「Lv.6……?階層主を……ひ、1人で……?」
ギルドの掲示板を見上げるベルは唖然とする。
だが、その隣で。
「おい!こっちはもっとヤベぇぞ!」
「……っ!」
ベルがその声の方を向くと、隣の掲示板の方が人集りができていた。
そして、その最後列には……ベルよりも唖然と立ち尽くしているスズネリアが。
「スズ……?」
「―――『Lv.8相当』」
「えっ?」
目を丸くしてベルも掲示板を見上げる。
聞き間違えか?と思った。
だが、そこに記された内容は。
―――『【グウィネヴィア・ファミリア】。
ルシア・マリーン。
冒険者として、Lv.4到達。
リョーカ・アーサ。
冒険者として、Lv.4到達。
精霊の加護を受ければ、その攻撃力はLv.8相当と予測。
以上、2名。
深層階層主バロールを討伐』
「……えっ」
ベルは読み上げて、固まった。
アイズの隣に立ちたいベル。
リョーカの隣に立ちたいスズ。
しかし、スズにベルほどの成長速度はなく、憧憬もアイズのLv.6を上回るLv.8相当。
ベルのショックを上回る衝撃と絶望がスズネリアに訪れたのは想像にかたくない。
ベルは……恐る恐る彼の横顔を見る。
「――――――」
「……っ!」
彼は、抜け殻のような無力感で虚ろな目をしていた。
そして、俯いていたかと思ったら……ベルを見る。
その瞳は、嫉妬や八つ当たり、そして……虚しさがこもる複雑な感情が入り交じったものだった。
「いいよな、ベル。お前は……」
「えっ。ス、スズ……?」
スズネリアはフラフラと歩き去ってしまった。
追いかけようとしたが、追いかけて何を言えばいいのかわからない。
彼の足は止まり、アイズとの約束の時間を思い出し、悩みながらも市壁へと足を向ける。
キャメロットにて。
ダンジョンから帰ってきてステイタス更新とギルドへの報告を終え、手当をしていたルシアとリョーカの部屋にスズネリアが飛び込んでくる。
「母上っ!」
「えっ」
スズネリアが扉を開けると、リョーカは裸だった。
傷だらけの体をルシアが癒している真っ最中。
スズネリアは真っ青になり、扉をバンッ!と閉めて扉に背中を預ける。
「す、すんませんした!!」
スズネリアは全力で謝って、そのまま扉に背中を預けたままずり落ちて尻をつく。
そうして項垂れる。
暫く待つと。
「スズネリアくん、入ってもいいですよ」
「お、おう」
ルシアの声でスズネリアは入室する。
すると、完全回復したリョーカとルシアが待っていた。
でも、いつもと様子が違う。
リョーカは剣を2本帯刀しているし、ルシアは見たことの無い刺々しい竜人形態だった。
「は、母上……っ。カリバーンとモルガーン、両方とも母上が持ってんのか?」
「はい。2本の聖剣を用いたリョーカさんの最新の必殺奥義はLv.8相当の攻撃力になるかと」
「Lv.8相当……っ」
何回聞いても凄まじい数字だ。
冒険者のランク表記ではないので参考記録ではあるが、数字だけ見れば過去に【ヘラ・ファミリア】の団長である【女帝】しか存在しない。
無論、【ゼウス・ファミリア】の団長はLv.9なので経由はしているが。
「ていうかルシアの竜人形態もなんか凄まじいことになってねえか?」
「はい。この状態であればLv.8相当に至ります。その名も―――」
彼女は1拍置く。
告げるのは、ルシア・マリーンの最強形態。
「【竜人形態 モード斬撃竜】。
「……っ」
手を広げて自身の最高の肉体を見せるルシア。
スズネリアの前に、最強の怪人がいる。
厳密には、テシレアの方が上だが。
「母上の方は……?」
「大英雄剣術最強奥義【エックス・バースト】の習得に成功しました。二刀流による16連撃です。これでオラリオに敵はいなくなりました」
言い切るルシア。
逆に言えば、オラリオの外にはまだ脅威がいるが……と窓の外に目を向ける。
今は協力関係でも、ヴィヴィアンもタレイアも真に味方ではないのだから。
「グウィネヴィア様。ちなみに現状の我々は黒竜に対抗できますか?」
「えっ……と……」
「……正直に言っていいですよ」
グウィネヴィアの初手の反応で大体わかったが、ルシアは要求する。
彼女は……言いづらそうに口篭りながら、素直に話す。
「……正直、傷をつけるどころかそもそも攻撃が当たらない。相手にもならないと思いますわ」
「そうですか。やはり。なるほど」
「……っ!」
最悪の答えにルシアは涼しい顔で淡々と返して、リョーカは絶望する。
バロールを倒すのは本当に大変だった。
2人が現状、都市の常識を超えているとしても、死の間際をさ迷ったと言ってもいいレベルで死闘だった。
それを乗り越えた先に待ってたのが"話にならない"という回答。
リョーカの気が遠くなり、今後はさらに厳しい戦いを乗り越えて成長しないといけないのが目に見えて、暗い顔で俯く。
……ルシアはそんな彼女の様子を見て、グウィネヴィアと向き合う。
「予測はしていましたが、中々堪えますね。今回のバロール討伐から私もかなりギリギリの戦いを強いられるようになってきました」
「そうでしたの。厳しいですわね。黒竜討伐には最低でもLv.10相当は必要だと聞いていますわ」
「なるほど。で、あればここからはこれまでのように飛躍的に成長するのは難しくなってきますので、腹痛が長引くことを祈りますね」
もはや願うことしかできないと言うルシア。
彼女曰く、ここらが自身とリョーカの天井だという。
ここから更に強くなるには、ダンジョンで強化を図るのも難しくなるかもしれない。
無論、まだまだ下の階層はあるが……ダンジョンのモンスターの魔石と、得られる経験値によるステイタスかさ増しで、チマチマ稼いでいては黒竜討伐の前にルシアの老いとリョーカの寿命が来てしまう。
対【フレイヤ・ファミリア】の為に強くなったところだが、すぐにまた新たな課題が出来てしまった。
「……ところで、スズネリアくんはどうしてここに?」
「えっ」
突然注目が自分に集まり、スズネリアが目を丸くする。
彼は……ゆっくりとリョーカを一瞥する。
その視線を察知して、ルシアが「あぁ……」と察した。
「そういえば、スズネリア久しぶり。最近会いに来てくれないから、寂しかった。……もう母離れ?」
「な、なんじゃそりゃ。そんなんじゃねえよ」
スズネリアはちょっと赤面して目を逸らす。
彼は……胸の内を呟く。
「ただ……強くなるまでは距離を保とうとしてるだけだ」
「……スズネリアくん。今回のことは気にしない方がいいかと。君は君のペースで強くなればいいのです。我々と比べてはいけません」
「わ、わかってるよ……っ。……クソ!」
「あっ」
「スズネリア……!」
ルシアが諭すと、スズネリアは顔を顰めてそのまま立ち去ってしまった。
……どうやらかける言葉を間違えたらしい。
「リョーカさん。もうここはいいので、追いかけてあげてください」
「う、うん」
珍しく優しいルシアに、リョーカは頷いてスズネリアの後を追う。