原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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仲間だけど、家族じゃない

 

「んだよ。またこんだけかよ」

「……っ」

 

リリルカは【ソーマ・ファミリア】の冒険者にカツアゲされていた。

分け前は全て取られる。

彼女は腹を蹴られる。

 

「かはっ!?」

「もっと稼いでこいや!ガハハ!」

 

リリルカは吹っ飛び、冒険者は笑った。

そこに。

 

「おい」

「……!?」

「……っ」

 

振り返ると、1人の虫の居所がちょうど悪い狼人がいた。

彼は出会い頭の前から機嫌が絶好調に悪い。

 

「なんだ?テメェは。首突っ込むつもりはやめとけ。無駄な正義心は身を滅ぼすぜ?」

「―――っるせぇな。テメェら、全員くたばれや!!」

「ぐあっ……!?」

 

冒険者の1人が蹴り飛ばされた。

そいつの仲間が彼を―――スズネリアを睨む。

 

「テメェ!」

「あァ!?」

「うっ……!」

 

ガンをつけたのに、もっと強い凄みでガンをつけかえされてしかもビビってしまった。

もう腰が引けた時点で因果関係など関係なく、理不尽に負ける。

スズネリアが絡む側になる。

 

「なんなんだ、テメェ……!正気か!?1体3だぞ!?本気で喧嘩売るつもりか!」

「知らねえよ。こっちはよぉ……イラついてんだ」

 

スズネリアはヒクヒクと表情筋を動かす。

彼は、剣すら取りそうな剣幕だ。

吹き飛ばされたリーダー格が起き上がり、仲間を掴み除けて前に出て、馬鹿な英雄気取りに食いかかる。

 

「バカが。事情も知らねえくせに。こいつが被害者にでも見えたか?それとも女だから助けるのか?」

「だから、知らねえっつってんだろうがッッ!!同じこと2度言わせんな!―――ぶっ殺すぞ」

「なっ……」

 

本気の殺意にビビって後ずさる男たち。

そして、感じた。

こいつは、正気じゃない……!

 

「何の為に首を突っ込んできやがる!本当に馬鹿か!?」

「あぁ?テメェらよぉ。俺の散歩道で、胸糞悪ぃモン見せるのは……"大罪"だろうがッッッッ!!」

『……っ!』

 

スズネリアは剣を抜く。

それは合図だ。

こうなったらもう喧嘩では済まない。

どちらがが死ぬまでやり合うしかない!!

 

「スズネリア様!おやめ下さい!余計なことしないでください!リリは助けてなんて言って―――」

「知らねえっつってんだろ!テメェを助けに来たんじゃねえ!テメェもぶっ殺されてぇか!!」

「ひっ……!?」

 

助ける対象のリリルカすら怯えさせる狂気っぷり。

さすがに様子がおかしすぎる。

【ソーマ・ファミリア】もその異常さに怖気付き始める。

 

「お、おい!こいつヤベぇって!」

「イカれてやがる……!マジで殺し合うことになるぞ!」

「構うか!?こいつはLv.1だ。3人でかかれば―――」

 

「じゃあ、私も加勢しましょうかね」

 

『……!?』

 

上から声がして、全員が見上げる。

すると。

窓に足をかけて、怪物の両翼を広げる竜人がいた。

オラリオでその姿を見せるのは1人しかいない。

それは、今、この場に介入するには強すぎる者。

冒険者達が真っ青になる。

 

彼女は降り立ち……顔を上げる。

 

「一応聞きますが、やります?」

「や、やる訳ねえだろ!!クソ、ズラかるぞ!」

「お、おい……!」

 

リーダー格が焦って背中を向けて必死に逃げた。

仲間もその後を慌てて追いかける。

ルシアは……振り返り、スズネリアと対峙する。

 

「どうも。スズネリアくん」

「なんでここに……千里眼か」

「少し考えれば分かることを聞かずに自身で答えを導き出す。素晴らしい。そういう君が好きですよ」

「……チッ」

 

スズネリアは剣を収める。

だが、リリルカは安堵できない。

新たな脅威の背中を怯えながら見つめる。

 

「ところで、とても機嫌が悪いようですが。今、お話しても大丈夫ですか?」

「んだよ」

「……その前に」

 

ルシアがまた振り返る。

その先には小人族(パルゥム)が。

 

「ひっ……!」

「おい!」

「別に取って食ったりしませんよ。安心してください」

 

ルシアはそう言ってリリルカに近づく。

だが、リリルカにはその1歩1歩がカウントダウンに聞こえる。

だって、そうだろう。

相手は……強すぎるし、怖すぎるし、悪すぎる。

 

「ぐ、【グウィネヴィア・ファミリア】の……【花の魔術師(メイガース)】……っ!半怪物(モンスター・ハーフ)の竜人、そのランクは……Lv.7相当……っ!」

「おや。よくご存知で。博識ですね」

「リリルカ!大丈夫だ、ビビんな。そいつは無闇に殺したりしない!」

「その通り。無駄な殺しはしません。まあ必要な殺しはしますが」

 

一言余計だが、ルシアがリリルカに殺意を向けていないのは周知になった。

というか、殺す価値も意味もないと言われているが。

それでもリリルカからすれば全部同じ意味だ。

スズネリアも、ルシアが無闇に殺さないのは知ってる。

自分を殺そうとしたのも必要だったからだと直面したから。

不要になったら殺すのをやめたのもしっかり見ている。

その後の微笑みも。

全部、ルシアで、本物の殺意と、本物の思いやりだった。

 

「痛かったでしょう。治しますね」

「えっ」

 

だから、リリルカは目を丸くして、スズネリアはやっぱりと少し安堵して頬を弛めた。

ルシアは、リリルカに回復魔法をかけて先程冒険者にいたぶられた傷を治してくれた。

噂と違うルシアの行動にリリルカは困惑する。

 

「先程の冒険者は【ソーマ・ファミリア】ですか。そして、貴女も。なるほど、大体理解できました」

「……!」

 

リリルカは目を見開いてルシアを見る。

ルシアは目を閉じながら口元だけ緩める。

会釈してくれた。

優しくて穏やかな顔だ。

こんな表情もできるなんて、噂話では聞いたことがない。

 

「この千里眼を通して、【ソーマ・ファミリア】の事情は理解しています。無論、口外はしてませんが。大変ですね。貴女に幸運が訪れることを祈っています」

「は、はぁ……あ、ありがとう……ございます?」

「いえいえ。はい。治りましたよ」

 

ルシアは、立ち上がり、背を向ける。

リリルカは言われたとおり痛みが引いていることに驚き、立ち上がる。

確かに完治していた。

もうどこも痛くない。

驚いて、ルシアの背中を見る。

 

「お大事に。帰りもお気を付けて」

「は、はい……ありがとう、ございました……」

 

困惑しながらリリルカは少しだけ頭を下げる。

しかし、ルシアが薄らと瞼を開いて彼女を一瞥した時に、ビクッと肩を鳴らす。

彼女はその輝く瞳で訴えているようだった。

 

"治してやったんだから失せろ。彼に話がある。2人にしろ"と。

 

リリルカは察した。

というか彼女だって一刻も早くこんな危険な場からは去りたい。

言われたとおり、背を向ける。

そこに。

 

「リリルカ!」

「……!」

 

リリは顔だけ振り向いた。

すると、スズネリアは罰が悪そうに後頭部をかき、素直になれないのか目を逸らして言う。

 

「その……さっきは悪かった。当たっちまった。殺すとか言ってごめんな。怖ったろ」

「えっ。い、いえ……」

「それとベルからの伝言だ。またパーティ組もうってさ。俺はぶっちゃけ反対したけどな」

「……!」

「返答はお前に任せる。好きにしろ。俺様の監視付きだけどな。ただし……パーティに加わるなら、さっきみたいな事は言えよ。手助けしてやるから」

「……っ。……結構です。では、これで」

「あ、おい!」

 

足早に立ち去るリリルカにスズネリアは手を伸ばし、その手で後頭部をかく。

間違えたか?と首を傾げる。

まあ来なくても彼からすれば問題はないが。

今はそれよりも……。

 

「で?俺に話ってなんだよ」

「やっと終わりましたか。待ちくたびれてお腹が空きそうでした」

「……いつも空いてんだろ」

 

スズネリアは思わず微妙な顔して突っ込む。

ルシアの胃袋はキューゴロゴロー!と竜の伊吹の如くなったが、登場時から鳴ってる。

まあ、そんなこともどうでもいい。

ルシアは気を取り直して、彼に歩み寄る。

 

「スズネリアくん。君はこの半年で見違えるほどに成長しました。それはもう驚く程に。ぶっちゃけ計算外です」

「……」

「そこで、君に魅力的な、それも君が渇望していた提案です」

 

ルシアは指を1本立てて彼に近づく。

口角を上げる。

 

「【グウィネヴィア・ファミリア】に来ませんか?」

「あ?半年後って話だろ」

「それを早めましょうという話です。今の君なら欲しいです。どうですか?」

 

ルシアが尋ねてスズネリアが考える。

しかし。

 

「断るぜ」

「それは……なぜ?」

「理由は2つ。まず1つはキャメロットは異常だからだ。皆、仲間で大好きだけど互いを信頼してないのが気持ち悪ぃ。仲間だけど、家族(ファミリア)じゃねえ。あんなのは」

 

スズネリアは、視線を落とす。

子供ながらに感じていた違和感を今、口にできた。

どこか皆、互いに距離を感じる。

それは、スズネリアとも同じ。

寧ろ、スズネリアに対してが1番酷い。

まるで、彼だけは他の皆と何か違うとでも言うような雰囲気。

彼だけが……"何かを知らない"という空気。

 

「もう1つは?」

「それはまだ……確定じゃねえ。確かめてる最中だ。だから、まだハッキリとは言えねえ」

「そうですか。残念です」

 

ルシアは、それだけ言って立ち去ろうとした。

スズネリアはその背中に呼びかける。

 

「なぁ、ルシア。俺、覚えてんだ。昔、母上の隣には鬼人の女がいたよな?」

「……っ!」

 

ルシアの足が止まる。

彼女は酷い表情を、彼には見せない。

横顔だけ振り返り……彼の言葉を待つ。

 

「珍しい種族だったから覚えてる。でも、【グウィネヴィア・ファミリア】に行った時、いなかったから不思議に思ってたんだ。……あの人、どこにいんだ?」

「……」

 

スズネリアにも直感がある。

きっとこれが【グウィネヴィア・ファミリア】の極秘事項(タブー)なのだと。

皆と自分の差は、違和感の正体は、そこを知ってるか知らないかだと。

ルシアは……口を開く。

 

「脱退したんですよ。ちょうどスズネリアくんと入れ違いでしたね!」

 

彼女が振り返った時、笑顔だった。

けど。

 

「嘘……つくなよ」

「……」

 

スズネリアは引き下がらなかった。

こうなったらもう、ルシアも彼との関係を保てない。

彼女は―――スズネリアに、2度目の"()()"を向ける。

 

「―――知らない方が、いい事もありますよ」

「……っ!!」

 

"この一線を超えるな"。

その向こう側に来るな。

真顔で凄みを演出するルシアの表情はそう語ってるように見えた。

スズネリアは、息を飲んで固まるしかない。

 

「……スズネリアくん。君も気を付けて帰ってくださいね」

 

そう言ってルシアは飛び去った。

スズネリアは1人……残り、地面を見つめる。

 

「……いや、寄り道して帰るわぁ」

 

今できる反抗は、それくらいだった。

つくづく思い知る。

自分はまだ、子供なのだと。

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