原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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4人目の役者

 

「概要はテレシアが語った通りだ。なにか質問あるかな?」

 

地上に戻ったルシアは、テレシアに案内されて女神タレイアの隠れ家にきた。

彼女は都市の端っこでなぜかコソコソと生きていた。

まだ計画を裏で進めている段階なのだろう。

タレイアに問われてルシアは辺りを見渡しながら答える。

 

「質問ならあります。タレイア様はなぜ迷宮完全攻略を目指しているのですか?」

「……いきなり核心をつくねぇ。君」

 

タレイアは乾いた笑いを浮べる。

同時にルシアの洞察力に興味を持った。

冒険者でもないのに理由もなく迷宮完全攻略を掲げる女神に問うた。

 

「そうだな……昔、ゼウスと愛人の間に子が生まれた」

「はい?」

「まあ聞きたまえ」

 

タレイアは紅茶を淹れながら突拍子もなく物語を口ずさみ始めた。

ルシアからすれば回答が貰えると思っていたから、はぐらかされている気分だ。

だか、話はちゃんと繋がる。

 

「その子供はゼウスの血を引いている。まあ多少なりとも優秀な女神となったわけだ」

「はぁ」

「その娘は実績を残した。そして、母神から教わった父神の元へと向かったのだ。褒められたい一心でね」

「……」

 

ルシアは窓の外を見始めた。

今日は天気がいいなぁ。

 

「だが、ゼウスは自身の妻と、その間に生まれた3人の女神であるカリス三姉妹しか認知していなかった。愛人やその娘のことなど覚えてはいない」

 

タレイアも窓の外を見る。

遠くに向けられたその視線はどこか憂うような、懐かしむような、そして―――"憎悪"と"怒り"を宿していた。

 

「ゼウスは突如現れた娘を名乗る女神を褒めるどころか、あろうことか彼女に欲情を向けた。要するに、優秀な子供ではなく、『"女"』としか見られなかったわけだ」

 

タレイアは窓のカーテンを閉める。

暗い部屋で彼女の瞳は光を宿す。

 

「だから、ゼウスを唸らせるほどの『証明』が必要になった。女ではなく、神として認められるために。私は……大きな事を起こす。前代未聞の【繁栄の脚本(シナリオ)】を書き上げて、ね」

 

ここでタレイアの話は終わる。

彼女はルシアを見て、口角を上げる。

それに対し。

ルシアは。

 

「なるほど」

「そこまで反応が薄いとさすがにショックだね。話し甲斐がない」

「はぁ。左様ですか」

 

ルシアは同じような反応を返すしかない。

正直興味がない。

そもそもタレイアも本題をまだ話していない。

現に彼女は自身の過去を雑に処理されても口角を上げたままだ。

ルシアが気付いいることに気付いている。

 

タレイアの本質は……その【脚本(シナリオ)】にある。

 

それを書くまでに至った理由(エピソード)など、彼女にとっては価値が低い。

原動力ではあるが、大事ではないんだ。

ルシアは、タレイアの本質を伺おうと彼女を見る。

 

「悪いが、脚本について話せることはそんなに多くない。口外(ネタバレ)は御法度だろう?」

「話せないことはいいので話せることを教えてください。迷宮完全攻略がゼウス様に認めて貰う程の大事なのは分かりましたが、どうやってダンジョンを攻略するんですか?」

「……【絶対存在(アブソリュート・デア)】だ」

「はい?」

 

また意味不明なことを呟くだけのタレイアに、ルシアは眉間にシワを寄せる。

どうも会話をしてくれない。

こういうタイプ、ルシアは苦手だ。

だが、タレイアはルシアがそう考えていることも手に取るようにわかる。

要するにわざとやってるのだ。

 

「ダンジョンを攻略することそのものがゼウスを超えることになるわけではない。まあ、確かに彼は攻略できなかったけどね」

「じゃあ、何のためにダンジョンを攻略するんですか?」

 

ルシアが尋ねると、タレイアが待ってましたとばかりにニンマリと笑顔を浮かべる。

なるほど。

どうやらダンジョンを攻略する『方法』の方が彼女にはよほど大事らしい。

おそらくそこに彼女の本質がある。

彼女は喜んでその問いに解答する。

 

「僕の【理論】を証明するためさ」

「理論……?それがその、さっきの……?」

「そう。【絶対存在(アブソリュート・デア)】だ。神をも超える異次元の存在。ゼウスを物理的に超えるんだ。認めざるを得ないだろ?」

「はぁ。つまりそれを生み出したらタレイア様の目的は達成されるわけですよね?なんで迷宮完全攻略が必要なんですか?」

「ついでさ。力を証明しないと誰にも理解されないだろう。ただそこに都合のいい迷宮があっただけさ」

「なるほど」

 

タレイアがダンジョンを攻略しようとしている理由はわかった。

要するに自身の成果物の運用実験だ。

長い年月をかけて人類が躍起になり攻略しようとしている大穴は、彼女にとってはちょうどたまたまそこにあった絶好の実験場でしかない。

本当に、「なるほど」としか言いようがない。

冒険者達の苦労や気持ちがわかるルシアには、迷宮を舐めているタレイアに抱く感情は多少ある。

だが、それよりもまだ彼女の理論とやらの進捗がさほど進んでないのがわかることがルシアの渋い反応を引き出している。

机上の空論を並べられても反応に困る。

もちろん準備はできているのだろうし、算段があることも凄いが。

交渉をしに来たルシアとっては何の話を聞かされてるんだという以上でも以下でもない。

一応回答は得られたので良しとした。

 

「ダンジョンを攻略したい理由はわかりました。算段があることも。私の目的とそちらの第2目標が一致していることも。ただその【絶対存在(アブソリュート・デア)】?というのがよくわからないのですが……」

「そこは答えられないな。ダンジョンを攻略できるほどの絶大な力を持った存在と思っておいてくれたまえ」

「なるほど。てっきりタレイア様の眷属が……Lv.12がダンジョン攻略をすると思ってたのですが、違うのですね」

「……」

 

タレイアが笑顔を貼り付けたまま固まった。

目は笑ってない。

なるほど。

あながち間違いではないと。

おそらくその【絶対存在(アブソリュート・デア)】に至る第1候補がタレイアの眷属なのだろう。

そして、そこは開示できないから彼女は黙った。

まあそれが答えになっているが。

とはいえここは追求するほどではない。

言えないことはどうでもいい。

 

「そういえばヴィヴィアン様も似たようなことを言っていました。あっちは黒竜討伐ですけど、Lv.12が討伐すると言っていました」

「そうだね。同一人物だね」

「タレイア様の眷属ですよね?なぜヴィヴィアンと一緒にいて、タレイア様の元にはいないんですか?ここにいる人達は違いますよね?」

 

ルシアがこの場にいる3人の女を見る。

いや、1人男か?

アマゾネス、エルフ、ヒューマンだ。

アマゾネスは先程のテシレア。

エルフは……どこかで見たことがある。

ヒューマンの男?は、なぜか笑顔でこっちに手を振っている。

多分全員違う。

特にヒューマンから感じるのはLv.1のそれだ。

 

「彼女達は【繁栄の役者(アクターズ)】さ」

「なんですかそれ」

「僕の計画に協力する者さ。僕の脚本通りに踊る役者ってね。交渉成立すれば君にも加わってもらう予定だ」

「えっ。名前どうにかなりません……?」

「君、結構言うな」

 

ルシアは全身を掻きむしり始めた。

態度まで生意気だ。

 

「まあ【繁栄の役者(アクターズ)】のことは今はいい。君の仕事仲間になるかもしれないというだけだ」

「彼女達はタレイア様とも契約してないんですよね?Lv.12がタレイア様の唯一の眷属と聞きました」

「そうだ。ここにいるのは利害の一致で集まった仕事仲間。女神も人間も対等だ」

 

なるほど、とルシアは見渡す。

これから協力関係になるかもしれないメンバーの顔を。

 

「あの、結論から言うと今回のお誘いは断ろうと思ってるんですけど」

「ほう。それはなぜ?」

「その【絶対存在(アブソリュート・デア)】とやらが迷宮完全攻略できる保証って全然提示されてなくないですか?」

「……ほう」

 

タレイアから笑顔が消え、表情筋がピクリと動いた。

やはり彼女の地雷はここだ。

 

「【絶対存在(アブソリュート・デア)】がいかほどのものか知りませんし、自信があるのも結構ですが計画段階(プロット)を見せられただけで乗るほど商談(こうしょう)って簡単には進まないです」

「まあ……一理あるね」

 

タレイアは嫌そうだが納得する。

ルシアの言ってることも筋は通っているからだ。

しかし。

 

「だが、君はこの話を断ってどうする?君にダンジョンを攻略する手立てはあるのかい?君の仲間を救えるのか?」

「そうですね。無理です。なので、代替案を提案します」

「ほう」

 

ルシアは、1つ、指を立てる。

 

「確かテシレアさんは迷宮完全攻略に精霊の力も有効だと言っていました。私に1人、この計画に巻き込みたい人がいます。その人の力はこの目で見たので絵空事より信用できます。その人を引き込んでもいいなら考えます。ここにいるメンバーと彼女なら迷宮完全攻略できると思うので」

「なるほど。……そう来たか」

 

タレイアも知っている。

だから、少し顔をしかめる。

正直ヴィヴィアンとは関わりたくない。

まあ、怖いわけではないが。

対抗できない訳でもない。

だが、彼女は面倒だ。

できれば相手をしたくない。

しかし、ここで断ってルシア・マリーンを逃すリスクと天秤にかけるなら……。

 

「いいだろう。だが、あの勢力から彼女を奪えるのか?」

「奪う必要はありません。私が向こうに潜入します。交渉して利用関係を構築します」

「ふーん。もう何か考えがあるようだね。一応共有しておいてもらえるかな。そこで下手をされて飛び火されても困るんでね」

「わかりました。資料にして提出します」

「それと、彼女に期待するだけ無駄と一応言っておく。【絶対存在(アブソリュート・デア)】の方が遥かに凄い。比べ物にならないよ」

「それが事実なら嬉しい誤算です」

「なるほど。どちらに転んでも君は損をしないと。考えたね」

 

2人の会話はここで終わる。

互いにまとまった。

あとは……手を取るだけだ。

 

「契約成立だ。君を4人目の役者として歓迎する。ルシア・マリーン」

「どうも」

 

ルシアは握手した。

最後に、彼女は尋ねる。

 

「そういえば。話してくれないこともありましたが、計画の八割くらいは開示しましたよね?まだ引き込んでない私にそこまで話してよかったんですか?」

「構わないさ。勿体付けても消費者(どくしゃ)は評価しないだろ?」

「なるほど。あと世界の再構築というのは?」

「ダンジョンを完全攻略すればダンジョンの力を使うことができる。その力を以て、【絶対存在(アブソリュート・デア)】の力と重ね合わせれば世界を一旦破壊し理想の世界を作ることも可能だ」

「なるほど」

 

ルシアは適当に頷いた。

真面目に受け取っても手玉に取られるだけだからだ。

言ってることは半分くらい理解できないか、もう半分は突飛すぎて真に受けられないかだが。

とにかく聞きたい話はだいたい聞けた。

あとはルシアが勝手に自分の都合に合う動きをするだけだ。

そして、彼女は自身の計画のために動き出す。

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