「でやっ!せいっ!」
「ベル様……!」
「……!でぇや!」
「おぉ。やるじゃねえか」
キラーアントと戦うベル。
リリの指示で新たに出現したものもベルが倒した。
その光景をスズネリアは感嘆したように眺める。
……リリルカの隣で。
「あの、スズネリア様は戦わないんですか?」
「お?なんだよ。さっきまで戦ってたろ」
「そ、そうですけど……」
キラーアントが出現してからスズネリアは中衛でたまに手を貸すだけ。
ずっとリリルカの隣にいる。
まるで彼女を見張るように。
「いや、ちょっとベルの戦いをじっくり見たくなってな。一緒に戦ってても良いもん感じたけどよ」
「ほんとに!?僕もスズと一緒に戦うと凄くやりやすかったよ。パーティ組むってこんなに探索が捗るんだね!」
「まあな」
スズネリアはキリエと組んだ経験で頷く。
「スズネリア様は意外と器用に戦うんですね。繊細というか」
「……お前は俺にどういう偏見持ってんだよ」
「あぁ、すみません。得物が大きいのでもっと大胆なのかと」
「それは僕も思った!器用っていうかテクニックを感じるよね」
「あー……」
笑って誤魔化すリリルカと素直に関心を向けるベル。
スズネリアは後頭部をかきながらなるほど、と目を逸らす。
確かに口調や性格から受ける印象とはちょっと違う戦い方かもしれない。
「普段上級冒険者に戦い方を教えて貰ってんだよ。だから、その通りにやったらああなるっつーか……ホントは大胆に戦う方が得意だぜ」
「そ、そうなんだ。いつもは上級冒険者と組んでるって、なんかスズは同じファミリアでも僕と住む世界が違うなぁ」
「……そんなことないぜ。俺を受け入れてんのは実質1人だけだ。ほぼ部外者だぜ」
スズネリアは視線を落とす。
昔の記憶を想起した。
自身の存在を巡って、2人の騎士が剣を交えた。
あの時の恐怖は今でも鮮明に覚えている。
あのファミリアに本来スズネリアの居場所はない。
それでも、あの頃はあの中に加わることを求めていた。
それも遠い目標だ。
母と肩を並べるのと同様に。
「俺はてめぇらが思ってるより
「えぇ!?な、なんで……」
「ま、色々あんだ。色々な」
スズネリアははぐらかした。
ベルもこれ以上はあまり聞いちゃいけないのかと察して追求を避ける。
リリルカは気になったが、一銭にもならないことを思い出して興味を失った。
3人は7階層を進んでいく。
「それにしてもベル。お前、ステイタス高ぇな。俺なんて半年かけてやっと最近10階層に到達したくれぇだぜ。なのにもう7階層探索してるとはな」
「そんな。スズとリリが協力してくれるからだよ」
「……俺がいなくてもいけそうだったけどな。さっきも俺抜きでキラーアント全部始末したろ」
「それもリリがいてくれたから。戦闘に集中できたからだよ」
「マジか。お前」
人が良すぎだろとスズネリアは絶句する。
リリルカを一瞥するとそれだけは完全同意なのか首が取れるんじゃないかというくらい力強く頷いていた。
スズネリアは苦笑いする。
「ま、そこがベルのいいとこか」
「―――おやおや。ここで何してるのかな?スズネリア」
「えっ?」
突如、女性の声が響いた。
ベルとリリルカは目を丸くして前方を見る。
すると、前から細身でスタイルのいいスラッとしたアマゾネスの麗しい女性が歩いてきた。
スズネリアは彼女を見た瞬間、顔を顰める。
「げっ」
「酷い反応じゃないか、スズネリア。私は傷つくよ」
「あー……悪ぃ」
スズネリアは後頭部をかく。
ベルはスズに尋ねる。
「スズ。この人は?」
「あー、キリエ・スロットルっつって俺の師匠的なやつだ」
「じゃあ、いつもパーティ組んでるっていうのは……」
「あぁ。そういうこった」
スズネリアが頷くと、キリエも彼らの前に立った。
先輩のスズの師匠とあって、ベルも背筋を伸ばして対面する。
あと綺麗な女性だったから緊張して伸びたのもある。
「やあ。君が【ヘスティア・ファミリア】の新たな眷属かな?スズがいつもお世話になっているね」
「は、はじめまして……!ベル・クラネルです」
「……リリルカ・アーデです。あの、キリエ・スロットルってまさか……【
「そうだね。【グウィネヴィア・ファミリア】のキリエ・スロットルだ」
「……っ!【グウィネヴィア・ファミリア】……あの声明の……
リリルカがブツブツと呟いて後ずさる。
恐ろしい相手と直面してしまった。
だが、キリエの興味は他にある。
なので彼女の目にリリルカの怪しさは今回たまたま映らなかった。
キリエはスズネリアに説教したいことがある。
「ところでスズネリア。約束を破ったね?」
「うっ……」
「約束?」
ベルが首を傾げる。
スズネリアは後頭部をかいて白状する。
「あー……ホントはダンジョン潜るなって言われてたんだよ」
「えっ。そうなの!?」
「あぁ。遠征から帰ってきておさらいの勉強会をするまでは、ということでね」
「な、なるほど。そうだったんですね」
「ウイ。スズネリア。最近の君なら言わなくともそうすると思っていたけれど……」
キリエがベル、スズ、リリを見渡す。
なるほど、と彼女は顎に手を当てた。
「新しいパーティができて気分が高揚してしまったのかな?」
「そういうわけじゃねえけど……まあ半分当たり。でも、今日はここで引き返す予定だから、行ったことねえ階層に挑戦とかはしねえよ?」
「そうかい。ならいいが」
「てか俺がダンジョン行ってるってなんでわかったんだよ」
「何。お茶でも飲みに行こうかと君を誘いに行ったらいなかったのでね」
「……普通にデートかい」
「えっ!?デ、デート!?」
「なんでそんな反応すんだよ、そこ」
顔を真っ赤にしてオーバーリアクションでキリエとスズを交互に見るベル。
しかもどこか若干羨ましそう。
スズネリアが微妙な顔をする。
なんか勘違いしてねえか?と壮絶な勘違いを予感したから。
案の定、ベルが寄ってきて耳打ちしてくる。
「ス、スズとキリエさんってまさかそういう関係……あれ?でも、スズには想い人がいるって。あれ?でも、それはお母さんで……あれ?」
「おーい。戻ってこい。あぁ、ダメだこりゃ。おうおう。相当混乱してんな。落ち着け?まずキリエはそういうんじゃねえから」
まるでツッコミが追いつかないが、確かにスズネリアの周囲はややこしい。
あくまで傍から見ればだが。
好きな人が母親(母親ではない)というのが複雑にしている。
「キリエは色んなやつ誘ってっから。特に女。俺なんて眼中にねえよ」
「おやおや。お茶を飲むとなって真っ先に君に会いに来るこの情熱さが伝わってないとは。悲しいね」
「話ややこしくすんな!大体他にいくらでも男も女もいんだろ、垂らしのくせに」
「君が1番さ☆」
「やかましいわ」
「えぇ!?じゃあキリエさんの片思い……」
「いや、乗せられんなよベル」
「なんですか?この茶番」
一連のやり取りにリリルカがいい加減解放して欲しいとげんなりする。
キリエはまだウィンクしている。
そのキラキラ星をダルい顔で全部払ってるのはスズネリア。
比較的真面目なキリエが悪ノリし始めたらもう手がつけられない。
ただでさえ【グウィネヴィア・ファミリア】はシリアス担当とおふざけ担当が多いのに。
結局、今日はここで引き返すことになり解散となった。
リリルカはベルからナイフを奪えなかった。