「さて、分け前ですが……」
ダンジョンから帰ってきてリリルカが報酬の話を振る。
今回の稼ぎは8600ヴァリス。
スズネリアも加わったことで7階層まででもそこそこ稼げた。
あとは山分けの配分を決めるだけだ。
「はい、リリの分とスズの分」
「えっ」
リリの前に3等分された袋が置かれる。
スズの前にも。
キョトンとするリリ。
スズは袋を持ち上げる。
「あ、俺今回いらね。やるよ、2人に」
「えっ」
「えっ!?なんで!?」
ベルとリリの分け前が増えてリリはまた目を丸くしてベルは困惑した。
スズは後頭部をかく。
「あー……まあ今回はほとんどサポートしかしてねえし、そもそも潜る予定じゃなかったしな。あといつも稼いでるし今回はいいや」
「そ、そんなわけには」
「いいんだよ!ほら、俺様の気が変わらねえうちに貰ってけ貰ってけ!」
そう言って押し付けるスズネリア。
分け前を受け取らない彼に、サポータにも報酬を与えるベルに。
リリルカは。
「……変な人たち」
彼女が呟いて、そのつぶやきを誰も拾わなかった。
「それじゃあ、私はここで失礼するよ」
「あ、はい。帰りは護衛してくれてありがとうございました!」
「礼には及ばないさ」
途中で合流したキリエも護衛費はいらないと拒否して解散した。
その背中を3人で見送る。
「スズはキリエさんについていかなくていいの?」
「あ?いや、俺の家はベルと同じだし。それに……」
「それに?」
「いや、なんでもねえ。まだ母上に会うには早えーってだけだ」
「はぁ……?」
ベルは首を傾げたが、スズは手をヒラヒラと振って背を向けてしまう。
彼の胸の内はまだ明かせない。
スズネリアはベルにはその表情を見せず、隣にいたリリは見てしまった。
暗くて下を向く彼を。
彼と、目が合う。
「お、どうした?」
「いえ、別に……」
その日は、解散となった。
そして、翌朝。
「……何があったんだ?」
「ううっ~!うるさいやい!」
「おぉ、今日は激しいな……」
ベッドを占領して暴れるヘスティアに苦笑いするスズネリア。
ベルは心配しつつヘスティアに水を渡す。
「大丈夫ですか?神様」
「ふんっだ!」
そっぽを向くヘスティア。
そんな彼女にベルは誘いたかったのを思い出して話題を変える。
「そうだ、神様。こんな時になんですけど……次のバイトのお休みっていつですか?」
「休み?なんでだい?」
「実は最近ダンジョンで稼げるようになって……神様に恩返ししたいなって、僕……だから、その……行きませんか?スズも一緒にちょっと豪華な食事でも食べに」
「お、いいじゃねえか!」
速攻スズネリアが乗る。
ヘスティアは……一瞬、ポカンとしてすぐに目の色を変える。
「……デート」
「えっ?」
「しかも!侍らせデート……!!」
「おぉ、始まったぞ。ベル。やっちまったな」
「何が!?」
「今日行こう!!ベルくん!!」
「えっ!?でも、体調は……」
「今日行こう!今日行きたい!今日!!」
「は、はい」
ヘスティアがベルに迫り、無理やり頷かせた。
体調はもう治ったらしい。
背景は知らないが、何でヘスティアが悩んでいたのかスズネリアは「あー……」と苦笑いで察した。
そして、ヘスティアは飛び起きて準備しようとするが……自身の匂いをかぐ。
「ベル君!スズネリアくん!6時に南西のメインストリート、アモーレの広場に集合だっ」
サムズアップするヘスティア。
その後、広場に集まった3人は。
「これがヘスティアの男!?」
「しかも2人!?」
「やだっ!かわいい~!」
「うええ!?」
女神が大量に現れてベルとスズネリアは囲まれる。
しかも男が皆憧れる美貌を持つ女神達に揉まれに揉まれ、見た人が見た人なら誰もが羨むスキンシップが繰り広げられる。
が、その魔の手がスズネリアに伸びようとしたその時。
狼狽し、怒りで震えていたヘスティアが冗談ではなく、本気で焦燥する。
その変化をデメテルも視界の端で捉えたがもう遅い。
「ボク?君もかわいい顔して―――」
「俺に触れるな!!」
「キャッ!?」
パンッ!と乾いた音が鳴る。
女神のひとりが尻もちをつき、興奮していた女神たちも目を丸くして固まった。
注目はスズネリアに集まり、騒ぎも一瞬で沈黙する。
ベルも困惑した表情でスズネリアを見た。
「スズ……?」
「……っ!」
ベルに声をかけられて、スズはハッとして我に返る。
けど、彼は荒く息をついて、肩を上下させている。
全身の毛が逆立ち、まるで狂犬の如く、狼人の怒りを露わにしていた。
「俺様に
「スズ……」
スズネリアは叩いてしまったことを申し訳なさそうに俯きながらも、譲れない思いも口にした。
そんな彼の前にヘスティアが庇うように立ち、女神たちに説明する。
「すまない……!彼は性的に触れられるのが苦手なんだ。幼い頃、性被害にあって……!」
『えっ!?』
女神たちが驚愕し、スズネリアを見る。
スズネリアはその大きな身体をヘスティアの背中に隠した。
大の男がヘスティアを頼りきるくらい繊細な部分なのだ。
彼は紛争孤児だった。
その時に色々あったのだ。
「わ、悪ぃ。叩いちまって。痛かったろ?ごめんな、女神様」
「いえ……私の方こそ、というか私の方が。ごめんなさい、配慮が効かなくて。大丈夫?気を悪くしたでしょう?」
「いや、大丈夫だ。悪ぃ、取り乱した。もう落ち着いた。本当に……すんませんした」
スズネリアは落ち着いて、ヘスティアにもう大丈夫と触れてから前に出て、女神に手を差し伸べて起こした後、頭を下げた。
女神も逆に謝る。
他の女神もスズネリアに負の感情は抱いていない。
寧ろ、哀れみの目を向けていた。
スズネリアはその視線にも耐えられない。
苦手な空気だ。
彼は、俯いて暗い表情のまま、ヘスティアを見る。
「悪ぃ、ヘスティア様。食事はベルと行ってくれ。空気読めなくてマジでごめんな」
「ス、スズネリアくん……!」
「スズ!」
「……っ!」
スズネリアは走り去ってしまった。
その後を追いかけようとするベル。
「スズ、待って!」
「ベル君、行っちゃダメだ!」
「神様!?」
腕に抱きつかれて体重を乗せて止めるヘスティアに、ベルは驚いて振り返る。
すると、上目遣いで見上げる彼女は真剣に首を横に振り、冗談ではないのだとベルも察した。
ベルはスズが消えた先を見つめる。
「スズ……」
ベルはショックを受けて脱力した。
まだスズのことを全然知らないのだと実感したことに。
そんな背中と、スズが消えた先を心配そうに見つめるヘスティアには、デメテルが寄り添う。
「ごめんなさい、ヘスティア。こんなことになってしまって」
「いや、君達は悪くないさ。僕こそ説明してなくてごめんよ」
ヘスティアは、女神達に頭を下げて、ベルと今日は帰ろうと決めて帰路に立つ。
「神様。やっぱり僕……」
「ダメだ、ベル君。このまま真っ直ぐ帰ろう。今はスズネリアくんを1人にしてあげるんだ。期が来たら僕が迎えに行くよ」
「……はい」
下を向くベル。
しかし、すぐにハッとしてならば代わりにと彼女に要求する。
「神様。僕、知りたいです。スズのこと。まだ僕が知らないこと、教えてください……!」
「ベル君……」
ヘスティアは、思い悩みながらいつもの教会へ重い足取りで帰る。