原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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ルシア・マリーン Lv.7相当

 

「よぉ、遅かったな。もう全部食っちまったぜ?」

「――――――!」

 

ジャガーノートが降りてきた頃にはルシアは腹をさすっていた。

そして、最後の魔石をひらひらと見せびらかしてから、齧る!

 

「――――――ッ!!」

「おうおう、泣くなよ芋丸。そんなにこいつら取り込みたかったのか?」

 

怒り狂うジャガーノートに、ルシアは悪い笑みを浮かべながら両腕を広げる。

ジャガーノートもまた、モンスターを取り込むことでキメラとして強くなる。

だが、発想を先取りしたルシアの勝ちだ。

 

「残念だったな。テメェの頭の悪さを呪うんだな」

「――――――ッ!!」

 

ジャガーノートが突っ込んでくる。

ルシアは跳躍してそれを避けた。

ジャガーノートの背後に降り立つ。

 

「【グランドインパクト】!!」

「~~~~~っ!?」

 

ジャガーノートをまた殴り飛ばす。

正直、ルシアはまだステイタスでは勝っていない。

しかし、敏捷と攻撃力は向こうが上でもパワーと知能は勝っている。

特に知能の差は大きい。

生物となり、頭に血が上る体験をしたことがないジャガーノートは正常な判断に弱い。

回復するためにモンスターを取り込んだことが仇となり、ルシアとの差が生まれた。

 

「てめぇにいいもの見せてやるよ。こいつが私の最強形態―――【モード赤竜(せきりゅう)】だ!!」

 

ルシアは赤い竜人形態に変化した。

この状態ならLv.6フルMAXステイタスになる。

ヴァルガングドラゴンの魔石を食いまくり、尊敬できる人、憧憬(アリーゼ)を模した正義の炎。

 

「これで多少はてめぇと渡り合える。この姿で……倒します!」

「――――――」

 

睨み合うルシアとジャガーノート。

ここで勝って皆の元に帰る。

帰るんだ!!

その決意を胸に。

ルシアは深く息を吐いて気合を入れる。

 

 

だが、その時。

 

 

「……っ!」

 

ルシアの瞳が突如、開眼して金色に輝いた。

千里眼の発動。

これが突如起きる時、それはもうお決まりだ。

 

「【刻、三刻】。【予言】の招来。犬人(シアンスローブ)の銀腕、輝く」

 

 

今回も、1つではない。

 

 

そして、次の【予言】にルシアは瞠目する。

 

 

「―――【刻、四刻】。【予言】の悲劇。『正義の使者』が11名、迷宮にて死滅する。…………っ!?」

 

ルシアは予言を告げながら自分の発した言葉に衝撃を受ける。

それは、【アストレア・ファミリア】壊滅の予言。

 

つまり―――今回やった事は無意味。ジャガーノートを彼女たちから引き剥がしても、倒しても、彼女達は結局ダンジョンで殺される運命にある。

 

「なっ……ぁ……。そんな……皆……!」

 

ルシアは涙を流す。

大切な人を命懸けで助けたのに。

その末路がこれだ。

ルシアは絶望する。

 

「……っぁ!?」

 

さらに、千里眼は止まらない。

ルシアの頭の中に『情報』が大量に流れてくる。

 

これは、本来の"歴史"。

 

いや、"未来"か?

 

いや、"平行世界の景色"かもしれない。

 

そんな発想すらもルシアの頭の中に無理やり入ってくる。

 

脳が割れそうだ。

 

ここで、千里眼は暗転した。

 

「……っ!」

 

ルシアが戻ってくる。

ガクッと前のめりに倒れそうなところを、なんとか足を踏み込んで留まった。

だが、ゆっくりと顔を上げる彼女の表情は……形容し難い歪めたものだった。

 

「はぁ……!はぁ……!い、今のは……今のは……!」

 

ルシアが片目を抑える。

大量の汗を流しながら……彼女が想ったのは。

 

"決意"だ。

 

「【アストレア・ファミリア】……クソ。彼女達が何をしたって言うんですか。なんで、こんな仕打ち……!クソ!!」

 

ルシアは歯をギリギリと食いしばり、悪態を吐く。

そして、凄んだ顔を上げる。

彼女は誓った。

【アストレア・ファミリア】を救うと。

救いたいと。

こんな予言、打ち砕いてやると。

ならば。

まずは。

目の前の障害(こいつ)から……潰す!

 

「……そうか。本来は……お前が。お前が……」

 

ルシアはワナワナと震える。

本来の"流れ"では、さっき、あの時、こいつに皆は殺されていた。

それを知った。

なぜかそんな奇想天外なことを信じれた。

ルシアは、殺意の篭もった眼光をジャガーノートに向ける。

 

「お前が皆を殺したのかッッッ!!!!」

「――――――!!」

 

ルシアとジャガーノートが地を蹴る。

両者が衝突しようとしたその時。

 

『オオオオオォォォー!!!!』

「……!?」

「―――!?」

 

ルシアもジャガーノートもその咆哮に驚いた。

そして、同じ方を見る。

 

―――ルシアの千里眼を【神の力(アルカナム)】と誤認した結果。

 

―――迷宮内で【神の力(アルカナム)】を使用したと認識したダンジョンは。

 

―――"黒い"竜種のモンスターを52階層に生み出した。

 

「次から次へと……!オオオオオォォォー!』

 

ルシアはドラゴンになって黒い竜種のモンスターを迎え撃つ。

そこにジャガーノートも加わり、三体の戦いは熾烈を極めた。

まさしく森羅万象。

天変地異。

大怪物大戦に階層は崩壊。

上の階層から滝のように水が流れ込んでくる。

52階層は溶岩から大海へと変わり、三体の激しい戦いの余波で気候が壊れ、竜巻と大雨が暗雲を呼ぶ。

暗い世界で三体は戦い続ける。

そこに。

 

「――――――ッ!!」

「……っ!」

 

階層が壊れすぎて2体目のジャガーノートが生み出された!

52階層のジャガーノート。

上で生まれたものより遥かに強い。

これでキメラ化したジャガーノート、ルシア、黒い竜種のモンスター、52階層のジャガーノートと四つ巴が完成する。

4体は睨み合った。

この場で、ルシアに勝ち目はない。

だが、ルシアは昂り正常な判断ができなくなっている。

次から次へと現れる面倒事に咆哮した。

 

「オオオオオオオオォォォォォーーーー!!」

「落ち着け」

「……!?」

 

突如、ルシアの背中に誰かが乗った。

それは、白い短髪のアマゾネスの女だった。

 

「私はテシレア。アマゾネスの女王……"元"女王。女神タレイアに頼まれ貴様との交渉に来た」

ガウ(交渉)……?」

 

ルシアは三体のモンスターを警戒し前を向きながら背中に尋ねる。

すると、テシレアは頷く。

 

「そうだ。私はLv.9相当の怪人(クリーチャー)。お前と私が組めばこの場は乗り切れる。お前を助けてやってもいい」

「……!」

「だが、条件がある。女神タレイアに協力しろ。奴の目的は迷宮完全攻略と世界再構築。さっきの予言の内容を察するにお前にも利がある話だ」

「……っ!」

 

次々と衝撃的なワードが出る。

さらっと言っているが。

まずなぜ予言を知っているのか。

予言の内容から同じ思想を持てると判断できたのか。

"世界再構築"というワードも気になる。

意味がわからない。

今、理解できるのは、彼女たちの目的のひとつがダンジョンの完全攻略ということだけ。

だが、その目標を掲げるだけならごまんといる。

それを見越したのかテシレアは言及する。

 

「我々には迷宮を完全攻略する算段がある。迷宮は人間だけでは攻略できん。モンスターの力も必要だ。我々は既にLv.12のタレイアの眷属、女神、怪人を有している。あとは半怪物(モンスターハーフ)のお前だけだ。精霊もいれば越したことはないが。とにかく手札は揃っている。これが揃っていれば攻略する権利をそこで初めて得るのだ」

 

つまり、とテシレアは続ける。

 

「ダンジョンにて死ぬ運命にあるが死因がわからないお前の仲間を救う為には、ダンジョンを完全攻略して迷宮(げんいん)そのものを消すしかない。そして、迷宮を完全攻略できる勢力を世界で我々しか有していない。さらに、我々は迷宮完全攻略に乗り気だ。ここまで言えばわかるだろう?」

 

テシレアは終始淡々と真顔で話す。

あくまで彼女は頼まれ(仕事)をこなしているだけだ。

なんなら脚本(カンペ)すら読んでいる。

それでも、その内容の衝撃に。

ルシアを惑わす魅惑に。

彼女は。

 

【アストレア・ファミリア】を救う手立てがあるという事実を餌のようにぶら下げられている。

実質選択肢はひとつ。

これは、出来レースの交渉だ。

テシレアは、最後の餌を与える。

 

「我々には迷宮完全攻略のための味方となるモンスターが必要だ。異端児(ゼノス)でもよかったが……奴らよりお前の方が強く、役に立つ。何より知数が高い。そして、お前も私達が必要だ。違うか?」

「……」

 

テシレアに問われ、ルシアは考え込む。

まだ何も策を練っていない段階での提案は魅力が強く、騙されやすい。

それをルシアはわかっている。

だが、かといってルシア一人で考えて【アストレア・ファミリア】を救う算段が出て来なさそうなのも事実。

それに今回の話は正直美味い。

向こうは向こうの事情で既に必要なものを揃えている。

ルシアからすれば船に乗っかるだけだ。

無論、多少の働きは求められるようだが。

正直ルシアの利の方が大きい話に……聞こえる。

 

「……ギャウ」

「"契約成立"、だな」

 

ルシアは静かに頷き、テシレアが受領した。

これで関係性が構築された。

とはいえルシアはここを乗切るためにとりあえず頷いたまで。

この後、利がないと判断すれば敵に回してでも切るつもりだ。

それはテシレアもわかっている。

どの道、この交渉の主である女神タレイアとルシアが直接話さないことには仮契約でしかないと最初からそのつもりだ。

それに、ルシアが裏切っても勝てる戦力がある。

というか勝てる戦力しかない。

テシレアにとっては利用されてもリスクがないのだ。

 

「私はジャガーノートの相手をする。お前は黒い竜種を狩れ。そして、奴の魔石を食え。それで貴様はLv.7相当に至れるはずだ」

「ギャウッ!」

 

言われた通りにルシアは黒い竜種に襲いかかった。

そして、叩きつけて肉を剥ぎ、ほじくり出して魔石を探り当てる。

その魔石を直接胸に顔を突っ込んで噛み砕いた。

それを飲み込み、魔石が消失した黒い竜種は消滅。

ルシアは喉を鳴らして―――

 

 

「オオオオオオオオォォォォォーーーー!!!!」

 

 

吠える。

震える。

力が、溢れ出る。

ルシアは竜人形態へと戻り、大海の上で両翼を広げ、浮遊する。

 

……ゆっくりと、顔を上げる彼女のレベルは。

 

 

「竜人形態 モード赤竜。―――Lv.7相当」

 

 

今、ここに。

【静寂】のアルフィアや【暴食】のザルドに匹敵する半怪物(モンスター・ハーフ)が生まれた。

 

「上出来だ。52階層(ここ)で誕生したジャガーノートとやらは倒しておいたぞ。もう一体のキメラはどうする?」

「……私が殺します」

 

壁を這い、海に落ちないようにしているキメラジャガーノート。

ルシアは奴に目をつけ―――

 

「【アガレス・アルヴェシンス】」

 

尊敬する人の魔法の名を呟く。

実際には模倣技。

その名も。

 

「【プロミネンス】!」

 

ルシアの身体が真っ赤に燃えた。

火炎袋を破裂させ、全身に己の炎を宿した偽造魔法。

体温が上がり続け、内蔵が焼け、体表が溶ける。

やがて、肌にマグマが浮かび上がる。

 

「うおおおおおオオオオオォォォー!!」

「――――――っ!!」

 

ルシアはジャガーノートに突っ込んだ。

今は奴と同等の速さ。

その腹に突っ込み、今度はルシアが奴の腹部にまとわりつく!

 

「―――――――――ッッッ!?!?」

 

ジャガーノートは悶えた。

ルシアは今、触れるだけで相手の肌が溶かせる。

溶岩(マグマ)の身体、体表

そして、その状態から繰り出すは自爆技。

 

「【プロミネンス・フレア】!!」

「――――――――――――――――――ッッッ!!!!」

 

ジャガーノートに抱きついたルシアが自身の肉体を中心に大爆発を起こした!

ジャガーノートは焼き尽くし、炙れる中、悲鳴の如く泣き叫ぶ。

その断末魔を最後にジャガーノートはバラバラになって、燃えた部位が海へと落ちていく。

 

残ったのは……黒焦げになった竜人の型だけ。

 

「私に治癒の手段はない。尤も、常軌を逸した高等魔法でないと貴様のその身体は治せんが」

「……大丈夫です。自分でなんとかできます」

 

ルシアは、テシレアから精神力(マインド)を回復させるアイテムを投げられそれを受け取る。

飲み干したルシアは詠唱を呟いた。

 

「【アヴァロン・リビヴァル】」

 

ルシアは自身の魔法で完全回復。

肉体も綺麗なものに戻った。

溶融竜人形態から進化前のモード赤竜に戻り、そこから通常の竜人形態になる。

 

「さっきの技は見事だったが、何故あれを最初から使わなかった?あれを使えば2体目のジャガーノートを生み出さずに2体処理できたはずだ」

「そうですね。そうすれば貴女に借りを作らずに済んだ。しかし、【プロミネンス】は全癒魔法で身体は戻りますが、魔石へのダメージは残ります。3回使うと魔石が割れて死滅するでしょう」

「なるほど。容易には使えないか」

 

テシレアは納得した。

正直、【プロミネンス】を思いついた時はこれを使う時は魔石が熱に耐えられず割れて死ぬことになるだろうと思っていた。

しかし、実際は1回の使用では割れなかった。

無論、計算に入れて使ったが。

スキル、【正義寵愛(アストレア・ホールド)】の効果を信用したからだ。

アストレアの加護により、ルシアの魔石は割れにくくなっている。

ここから先の決意とは別に、結局彼女に頼らないとまだ力が及ばないようだ。

 

「……」

 

ルシアは、自身の成長を振り返る。

おそらく今回のキメラジャガーノートを倒したことでステイタスの方の偉業も達成した。

とはいえ各アビリティの成長はまだ足りていない。

ルシアは特別な存在だがステイタスの成長速度はアイズのように早くはない。

それでも、来年か再来年には冒険者としてもLv.3に至れるだろう。

 

「助けていただいて、ありがとうございました」

「律儀だな」

 

ルシアは壁に手をかけて海に落ちないように維持しているテシレアにぺこりと頭を下げた。

テシレアもルシアの性格を理解する。

さて、問題はここからだ。

 

「とりあえず地上へ戻りませんか。女神タレイア様とまずお話をしたいです」

「いいだろう。案内する。ついてこい」

 

2人は階層を昇った。

途中、ルシアはペンドラゴンを回収する。

 

こうして、ルシア消息不明から数週間。

ルシアは地上へと戻ってくる。

 

【アストレア・ファミリア】とも再会することになる。

 

……1ヶ月後に。

 

その時は、『敵』として。

 

ルシア・マリーンは―――【悪役】となるのだから。

 

 

 

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