オリヴァス・アクトの消息は不明だが、それ以外の闇派閥は殺した。
残ったのはディックスと【イシュタル・ファミリア】の娼婦くらいだ。
ルシアは、【イシュタル・ファミリア】の娼婦を教会に集めて、祭壇に立つ。
「私は【グウィネヴィア・ファミリア】の【
「……!」
仮面の下を晒したルシアに、アイシャが目を見開く。
この中に多少はルシアの顔を知ってるものもいるだろう。
「皆さんを巻き込んでしまい、そして路頭に迷わせてしまったことをお詫びします。そこで、私の伝で
そう言って、ルシアは3つの弾幕を下ろした。
【ヴィヴィアン・ファミリア】。
【ガネーシャ・ファミリア】。
【アストレア・ファミリア】だ。
「話は通してあります。捕縛したイシュタル様も強制的に従わせます。好きなところを選んでください」
『……!?』
ザワザワとする娼婦達。
アイシャが手を挙げ、ルシアが指名する。
「ちょっと待ちな。お詫びとしちゃ悪くない大派閥ばかりだが、勝手に改宗先決めんじゃないよ」
「無論ご自身で探したい方は止めません。あくまで救済措置として提案してるだけです。もし拒否する場合はその後のサポートも私に出来ることがあればいくらでもします」
「そうかい。それと、あんた。【アストレア・ファミリア】にいたやつだろ?フリュネを殺しやがったな……【
「【
またザワつく。
だが、分からないことを追求しても仕方ない。
今、美味しい話が3つもぶら下げられている。
これに乗らない手はないだろう。
「はい!じゃあ私、【ガネーシャ・ファミリア】がいい!」
「じゃあ私、【アストレア・ファミリア】!」
「お、おい。お前達……」
アイシャが置いていかれる中、はいはい!と皆次々に手を挙げた。
特に2つの派閥が人気。
人望がないのは……。
「春姫さん、でよろしかったですか?」
「えっ?あ、はい……!」
「……!」
ルシアは祭壇から降りて、手続きは鼻の下が伸びているマリウスに任せ、春姫の前に立つ。
彼女には個別の案内がある。
「春姫さん、申し訳ありませんが貴女は【ヴィヴィアン・ファミリア】に行きませんか?」
「えっ」
「おい、待て。なんで春姫だけ選択権がないんだい」
「【アストレア・ファミリア】では春姫さんを守りきれません。【ガネーシャ・ファミリア】は狙われやすい春姫さんを抱えるリスクを犯せない。消去法です」
「なっ……あんた!」
ルシアの言葉で察した。
ルシアは、"知っている"、と。
「どこでそのことを知った!?」
「千里眼です。私のスキル、千里眼はここに立ちながら都市中を見渡せます。細部まで」
「なっ……」
言葉を失うアイシャ。
唖然とするが……すぐにハッとする。
「待て!なんでそんなに開示するんだい。仮面の女がお前だったことも、普通ならもっと隠すんじゃないのか」
「……まあ、仮面の下はともかく、千里眼のことは公言するつもりなので」
「なに?」
アイシャが訝しむ。
だが、質問の受付はここまでだ。
「それで。春姫さん。どうでしょう。ヴィヴィアン様なら春姫さんのスキルに興味がないので悪用しませんし、勢力もあるので守って頂けますよ」
「……!」
春姫はアイシャを見る。
アイシャを頼らずに済む。
これ以上迷惑をかけずに済む。
それは確かに魅力的な提案だ。
新たにヴィヴィアンに迷惑をかけることになるが、アイシャ1人に負担をかけるよりマシだろう。
それに、【ヴィヴィアン・ファミリア】なら【イシュタル・ファミリア】のような内部のいざこざはない。
「待て!奴はロキやフレイヤのところと喧嘩するつもりなんだろう?そんなに春姫を巻き込んでたまるか……!」
「―――しねえよ。そんなこと」
「……!?」
いつの間にかアイシャの後ろにヴィヴィアンがいた。
ヴィヴィアンは、ゆっくり歩いて春姫の前に来る。
「よぉ。来るなら拒まねえぜ?誰が入ろうが邪魔しねえ限りは構わねえ。構成数のかさ増しで相手をビビらせられるからな」
「あっ、えっと……貴女が、ヴィヴィアン……様?でございますか?」
「そうだ。礼儀のなってるやつだ。いい子だ。腹減ってねえか?好きなもん食えよ」
そう言ってヴィヴィアンは雑に高級弁当を放った。
春姫が一生かかっても食えないようなものばかりだ。
「ウチに来るなら福利厚生は期待しろ。が、干渉は期待するな。私はテメェらに関与しない。守ってはやる。どうせお前に寄ってくるやつは大体私の敵だからな」
「なっ……」
アイシャは衝撃を受けっぱなしだ。
それに、やはり信じられない。
「春姫に興味がないだって……?信じられるかい!そんな話」
「ねえよ。黒竜にかすり傷ひとつつけられねえゴミのレベルが1個上がったくらいで何になるってんだ。残尿の方がまだ有効だぜ」
「ざ、残尿……」
春姫が生きてきた中でおよそ口にしたことのない言葉を呟いて困惑する。
アイシャも困惑した。
どうやらルシアの言っていたことは本当のようだからだ。
「ま、最終的には好きにしろ。来るなら拒まねえ。私からは以上だ」
そう言って立ち去るヴィヴィアン。
その背中に。
「あ、あの……!」
「あ?」
ぴょんと狐の耳が跳ねる。
ヴィヴィアンが振り返ると何故か顔を赤くした狐人が真っ直ぐと自分を見ていた。
「ヴィ、ヴィヴィアン様。ヴィヴィアン様さえよければ……その、私、【ヴィヴィアン・ファミリア】に入りたいです」
「春姫……」
アイシャが春姫の意志に目を丸くする。
そして、ヴィヴィアンを見ると。
「よいって言ってんだろ。来たけりゃ来い。だが、ウチはヤクザだ。来るならウチのモンになるっつー示しを見せろ」
「し、示し……?」
「おい!春姫に何させようっていうだい!」
「ここにある
『え?』
アイシャも春姫も唖然とする。
ヴィヴィアンは顎で弁当をさす。
……軽く20人前はある。
「どうした?私の出したメシが食えねえのか?」
「……っ!く、くいましゅっ!?」
「春姫!?」
春姫が弁当に柄にもなくがっつき始めて、見たことのない光景にアイシャが驚愕する。
春姫はとにかく弁当をかけこみ、そして。
「……お、美味しい」
「……そうか」
「美味しい!美味しいです!ヴィヴィアン様!!」
「黙って食え。汚ねえだろ」
「はい!」
「……っ」
本当に心の底から美味しそうに噛み締めるように食べる春姫。
その姿を見て穏やかな笑みを見せるヴィヴィアン。
アイシャは、衝撃とこみあげるもので感情が迷子になる。
「美味しいです!美味しいですよ、アイシャ様!アイシャ様も一緒に食べませんか!」
「……あぁ」
アイシャも腰を下ろして一緒に口に運んだ。
そして、目を見開きかけこむ。
確かに美味しかったからだ。
そんな2人を見下ろし、ヴィヴィアンは満足げに笑う。
「……ちなみに私の分はないんですか?」
「あるわけねえだろ。何言ってんだお前」
真顔で聞いてくるルシアに、本気で困惑するヴィヴィアン。
かくして、春姫は弁当を平らげた。
彼女は少食だ。
食いすぎて倒れた。
「きゅ~……」
「春姫!?」
倒れた春姫をアイシャが介抱した。
「よく食ったな。これでお前ら血肉まで私の家族だ。死ぬまで守る。だから、死ぬな。家族の約束だ」
ヴィヴィアンの言葉にアイシャは驚いた。
聞いていた印象と違う。
彼女の中でヴィヴィアンという女神の印象が変わる。