「えっ!?10階層に!?」
「えぇ。今日はそこまで行ってみませんか?」
「……」
ダンジョンへ潜る前にリリルカが提案する。
スズネリアは、敢えて黙っていた。
ベルはリリルカに圧されるがまま、最終的には頷いてしまう。
そして、案の定。
「これって、モンスターをおびき寄せる……っ!」
「リリルカか」
まさか、と焦燥するベルとは異なり、スズネリアは冷静に見上げる。
霧でよく見えないが彼女はおそらくいる。
そう思っていたその時、ワイヤーをつけた矢が飛んできてそれがスズネリアの腰に装備していたクラレンターに絡みつき、それは引っ張られた。
そして、スズネリアから外れて引き上げられる。
「スズ、武器が!リリ……なんで!?」
「―――折を見て、逃げ出してくださいね。さよなら、ベル様。スズネリア様」
リリルカはそう言って姿を消した。
その後、ベルがスズネリアの前に立つ。
「スズ、僕の後ろに隠れて―――!」
「そんな必要ねえよ」
「えっ?」
スズネリアは、ベルの腕をのけて前に出る。
そして、彼は拳を手のひらについた。
「戦い方は―――1つじゃねえ」
彼が繰り出すのは、拳。
それは、
「―――あの、白髪のガキ。そろそろ―――」
「あの金髪の荒くれもんも―――」
「……」
広場で。
リョーカは、冒険者たちがダンジョンへと向かうのを見た。
何か、嫌な感じのする人達だった。
精霊が囁いてくる。
悪い人たちなのかもしれない。
けど、知らない。
どうでもいい。
私は関係ない。
誰が困ろうが、誰がどうなろうが。
―――私は、戦いたくない。
『多くの罪なき人々を助けてあげて』
「……」
リョーカは、足を止め、逆の方向へと走り出す。
凄まじい数のオークを前に。
彼女は【水の彼】の名を呟く。
この湿気なら、彼の力を借りることができる。
「―――【
彼女の一振は、水の刃となり。
間合いより遥か先まで薙ぎ払う。
「―――お前、囮になってくれよ」
「……っ!?そんな、約束と違……っ!」
リリルカは、【ソーマ・ファミリア】の冒険者に見捨てられた。
キラーアントに囲まれ、もう生きては抜けられない。
倒れ伏せて、見上げるのは、視界一面には―――キラーアント。
あぁ、これはきっと―――2人を裏切った罰。
リリルカは諦めて目を瞑るも……やっぱり死にたくない!!
『―――クラレントッッ!!リリルカを"
「……!?」
リリルカがどんなに殴られても手放さなかった、彼女の抱えていた大剣。
その刀身が、展開する。
「ベル!撃て!!」
「えっ!?でも、リリが……!」
「いいから撃て!!」
「……っ」
キラーアントの群れに向かって走る2人。
スズネリアの恫喝にベルは構える。
「ファイアボルト!!」
「ひっ!?」
向かい来る雷光の火の玉にリリが思わず剣を盾に構える。
すると、その刀身は炎を吸い込んで刀身に赤いラインが走る。
「―――【
「……っ!?」
リリルカの持つクラレント・ソードが突如、全てを焼き斬る火炎剣となった。
それは触れたものを溶かすほどの斬れ味。
近寄っただけでキラーアントが火傷して、離れていく。
スズネリアが使いたがらないクラレンターの機能。
クラレンターはその刀身に火属性、風属性。
そして―――水属性を宿すことが出来る。
しかし、彼が手に持ってるとその機能は使わない。
今はリリルカが持っているから、躊躇なく使った。
仲間を守るためなら、使う。
仲間を助けることに卑怯もクソもないからだ。
「リリルカ!
「……!」
叫び、キラーアントの群れに飛び込んできたスズネリアは拳でキラーアントを殴り飛ばした。
だが、相手の数が多すぎて多少の反撃をくらい、腹から出血が滲んでいる。
当然だ。
リリルカの持つ剣は、スズネリアの防具でもある。
それが今、彼の元から離れている。
つまり―――今の彼は丸腰だ。
「リリルカ!これも持ってけ!これも!これも!」
「はっ!?えっ?」
スズネリアはさらに身につけてるものを全部リリルカに投げた。
丸腰も丸腰。
さらに丸腰になった。
なぜ!?
「な、何やってるんですか!?死ぬ気ですか!?」
「ハッ。かもな」
「……っ!」
リリルカが瞠目する。
スズネリアはキラーアントを殴り飛ばして、リリルカに向かって不敵に笑う。
「
「はっ……な、なんで……っ!」
「―――その代わり!!」
スズネリアはキラーアントを一体討伐して、口元を拭ったその拳をそのままリリルカに向ける。
「お前が欲しいモンを持ってくなら、俺も欲しいもんを持ってく。武器も、装備も、金も、アイテムも、何も要らねえ。俺が欲しいのは―――"
「~~~~~~~~~~~っ!?」
死地での突然の告白に、リリルカは顔を真っ赤にする。
だが、彼の恋愛感情は1人の女性に支配されている。
これは、友愛だ。
「俺様が欲しいのはお前だけだ、リリルカ。俺の元に来い。ベルの仲間になれ。それが俺の求める"
スズネリアの視界にキラーアントが飛び込んできて、彼は戦闘に戻る。
が、後ろから飛んできたキラーアントに腕を齧られた。
見るだけで痛々しい血飛沫が飛び散る。
―――だが、彼は笑っていた。
「ハハハハハッ!!オイオイオイ!!欲しいもん手に入れる為だと思ったらよぉ……テメェらが与える痛みも気持ちいい
「スズ!?」
スズネリアは、獣化していた。
否、
これが彼のスキル―――【■■■■】。
リリルカは、聞いたことがある。
【グウィネヴィア・ファミリア】の冒険者は、皆、欲にまみれている。
そして、欲を満たすためなら狂気を宿す。
望む未来を、手にするために。
「オイオイオイ、この群れの
スズネリアは頭突きでキラーアントの頭を割る。
もはや正常な戦い方ではない。
狂気だ。
それでも、彼はまだ正気を保っている。
その理由は、ただ一つ。
求めるものがあるからだ。
それは、いつも変わらない。
「リリルカ!!」
「……っ!」
スズネリアは血まみれでリリルカを見る。
そして、口角を上げる。
「お前との―――"契約"を"更新"するッッ!!」
彼は。
また笑った。
まずは一体、キラーアントを殴り飛ばす。
「契約内容は全部で4つ!!まずは1つ!互いの特技を互いの為に使うこと!」
「……っ!」
リリルカが目を見開く。
今ここに、勇気と、情熱と、知恵がある。
「2つ!!仲間を見捨てねえこと!!」
2体目のキラーアントを踏みつけて、真っ二つにする。
「3つ!!報酬は、欲しいやつが持っていくこと!!」
3体目のキラーアントは噛み砕かれて胴体と頭部が泣き別れする。
そして。
「―――4つ。互いを、尊重すること」
「~~~~~~っ!!」
スズネリアの見開いた目が、リリルカの脳に刻まれる。
彼女の瞳に彼の姿が焼き付けられる。
彼は、言った。
「以上。契約を守るなら、対価を与える。俺の血を、お前に分け与え。家族の如く、お前を慈しむ」
「スズ……」
最後のキラーアントがスズネリアに飛びかかったところを、ベルが上からナイフで叩き刺して、消滅させる。
モンスターが消滅した時に発生する砂鉄が舞い、スズネリアの背後を演出する。
彼は、本気だ。
「リリルカ。選ぶのはお前だ。このまま自分を殺し続けてベルの優しさを踏みにじるか、俺の契約の重さに押し潰されるか―――選択しろ」
スズネリアの真っ直ぐな眼差しに。
心を覗かれるような力強い瞳に。
リリルカは。
「……ス、スズネリア様は……馬鹿、なんですか……?」
「うおっ。やめとけ、マジで!?これ考えたのルシアだぞ!バチくそ怒られるぞ、お前!」
瞬きの間にいつものスズネリアに戻った。
さっきまでのイカした彼はどこへ行ったのやら。
リリルカは……噴き出した。
「あはっ!あははは!あははははっ!」
「へへっ」
腹を抱えて笑うリリルカを見て、スズネリアはVサインの甲を見せて笑う。
ベルにも笑顔が見えた。
3人は、笑った。
「スズネリア様って……ホントに馬鹿」
「おうよ!そいつが俺様の良いところだ!知らねえのか?だったらこれから死ぬほど教えてやんぜ」
「もう……馬鹿」
リリルカは赤面する。
上目遣いで彼を見た。
「……リリは悪い奴ですよ」
「ハッハー。どうかな。俺も中々のワルだぜ?果たして勝てっかな~?」
「なんですか。リリだって負けませんよ」
「どうかな~。そこまで言うんならこれから見物だな。な、ベル」
「うん!」
ベルも頷いた。
馬鹿二人を見て……リリルカは涙を拭う。
「ほんと、貴方達は……馬鹿なんですか。馬鹿2人なんですか」
「じゃあこれからは馬鹿3人だな」
「リリは馬鹿じゃありません。頭、絶対スズネリア様より良いです」
「そうか。だったらその賢さで俺達を助けてくれ」
「……!」
リリルカは、彼を見上げる。
また、涙を拭う。
「もう……どうなっても知りませんよ」
「どうなるかは知ってるぜ。……最高の冒険が待ってる」
スズネリアは微笑む。
彼の優しい顔を初めて見て、リリルカはまた赤面した。
「言っとくが、契約だからな?破ったら重ーい罰があるぜ?その罰はなんと、ルシアと大食い対決だ!!」
「えっ。死にません?それ」
「死なない?それ」
2人の同時のツッコミを受けて、スズネリアは快活に笑う。
笑う。
笑う。
笑いすぎて……。
「あっ。ヤベ」
彼は、貧血で倒れた。