、【アストレア・ファミリア】の前に【灰色の厄災(ジャガーノート)】が現れるのはわかった。

誰かがダンジョンを傷つけ、その結果生まれたそれに彼女達は惨殺されるのだと。

だが、肝心の経緯は不明だ。

 

「……」

「……君は本当に賢いな」

 

特に会話を広げようとせず、脳内を巡らせて黙るルシアにフェルズはまた重ねた。

また見透かされた。

フェルズにはルシアの内心が手に取るようにわかる。

経験からだ。

 

ルシアは、【アストレア・ファミリア】の前にジャガーノートが現れる経緯について、フェルズは知らないのだろうという判断に至った。

恐らくルシアの千里眼を見抜いたのも、瞼を閉じながら真っ直ぐ歩ける手段はそれしかないと見たからだ。

千里眼そのものは知っていても、ルシアとルシアの千里眼を知っているわけではない。

ただ単に手元の材料から紐付けただけだ。

予言のこともダンジョンでアリーゼと輝夜の話を盗み聞きしていたのがオチだろう。

そこまでルシアは考察した。

大体状況は理解できたので、もうフェルズに聞くことはない。

ルシアはぺこりと背中を折ってお辞儀をする。

 

「ご忠告どうもありがとうございます。その怪物が現れたら倒します」

「無理だ。君達では倒せない」

「そうですか。わかりました」

「な、なぜそんな冷静なんだ……」

 

逆にフェルズが困惑してしまった。

ルシアは決して冷静な訳ではなく、現実的つまりは冷めてるだけだ。

そういうものと言われれば受け入れる。

それにフェルズはルシアの全てを知ってるわけではない。

ルシアがドラゴンであることを知らない。

それはつまり、最終手段を含めれば、フェルズは彼女達の戦力を把握できていないことになる。

 

「ジャガーノートというものがどれほどのものか知りませんが、いざとなったら最後の手段を使ってなんとかします。それでは、ありがとうございました」

「えっ」

 

ルシアは頭を下げて去ってしまった。

皆の後を追いかけるルシア。

まさか残されると思っていなかったフェルズは唖然とする。

 

「ジャガーノートを……なんとかする、だと……?どうやって?」

 

最後に理解できない側になったのはフェルズだった。

 

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