原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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残虐王

 

「では、剣を返してください」

「あ、はい」

 

演出のためだけに貸した剣の返却をルシアは即座にリョーカに求める。

返してもらい、暫く剣を見つめたあと。

一応尋ねてみた。

 

「ちなみにどうでした?この剣を持ってみて」

「えっ。あ、えっと……なんか、嫌な感じ。精霊は喜んでるけど。無理やり力を引き出される感じで……なんか、ふ、不快」

「そうですか」

 

予想通りの回答が返ってきた。

リョーカは嫌そうに顔を顰めている。

まあ本人がどう思おうがいずれルシアはリョーカに無理やりこの剣を使わせるつもりだが。

ルシアの鱗を素材して作った剣だ。

フリテンの王族の血が流れるルシア自身を媒介にすれば、フリテンの精霊の力をより使えるようになるのは予測できた。

リョーカの力を引き出すにはいつかは振るってもらう必要がある。

 

「して、我が主(マイ・ロード)。この後はどういうおつもりで?」

「まず。団員を募集します。リョーカさんをダンジョンで育てるにしても、探索には人手不足なので」

「なるほど。さすがは我が主(マイ・ロード)。対他派閥への対抗戦力にもなりますね」

「そうですね」

 

ルシアとマリウスは共に歩く。

リョーカを後ろに従え、市壁の階段を降りていく。

傍から見ればリョーカが部下を先導させてるように見えなくもない。

中間地点の広間は人1人いない。

ここに居た邪神は全員空に消えた。

 

「それにしても、また我が主(マイ・ロード)と共に働けてこのマリウス、至福に満たされている」

「そうですね。私も久しく君と共にあれて嬉しいです」

 

マリウスのテンションに対してルシアは淡々と返す。

それでもマリウスは返事があるだけでとても嬉しい。

彼が彼女に求める本質は普通の主従とは違うため。

 

「ところでリョーカさん。こうして私達を従え、威厳を示すように歩く場面はこれから頻発します。なので、今のように下を向いて気弱そうに歩くのやめてもらえますか?」

「えっ」

 

リョーカは片肘を掴んで暗い表情で歩いていた。

ルシアは、上を向いて私達を物とも思わぬくらい蔑むように偉そうに歩けと言う。

渋い顔をするリョーカ。

だが、従わなければどうなるかは目に見えている。

 

「……わかりました」

「あと、喋る時も公然では威厳よくお願いします。全員に殺意があるくらいで」

「え、えぇ……わ、わかりま―――わ、わかった」

「……」

 

まあ今はこれでいいか、とルシアは前を向く。

これから指導していけばいい。

 

本拠(ホーム)へ行きましょう」

 

そう言って、ルシアを先頭に【グウィネヴィア・ファミリア】がオラリオに早速建てた本拠へ戻る。

ギルドへの登録も済ませた。

その本拠の地下。

冷たい階段をこれでもかと降りて、ルシアはリョーカを牢獄前まで―――"彼女"の前まで連れていく。

 

「イブキ……っ!」

「リョー……カ……」

「……」

 

再開する2人。

イブキは捕らえられ、鎖で繋がれている。

身体は常に全身に打撲や骨折を与えられ、血まみれ。

しかもルシアに圧倒的な強さで淘汰されているため、今の彼女の状態では簡単な鎖すらステイタスで壊せない。

リョーカは檻の冷たい柵を掴んで、悲しい表情で奥ゆきのある監獄に投獄されたイブキを見る。

 

「リョーカさん。牢屋を壊さないでくださいよ。助け出そうとすればイブキさんはもっと酷い目にあいます」

「……っ!」

 

リョーカがルシアをキッ……!と睨む。

だが、真顔で何一つ返さないルシアに、無意味だと気づいて彼女は下を向いてへたり込む。

そんな彼女の腕を引っ張ってルシアは無理やり直立させる。

 

「……っ!?」

「立ってください。今日はまだやることがあります」

 

そう言ってイブキの牢屋の鍵を開けるルシア。

指でクイクイと手巻きする彼女に、リョーカは困惑しながら牢屋に入る。

イブキと物理的に距離が縮まった。

中に入れてもらえるなんて思っていなかったリョーカは逆に警戒してルシアの後ろにつき、彼女の背中を見つめるだけでイブキに飛びつかない。

それをしたらイブキに何をされるかわからないと本能が訴えてるからだ。

が。

 

「ふんっ!」

「がはっ……!?」

「……っ!?何を……!」

 

イブキの腹にルシアの拳が入り、リョーカは剣に手をかける。

その仕草に自分自身で情けなく思い、手を離す。

 

「……懸命です。リョーカさん。これから命令します。従わなければイブキさんを殴ります」

「め、命令……?」

「はい。私を斬ってください」

『はっ……?』

 

リョーカだけでなく、イブキも腫れた顔を上げた。

何を言ってるんだ、こいつは、と。

 

「私は半怪物(モンスター・ハーフ)であることを公言しました。脅しはしましたが、受け入れない者も多いでしょう。私をモンスターと判断し、私怨をぶつける者、討伐しようとする者も出てきます」

 

なので、と続ける。

 

「その対策です。誰かが手を出す前に既に対象が惨い状態になり、誰よりも残虐非道の限りを尽くされていれば、誰も手を出さない。人は、自分が手をつける前に既に過度に行われているものには身を引くものです」

「……っ」

 

リョーカは後退る。

こいつは正気ではない。

目が狂気を訴えている。

 

「リョーカさん、誰よりも酷いことを私にしてください。全員をドン引かせてください。私を斬って、斬って、斬り刻んで暴虐の限りを尽くしてください」

「そ、そんなこと……」

「やらないならイブキさんを嬲ります」

「ぐあっ……!?」

「イブキ!!」

 

ルシアは、イブキへの暴行を始める。

殴る。

殴る。

殴る。

止まらない。

 

「ぐあっ!?かはっ……!?」

「ふん!」

「うっ……!?」

「はあっ!」

「ぐあっ……!?」

 

ルシアは、チラッと後ろのリョーカを見た。

彼女はまだ動かない。

激しい動悸と顰めた顔で迷っていた。

しまいには目と顔を逸らして現実逃避しようとする。

それを確認してルシアは、覚悟を決めて拳に力を入れる。

 

「―――【グランドインパクト】」

「……っ!う、うああああああああああ!!」

「うぐっ……!?」

 

拳を振りかぶったルシアをリョーカは斬った。

ルシアの胸から腹にかけて大きな切り傷が出来る。

必殺を使おうとした彼女に迷いなく剣を振り抜けた。

斬ったあとは荒く息を吐く。

 

「……っ!……っ!」

「……やればできるじゃないですか。どうしたんですか?続けてください」

「……っ!?」

 

乱れた長い髪の中から覗くリョーカの瞳。

その目が揺れて潤む。

そして、震える手で剣を構えて叫ぶ。

 

「うわああああああ!!」

 

その夜、リョーカは人を斬った感覚に苛まれ魘される。

彼女が狂っていく、1歩目だった。

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