原初の竜でも友達が欲しい   作:伊つき

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蹂躙

 

「悪ぃ。ありがとな、ルシア」

「いえ。構いません」

 

倒れたスズネリアはそのままキャメロットに運ばれて、ルシアが全癒魔法で治した。

最初ベル達は【ディアンケヒト・ファミリア】に運ぼうとしたが、意識朦朧とした本人がここがいいと言ったのだ。

 

「すげぇ。キラーアントに食われた肉も元通りになってやがる。修復もできるって天才だな、ルシア」

「まあ、今のところは限度がありますけどね」

 

ルシアは、包帯などを片付けながら回答する。

 

「ところでスズネリアくん。折角来たのですから会議に出席していきませんか」

「げっ。やだよ。俺、あの会議苦手なんだよな」

「そうですか。まあ無理強いはしませんが」

 

月例で行っている円卓会議。

遠征前や都市に何かしら動きがないとただの報告会ではあるが、ルシアの計画に関わることを話すとなると、途端にスズネリアの苦手な空気になる。

だから、嫌だと拒否するスズネリア。

それを受領してルシアはスズネリアを玄関まで送る。

すると。

 

「おや。久しいですね、モルドレッド卿」

「……マリウス。俺をその名で呼ぶんじゃねえ」

 

久しく顔を合わせるエルフの騎士にスズネリアは顔を顰める。

彼の顔を見ると、思い出すのだ。

 

昔、この場所(キャメロット)で―――。

 

 

『いけませんよ。その先に行っては』

『……!?』

 

まだ身体が小さかった頃に地下室に降りようとしたスズネリア。

階段に足をかける1歩目。

その瞬間に後ろから声をかけてきたのがマリウス。

 

『あ?この先に何があんだよ―――

 

『なんじゃ。誰かいるのかえ……?』

 

『……っ!!』

 

その時、スズネリアは慌てて振り返った。

確かに聞こえたから。

 

『今、声……!』

 

純粋なスズネリアがマリウスに告げようとすると。

 

『シーーーー……』

『……っ!!』

 

悪く(ヒール)に口角を上げ、子供に言い聞かせるように屈み、口元に指を当てるエルフの騎士。

当時、子供のスズネリアは―――震えた。

 

 

 

「貴公がキャメロットにいるなんて珍しい。戻ってくる気にでもなったのですか?」

「なわけねえだろ」

 

スズネリアは一蹴して無視する。

ズカズカと歩き始めた。

ルシアは彼を追いかけて隣に並ぶ。

 

「……悪い、ルシア。俺、あいつ苦手だ」

「謝らなくていいですよ。確かに彼とは古い付き合いですが、気にしないでください」

 

スズネリアはルシアを一瞥する。

けど、すぐに前を向く。

 

「ルシア。ここはなんかおかしい気がすんだ。戦うのが嫌いって言ってた母上は無理やり戦わされてるみてーだし」

「……」

「俺はマリウスが怪しいと思ってる。あいつが影でファミリアを操ってんじゃねえかって」

 

そう言われてルシアは少しだけ振り返り、マリウスを見た。

そして、"嫌な役を押し付けてごめんなさい"と視線だけで謝る。

だが、マリウスはルシアのためならどんな泥でも被る。

問題ありませんよ、と目配せした。

 

「彼はそう悪い人ではありませんよ」

「……まあ、ルシアはそう言うよな」

 

スズネリアもルシアがマリウスを信頼しきってるのはわかってる。

だから、ルシアの方が圧倒的に強くても彼を裁かないのだと。

ルシアはなんとも言えない表情になる。

いや、黒幕は私ですよなんて口が裂けても言えない。

 

「前はよくこの中庭で鍛錬していましたね」

「……」

 

スズネリアが中庭を一瞥する。

この場所にもいい思い出はない。

キリエに戦い方を習い、マリウスに剣術を習い、ルシアに格闘術と知恵を習った。

だが、1番記憶に残っているのは。

 

『モルドレッドよ!強くならんか!!貴様が王を解放するのだろう。そして、あの忌々しき竜の娘を殺すのだ!』

『いや、殺さねえよ……おれ、ルシアも好きだもん』

『なんと愚かな!あれは存在してはならぬもの!殺せ!殺せ!!』

『うおっ!?』

 

激情のままにマリウスの父、ガリウスにしごかれたことがある。

その時の気迫が忘れられない。

 

『殺せ!!殺せぇ!!』

『や、やめろよ。やめろ……っ』

『殺せぇぇ!!』

『うわあああああああ!!』

 

ガリウスの容赦のない剣撃を浴び、逃げ回るスズネリア。

スズネリアにスキルが生まれた瞬間だ。

植え付けられた殺意。

竜と王を殺すための、最低のスキル。

 

「……」

 

スズネリアはキャメロットを出ると、そびえ立つ城のような外観を見上げる。

ヘスティアの恩恵が刻まれてからも1ヶ月はここに通っていた。

教育のためだ。

確かに色々教わった。

教わったことは今でも大切にしている。

けど、同時に恐怖もたくさん植えつけられた。

 

『あは~。現実も知らないガキンチョって感じでムカつく~』

 

ある日、猫人(キャットピープル)の騎士には、謎の因縁をかけられていびられた。

 

『脆弱。軟弱。王を守る資格、なし』

 

同じく猫人の男の騎士は手加減知らず、鍛錬なのに気絶するまで嬲られた。

 

『……貴様はまだ、【あの試練】を達成していない。あれを通過していない者に、円卓の席はない』

 

会議で円卓の席に座ろうとしたら狼人(ウェアウルフ)の騎士に窓から放り投げられた。

中庭に落ちて見上げた時、彼らの見下す眼光が忘れられない。

 

「……この城にいる奴らは俺を認めちゃいない。俺のことを受け入れてくれたのは、母上とキリエと……ルシアだけだ。だから、ルシア。お前は好きだぜ」

「スズネリアくん……」

 

ルシアはスズネリアの薄らとした笑顔を向けられ、直視できず、俯く。

彼らに迫害するよう指示した覚えはない。

だが、彼らをあの地下室に連れていき、試したことが裏目に出た。

あれを知らず、現実を認知せず、円卓に座ることが許されない風潮になっている。

迫害されて育ったルシアがそんな方針を掲げるわけないが、ルシアの責任ではある。

彼が憧れの【グウィネヴィア・ファミリア】にすっかり怯えきり、憧れを失ってしまったのは自分のせいかもしれない。

もしかしたらスズネリアが【グウィネヴィア・ファミリア】加入に後ろ向きな要因の一つもそれがあるのかもしれない。

 

「すみません。君に怖い思いを沢山させてしまって」

「えっ?なんでルシアが謝るんだよ。悪いことしてねえなら謝んなよ」

「……してますよ。悪いことなら。沢山」

 

ルシアは遠くを見る。

風で前髪が靡いた。

そして、自身の手を見下ろす。

一体この手で何人殺してきただろうか。

どれだけの人間を苦しめてきただろうか。

今、自身の後ろにいる2人の少女を……地獄で縛り付けてるのも、自分だ。

それでもやめるつもりはない。

目的の為なら他は、全て犠牲になってもらう。

そこに迷いがないからこそ、スズネリアと接する時は後ろめたさが出てしまう。

 

「おっ。この辺でいいぜ」

「体調はもう大丈夫ですか?」

「ルシアのおかげでバッチシだぜ!」

「そうですか。帰りもお気をつけて」

「おう!」

 

スズネリアは元気よく手を振って走り去った。

ルシアも手を振り返して微笑んで見送る。

 

そして、彼の背中が見えなくなった頃。

 

ルシアの顔から笑顔が消えて、真顔になり、彼女は路地裏に直行する。

そうして……足を止める。

 

「何か御用ですか?」

 

ルシアが尋ねると、8人の影が降り立ち、彼女を囲む。

その紋章に刻まれるは女神への敬愛。

 

―――【フレイヤ・ファミリア】だ。

 

「これはこれは。天下の【フレイヤ・ファミリア】様が揃いも揃って御足労いただいて。恐縮ですね」

「……抜かせ。この都市で1番は貴様達だと、他でもない貴様が口にした」

「そうでしたっけ」

 

オッタルの言葉にルシアはとぼける。

というか本当にそうだっけと思い返した。

あぁ、確かに声明でそんなこと言った気もする。

彼女にとって必要だからやってるだけのことはあまりしっかり覚えていない。

大事な根幹、【アストレア・ファミリア】の救済を思考の中心として動いているだけだ。

 

「で、私なにかしましたっけ。フレイヤ様のご意向に反しました?」

「……女神はお怒りだ。あの狼人(ウェアウルフ)を差し向けたのは貴様だろう」

「なるほど」

 

ルシアは一瞬で理解した。

どうやら美の女神は白兎にご執心らしい。

 

「何を求めているのか知りませんが、邪魔する気はありませんよ。というかどうでもいいので。ベル・クラネルくん……でしたっけ?興味ないですね」

 

千里眼で見た口の動きで確認した、スズネリアの新しい仲間の名前を口にする。

それだけで彼らの目の色が変わり、武器を鳴らす。

……血の気が多い人達だ。

人の事言えないが。

 

「ならなぜあの狼人(ウェアウルフ)を【ヘスティア・ファミリア】に入れた?」

「時系列が逆ですよ。こっちが先です。スズネリアくんの矯正の為に入れたんです。つまり、クラネルくんは関係がない。こっちの事情でこっちで動いているだけに過ぎません」

 

ルシアは説明する。

それでも警戒が解かれない。

なるほど。

ここで説得しても無駄ということだ。

女神の奴隷たる彼らに意志など存在しない。

下っ端と交渉するだけ無意味だ。

 

「お話になりませんね。フレイヤ様にお目通り願っても?」

「図に乗るな、爬虫類風情が。テメェが女神を拝むなんて億万年早ぇ。なんなら名を口にするだけで大罪だ。殺すぞ」

「殺す、ですか……」

 

ルシアは、冷めた目で彼らを見渡し―――

 

 

鼻で笑う。

 

 

「どうやら立場がお分かりになってないようで。殺されるのはどちらか、一目瞭然だと思いますけど。今の貴方達はまるで、判断がつかない愚かな駆け出しのようだ」

『……っ!』

 

彼らが瞠目する。

この上ない屈辱。

まるで赤子の扱い。

駆け出しの雑魚扱いだと……!

 

「テメェ……!」

「―――それともここで紛争(せんそう)しますか?」

『……っ!!』

 

ルシアが殺気を込めて尋ねると、全員が後退る。

彼女の瞳には千里眼の輝きが。

利き手には黒い聖剣が。

逆の手には杖が。

戦況を第三者視点で観測できる神の目と、Lv.7相当の剣技、全癒魔法に、奥の手の竜化。

ドラゴンにはなれば推定Lv.7。

間違いなく今いるメンバーだけでは討伐できない。

 

少なくとも街中では。

 

「女神フレイヤにお伝えください。そちらの邪魔はしません。ですが、そちらがこちらの邪魔をする場合……地位と名誉を失うことになると。果たして、高貴(ボンボン)が質素な暮らしに耐えられますかね?」

 

『――――――ッッッッッッ!!!!』

 

限界が来て血管が切れた猫人が彼女に襲いかかる。

数時間後。

女神の元に、7人の仲間を引きずり、傷だらけのオッタルが戻った。

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