原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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白い兎の来訪

 

「スズネリア。そろそろ6階層に行こう」

「……!」

 

ギルドの相談室にて。

キリエはスズネリアに切り出す。

だが、彼は下を向いて少し悩み、渋い顔をした。

 

「いや、まだやめとくぜ」

「それはなぜ?」

「ステイタスだけで言うなら俺は6階層に進出できるギリギリだろ?加えて俺は未熟だ。キリエに教わることも沢山ある。まだ身の丈に合ってねえよ」

 

そう言って後頭部に両腕を回し、背中を椅子に預けるスズネリア。

キリエは参ったなといった様子で首を傾げる。

 

「私もキリエさんと同じ意見ですぅ。スズネリア氏ならキリエさんから心構えとかも習ってますし、ギリギリのステイタスでも進出して問題ないんじゃないですかねぇ」

「そうだよ、スズネリア。たまには進むことも大事さ。慎重は大事だが、それだけでは人は成長しない」

「んだよ、2人して……いや、そういやヘスティア様もそんなこと言ってたっけか」

 

【グウィネヴィア・ファミリア】の権限でつけたサポーターのミイシャにも指摘されて、スズネリアが不貞腐れて頭を搔く。

一応自分で判断し、正しいと思ったことがこうも反対されるとおもしろくはない。

それに、彼にとっては英断のつもりだった。

まさかこんなに反対されるとは思わなかった。

スズネリアだってどんどん深い階層に潜って早くリョーカに追いつきたい。

だが、キリエ見ていれば焦りは禁物だということは嫌でもわかる。

威風堂々、冷静沈着、物事を俯瞰的に捉えることが出来る。

それがスズネリアがリョーカの次に憧れるキリエ・スロットルだ。

 

「じゃあこういうのはどうかな?私と徹底して座学した後に挑むというのは」

「お、それならいいぜ。6階層について教えてくれよ!」

 

スズネリアは快諾。

なんやかんやまだキリエの話を聞きたいだけのようだ。

彼女の持つ知識は彼の知欲を駆り立てている。

2人はギルドの面談室を借りて紙と地図を広げ、キリエが指をさしながら説明する。

 

「まずはウォーシャドウだ。視認しづらく、動きも早い。奴が出現することによって6階層以降の異常事態(イレギュラー)のレベルは跳ね上がると言っていい」

「どういうイレギュラーが想定されるんだ?対策と心構えも教えてくれよ」

「了解だ」

 

スズネリアはメモを取りながらキリエと真剣に言葉を躱す。

最初の頃はキリエの話を微塵も聞かなかったというのに、今は食い入るように自身から求めている。

その尊い光景をミイシャは受付の窓口から眺めていた。

 

「成長したなぁ……」

 

最初はあんなに凶暴だったのに、と遠い目でミイシャは懐かしむ。

聞き分けのない過激な子供の正体は、結局学も身寄りもない不幸な背景だったということが、今の光景からは透けて見える。

孤児院でも教育はしているが、如何せん暗黒期で孤児が増えすぎている。

しかも教え手の人手も不足している。

故に充分な体制が整ってるとは言い難い。

それは今も引きずっている。

だから、スズネリアは最初の壁さえ崩してしまえばあとは好奇心の魔物になった。

彼にとってキリエもヘスティアもルシアもミイシャも教科書だ。

聞けば聞くほど知らないことを知れて興奮に繋がる。

学がないからこそ、全てが新鮮で楽しいのだ。

うん、今、凄く人生が楽しい!

 

「スズネリア。この場合はどういう判断をする?」

「んあ?あぁ、ここは―――」

「おや。勉強中ですか」

『……!』

 

2人が顔を上げると、そこにはルシアがいた。

顔を覗かせてスズネリアのメモを手に取る。

 

「勤勉ですね。素晴らしい」

「ルシアしゃねえか!ハハッ!相変わらず小っせぇなぁ!」

「君の背が伸びすぎなんですよ。痛っ。痛い、痛い。痛いです」

 

背中をバシバシと叩くスズネリアと、やめんかいと払うルシア。

前はルシアによく噛み付いていた彼も今は友好的だ。

基本スズネリアは【グウィネヴィア・ファミリア】の皆が大好き。

 

「なんか久しぶりじゃねえか。もっと【ヘスティア・ファミリア】にも顔見せてくれよ~」

「すみません。忙しくてつい。また伺いますね」

「レディ・マリーン。今日はどうしたんだい?珍しいね、ギルドで会うなんて」

「あぁ、そうでした。お2人にお話があって、ここにいると聞いて来ました」

 

キリエに尋ねられらたルシアはギルドに提出する書類を卓上に展開する。

 

「これは?」

「遠征に行くので申請を出そうかと思いまして。それで、お2人にもついてきて欲しいのですが」

『……!』

 

2人が目を見開く。

そして、顔を見合わせた。

 

「……スズネリアもかい?」

「はい」

 

ルシアは頷く。

2人は再度驚く。

 

「待ちたまえ。【グウィネヴィア・ファミリア】の遠征だろう。スズネリアは【ヘスティア・ファミリア】だよ」

「パーティを組んでるのは我々です。それに【ヘスティア・ファミリア】へは仮加入。半年後には改宗予定で、我々の方が正式加入です」

「だとしてもスズネリアはまだ5階層までしか行ったことがない。君達は深層まで行くはずだ。とてもついていけないよ」

「安心してください。スズネリアくんは18階層に預けます」

「……まだ中層にも行ったことないのに?」

「そこまでは我々が守りますよ」

 

ルシアは頑なに折れない。

キリエにはそれが疑問だ。

 

「なぜそうまでして彼を連れていきたがるのかな」

「せっかく大派閥の恩恵を得られるのです。使わない方が損では?身の丈以上に景色を見る経験を我々なら与えられます。そして、それは彼の大幅な成長に繋がり、他と差をつける」

 

ルシアはあくまでスズネリアの為になると思って言っている。

いずれ【グウィネヴィア・ファミリア】の戦力となるのだから彼の教育に関わるのも当然の権利。

悠長にされすぎても困るのだ。

 

「スズネリアくん。どうですか?」

「……良い話だってことはわかってる。けど、俺はやっぱりまだ早いと思うぜ」

「なるほど」

 

ルシアは天井を見る。

スズネリアは丸くなった。

ヘスティアに預けて矯正する計画は上手くいったわけだ。

だが、彼の牙すらも抜いてしまった。

彼には憧憬はいるが、競争相手がいない。

追いかける人物が遠すぎて、どうせすぐ追いつけないからのんびりやっていけばいいとだらけてしまっている。

これはよくない。

ルシアが彼をファミリアに受けいれたのは彼を戦力として育てるためだ。

今の彼では育たない。

それでは彼を受けいれた意味が無い。

ルシアはため息をつく。

 

「……スズネリアくん。君の理性的な一面は素敵ですが、悠長にされては困ります。我々は慈善でやっているわけではありません。君に価値を見い出し君に投資しているんです。多少は我々の育成計画に協力してくれないと我々に見返りがありません」

 

ルシアは千里眼の使用を抑えるために閉じていた瞼を開ける。

久しぶりに見たルシアの眼に捉えられて、その瞳に映るスズネリアはゴクッと喉を鳴らす。

そして、俯く。

 

「……わーったよ。行きゃいいんだろ?」

「はい。助かります」

 

スズネリアが折れて後頭部をかき、ルシアが鼻を鳴らす。

こうして、スズネリアは遠征に行くことになった。

その間に【ヘスティア・ファミリア】の新たな団員が増えることを、彼はまだ知らない。

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