「ヘファイストスぅ~!こうなったら君の眷属1人分けてくれよぉ」
「眷属捕まえるって意気揚々と出かけたくせに何言ってんだか。しゃんとしなさい。まったく」
ヘファイストスに泣きつくヘスティア。
【ヘファイストス・ファミリア】の視点で2人はいつものやり取りをしていた。
ヘファイストスに縋ろうと擦り寄るヘスティアをヘファイストスが片手で顔面を押しのけ防いでいる。
そこへ。
「失礼。女神ヘスティア様でいらっしゃいますか?」
「はへっ?」
ヘスティアが振り返るとヘスティアより小さいのが2人。
1人はハイエルフ。
もう1人は狼人だ。
仲良く手を繋いでヘスティアを見上げている。
「なんだい?君たちは」
「ヘスティア様の眷属にしたい者がいるのですが」
「なんだって!!!!!!!!」
ヘスティアは食いついた。
その背後でヘファイストスが瞠目する。
ヘスティアはまだ気づいていない。
チビのハイエルフの方が―――危険人物だということに。
「ヘスティアッ!!離れなさい!!」
「ふえっ?」
ヘスティアが振り返ると、首根っこ掴まれて引っ張り戻された。
キョトンとするヘスティア。
その代わりにヘファイストスが真剣な顔で前に出る。
「貴女。【グウィネヴィア・ファミリア】の【
「だから眷属にしたい者がいると」
「何が目的で近づいたわけ?何を企んでるの?」
「……あの、話を進めたいのですが」
警戒度MAXのヘファイストスにルシアは顔を顰める。
このままでは埒が明かない。
「……日を改めます。ヘスティア様。ヘファイストス様の言う通り、私は【グウィネヴィア・ファミリア】のルシア・マリーン。先程の話に興味があれば、是非我々の
「ちょっと!まだ話は終わってないわよ!」
ルシアはヘスティアに伝達だけしてぺこりと頭を下げて、狼人の子供と共に帰った。
残されたヘファイストスは、鬼の形相で標的をヘスティアに変えて振り返り、ヘスティアをギョッとさせる。
「絶っっっっっっっ対に行っちゃダメよ!?わかってるんでしょうね!?」
「わ、わかったよぅ……」
と、言いつつも。
「気になるよなぁ。僕の眷属になりたい子かぁ。どんな子なんだろうなぁ!わくわく!」
ヘファイストスと別れた後のヘスティアは、ウキウキでソファーの上でゴロゴロと転がった。
ヘスティアは好奇心に弱い女神だ。
ヘファイストスの言うことなんか聞くわけがない。
だが、懸念もある。
「グウィネヴィアかぁ……僕苦手なんだよなぁ、彼女」
ヘスティアが顔を顰める。
グウィネヴィアといえば、いつも近くにいたヴィヴィアンも苦手だった。
とはいえ。
「メイガースくんに会いにいくだけならグウィネヴィアと会う必要は……ない?」
ヘスティアはピキーンと閃いた。
いそいそとキャメロットへ向かい、玄関口で声を出す。
「ごめんくださーい!」
「……なんですの?」
「oh」
まさかの真っ先に出てきたのはそのグウィネヴィア。
眠り眼をこすりながらどうやら寝起きの様子でとぼとぼと歩いてくる。
寝巻きがなぜか貴賓あるワンピースだ。
いつも見た目だけは高貴だったんだよなぁ、とヘスティアは思い出す。
「げっ。グウィネヴィア」
「……ん?貴女……ヘスティア?久方ぶりですわね。なんの用で―――あぁ」
グウィネヴィアは察しがついた。
目的は自分ではないと。
「ルシアなら中庭にいましてよ」
「へっ?あ、あぁ……!そうそう、君のところのメイガースくんに用があったんだ!それじゃあこれにて失礼」
「……?はい」
なぜかギクシャクとした動きでそそくさと移動するヘスティアに、不思議そうに首を傾げるグウィネヴィア。
しかし、彼女はすぐに欠伸をして寝室に戻ることにした。
その間にヘスティアは、中庭に顔を覗かせる。
「おや。来てくださいましたか」
「やあっ。メイガースくん。お招きに預かった通り、来たよ。それで……僕の眷属になりたいっ子がいるのは本当かい!?」
「なりたいというか……まあいいでしょう」
ルシアは後でまとめて説明しようと思った。
「ヘスティア様。場所を変えましょう。できればヘスティア様が今住んでるところでお話がしたいです」
「えっ」
ヘスティアがなんで?と固まる。
だが、スズネリアには最初から
ボロい教会だ。
「……ここに住んでるんですか?」
「へ、へんっだ!どうせ僕はグウィネヴィアと違って良い暮らしはしてないよ!」
「あぁ、いえ。すみません。予測はしていましたがさらに上をきたのでつい」
ルシアは鼻をつまみながら教会に足を踏み入れた。
そして、ヘスティアが暮らす部屋へと案内され、ソファーに座る。
「それで?僕の眷属になりたいって……子、は……まさか……」
「はい。そのまさかです」
ヘスティアの輝く目はルシアの隣に座る子供を映し、視線が下がる。
それは、どう見ても子供の小さな狼人だった。
「ま、まだ子供じゃないか!」
「はい」
ルシアはあっさり頷く。
それ以上でも以下でもない彼は子供だ。
だからこそ、ヘスティアに預ける意味がある。
「彼の名はスズネリア・モルド……アーサ。我らが団長【騎士王】の養子です」
「イッ!?グウィネヴィアの眷属のそれも団長の息子……?」
「義理ですが」
ルシアは先日の神会で決まったリョーカの2つ名と一緒に、さらっと障りだけの紹介をする。
スズネリアはここまでなんの事か状況を理解しておらず、ただ連れてこられただけなので……汚い部屋を嫌そうに見渡しながらヘスティアに頭を下げる。
というか、ルシアに頭を掴まれて下げさせられたのだが。
「事情がありまして、我々で面倒を見る訳にはいかないので、ヘスティア様に手伝って頂きたいと思い連れてきました」
「事情……?」
「そこは話すと長いので割愛で」
予言のことや何やら何まで説明していると日が暮れる。
グウィネヴィア曰く、ヘスティアは下界に降りてから日が浅い。
ルシアの声明を聞いていない可能性すらある。
というか、女神ヘファイストスは反応して、ヘスティアはルシアのことに気づかなかった。
十中八九聞いてないだろう。
「とにかく預かっていただきたい」
「う、うーん……」
「どうかしましたか?この前、チラッと聞こえてしまいましたが、貴女は眷属を欲しがっていたはずでは?」
渋るヘスティアに、ルシアは眉をピクリと動かす。
初めて予測が大きく外れた。
眷属を欲しがるヘスティアこの話に飛びつくと思った。
だが、あまり乗り気じゃない。
なぜか。
「何か懸念でも?」
「う、うん。君の言う通り……僕は眷属を求めている。けど、僕はこんな小さな子をダンジョンなんて危険な場所に送り出せないよ」
「なるほど」
絞り出して、ごめん!と手を合わせて前のめりになるヘスティア。
ルシアは背中をソファーに預けて少し下がった。
なるほど、という言葉には表面上の意味以外にも含まれている。
予言に出てきたスズネリアを矯正するほどの神、ヘスティア。
この
倫理観が神の威光を放っている。
素晴らしい。
まさにスズネリアの為に求めていた女神像そのものだ。
「安心してください。迷宮探索は我々と共に行きます。厳密には1人、付かせる予定ですが」
「そうなのかい?」
「はい。我々も彼を危険な目に遭わせるわけにはいかないので。Lv.3以上の誰かと必ず行動させるつもりです」
「Lv.3!?凄いな!」
ヘスティアは驚く。
そして、胸をそっと撫で下ろした。
「それなら安心だよ。でも、くれぐれも無理させないでくれよ?こんな子供が酷い目にあったら僕耐えられないよ」
「それは我々も同じです」
ルシアは笑みを浮かべて頷いた。
さて、大人同士の話はここまででいいだろう。
「スズネリアくん。約束を果たします。ステイタスを刻みましょう」
「マジで!?やった!これで母上とお揃い!?」
「いえ。この女神ヘスティア様と契約していただきます」
「へっ?」
ここまで集中しておらず、足をブラブラさせたりキョロキョロしていたスズネリア。
話を全く聞いていなかった彼は、ルシアに言われ、笑顔で手を振るヘスティアを見て、ピシッとヒビが入った。
そして。
「はぁ~!?やだやだやだやだやだやだ!!おれ、母上と同じがいい!グウィネヴィアのけんぞくにするって約束だったじゃん!」
「そんな約束はしてません。ステイタスを刻むとしか言ってません。安心してください。神様によって加護は変わりません」
「やだーーーー!!母上と一緒がいい!」
スズネリアは床に転がってバタバタと暴れ始めた。
まさにイヤイヤ期だ。
ルシアはそれを見下ろす。
「まあ。見ての通り、今絶賛マザのコンです」
「えぇ……」
ヘスティアが困惑する。
思っていたより子供そのものだ。
さすがに困る。
だが、スズネリアの一言でヘスティアにもピシッとヒビが入る。
「俺、絶っっっっ対やだ!よりによってこんな弱そうなかっこわるいチビの女神なんてやだぁー!!こんなボロっちい家もやだぁ!」
「なっ……!?チ、チビでかっこわるいだとぅ!?」
「スズネリアくん!まるでグウィネヴィア様がカッコイイ女神かのように言うのはやめなさい!誤解が生まれます!」
「訂正するのはそっちじゃないよ!!ムキー!君も僕をそう思ってたのか!?」
ヘスティアまで癇癪を起こす。
あとは地獄だ。
「おれは絶対にやだ!お前みたいなチビのけんぞくになんて絶対なるもんか!!」
「はぁ~!?僕だって願い下げだね!君みたいな生意気なガ・キなんてぇ!!」
ヘスティアとスズネリアが言い合い、しまいには取っ組み合いに発展する。
子供とガチ喧嘩する女神。
その光景を前にさせられたルシアは、争いは同じレベルの者でしか起きないなと実感した。
「スズネリアくん。言うこと聞いてください。最悪1年でもいいです。その後なら【グウィネヴィア・ファミリア】への改宗を認めます」
「うぅ~……!」
スズネリアはそう打診されて悩み、渋々頷いた。
かくして、互いの印象は最悪なままステイタスを刻んだ。
2人の最悪な冒険の始まりは、これから進んでいく。