とりあえず歴史に名を刻みたかったヤツ   作:はごろも282

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ワンピースってすごいな


あるいは冒険の夜明け

 旅を終えてフーシャ村に戻ったフールを待ち構えていたのは怖い犯罪集団と幼馴染のクリティカル暴行であった。幸い犯罪集団とは運良くすぐに打ち解けることができたが、問題は幼馴染の方である。フールの書き置きがもとより気にいらなかったマキノは、気を失ったフールが回復するとすぐに滾々とお説教をはじめた。やれ心配しただの、無言で出ていくのはそもそもが異常だだの、挙句の果てには私のことはどうでもいいのかだのとこれまで積もりに積もった鬱憤をすべて吐き出すかの如く捲し立てたのだ。

 これにはさすがのフールも口を閉ざす──なんてことはなく、さも当然のように減らず口で返した。当然そんな様ではマキノの怒りは収まるはずもなく、お説教は長くなった。

 そんなことが既に1年ほど前になる。フールは未だにフーシャ村で生活をしていた。

 

 今朝のことだ。何故かフールの家に居着いているマキノの手によって朝イチから酒場に連行されていたフールがカウンターで堕落していると、けたたましい声が響いた。

 

「おれはケガだってぜんぜん恐くないんだ!!連れてってくれよ次の航海!!」

 

 村の子どもルフィである。シャンクス率いる海賊団と仲を深めた少年ルフィは酒場の常連であった。宝払いと称して金を落とさずに食事をするその姿はフールをして海賊の素質ありと言わざるを得なかった。ちなみにフールが幼い頃は隙をみて魚を盗んだりを常習的に行っていたわけだが、そんなことは今のフールには知らぬことである。

 

「そんなに海に出たきゃフールに頼めばいいじゃないか」

「おれは海賊じゃない」

「フールなんかだめだ!おれはシャンクスの船がいい!!」

「ぶちのめしてやろうかクソガキ」

「「「アッハッハ!!」」」

 

 話を眺めていたら突然話を振られ盛大に罵倒されたフールは怒りから大人げなく格の違いを見せつけようとして、背後から忍び寄る店主に制圧された。

 

「だめですよ船長さん。フールは海には出ないんです」

「マキノさんか。そういえばそうだったな」

「マキノ重いからどいて」

 

 フールの願いはペシンッ!という平手打ちで返された。

 マキノの言葉通り、フールはこの1年海へ出ることはなかった。3年間の罰という名目で遠出の出航を禁じられていたからだ。もちろん、フールはそんな罰なんてものに縛られる男ではない。マキノの男性事情を調査したり、村の男たちに外の思い出をひけらかして悦に浸ったりしてひとしきり故郷を堪能したフールは当たり前のように約束を無視して動こうとした。それに微塵も罪悪感が湧かぬからこそ、フールはクソ野郎なのだ。

 けれども、フールのその思惑は頓挫した。当然マキノが原因である。幼馴染であり村で最もフールを知るこの少女はフールの行動を予測しているかのように立ち回った。その様は村の男たちに『鬼が本格的に囲いに行っている』と称されたりした。3年前に紙切れを持って怒り狂っていたマキノを知る男たちだからこその発言であった。

 そうして最終的にフールは『また置いていくの?』という台詞に加えて泣き顔というマキノ式必殺最強コンボに陥落した。邪険に扱うことは多々あれど、フールは泣き顔が見たいわけではない。むしろマキノに男がいるかどうかのために帰ってくるくらいには昔から好意的だ。それはそうとして有名になりたいだけである。つまるところそれを把握しているマキノの完全勝利であった。

 

 そんなこんなでフールは今に至るまで村に居着いていた。ぶっちゃけフールは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるマキノとの同居をいたく気に入っていた。朝から叩き起こされたり小言を言われるのは多少面倒ではあるがそんなことはフールにとっては今更なことなのだ。村にいた頃よりその程度のことは日常であった為だ。

 ちなみに、マキノが同居している理由は3年前のことが原因だったりする。昔から朝イチにお宅訪問をしていた少女マキノ。けれど彼女は愚か者の出航を止めることができなかった。これを重く捉えたマキノは絶対に逃さない方法を考え、その結果が同居だった。

 もちろんフールはそんなこと知る由もなく、なんならわりと最初の方から『あ、ここ住むの?ふーん』くらいのノリで受け入れていた。この男、意外と流されやすかったりするのだ。

 

 以降もシャンクスたちとルフィのじゃれあいが続く。フールがそれを眺めていると、そこに新たな来客がやってくる。山賊である。フールが『いかにも悪そうな髭面だなぁ』なんて考えている間に山賊は海賊を嘲ってマキノに酒を要求した。流れるような挙動であった。

 

「お酒は今ちょうど切らしてるんです」

「んん?おかしな話だ。海賊どもがなにか飲んでるようだが、ありゃ水か?」

 

 随分理性的な賊だ、フールはそう思った。もしもフールが山賊の立場であれば酒が出せぬ時点で一人二人殺しているだろう。フールは賊よりも賊らしかった。

 その後、謝罪の意味で酒瓶を手渡したシャンクスに山賊がブチギレた。やはり賊は賊、山賊は酒瓶を思い切りシャンクスの頭目掛けて振り抜き、瓶は粉々になって散った。

 この時、フールは瓶の破片がマキノに当たらぬように壁となっていた。ちょうど近くにいたからこその行為ではあるが、咄嗟に動ける程度にはフールはそこそこできる男であった。それに気がついたマキノはこんな状況にも関わらずちょっと胸がキュンキュンした。

 

「おい貴様、舐めたマネするんじゃねぇ」

 

 怒れる山賊は言葉を続ける。その話によれば山賊はシャンクスのような男を56人殺したお尋ね者であるらしい。

 それはすごい。フールは素直にそう思った。フールの知る限りではシャンクスは10億を優に超える大物賞金首である。つまりこの山賊は懸賞金560億の男ということになる。最強だ。800万はお遊びでダミーのようなものだろう。冷静に考えて自分の手配書を自分で持っていることなどありはしないのだから。

 

「悪かったなァマキノさん。ぞうきんあるか?」

「あ……いえ。それはフールがやりますから」

「???」

 

 マキノはなんの迷いもなくフールに雑用を押し付けた。流れるようなその言葉にフールは一瞬の間言語が理解できなかった。その隙に山賊は酒場をさらに荒らし、倒れるシャンクスに嘲りを向けて帰っていった。

 

 

 あとに残るのは、びしゃびしゃになった床とそこかしこに飛び散る瓶の残骸のみである。

 フールは山賊が嫌いになった。

 




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