ベルとスズネリアが出会った翌日。
装備を着用し、身支度をするベルに部屋着のままのスズネリアが尋ねる。
「お、ベル。今日もダンジョン行くのか?スゲェな」
「うん!早く強くなりたいのもあるけど……沢山稼いで早く神様を楽にさせてあげたいし。それが恩返しになるかなって」
「……ふーん」
スズネリアは腹をかきながら少し考える。
ベルは憧憬に追いつくために焦りすぎているように見える。
とはいえ、彼が狼人に嘲笑われた背景は知らない。
それにスズネリアは慎重になりすぎていると説教されたばかり。
彼を止めることは今のスズネリアには尾を引かれる。
だが、今のベルは初期の焦りすぎていた自分自身に重なって見えるのも事実なスズネリアだ。
「なぁ、ベル。……一緒にダンジョン行くか?」
「えっ!いいの!?」
ベルの目が輝く。
まさかこんなに食いつくとは思ってなかったが、その表情を見てスズネリアも笑みを浮かべ、ダンジョンに行くことを決心した。
「おうよ。同じファミリアの仲間だろ?もちろんだぜ」
「やった!僕、誰かとパーティ組むの憧れてたんだ……!」
「うおっ。ちょ、待てよ。今までソロだったのか?」
「うん!」
「マジか」
スズネリアは苦笑いする。
ベルには教えてくれる人がいなかったんだろうと気づいた。
ギルドのサポーターはいても、常に共に居れるわけではないから限界がある。
「なるほどな。ま、これからは俺もいるからよ。いつでも一緒に行くぜ?」
「ほんとに!?」
「おうよ」
スズネリアはサムズアップする。
そして、自身の格好を見下ろした。
「ちょっと待ってな。先に広場まで行っててくれ。すぐに準備して追いつくぜ」
「うん!先に行ってるね!」
そうしてベルとスズは待ち合わせをした。
数時間後。
スズネリアがバベルの麓に着くと。
「……なんで1人増えてんだ?」
「あぁ、えっと。色々あって」
ベルが苦笑いしながら後頭部をかく。
彼の隣にはなぜか小さな獣人の女の子がいた。
スズは彼女を見下ろす。
「初めまして!貴方がベル様の言っていたパーティを組んでいる方ですね?リリはリリルカ・アーデと言います。今日だけベル様のサポーターをさせてもらうことになりました!」
「ふーん」
スズネリアは訝しんで彼女を観察する。
ぶっちゃけ怪しい。
スズネリアの直感がそう告げている。
ベルは純粋だから利用しようとする輩も多少は寄ってくる。
それくらいは最初から感じていた。
それがまさか早速とは思わなかったが。
とはいえ、キリエに教育された自分が隣にいれば大丈夫だろうと判断する。
何より、今日だけのお試しだという話だから、まあいいかと思った。
……どう考えてもズルズルと続ける悪どい商売に見えるが。
「リリも今回の探索についていきたいのですが、よろしいですか?」
「おう。ま、いいぜ。冒険者同士で組んだことはあるが、サポーターは初めてだ。いると何かと助かるらしいから俺も経験してぇしな」
「そうですか!ちなみにお名前お聞きしても?」
「あぁ、悪ぃ。スズネリア・アーサ、ベルと同じ【ヘスティア・ファミリア】だ」
「スズネリア様!よろしくお願いします!」
「おう」
リリルカはスズネリアとも握手を交わす。
彼女はボソッと、"人が良さそうなカモだけと思ったのに……パーティを組んでいたなんて、ちょっと厄介かも"と呟く。
スズネリアは、"おい。聞こえてんぞ"と思いながらも触れずにいた。
2人は握手を終え……リリルカがあれ?と気づく。
「……"アーサ"?」
「おう。どっかで聞いたことあるだろうが、気にすんな。そんなに連絡取れる訳じゃねえし、あんま関わることねえから」
「……そうですか」
引っかかるが、少し警戒しておこうというだけでリリルカは様子を見ることにした。
やばそうなら今日だけのお試しで終わりにして手を引けばいいだけだ。
「よっしゃ。じゃあ行くか」
「待ってください。……スズネリア様はその軽装で行くつもりですか?」
「ほんとだ。僕より軽装、っていうか防具なし……?」
「あぁ。そういや言ってなかったか」
スズネリアは防具を1つも身につけていない。
持ってるのは剣1本だけだ。
さすがにその格好で行くのは無謀では?という2人の困惑に、スズネリアは見せた方が早いかと剣を抜く。
「俺の剣、【クラレンター】はな。剣でもあり、
「魔道具!?」
「おうよ。ま、見た方が早いぜ」
スズネリアは剣のスイッチを押す。
すると、瞬く間に剣から防具が展開して、その鎧は彼の身を包んだ。
そして、一瞬で彼は丸腰から騎士並の完全防備となり、剣を地面に力強く突く。
「どうだ!こいつが俺の防具、クラレンター。そして、この状態での剣の名は、【クラレント・ソード】だ!」
「す、凄い!カッコイイ!」
「だろ?わかってんじゃねえか、ベル!」
褒められて気持ちよくなるスズネリア。
鼻を鳴らし、自慢げに胸を突き出した。
単純に興奮するベルとは違って、リリルカは違う意味で驚く。
「ま、待ってください!そんな代物の装備……相当高価なんじゃ」
「確かに。スズって……何者?」
「おうよ。ちょっとツテがあってな。こいつも貰いモンだ」
「貰い物?もしかして、【グウィネヴィア・ファミリア】……?」
「……っ!」
「おう。その通りだぜ」
「……!」
次々と衝撃がリリルカを襲う。
そして、"やっぱり"とスズネリアを見た。
すると、目が合う。
「……ま、そういうこった。よろしくな、リリルカ」
「~~~~~っ!」
全身から汗が出る。
口角を上げて見てくるスズネリアに、リリルカは目を逸らして真っ青になる。
ヤバい、と。
その名前だけで牽制になった。
下手にベルに手を出すと、どうなるか。
リリルカの中でベルが鴨から危険対象になる。
このままではリスクが高すぎる。
「あ、あのリリはやっぱり―――」
「さぁ!話は終わりだ!ちょっと駄べりすぎたな。さっさと行こうぜ!」
「うん!そうだね」
「えっ。あ、ちょっと……!」
逃がさないとばかりにスズネリアがリリルカの言葉を遮って、防具を再び収納してから先へ進む。
ベルもそのあとを追いかけて……リリルカは離脱するタイミングを見失った。