原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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銀のアリーゼ

 

「うっ……ぁ……ここは……」

 

医務室にて、アリーゼは目を覚ました。

彼女は辺りを見渡し……全てを思い出す。

 

「そうだ。私、ルシアを助けに行っ……て―――」

 

何か、違和感を覚えた。

それは起きた最初から覚えていたが、今、やっと違和感に変わった。

おかしい。

そう思った。

でも、見下ろすのは怖い。

頭の中に過ぎった「まさか」を確認するのが恐ろしい。

それでも、人間の好奇心というのは止まらない。

アリーゼは……恐る恐る自身の右腕を見下ろす。

 

「……っ!?」

 

そこには、アリーゼが生まれながらに持っているいつもの腕はなかった。

あるのは謎の銀腕。

アリーゼは最初、それが自身の腕とは思えなかった。

何故か自身が寝ている横に義腕が置いてあると思った。

しかし、その銀の腕はアリーゼの意思で動く。

アリーゼが右手を開閉させると、銀腕の先にある銀の手も開閉する。

そこでアリーゼは全てを理解した。

自身の腕は消し飛び、この腕はその代わりなのだと。

 

「うっ……!おええぇぇぇ……っ!!」

 

アリーゼがベットから落ちて嘔吐する。

腕の移植による拒絶反応だ。

だが、それは脳が拒絶しただけだ。

彼女の意識が順応できていないだけ。

身体は彼女の意思とは真逆。

銀腕は義腕としてはこれ以上ないほどにアリーゼの身体に適合し、馴染んでいる。

 

「な、何……この腕……魔道具(マジック・アイテム)……?一体―――」

 

アリーゼは顔を上げる。

その途中で固まる。

鏡に映る自分を視認したからだ。

そこに映るアリーゼは前のアリーゼとは容姿がまるで異なる。

寝ている間、下ろされていた髪も眉毛も毛先は全て銀色に変化していた。

ただひとつ、瞳の色だけが元の赤色。

アリーゼは赤が基調の女性から、銀が基調の女になっていた。

思わず瞠目する。

一瞬誰かと思ったが、顔は自分とそっくりだ。

 

「これ、私……?嘘……」

「アリーゼ・ローヴェルさん。入りますよ」

「……っ!」

 

ノックをしてアミッドが入ってきた。

小さな女の子だ。

アリーゼはビクッと後退して背中をベッドにぶつけて、狼狽える。

起きていた彼女にアミッドも驚いた。

 

「起きたんですね……!」

「……っ!待って、何が起きてるの……?」

「落ち着いてください。貴女は―――」

「そうだ!皆!皆は無事!?」

「きゃっ!?」

 

アリーゼがアミッドの肩を掴み、迫ってしまった。

いつものアリーゼならそこで謝っていたが。

今は気が動転している。

ジャガーノートから皆が逃げ帰れたか気になり、それで頭がいっぱいになった。

彼女は病室を飛び出し、走り出す。

 

「アリーゼ・ローヴェルさん!待って……!」

「……!」

 

アミッドが追いかけるもアリーゼの敏捷の方が遥かに速い。

彼女はあっという間に【アストレア・ファミリア】の本拠まで辿り着き、帰った。

 

「皆……!」

『……!?』

 

扉を開けると、仲間達は全員揃っており、皆驚いた顔でアリーゼを見た。

アリーゼはみんなの顔を見て心の底から安堵する。

 

「ぶ、無事だったのね……皆」

「団長……」

「起きたのか、アリーゼ!」

「おいおい。てか抜け出してきたのかよ!」

 

皆がアリーゼを迎える。

アリーゼはそんな彼女たちを見渡し、感極まるも……すぐにハッとして顔を上げる。

 

「ルシアは!?」

『……!』

 

その一言で場は凍りついた。

そして、皆、目を逸らして表情が曇る。

 

「ど、どうしたの?皆……。ルシアは?まさかあいつにやられて―――」

「アリーゼ。落ち着いて聞いてちょうだい」

「……!アストレア様」

 

アストレアが皆を割って、前にでてきた。

彼女はアリーゼと向き合い、代表して状況を説明する。

 

「アリーゼ。まず貴女はジャガーノートにその腕を切断されて皆とはぐれた。その後、貴女は自力で地上に戻り、【ディアンケヒト・ファミリア】に自ら駆け込みそこで倒れた」

「えっ……」

 

全然覚えていない。

アリーゼは困惑する。

 

「貴女の傷口は酷かったけど、ルシアの炎で焼かれていたから止血はされていたの。だから、死ななかったのね」

「ルシア……!」

 

アリーゼは、瞳を揺らす。

ルシアは、落ちゆくあの瞬間にアリーゼの傷を焼いた。

最後のその瞬間までアリーゼを助けようとしたのだ。

その思いに目頭が熱くなる。

だが、話はそこで終わりじゃない。

 

「貴女は死なずに済んだ。でも、傷口の火傷は竜の呪いとなり、治癒が効かなかったの」

「……っ!」

「そこでディアンケヒトの眷属(デア・セイント)は貴女の腹に刺さっていたルシアの鱗を素材にその銀の腕―――【アガートラム】を接続させる施術を考案した」

 

銀色の腕(アガートラム)】。

しかもフリテンの王森に住まう伝説の竜、『アヴァロニク・ドラゴン』を素材とした特別版だ。

その効果は計り知れず、アミッドの予測通り、傷口と完全に適合した。

しかし、その義腕はただの腕の代わりに留まらず、魔道具(マジック・アイテム)に匹敵する……いや、魔剣にも匹敵する"武器"と化した。

その力が及ぼす影響は凄まじく、アリーゼの容姿は銀色に変わったのだ。

 

「ルシアの鱗が……私の腕に……!」

 

アリーゼは、右手をグッと握った。

正体がわかると途端にこの右腕が愛おしくなった。

彼女は腕を胸に抱えると……落ち着きを取り戻す。

 

「すみません。アストレア様。落ち着きました。ルシアのおかげで私は助かった、ということですよね?」

「えぇ。でも……驚くのはここからよ」

「えっ?」

 

アリーゼは目を丸くする。

そして、聞いた。

ルシアが声明を出したこと。

その内容。

改宗したこと。

予言の内容。

―――ルシアが【アストレア・ファミリア】を滅ぼすと言ったこと。

 

「そんな……嘘……」

「私達も聞いた時はにわかに信じ難かったが……事実だ。団長」

「外に出てみろよ。あいつ、意気揚々と【グウィネヴィア・ファミリア】を名乗ってやりたい放題してやがるぜ」

 

輝夜とライラももう受け入れたと言葉では言っているが、目の下にクマができて酷い表情だ。

きっと激しい葛藤の末に眠れなくなって飲み込んだことなのだろうというのは容易に想像がつく。

そして、そこまで器用じゃないエルフもいる。

 

「アリーゼぇ……!」

「リオン……!」

 

リューが泣きじゃくりながらアリーゼに飛び込んだ。

アリーゼも最初は戸惑いながら彼女に抱きつかれるがままだったが、すぐに涙が移る。

リューを抱き返し、2人は泣き喚いた。

私達が弱いから、ルシアは寝返った。

ルシアは、一人で予言を告げられたから背に腹をかえられなくなって魂を悪魔に売ってしまった。

そうして狂った結果、仲間を守りたいという想いから仲間を脅した。

1番苦しいのはきっとルシアだ。

それが、【アストレア・ファミリア】全員の共通認識。

アリーゼは泣き尽くしたあと、涙を拭ってキッ……!と強い顔を作る。

 

「あー泣いた!涙全部出したからもう泣くのはいいわ!これからどうするかを考えましょう」

「……っ。……ったく。いつも切り替え早えーな」

「それでこそ貴女だ」

「えぇ!」

 

アリーゼはいつもと違う銀色の少女として、初めて笑う。

そして、すぐに真剣な表情を作る。

 

「アストレア様。これからどうしますか?」

「そうね……ルシアの予言通りだと、貴女達は今後一切ダンジョンに行くべきではないし、ルシアにも近づかない方がいいのは確かね」

「黙って他の派閥の迷宮攻略と、ルシアの行いを見てるしかねーのかよ」

「幸い、闇派閥はオリヴァス・アクト以外ルシアが始末し、暗黒期は晴れているが……」

「だからって私達の役目は終わり、隠居しますなんて絶対にやーよ。私、もう都会の味知っちゃったもの!」

「そういう問題なのですか……?」

 

リューが困惑する。

いつものアリーゼだ。

彼女は少し考えて……決めた。

 

「アストレア様。私、【グウィネヴィア・ファミリア】に潜入しちゃダメですか?」

『……!?』

 

急になにを言い出すのか。

全員が驚いた。

 

「やっぱり、ルシアをこのままにはしておけない。彼女に何があったのかはわかってるけど、動悸と目的しかわからないもの。ルシアが何を考えて動いてるのか知りたいわ」

 

それに、あの子を1人にしておけない。

アリーゼはそう口にする。

それを言われたら誰も何も言えない。

 

「……そうと決まれば確かに潜入は団長が適任だ。何しろ容姿が変わっている」

「でも、アリーゼがルシアに近づいたら私達滅びるんじゃ?」

「私、アストレア様の眷属じゃなくなるから大丈夫よ!多分!」

「確証ないんだ!?」

「危ない橋過ぎない?てか適当すぎ」

「んなことよりアリーゼが潜入したらあたしらは団長不在だぜ?それが一番困るだろ」

「代理は私がする」

「だとしても団長(アリーゼ)が不在となると目立ちます。さすがにルシアにバレるのでは?」

「てか髪色とか以外はそのまんまだしな……」

 

そう言って、皆アリーゼを見る。

そして―――アリーゼは玩具となった。

 

「もうちょっと顔隠した方がいいんじゃない?」

「マントとかつけようよ!」

「角とかも生やしとく?」

「変装っつーくらいだからな。厚底50センチくらい履かせちまうか!」

「巨人か!!ちょっとちょっと!皆なんか私で遊んでない!?」

 

盛られに盛られるアリーゼの格好。

もはや趣旨から外れて童話に出てくる悪夢か……?となってしまった。

アリーゼは遊びじゃなーい!と叫んで全て脱ぎ捨て、顔を隠すマスクだけ付け直す。

 

「まあ、あとはローブでも着ておけばいいだろう」

「名前も変えきゃだろ。偽名何にすんだ?」

「そうね……じゃあアリーゼとライラを合わせて『アイラ』で!」

「なんで私と合わせんだよ!」

「団長。口調も変えた方がいい。できれば貴女と最もかけ離れたものに」

「じゃあリオンね!リオンの真似をしましょう!―――ハ、ハレンチな!」

「アリーゼぇ~!」

 

アリーゼのモノマネにリューが涙目になり、全員が笑う。

アリーゼも共に笑顔を浮かべ……皆の笑顔を見渡して、その顔は穏やかになり、決意も生まれる。

 

「うん。やっぱりこの輪の中にルシアもいなきゃダメね。あの子の傍にいて、あの子を守って。きっと全部解決させて……あの子を連れて帰る」

「団長……」

 

アリーゼの言葉に、ルシアに対する想いが1番強い輝夜が反応する。

そして、アリーゼはアストレアの前に立つ。

 

「アストレア様。私は、グウィネヴィア様の元に行きます」

「わかったわ。改宗を認めましょう。ギルドの登録だけは貴女を団長のままにしておくわね」

「はい!」

 

アリーゼは笑顔で頷く。

そこで、ライラが疑問を呟く。

 

「けどよ、どうやって潜入するんだ?」

「そうね……グウィネヴィアを、脅しましょうか」

『えっ』

 

およそ正義の女神から出る言葉とは思えないセリフに全員が目を丸くする。

後日、アストレアはロキとフレイヤと茶会を開く。

 

「ロキ、フレイヤ。協力してくれないかしら?ルシアを奪ったグウィネヴィアに一泡吹かせてやりたいの」

「奪ったっつーわりにはノリノリやったけどなぁ」

「自分の意思で行ったように見えるけど……まあいいわ。グウィネヴィアとヴィヴィアンに一泡吹かせてやりたい気持ちは同意できるもの」

 

2人の承諾は得た。

アストレアは、グウィネヴィアとコンタクトを取る。

 

「という訳よ。グウィネヴィア。アリーゼの改宗を認めなければロキとフレイヤと共謀して貴女とヴィヴィアンの派閥と真っ向勝負で戦争を仕掛けるわ」

「子は親に似るんですの!?」

 

ルシアがアストレアにした脅しと何ら変わらない脅しをされてグウィネヴィアは涙目になる。

彼女に判断力はない。

そんな脅しをされたらしどろもどろになり、ヴィヴィアンに縋るしかないが……ヴィヴィアンは遠くにいる。

この場で選択を迫られている今、グウィネヴィアの返答はもう決まっている。

 

 

―――そして。

 

 

「彼女はアイラ・ベディヴィアン。Lv.3。入団希望者ですわ」

 

アリーゼは、否、アイラはルシアの前へと現れた。

 

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