とりあえず歴史に名を刻みたかったヤツ   作:はごろも282

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存在しない男ぶち込みマンです。なにしてんだろう。


とりあえず歴史に名を刻みたかったヤツ

 マキノは激怒した。必ず、かの荒唐無稽の愚か者を殴らねばならぬと決意した。

 マキノには男心がわからぬ。マキノは、田舎でもうすぐ15になる村民である。よく遊び、店のお手伝いをして、危険とは縁遠い平和な生活をしてきた。けれども戯言には人一倍に敏感であった。

 マキノは才女である。世界で大海賊時代がうんぬんで大騒ぎになっている事も知っていた。とはいえ辺境の片田舎に生きるマキノにはそれはいまいち実感の湧かぬことであった。いつもならそんな話に男心とやらですぐに食いつく件の男の子もまったくの興味を見せずずっと昔のワノ国の侍にお熱であったために、ただでさえ湧かぬ実感はより薄れていった。

 それゆえマキノはこれから先も今と変わらぬ暮らしが続き、一つ下の男の子と普通に結婚して子宝に恵まれ、普通の幸せを得て生きていくのだと思っていた。なんなら村の大人たちの姿を見てあんな夫婦になりたいとかあんなことをしてもらいたいなんて考えるくらいにはその生活を夢見ていた。

 端的に言えばマキノは男の子を憎からず想っていた。少なくとも『結婚?どうしてもして欲しいなら考えなくもないけど??』とか言っちゃえるくらいには。マキノもまだ思春期の少女。普段から温厚で優しいと知られるマキノはその男の子にはツンデレであった。

 

 故に、マキノは激怒していた。村を歩くマキノを見て男たちが引きつったような声を上げているが、今のマキノには関係がなかった。

 怒れるマキノの手にはくしゃくしゃになった紙切れが握られていた。紙切れには一言、こう書かれていた。

 

《歴史におれの名を刻んでくる》

 

 マキノの想い人は、愚か者であった。

 

 

 

 夜明けより少し前、愚か者ことフールは家を出発し、市場を越え集落を越え、村の端の港までやってきた。フールに両親はいない。いるのはお節介焼きの小うるさい幼馴染の少女のみだ。この幼馴染は口を開けば小言が飛んでくる妖怪じゅーばこツツキである癖に何故か朝一番から欠かすことなくお宅訪問をする異常者である。

 それゆえフールはこの妖怪にバレぬように村を出る必要があった。

 

 フールは別に少女を疎ましく思っていない。むしろ逆である。年上で美人の少女が世話を焼いてくれることをフールはいたく喜んでいた。周りの男に『自分はこれほど恵まれているのだ羨ましかろう』とマウントをとり煽りカスになる程度には満喫していたのだ。もちろん嫉妬に駆られた男どもにリンチにされたが特に気にしてはいなかった。当時からフールには勝者としての慈愛のこころがあった。

 

 けれど、それはそうとしてフールには夢があった。幼いころに聞いた話である。ずっと昔に空飛ぶ竜を斬ったという剣豪がいたと。それゆえか、その剣豪は世界に〈ワノ国の侍〉の存在を知らしめたという。

 フールはこの話をいたく気に入った。フールには剣の心得など一切ない。剣士の矜持も、義理を重んじるとかもない。彼にはそこら辺はそんなに興味が湧かなかった。けれども世界に自分の存在を轟かせたという一点において、フールは剣豪に強く憧れた。

 幼い少年にとって、有名=かっこいいだった。聞けば剣豪は放蕩するタイプの根無し草であったらしい。定職につき決まった時間に起きて働くのが大嫌いなフールはそんなところも気に入っていた。

 

 そんなこんなで剣豪に、というか剣豪の名声に憧れを抱いた幼いフールは体を鍛えることにした。定期的に村に現れる大柄のヒゲに攻撃をしかけたりもしてみた。村の大人たちが海軍だの英雄だのと言っていることは当然知っていたが、フールはとりあえず船=海賊、噂に聞く大海賊時代のビッグウェーブに乗った阿呆と認識している体で襲いかかった。幼い少年のヤンチャと扱われる自分の立ち位置を最大限に活かした振る舞いである。フールは昔から小賢しかった。この頃には常習的にマキノにお説教されるようになっていた。

 このあとも、興が乗った大男に海軍に勧誘されたりだとかチキチキ山賊追いかけっこだとかのアクシデントを乗り越えたフールはようやく今日、こうして大海原に羽ばたこうとしていた。

 

 もちろん、ふわっとしたノリで今日の出航を決意したことは想像に難くない。けれど、そんなフールも旅するに当たって色々と決め事をしていた。

 まず一つとして、17を迎える前に一度は戻ってくること。そしてもう一つが決して海賊にはならないことである。

 

 フールは今年で14になる。17までに戻るという決め事をしている以上は既に旅をするにはちょうどのタイミングであった。およそ3年。それがフールが一旦考える最長であり、以降は一度村に戻ってから考えるというのがフールのプランである。

 

 当然、この決め事にも明確な理由があった。といっても非常に単純なことだ。幼馴染の少女の存在がゆえである。この幼馴染、口喧しくお節介がすぎるところがあるが善良で明るく美人である。生まれ育ちが街であれば引っ張りだこの人気者間違いなしだ。

 フールの一つ上のこの少女は、つまりフールが17のときは18だ。18ともなれば男の一人や二人できていてもおかしくはない。見合の誘いだってくることもあるだろう。ただでさえ今マキノとの仲の良さを周囲に自慢し尽くしているフールにとって、そんなことは耐えられなかった。

 自分の都合で海へと出る愚か者は、本気で『おれが戻るまで、ないしはおれが外で女の子を捕まえられるまでは誰のものにもなって欲しくないなぁ』とか思っていた。この男、無駄に独占欲が高いタイプのクズであった。

 

 当然、海賊にならないのも同様の理由である。海賊は犯罪者、犯罪者となればフーシャ村へ戻れない。わりとそれがメインである。

 とはいえ、他にも海軍の大男強すぎ問題とか、そもそも懸賞金とか海賊って無駄だしダサくね問題、というか犯罪者になるのは人としてどうなの?みたいな理由もあった。身近にいた大人が善良だったことと海軍の知り合いがいることもあって、フールはカスのわりには善人よりの思考であった。

 

「よしよし、出航だー」

 

 せっかくの門出が無言ではあんまりだと思ったためにとりあえず大声を出さぬよう注意しつつも声に出す。そんな彼の脳内は〈ワノ国の侍〉に値する良い謳い文句ってなんだろう?で染まっていた。

 

 こうして、フーシャ村から一人の少年が旅立った。未来の海賊王が運命の出会いをする3年ほど前の出来事である。

 




ロビン「島に降りると見かける『フーシャ村に風車あり』ってなんなの……?なにかの暗示、手がかりかしら…?」

次があるなら原作1話まで時間が飛ぶタイプのヤツ
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