原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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叛逆の芽

 

「凄い成長速度ですわね……」

「まあ、一応数字上はLv.1とLv.2でウダイオスを討伐してますからね」

 

ルシアとリョーカのステイタス同時更新。

その数値の伸びを見てグウィネヴィアが感嘆する。

 

「アイズさんのような特別な成長速度はありませんが、ステイタス以上の本来の実力で格上を倒して経験値を稼ぐ。この裏技なら早熟を模倣できます」

「この調子なら2年後にはLv.4に到達してそうですわね」

 

そう言ってグウィネヴィアは手続きを行う。

ルシアもリョーカも今回でランクアップした。

しかもリョーカは2段階の飛び級だ。

これで2人はLv.3となったことになる。

 

「アイズさんと違ってこっちはカラクリを明らかしています。変に目を付けられることもないでしょう。まあ我々が強くなる前に叩こうとする輩は現れるでしょうが」

「返り討ちにすればいいのですわ」

「ですね。どの道、現状のオラリオには我々を攻略できません」

「とにかくこの調子でいけばあっという間に都市最高ランクのLv.7にも到達しそうですわね」

「それはどうでしょう。今は低ランクだからいいですけど、このやり方はランクが上がれば上がるほど経験値と偉業の相手も強くなります。我々の本来の力でも倒せる限度が……」

「本来の力の方も強化するんでしょう?そのためのステイタスアップでは?目的と手段が逆転してますわよ」

「そうでした。確かに」

 

まさかグウィネヴィアに指摘される時が来るとは、と思ったことは秘密。

扇で口元を隠す彼女に、ルシアは同意して立ち上がる。

 

「とはいえリョーカさん。ランクが上がれば難しくなるのは同じです。我々の本来の実力も高いからこそ伸びも悪い。永久機関ではありません」

「……興味無い」

 

リョーカは服を着て俯く。

彼女にとってはどうでもいいようだ。

ルシアは嘆息をついて彼女と戻る。

 

「おっ!やっと帰ってきた!ママ!」

「……スズネリアくん。前から思っていましたが、その呼び方は気品がありません。外に出たら恥ずかしいですよ。是非『母上』と呼びなさい」

「やだ!ママはママだ!」

「むぅ」

 

ルシアがリョーカを一瞥する。

リョーカはギョッとした。

その目は"わかっているな?"とでも言うよう。

教育せねばイブキに何をされるかわからない。

リョーカは渋々従う。

 

「スズネリア。母上って呼んで。……お願いだから」

「わかった!母上!!」

「なんでリョーカさんの言うことは聞くんですか……」

 

ルシアは疲れた顔でスズネリアを通過する。

子供は分からない。

 

「てかいつになったら俺にすていたす?刻んでくれるんだよ〜!」

「まだ早いです」

 

ルシアが一刀両断する。

確かにスズネリアも育てようとは思っているが……現状、別の問題がありステイタスを与える訳にはいかない。

 

「……んだよ。ケチー!俺だって母上みてぇにバリバリ強くなってバッタバッタで全員ぶっ倒してやんだー!みんなぶっ殺してやる!ぎゃははは!」

「……」

 

はしゃぐスズネリアに全員が察しの目を向ける。

ユウカだけが「あは~まじクソガキ~」と笑っている。

ルシアが指摘するスズネリアの問題点とは、人間性。

まだ子供だから仕方ないが、今の幼稚な彼にそのまま力を渡せば誤った使い方をするのは目に見えている。

……まあ、ルシアも人のことは言えないが。

 

「―――っ!」

 

突如、ルシアは足を止めた。

千里眼が煌めく。

これは。

おなじみだ。

 

「―――【刻、五刻】。予言の雷光。【鈴の鐘が成る刻、竜は穿たれ王は討たれる】。……!?」

 

ルシアが慌てて振り返り、スズネリアを見る。

彼は「あ?」と彼女の視線に気づいた。

同時に、ルシアは剣を取り、ズカズカとスズネリアに近づき―――ヤバい!!

 

「何を考えているんだ君は!!」

「やはりこの子供は害でした。予言で出たのです。彼を引き入れれば我々は滅びの道を辿ると」

「だからと言って子供を殺すことが君にとって正しいことなのかい!?」

「えっ。あっ。えっ……」

 

さっきまで威勢がよかったスズネリアもまだ子供。

本気の殺気を目の当たりにしては萎縮してしまい、腰が抜けてしまった。

尻もちを着く彼を守るために剣を抜き、ルシアと競り合うのはキリエ。

今、狂気と常識が衝突している。

 

「ルシア……!」

 

アリーゼは迷いなく剣を取ったルシアに瞠目し、固まる。

その間にも2人の刃は火花を散らしながら競り合われる。

 

「君は暴力に頼りすぎる!なぜすぐに暴力を選択する!?人を殺すことに躊躇いはないのかい!」

「貴女に何がわかるんですか!大体貴女だって暗黒期は過ごしてきたでしょう!」

「あぁ、だからこそ疑問だ。【ガネーシャ・ファミリア】にいた頃に君を見た時は敵も味方も死者を減らすことに尽力していた」

「……っ!」

「それが今は見る影もない。私はあの時の君の思想に感動していた。だが、今の君はまるでその逆じゃないか!!」

「ぐっ……!」

 

キリエが競り勝ち、ルシアが後退した。

それでも剣を離さない。

ルシアは狂気の目で、その瞳にスズネリアを映し、荒く呼吸して肩を上下させる。

その怖い光景にスズネリアは……。

 

「ご、ごめんなさぁい……」

『……!?』

 

尻もちついて涙を浮かべながら謝罪するスズネリア。

キリエだけでなく、ルシアも瞠目して剣を構えながら固まる。

 

「ごめんなさい、ルシア。おれ、なんか悪いことした?ごめんなさい。許してください……」

「……っ!!」

 

震えながら祈るスズネリア。

スズネリアはかつてシスターという名を口にした。

案の定孤児院を調べたら彼は協会の孤児院出身だった。

おそらく赦しをこうことは教わっているのだろう。

ルシアがなぜ怒っているのか皆目見当もつかないスズネリアはとにかく謝るしかないと判断した。

彼がいずれ【グウィネヴィア・ファミリア】を滅ぼすことが事実だとしても、今は子供。

今のうちに芽を摘み取るか、子供の命は奪えないと判断するか。

その天秤が愚かな方に傾くほど、ルシアの正義も落ちぶれてはいない。

彼女は下唇を噛む。

 

「君にまだ最低限の良識が残っていてよかった。今ならまだ最後の一線は超えずに済む。引き返そう」

「……っ。し、しかし……」

 

ルシアは未だ剣を手放さない。

スズネリアを放置しておけば【グウィネヴィア・ファミリア】は滅びる。

【グウィネヴィア・ファミリア】が滅びれば、【アストレア・ファミリア】は救えない。

仲間か、子供の命か。

ルシアの中で揺れ動く。

 

「ルシア!わたくしは無能ですけれど、子供の命を奪うことを止めることは断固として正しいと主張しますわ」

「グウィネヴィア様……」

 

珍しくグウィネヴィアまでもが言いきった。

彼女の中にある倫理も、いくら能力が低くとも、それでも間違ってると判断できる事のようだ。

ルシアはさらに思い悩む。

 

「わたくしも神友(とも)の仇を討つ為、黒竜を討伐いたします。けれど、子供の命を奪ってまで果たそうとは思いませんわ」

「それは……」

「貴女は罪もない子供を殺した先で、例え目的を果たしたとしても誇れるんですの?悔いはないんですの?」

「……」

 

グウィネヴィアは真剣だ。

本気で止めたいと思って告げている。

ルシアにもそれくらいはわかる。

今、この場で正気でないのは自分だけだと。

 

「……」

 

ルシアはゆっくりと剣を振り上げる。

照準はスズネリアに合わせる。

キリエも腰を低く構える。

もう言葉は要らない。

ルシアは考えた末に……やはりスズネリアは殺すべきだと結論を出す。

 

すると。

 

「……っ!!」

『……!!』

 

ルシアの千里眼がまた煌めいた。

予言が始まる。

 

「―――【刻、六刻】。予言の来訪。【竈の神と白い兎の到来。鈴と鐘、唱和せし刻、調和する】」

 

予言を遂げたあと、ルシアは下を向いて黙る。

暫くして……彼女はグウィネヴィアを見た。

 

「竈の神って誰かわかります?」

「へっ?あぁ……お、おそらくヘスティアのことですか、ね……?」

「そのヘスティア様ってオラリオにいるんですか?」

「えっと……確か最近地上に降りて、い、いると思いますわ。そんな話をこの間、神会で聞いたような」

「なるほど」

 

グウィネヴィアから話を聞いて、ルシアは剣を収める。

一同が突如治まったルシアに困惑した。

 

「予言によれば、神ヘスティアとスズネリアくんを出会わせることで我々の破滅を回避出来ると出ました。よって、スズネリアくんを殺すのはやめます」

「……そうかい」

 

キリエも剣を収める。

だが、腑に落ちない。

結局ルシアの殺意を止めたのは理性ではなく予言。

彼女は予言に振り回されたままだ。

 

「スズネリアくん。怖い思いをさせてしまいごめんなさい。もう二度と君にこんな思いはさせません。約束します」

「も、もう怒ってない……?」

「はい。怒ってません。もう大丈夫です」

 

ルシアがスズネリアの頭を撫でて、ニコッと微笑む。

どこか安堵も混じっている。

疲れすらも感じる笑顔だ。

キリエも瞠目する。

殺さなくて済むならそれは良かったと思える心がまだルシアにはある。

それを確認できたから。

ルシアの表情を見て初めてスズネリアは、ルシアが大人に見える。

 

「君の今後の方針も決まりました。ステイタスも刻みましょう」

「マジで!?やったー!」

 

スズネリアがはしゃいで走り回り、飛び跳ねる。

ルシアはそれを微笑ましく見ていた。

 

こうして、ルシアはスズネリアを連れて神ヘスティアへと会合しにいく予定を立てる。

 

 

 

「ん?誰か僕呼んだ?」

 

 

 

路地裏で。

処女神は振り返る。

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