タレイアの隠れ家から出たルシアがまず向かったのは都市の外。
目的はあの二人の神だ。
「お久しぶりです。ヴィヴィアン様、グウィネヴィア様」
「……半怪物の化け物か。こんなところまではるばる何しにやってきた?」
「交渉しにきました」
「交渉?」
「はい」
ルシアは、ヴィヴィアン……ではなく、グウィネヴィアの方を見る。
「グウィネヴィア様。私もグウィネヴィア様の眷属に、仲間に加えていただけませんか?」
「……!?」
「は?」
驚くグウィネヴィア。
顔を顰めるヴィヴィアン。
ルシアはグウィネヴィアに話しかけたが、それを許すヴィヴィアンじゃない。
「グウィネヴィア様の計画に協力させてほしくここに来ました」
「待て待て。直接すんな。私を介せ。この無能にそこまでの決定権も判断力もねえよ」
ヴィヴィアンが割って入る。
ならば、とルシアはヴィヴィアンと向き合った。
「ではヴィヴィアン様。私にも黒竜退治を協力させてください」
「どういう風の吹き回しだ。何のためにそんなこと言い出した。ていうかお前は要らねえって言っただろ」
「……それは私がリョーカさんを気遣うからですよね?今の私は以前と違います」
「……!」
ヴィヴィアンはここで初めてルシアを見る。
ルシアはフードを着て蛇の道も見てきたような酷い表情をしていた。
その眼光は全てを殺してやるとでも言うように、いや、"何かの為なら"他は全て滅ぼせるとでも言うように殺意がこもっていた。
前にあった時は善性が強かった。
だが今は……悪意が強い。
「お前、何があった?」
「色々ありました。交渉内容は簡単です。黒竜討伐とリョーカさんの育成に協力するので、迷宮完全攻略にリョーカさんを貸してください」
「……ダンジョンの完全攻略だと?」
確か以前の彼女もそんなことを言っていた。
だが、以前とは温度感が違う。
前は前向きだったが、今回は後ろ向きだ。
崇高な目的や自己の夢のためというよりは、必要になったからなりふり構わずやる。
そんな投げやりに見える。
「話にならねえな。テメェがどんな私情で私達に近づいてきたか知らねえが私達のメリットが薄いしテメェの対価に対する私達の労力がデカすぎる」
「あぁ……言い間違えました」
「あ?」
ルシアが一旦下を向いて、次に顔を上げる時は敵意があった。
「これは交渉やお願いではなく、"命令"です。ハイかイエスで答えてください。断るなら貴女達を滅ぼします」
『……ッ!!』
一瞬で温度が下がる。
全員が恐る恐るヴィヴィアンを見た。
「おい……お前、今なんつった?」
「逆らうなら滅ぼすと言いました。私は魔石を食べて強くなり、Lv.7相当です。モンスターなら推定Lv.7。今の私なら貴女を滅ぼせます」
「……」
ヴィヴィアンは顰めた顔でルシアを見ながら……隣のアルキュオラへ目を向ける。
「おい、どうなんだ?」
「強くなったのはホントだべ。見りゃわかるだ。んだけどオラに勝てるは言い過ぎだな。苦戦はするかもしれねえが多分勝てるべ」
アルキュオラの回答を受けて、ヴィヴィアンが拍子抜けといった表情をルシアに向ける。
「……だ、そうだが?」
「すみません。ちょっと盛りました」
「ちょっと盛ったのかよ」
ヴィヴィアンが微妙な顔をする。
脅し合いなんて日常茶飯事だがこんなに不慣れなやつの相手にするのはあまりない。
ルシアはダークぶってるが、真の悪からすればまだお子ちゃまだ。
困惑が勝ってしまう。
「まあ……なんだ。お前がなんでこんなことしてるのかは知らんが。脅されてるのはわかった。前とはお前の気の持ちようが違うこともな」
「あ、ありがとうございます」
「礼言っちゃったよ。まあいい。とりあえずお前の脅しは有効ってことにしておいてやるよ」
「……!」
ヴィヴィアンの返答は予想外だった。
ルシアの脅しは失敗しているのに通った。
ルシアは思った。
自身が思うよりこのヴィヴィアンという女神は善良な女神なのかもしれない。
「ただし、テメェが私達の利にならないとわかったら即刻切捨てて、落とし前つけてもらうからな」
「あ、はい」
前言撤回。
ヤクザだった。
「ま、アルキュオラも余裕で勝てるわけじゃねえみたいだしな。勝ち試合でもこっちに大きな損失が出るのは避けたい。モンスターのてめぇなら黒竜に攻撃も通じる。手を組んでやらねえこともねえ」
「ありがとうございます」
「……まあ、見てられねえしな。テメェのその景気の悪い面は」
ヴィヴィアンはボソッとルシアに憐れみの目を向けた。
やはり、この女神は恐らくそこまで邪神じゃない。
ルシアは、お辞儀して見えないことをいい事に口角を上げる。
アルキュオラはヴィヴィアンの良さを知って貰えたとご満悦の笑顔。
それぞれが交錯する。
これにてここに、ルシアと【黒神竜討伐同盟】の間で契約が成立した。
ルシアは、グウィネヴィアの眷属となる。