「ヘスティア様ぁ!今帰ったぜ~!」
「スズネリアくん!おかえり!!」
いつもの教会に帰ってきたスズネリア。
満面の笑みで「ひゃー疲れた疲れた!」と言いながら自らの肩を揉む。
対するヘスティアも満面の笑みで出迎えた。
「スズネリアくん!驚きたまえ!今夜はなんと―――ごちそうだぜっ」
そう言ってヘスティアが後ろに隠していたじゃが丸くんの山を見せる。
スズネリアはそれを一目見た瞬間、目を輝かせた。
「うおおおお!どうしたんだ!?これ!」
「屋台でバイトを始めたのさ。それで最近仕事を覚えてきたから店主のおじちゃんから是非にって貰ったのさ!」
「ひゃっほー!さすがヘスティア様だぜ!マジ神かぁ!?」
「うへへ。そうだろう、そうだろう!……ん?いや、僕は神だよ?」
冷静になったら、ん?となり指摘するヘスティア。
スズネリアはまるで聞いていない。
目の前の湯気立つじゃが丸くんに興奮を隠せない。
「今日はバリバリ食いまくるぜ~!」
「いやぁ、育ち盛りだねぇ。年頃の男の子の食事量には毎晩驚かされるよ」
「ご飯の調達してくれて悪ぃな、ヘスティア様。マジ感謝だぜ!」
「いいよ!スズネリアくんはそうやっていつも感謝を言葉にしてくれるからやりがいあるよ!」
「へへっ」
スズネリアが照れくさそうに鼻をこすり、席に着く。
ヘスティアはその隣に座って……グッと親指を立てる。
「スズネリアくん。今夜は君を寝かせないぜっ」
「うおー!カッケェ!さすがヘスティア様だぜ~!」
『いただきまーす!!』
思っていた反応と異なりヘスティアがずっこけた後、2人は手を合わせてじゃが丸くんを頬張る。
バカうま。
2人は頬を抑えて「ん~!」と悶える。
これが2人の最も幸福な瞬間だ。
「それにしても君……大きくなったねぇ」
「ん?そうか?」
ヘスティアに言われてスズネリアが自身の身体を見下ろす。
まあ、確かに彼女に出会った頃と比べて少し背は伸びたか。
前はヘスティアよりも小さかったが、今はキリエ、マリウス、シロウに次いで高い。
1.7Mくらいはあるか。
「それに性格も随分丸くなって……僕は泣けちゃうよ」
「全部ヘスティア様のおかげだな!ヘスティア様の元で育ったら皆すくすく育つって~わけだ!」
「き、君は僕を褒めすぎじゃないかい?時々君のその僕を持ち上げすぎる神格化が恐ろしくなるよ」
「えー!なんでだよー!人のいいところは褒めて伸ばせってキリエが言ってたぜ~?」
「彼女は君をとんでもない自己肯定感爆上げ人間にしようとしてないかい……?」
これは将来スズネリアに惚れる女の子は大変そうだと、まだ見ぬガールフレンドの予後を心配した。
いやいや、スズネリアくんはどこぞの馬の骨には渡さないが?
オラリオの女なんてみんな獣。
以ての外だ!
でも、スズネリアを恋愛対象や独占欲の対象にはどこか思えないところもあった。
「ん?どうした?ヘスティア様」
「小さい頃から見てたからかな~。僕は君を本当に愛しい子供のように想うよ」
ヘスティアはじゃが丸くんを頬張るスズネリアを見て、穏やかな顔で肩肘をつき、手のひらに顔を乗せて眺めた。
彼女の目には……うっすらと子供の頃の無邪気なスズネリアの姿が今の彼に重なる。
共に過ごしてからと言うものの、彼は凄まじい速度で成長した。
肉体の話ではなく、精神的な話だ。
昼間はキリエに教育され、朝と夜はヘスティアの元で過ごした。
すると、彼は以前の刺々しさが削り落ちていき、いつの間にか今の陽気な感じになった。
まだ身体が小さかった頃、性格が丸くなって無邪気に食事を口に詰めていた頃が懐かしい。
よく泥んこになって帰ってきたものだ。
ヘスティアは目を細める。
「へへっ。ヘスティア様が母ちゃんか。そいつぁ最高だな。けどッッ!俺の母上は母上だけって生涯決めた母上がいるんだ!悪ぃな」
「ぐぬぬ!なんかそっちは悔しいぞ!」
ヘスティアが歯を食いしばる。
これでハッキリした。
スズネリアに対して抱いているものは母性だ。
彼はヘスティアにとって比喩ではなく子供のように可愛がってきた目に入れても痛くない守るべき存在なのだ。
「そういえば今日はどこまで行ってきたんだい?」
「いっけね!ヘスティア様の顔見たら安心して忘れてたぜ」
ヘスティアがおもむろに尋ねると、スズネリアは慌てて荷物からガサゴソと巾着袋を出した。
それは重みがあり、中でジャラジャラとヴァリスの擦れる音が聞こえる。
スズネリアはその袋を机にドン!と置く。
「ほいよ!こいつが今回の換金だ」
「これまた随分と稼いだねぇ」
「えー!?まだまだだぜ、こんなの。もっと稼いでヘスティア様にもっと良い暮らししてもらわねぇとな。そいつが俺の恩返しだぜ!」
「スズネリアく~ん!君って奴は~!……でも、僕の為だからってくれぐれも無茶しちゃダメだぜ?」
「わーってるって。キリエが的確に判断してくれっからな。無茶はしねえ」
「僕もキリエくんがいると安心だよ……」
ヘスティアは項垂れる。
スズネリアが危険を犯さないのもキリエが一緒にいるからというのがデカイ。
ヘスティアもキリエには好感を持っている。
が、スズネリアのような駆け出しの無名に最初からLv.3の付き人がいるのは異常だ。
その構図は、本来スズネリアのいるべき場所は異なっていると見せつけられているようだ。
ヘスティアがどこかスズネリアに独占欲を持てない理由は、それもあるかもしれない。
やはりどこか自分だけの眷属!初めての眷属!と高揚できない自分がいる。
それでもヘスティアはスズネリアが最初の眷属で愛すべき第1号だと自負しているが。
「それで?どこまで行ってきたんだい?」
「あー……どうだっけ。4?5?階層くらいまでは行ったかな」
「そこ大事なとこなんじゃないのかい?僕はよくわからないけど」
「あんま覚えてねえなぁ。キリエから教わること覚える方が大事だしな」
スズネリアは適当にはぐらかしてじゃが丸を食べる。
ヘスティアは訝しんだ。
彼の
初めて会った時は1秒でも早くリョーカに追いつきたいと、どんどん深い階層を目指してキリエに止められ注意されていたというのに。
今はその真逆だ。
話を聞くと、どうやらキリエには6階層進出を勧められているが拒否しているらしい。
「……スズネリアくん」
「あん?」
ヘスティアは畏まって正座し、じゃが丸を置いて手は膝の上に。
対するスズネリアはじゃが丸を食べる手を止めず事の重大さに気づいてないような返事をした。
「スズネリアくん。君は現状に―――満足して"停滞"を望んでるんじゃないかい?」
「……っ!」
スズネリアの手も止まる。
彼はゆっくり目線を上げて……真剣な表情のヘスティアに気付いて、向き合う。
「あー……そういうわけじゃねえんだけど」
スズネリアは後頭部をかく。
ヘスティアの言いたいこともわからないではないが、煮え切らない様子だ。
その様子を見てヘスティアは心を鬼にし、嫌な役を買うことにした。
これは親として、子に対する普遍の責任だ。
「慢心せず、正しい判断と倫理観を大事にするのは君のいいところだ。でも、今の位置に安心しちゃいけない。何の為に冒険しているのか見失ったその時、君は君自身を見失うんだ」
「ヘスティア様……」
「僕は君に傷ついて欲しくない。けど、君の夢も叶えて欲しい。その為なら君のお尻を叩く役割を甘んじて受け入れるよ」
「……!」
やっとスズネリアが真剣な話だと理解する。
彼が敬愛する女神にそこまで言わせてしまった。
スズネリアは下唇を噛み、天井を仰ぐ。
「あー!情けねえ!俺ぁマジ未熟だぜ!!」
彼は項垂れたと思ったら、自身の両頬をパン!と叩き目を覚ます。
「安心してくれ、ヘスティア様!俺は全然理想を捨てちゃいねえ!いつか母上の隣に並ぶ。これは必須事項だ。だが、今はその時じゃねえ。焦らず、正しく、学んで強くなる!そいつがこのスズネリア様だ!!」
スズネリアは立ち上がってビシっ!と自身を親指でさす。
「まだまだキリエに学ばねえといけねえことはごまんとある!ただ強くなる、ランクを上げるってだけじゃねえ。キリエを見てりゃわかる。本当に強いやつってのは"ココ"だ!!」
スズネリアはドンッ!と自身の胸を拳で叩く。
「知識。勇気。経験。人情。全て備えて
「……そうだね。それでこそ、君だ。良い大人に出会ったね」
「へへっ。その大人にヘスティア様も含まれてるぜっ!」
二カッと笑い、Vサインの甲を見せるスズネリア。
これが【ヘスティア・ファミリア】最初の眷属。
スズネリア・モルドレッド・アーサだ。