原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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正義は墜ちていく

 

推定Lv.6。

それはLv.〇〇相当やLv.〇よりも強い。

階層主などに主に使用される表記。

単純にレベルの数字が後者2つとイコールではなく、巨体も相まって数字よりも上の実力を想定され、集団で狩ることを前提とされている。

今、ルシア・マリーンは階層主ウダイオス並の強さを誇り、ジャガーノートに挑んでいる!

 

「ギャウッ!」

 

ルシアはドラゴンとなり、向かい来るジャガーノートに飛びかかる。

彼女の後ろには【アストレア・ファミリア】の仲間がいる。

ここから先の領域(ライン)は越えさせない。

 

「ギャウッ!」

「―――」

 

まずは竜の爪を下ろした。

だが、ジャガーノートの腕に防がれる。

ならば、と。

ルシアは背中を見せ尻尾(テイル)を横なぎにはらう。

が、それも跳躍で回避された。

ジャガーノートは階層を這いずり回れる。

その跳躍で天井まで一瞬、ひとっ飛びだ。

だが、到着する前で僅かだが空中にいる時間は自分の意思では動けない。

力学が上に働いてるからだ。

 

ジャガーノートが跳躍したその瞬間、ルシアは待ってましたとばかりに天空に向けて―――火炎放射(ブレス)を放つ!

 

「グルル……」

 

ルシアは唸る。

手応えがない。

焼き尽くし、破壊したのは天井だけ。

瓦礫と土埃が降ってきて視界が悪い。

だが、ジャガーノートに回避されたのだけは確かだ。

奴は天井についてすぐ天井を蹴り―――ルシアの背後へと降りた。

 

「――――――ッ!」

「ガウッ!?」

 

後ろから首元に噛みつかれてルシアは驚く。

奴は細く骨のような体を組みかかるように関節の曲がりを利用してルシアに絡みつき、動きを制限する。

このまま抵抗させず首を咬み切るつもりだ。

だが、ジャガーノートは失念している。

ルシアには翼がある。

ジャガーノートにはないから、ジャガーノートには翼もまとめて絡めて組み付く発想がなかった。

 

―――しめた。

 

ルシアは、もはや跳躍くらいの勢いで飛翔し、背中を天井へ一直線に全力でぶつける!

背中にはジャガーノートが引っ付いている。

故にルシアは大した衝撃を受けない。

ダメージを一任するのはジャガーノートだ!

 

「~~~~~~っ!!」

 

ジャガーノートが唸り、悲鳴のごとく耳鳴りがするほどの金切り声を上げてルシアから離れ、重力に引かれて地に落ちる。

そこに再びブレスをお見舞いしてやる!!

 

ギャオオオオ(くらえ)!!」

 

ルシアは火を噴く。

地上は豪炎。

大爆発が起き、クレーターができる。

しかし、ジャガーノートは健在。

直撃はしたが、硬すぎて大したダメージにはなっていない。

 

―――いや、違う。

 

「……っ!?」

 

ルシアは上空から違和感を覚える。

倒せるとは思ってなかったが、多少はダメージを受けると思っていた。

だが、ジャガーノートはまるで負傷していない。

まるで完全に防御したとでも言うようだが、まず落とされて不安定な体勢だった奴には防ぎ切ることはできなかったはず。

なのに無傷。

よく見ると……体表にうっすらと膜が発生し、それが鈍く煌めいている。

なるほど。

 

おそらく、魔法を防ぐバリアを纏って(コーティングされて)いる。

ダンジョンがそういう風に設計したんだ。

階層を破壊する障害者は、魔法を使うことが多いという事象から学習したのだろう。

その膜は、魔法だけでなく、モンスターの砲撃も防ぐようだ。

……それが今回だけの特別個体なのかは不明だが、今はどうでもいい。

 

ギャウギャウギャウ(砲撃は効きませんか)ギャウ(わかりました)

 

ルシアは困惑や動揺などという感情は除去し、『情報』として処理して理解(インプット)した。

機械のように冷静に判断し、飲み込まなければ隙ができて殺される。

これは、モンスターとしての勘……ではなく、妖精軍師としてフリテンに尽くした経験から身につけたもの。

相手が悪かったな!

 

「ギャウッ!」

 

ならば、と。

ルシアは飛翔能力を利用して急降下する。

重力に引かれて落ちるよりも勢いは増す。

足の爪を伸ばし、ルシアは遊撃を選択した。

踏み潰して爪で刺して削ってやる!!

 

「ギャオオオオ!!」

「―――っ!」

 

ルシアが両足蹴りを繰り出し、ジャガーノートを標的に突撃する。

が、ジャガーノートは食らったらまずいと危険を察知して後退し、避けた。

ルシアは着地に切り替え、後退したジャガーノートに向けてブレスを放つ。

 

「――――――」

 

当然、ジャガーノートには効かない。

嘲笑うかのように金切り声を上げ、避けすらしない。

慢心で受けた。

無論、そのような感情はなく、それが最適解と判断して出力されただけだが。

―――だから、これが罠とも気づかない。

 

ギャオオオオ(くらえ)!」

「―――!?」

 

爆炎に包まれ、視界が真っ赤になったジャガーノート。

すると、その視界に跳ね返された炎を掻い潜って突如ルシアの足が出てきた。

この女は、森で迫害され、炙られてきた女だ。

自分の炎で多少焼けるくらい屁でもない。

相手が悪かったな!

ジャガーノートは顔面を蹴り飛ばされる!

 

「――――――!」

 

ジャガーノートは吹き飛び、壁に背中から衝突した。

ルシアはそこに追撃。

肉薄して、ジャガーノートを壁に殴りつける!

何度も!

 

「ギャウッ!ギャウッ!ギャウッ!」

「―――っ!?―――っ!?」

 

何度も。

何度も。

殴打されるジャガーノート。

圧倒的物理は反射バリアも関係ない。

ルシアは足でジャガーノートの腹を壁に押し付けて固定している。

あとは一方的に自慢のパワーで殴り続けて砕けるのを期待するだけ。

 

やがて……ジャガーノートの顔面にヒビが生まれた。

 

「オオオオオオオオォォォーー!」

 

ルシアの気分が上がり、咆哮が轟く。

それでもまだ殴り続ける。

その一方的な攻勢に……【アストレア・ファミリア】は。

 

「ルシア……!」

「……まさか奴がモンスターそのものになれるとは」

「そんなことは今はどうでもいいだろ!いいって言ったよな!?私はもう無理やり呑み込んだぜ!それよりも……!」

「いいぞ!いいぞ!ルシア……!」

「やっちゃえ、ルシア!」

 

ライラの言う通り、ルシアがドラゴンそのものになった衝撃よりもルシアが攻勢なことに彼女たちは盛り上がる。

拳を強く握り、やれ!やってしまえ!と手に汗握った。

皆、ルシアを応援している。

この土壇場だからこそ、ルシアの正体を知っても尚、ルシアを応援する。

その様子に輝夜は。

 

「皆……」

「輝夜、私達を侮っちゃダメよ」

「団長。……そうだな。すまない」

 

ここで野暮なことは言わない。

輝夜は素直に喜ぶことにして、満足気に頷くアリーゼとともにルシアの戦闘に目を向ける。

彼女たちはルシアに言われたように逃げなかった。

ルシアを1人にはしないからだ!!

 

「ギャオッ!ギャオッ!ギャオッ!」

「~~~~~~~~!!」

 

何度も何度も殴りつける。

ジャガーノートは悲鳴のごとく金切り声を上げる。

ヒビも増えてきた。

このままいけば顔面と胸部を粉砕できる―――と思っていたその時。

 

「ギャウッ!?」

「――――――――――――っ!!」

 

ジャガーノートがケタケタと嘲笑うように鳴く。

ルシアは背中から刺された。

ジャガーノートの尻尾によって!

 

「ギャウゥゥゥ……」

 

ルシアはジャガーノートから離れて後退する。

そうすることで尻尾も抜けたがルシアの背中から流血が。

しかもジャガーノートを自由にしてしまった。

 

「―――っ!」

「……っ!」

 

ルシアが目を見開く。

それは一瞬だった。

一瞬の隙を与えただけで、ジャガーノートはルシアを通過し、懐を斬った。

ルシアは腹から噴き出すように出血する。

 

「ルシア!」

「ギャウゥゥッ!?ギャウ!オオオオオォォォー!」

 

後方で仲間が心配する叫び声。

それを耳にしながらルシアは即座に判断し、傷を自身の火炎放射で焼いた。

すぐに止血。

そして、傷口も塞いだ。

 

「ギャウ……」

 

ルシアが振り返ると、ジャガーノートの姿はなかった。

おそらく階層内を動き回り身を隠している。

ルシアの周囲をグルグルと回りながら隙を伺っているだろう。

飛んで地上から離れるべきではあるが、おそらくその行動に移った瞬間に飛びついてくる。

飛び立つ時、ルシアは飛翔に全振りしていて無防備だからだ。

 

「ギャウ―――」

 

ルシアは、目を瞑って集中した。

全方位を警戒する。

奴はどこからでも出てくる。

ならば、輝夜に習った居合の間合いで奴の気配に反射する!

 

「【グランドインパクト(ギャウギャウギャウ)】!

「――――――っ!?」

 

背後から飛び出て襲い来たジャガーノートを、ルシアは突然振り向いて正拳突きを喰らわせた!!

ジャガーノートは吹き飛び、地面に引きずりながら最終的には仰向けに倒れ伏せる。

 

「ギャオオオオオオ!!」

 

ルシアが隙あり!とばかりに腹を見せるジャガーノートに駆けて迫る。

奴に魔石がないのはモンスターのルシアには直感でわかる。

ならば、腹を必殺の鉄拳で打ち砕いて、身体をバラバラにしてやる!

 

「……!ルシア!」

「今なら奴は隙だらけです!」

「やれ、今だ!」

『やっちまえ、ルシア!!』

 

【アストレア・ファミリア】もルシアを鼓舞する。

誰もが勝ちを確信してそのムードだった。

 

―――しかし、ルシアの判断は間違っていた。

 

「―――――――――っ!!」

「……!?」

 

相手の出方を、様子を見るべきだった。

迂闊にも近づいてしまったルシアは、判断を急ぎすぎた。

ジャガーノートは突如、地面を蹴り、ひっくり返っていた胴体を直立に戻した。

まるでひっくり返っていた虫が突如、身を起こすように。

そして、ジャガーノートはルシアに飛びつき絡みついて背中に回る。

 

「――――――ッ!!」

「ギャウッ!?ギャ……!うっ……ぁ……!」

『……!!』

 

ジャガーノートがルシアの背中に顔を突っ込み、貪り始めた!

背中をむしゃむしゃと食い勧められるルシアは、血が飛び散り肉が剥げ骨すら見えてやがて……その身体はどんどんと縮まっていく。

しまいには竜人形態まで後退していた。

 

「あっ……あぁ……!」

「ル、ルシアが……」

「く、食われてやがる!」

「そんな……!」

「ルシアぁ!」

「嫌ぁ!」

 

悲惨な光景に瞠目する者、目を逸らす者、嘆く者。

【アストレア・ファミリア】が一方的にルシアがやられる光景を目にして阿鼻叫喚に包まれる。

その中で1人……わなわなと震える者もあり。

 

「ル、ルシア……」

「リオン?」

「ルシア!!貴様ぁ!うおおおおお!!」

「リオン!?ダメよ!!」

「あの青二才が……!」

 

ルシアが虚ろな表情で上を見て貪られ続ける中、リューが飛び出しジャガーノートへと向かっていく!

アリーゼと輝夜もそのあとを追う。

 

「ルシア……!!」

「―――――――――――ッ!」

「かはっ……!?」

 

ジャガーノートに斬りかかるリュー。

しかし、メインターゲットをルシアにしているジャガーノートからすればリューなど蚊帳の外の雑音。

視界に入ってきたその時に片手間に尻尾で腹を叩き、撃退した。

リューは吹き飛び、倒れ伏せる。

 

「だから、言わんこっちゃない!Lv.3の我々が適うわけがなかろう!」

「うっ……ぐっ……!」

 

輝夜がリューの前に出て守り、リューはうずくまる。

その光景をルシアも見ていた。

 

「リュー……さん……」

「ルシア!」

 

食事を再開したジャガーノート。

食われながら手を伸ばすルシア。

アリーゼが叫ぶ。

彼女は悩む。

リューの判断は間違っていた。

けれど、このままではルシアが食い殺されるのも事実。

どうすれば……!

 

「アリー……ゼ、さ……っ!ん……」

「……!ルシア……!」

 

ルシアが虚ろな目でアリーゼに手を伸ばして訴える。

 

「皆を、連れて……逃げて……っ!」

「……っ!!」

 

アリーゼが瞠目する。

動揺する。

衝撃を受ける。

この子は、彼女は。

小さな体で、迫害を受けて、それでも生きたいと、人並みの幸せを、友達を手に入れたいと。

求め続けた先に待つこの残酷な敗北と死を。

彼女は受け入れて、仲間を優先しようとしている。

自分の命と引き換えに私達の命を繋ごうとしている。

簡単に決断したわけではないのはアリーゼにもわかる。

それでも、彼女は。

ジャガーノートが現れたその時から覚悟を決めていた。

全ては―――【アストレア・ファミリア】を守るため、その為だけに。

 

「~~~~~~~~~っ!!」

 

アリーゼは目を瞑り、下唇を噛み、天を見上げたかと思えば顔を正面から逸らして俯く。

やがて……彼女はゆっくりと目を開けて前を見る。

 

ルシアは、頷いていた。

 

「……輝夜、リュー。逃げるわよ」

「なっ……!アリーゼ、それはダメだ……!」

「……団長。決断したのだな」

「えぇ」

「ダメだ、輝夜!アリーゼ!このままじゃルシアが……!ルシアがぁ!!」

「黙れ青二才!ここで我々が挑んでも……死人が増えるだけだ。ルシアは……それを望んでいない」

 

輝夜も決意した。

彼女を1人では逝かなせないと意気込んでいたが、彼女本人が望むなら、それは叶えてあげたいから。

そして、アリーゼがこの決断を下したことに違和感もなく彼女らしいと思った。

彼女は土壇場でも【勇者(ブレイバー)】のように正しい判断ができる女だ。

彼女がそう決めたのなら、それは正しいのだろう。

感情よりも優先すべきことだったのだろう。

輝夜もそれに従う。

 

……が。

 

「団長。皆を連れて行け。私は残る。ルシアを1人にはしない!」

「輝夜……!」

 

輝夜が刀を手に取ると、倒れているリューは意表を突かれたように輝夜を見上げる。

しかし、アリーゼは真顔だ。

特に衝撃を受けることもなく、まるでそう言うとわかっていたように……彼女も、剣を取り輝夜を見る。

 

「いいえ、輝夜。貴女が皆を連れなさい。私が残るわ」

「なっ……。団長、貴女は……貴女は私に言われたことを気にしてルシアの責任を背負おうとしているだけだ」

「そうね。そうかもしれないわね」

「貴女は生きるべきではないのか?貴女とアストレア様がいれば、正義は途絶えない」

「いいえ、人の数だけ正義があるわ。あの子の中にもある。だから、私はルシアの正義を守りにいく。責任でも課題達成の為でもない。正義として、正義を絶やさない為に行く!」

 

そこまで言えば、輝夜はもう……頷くしかない。

 

「……わかった。達者でな、団長。アリーゼ。貴女の正義が報われんことを」

「えぇ。貴女もね。輝夜。皆をよろしく」

「アリーゼ……!行ってはダメだ!アリーゼ……!」

 

アリーゼが駆けて、リューが手を伸ばす。

 

「行くぞ、青二才!」

「アリーゼぇ……!」

 

輝夜はリューを抱えて後退する。

その逆に。

 

「【アガリス・アルヴェシンス】!!」

 

アリーゼは炎を纏い、戦場に飛び込んだ。

跳躍し、ルシアを貪るジャガーノートの背後から斬りかかる。

 

「ルシアから離れろ!!この化け物!!」

「……っ!!」

 

ルシアが朦朧とする意識の中、瞠目する。

それは、ルシアは化け物ではないという主張、意思表示。

振り返ると、アリーゼが剣を振り下ろそうとしている。

 

「うおおおお!」

「―――――――――!」

「かはっ……!?」

 

アリーゼは腹を貫かれた。

動きが止まる。

それでも。

それでも、剣を振るう!

 

「~~~~~~~~~~っ!?」

「……っ!!」

 

アリーゼの剣がジャガーノートを斬ることはなかった。

振り下ろしたその腕は切断され、腕はどこかへ飛ばされた。

ルシアはそれを見て瞠目し―――。

 

「【グランドインパクト】フルパワー!!」

「――――――!?」

 

ルシアはドラゴンになり、地面を全力で殴った。

地面は崩れて、そのパンチの威力は下の階層をも貫く。

余波で皆が吹き飛ぶほどの威力。

アリーゼも森の奥へと消える。

 

ルシアとジャガーノートは。

 

「私と共に、墜ちろ……!!」

「~~~~~~!!」

 

ルシアが作った縦穴にジャガーノートと共に重力に従って降下していく。

おそらく何階層かはぶち抜いたはず。

自身も巻き込んだがこれでジャガーノートをこの階層から離脱させることができる。

【アストレア・ファミリア】から引き剥がすことができる。

ルシアは……もうとっくに限界が来て力が抜けていた。

人型に戻り。

脱力して、落ちていく。

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