原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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らすとじゃが丸決定戦

 

 ルシアが【ガネーシャ・ファミリア】のバイトを始めてから1週間。
 シャクティは順調に彼女と打ち解けていた。



 

「そういえば何故お前の胸の中に魔石があるとわかったんだ? 身体の中にあるなら気付かず生きていても不思議では無い」


「あぁ、それは。昔、私の身体的な特徴を見た王族(ハイエルフ)が私に魔石があるか確認しようとして、その時に肉を切り、胸をほじくり出して―――」


「わかった。もういい。聞いた私が間違っていた……」



 

 この前核心に触れたこともあり、シャクティが事情をほぼ全て把握しているのは、ルシアも直接言われた訳で無くてもなんとなく分かっていた。おそらくアストレアが打ち明けたのだろうということも。


 そのことについて特に思うことは無い。あのアストレアが判断したことならシャクティは信用できる人間で、自身のことが口外されることはないとわかる。

 



「エルフといえば森で暮らすと聞くが、ルシアも同じか?」


「二十年程は森で暮らしていましたが追い出されましたね。それからはオラリオに来るに至るまで旅です」


「家族はどうしてる? 今も健在か」


「父は生まれる前に亡くなりました。母は……生きてるんじゃないですかね、知りませんけど。森を追い出される時に拒絶されて以降、会ってませんし何も知りません」


「そ、そうか」

 



 聞けば聞くほど暗い話ばかりが出てくる。迫害の可能性はアストレアとガネーシャから聞いていたし、ルシアの自殺願望や肉体から想定はできたがそれにしてもだ。


 今は表面上の話、経歴を聞いているだけだからまだマシ。これ以上深堀すると惨い話も出てきそうだ。何せ迫害が待ち構えている。

 



 とはいえ、ルシアの情報を得ないと、ルシアがどういう人間か分からない。
 彼女の願望を止めるにはまずは情報収集する必要がある。
 ルシア・マリーンを知る必要があった。

 



「何か。夢を抱いたりしたことはないのか。どんな些細なことでもいい。少なくとも森から追い出される前は何かあっただろう」

 

 簡単に言えば将来の夢。それがあれば生きる理由になる。とはいえ、今はないだろう。

 シャクティに問われ、ルシアは顎に手を手をついてうーんと考える。

 

「夢、ですか。そうですね……昔だけじゃなくて今も友達が欲しいです」

「友達……? そんなことが夢なのか?」

「はい。今までいなかったので」

「そうか……」

 

 小さい。あまりにも。拍子抜けというか困惑というか。今も抱いているとのことだが、その小ささでは自殺願望を生存本能に転換するのは厳しい。

 

「迷宮都市に来ればこんな私でも1人くらい友達ができるかと思っていましたが、まあそう甘くはないですね」

「……っ……ぁ」

 

 ルシアが迷宮都市に来た目的は二つ、光の神バルドルの所在について情報を得ること、それと友達ができるのではないかという淡い期待の答えを出すことだ。

 最も、自身の素性を隠している者ができるはずもない。ルシアは無意識に自身の望みを絶っていた。シャクティのように受け入れる者はいないという偏見を無意識下に働かせたばかりに。

 

 そのシャクティは言葉をかけようとして止めた。今のルシアに下手なことは言えない。ここで友達を名乗り出ようものならルシアは人生に満足して逝ってしまう。

 将来について、そこからのアプローチ。これはダメだ、シャクティは早々に結論を出してこのルートを諦めた。

 

「おや。いい匂いがしますね」

 

 今日も寄り道していた二人。

 ルシアの鼻をついた香ばしい芋の匂いにシャクティも気付いた。これはじゃが丸くんの匂いだ。

 

「じゃが丸くんですか。食べたくなってきました。少し買ってきます」

「……程々にしておけ」

「あー。大丈夫です。どうやら最後の一つのようなので」

 

 バイト帰りの夕暮れ時。食事処ならともかく出店は暖簾を下ろす時間帯だ。

 じゃが丸くんもあと一つしか売れ残っていないようだった。寧ろラスイチが残っていただけでもラッキーだ。

 

「すみません。「この最後のじゃが丸くんください」は? 「えっ」」

 

 小さな身体でひょっこりと屋台に顔を覗かせた注文。その声が重なった。

 もう一人、同じくらい小さな身体で背伸びしていた金髪の女の子と。

 

「あれは……」

 

 シャクティはルシアの隣に現れた子供が誰かすぐに気付く。

 都市内でも有名人。二大派閥のうちの一つ、【ロキ・ファミリア】の一員にして都市を騒がせるレコードホルダー。

 その名は―――。

 

「最後のじゃが丸くん、これは私の物」

「……どうでしょう。私もここは譲れません。それに、声を発したタイミングは同時でした。まだどちらに購入権があるとも言えないかと」

 

 互いが互いを認識し、先に少し敵意を剥き出したのは()()()

 ルシアもまた、引かず劣らず言葉を返す。

 金髪金眼、二つ名【剣姫(けんき)】。アイズ・ヴァレンシュタインとの邂逅。

 同時に、最後のじゃが丸を賭けたゴングが二人の間に鳴り響いた。

 

「ま、待て……お前たち」

 

 シャクティが二人を制止しようとするが、もはや通りがかりの民衆にも予想ができた。

 無駄だ、と。

 

「シャクティさん。もう止められません。これはじゃが丸を賭けた世紀の大決戦なのです」

「何を言ってるんだお前は」

 

 意味不明なセリフで場をねじ伏せようとするルシア。シャクティは瞠目する。

 

「じゃが丸は、私の物」

「フッ。主張は変えませんか。いいでしょう。ドンドンパフパフ! これより!! らすとじゃが丸決定戦を始めましょう!」

「……っ!」

 

 ルシアが謎の音頭を取り始め、よく分からないがカッ! と目を見開いてアイズも臨戦態勢をとる。

 状況は読めないが、彼女を突き動かすじゃが丸は私の物! という意思。目の前の小さなエルフが言ってる言葉は何一つ理解できないが、負けられない戦いが目の前にある、やるしかないということはわかった。気がする。多分! 

 シャクティは分からなかった。

 

「我こそは! 正義の派閥より来たれり腹ぺこのえるふ! 食は人生、ご飯は15合! 三度の飯より四度の飯! 芋も大好きご飯の妖精です!」

「……っ!」

「……」

 

 何故かヘンテコな動きをして中身のない名乗りをあげるルシア。アイズは、始まった……! と身構え、シャクティは空を見上げた。

 

「わ、私はロキのところからきた! じゃが丸はじ、人生……? 人生! 毎日じゃが丸! 一食15個! 私の血はじゃが丸で出来ている! じゃが丸への愛なら貴女にも負けない! じゃが丸の剣!」

 

 ルシアに流されて同じような名乗りをあげるアイズ。何を言ってるか分からない? 大丈夫、彼女自身も自分で何を言っているのか分からない。

 彼女は流されやすい質ではない。都市中に注目される期待の新生がただの腹ぺこエルフに翻弄されているだけだ。

 

「フッ。じゃが丸の使者ですか。面白い」

「……レコードホルダーに変な肩書きを勝手に増やすな」

 

 もうどこからつっこめばいいかわからかい状況。とにかくそれっぽい不敵な笑みを浮かべるルシアに、普段ガネーシャにツッコミを入れている本能が働いて我に返ってくるシャクティ。

 ここは地獄。止められる者はいない。シャクティの手には負えない。

 

「いいから早く買ってくれよ……これが売れれば店畳んで帰れるんだよ……」

 

 そんな店員のボヤキを添えて。

 ルシアは宣言した。

 

「では、正々堂々勝負をしましょう! 最後の(ラスト)じゃが丸を賭けて!」

「うん……! やる!」

 

 アイズもやる気満々。いや、あの剣姫と競うなら冒険者として競ってくれ、その方が格好がつくから……というシャクティの脳裏に浮かんだ思考も置き去りにして。ルシアは、人差し指を立ててさも名案が浮かんだかの如く、勝負の内容をアイズに提案した。

 

「では、大食い対決といきましょう」

「どこが正々堂々だ!」

「アイタッ!?」

「私、沢山は食べれない……」

 

 思わず高いステイタスでぶん殴ってしまうシャクティ。

 大食いでは無いアイズは哀しみでしょぼくれた。大好きなじゃが丸を前に負け戦を用意され、もはや半泣きだ。

 そして、翌日都市中に噂が広まることになる。

 

【アストレア・ファミリア】の新米が【ロキ・ファミリア(大派閥)】の【剣姫(有名人)】を泣かせた、と。加えて、アストレアのところの今度の新人は、大物だぞと神々の間でも噂になった。

 後日、シャクティが自分の監督不足だと女神(アストレア)に頭を下げるのはまた別の話。

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