AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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ペーパームーンのカーマちゃん可愛かったよね。


CAPTAIN AMERICA TWS:crow of fluffy large sickle〔part3〕

──トリスケリオン、ヘリキャリア甲板。

 

 

「ん……?」

 

 

搭載されている砲台の陰に身を隠しながら様子を窺っていた星は、知った声が耳に届いたような気がして、周囲を見回す。

 

 

「どうしたの?」

 

「なんか、声が聞こえなかった?」

 

「声?」

 

「うん、千束みたいな声で、悲しみに暮れる慟哭のような、情けない感じのヤツ」

 

「何も聞こえなかったよ。周りがうるさくて星の声以外何も聞こえない」

 

「……んー、気のせいだったかぁ」

 

 

そう納得した星は、巨大なプロペラの風切り音が鼓膜を震わす中──空へと浮かび上がってしまったヘリキャリアの甲板から地面を見下ろす。

 

コントロール・チップの交換は終わったものの、既に高度100m以上はあり、飛行装備を持っていない二人は別のヘリキャリアへと移動することもできず、途方に暮れていた。

 

 

「さて、どうしよう。流石にジャンプで届く距離じゃないなぁ」

 

「聞いてみるね。サムさん、聞こえる?」

 

『聞こえてるぞ、どうした』

 

 

耳につけていた通信機に手を当て、問いを投げるとサムから返事が帰ってきた。感度は良好のようで、風切り音が周囲を包む中、クリアに音声が聞こえる。

 

 

「ヘリキャリアが浮かんで動けないから、運んでもらえないかと思って」

 

『任せろ。キャプテンを運んだらそっちへ向かう』

 

「お願いします」

 

 

通信が終了し、甲板から下方を覗き込むと、別のヘリキャリアにスティーブを運んで飛ぶサムの姿が見える。時折、武装したヒドラに撃たれているものの、機動力と盾による防御で難なく進んでいた。動きが鈍く感じるのは、スティーブの体重によるものだろう。筋肉は脂肪より重いのだ。

 

 

「うわ、あの二人凄い。空中なのに動きが変態的だ」

 

「あれだけ動ける人、ウチにいたかな」

 

「どうだろう。アニスが作ってた空飛ぶ箒の方が速そうに見えるけど……。あれ、止まれなかったから」

 

 

遠距離攻撃の手段も無いため、スティーブとサムの動きを観察する二人。雑談混じりに話しているものの視線は彼らを捉えており、学べるところが無いか観察をしていた。非常に貴重な機会だ──けれど、状況が悪かった。

 

ここは敵地。『コントロール・チップの交換』という目的を一つ果たしたとはいえ、戦闘が終わった訳ではない。道中のヒドラ構成員を全て無力化しても、広い艦内にはまだ敵は潜んでおり──今まさに、彼女達の背後に迫っていた。

 

実戦経験の少なさが仇となった。奇襲による刃が振り下ろされる──それに気付いたのは、ラファエラだった。

 

 

「──ッ!?」

 

 

振り返ると同時に、手に持った大鎌を振り上げる。ただの直感で確信は無かったが、運が良かった。敵の刃に弾かれて星もろとも後方へと転がるものの、直撃を免れることができたのだから。

 

素早く視線を上げると、長身の男性が一人。飾り気の無い真っ黒な戦闘服を身に纏い、フードを深く被っていたが、ラファエラが振るった大鎌がかすったことで、フードから頭部が露になる。

 

 

「────」

 

 

その姿を見て、ラファエラは目を剥いて硬直した。

 

くすんでしまった金髪と、虚ろな青い瞳。そして──頭部に生えた犬のような耳。表情は何も映しておらず、ロボットのような無機質さを感じさせる。

 

随分と変わってしまったけれど、あの頃より成長していたけれど、一度だって忘れたことの無い、懐かしい香りがラファエラの記憶を想起させる。

 

──エルネスト・サラス。行方不明になっていた、ラファエラがずっと探していた、大切な家族だった。

 

 

「お、義兄、ちゃん……?」

 

 

困惑と、混乱。どうしてここにいるのか。どうして刃を向けて来たのか。唐突な再会はラファエラの思考を乱し、動きを鈍らせた。震える唇で義兄と呼ぶことが精一杯。

 

対照的に、そんな大きな隙に対して大きく踏み込み、ラファエラの首へと刃を振るうエルネスト。呆けたままのラファエラは防御が間に合わない。

 

 

「ラファエラ!!」

 

 

だが、彼女は一人ではない。体勢を立て直した星はラファエラを突き飛ばして間に割り込むと、金属バットを力強く握り、刃に向けて交差するように叩きつけた。激しい金属音が響き渡り、火花が散る。刹那の均衡。しかしそれは、あっさりと崩された。

 

 

「っふ──」

 

「ッ──!?」

 

 

体格差、体重差──そして、凄まじい膂力によって星の足が浮き上がり、後方へと弾き飛ばされた。その先は甲板の終わり。宙へと投げ出された星はヘリキャリアに手を伸ばす──が、届かない。

 

 

「くっ──そ──」

 

「星──!!」

 

 

咄嗟に手を伸ばそうと駆け寄るラファエラ。しかし、再び振るわれたエルネストの凶刃に阻まれ、伸ばした手が星へと届くことはなく、彼女の姿はラファエラの視界から消えた。

 

 

★☆★

 

 

風が髪を撫でる。ヘリキャリアが遠ざかり、伸ばした手は空を切り、星の体が落下していく。

 

真下が水路とはいえ、この高さから水面に叩き付けられればタダではすまない。とはいえ、飛行手段を持たない星に取れる手段は無い。唯一可能性があるとすれば、金属バットを水面に叩き付けてわずかでも衝撃を和らげることくらいだ。

 

そう思い至り、金属バットを両手で握る。腰をひねって、落下の衝撃に備えようとした──その時。

 

 

『星! 腕を上に伸ばせ!』

 

「ぐっ──!」

 

 

通信機から聞こえたサムの声。咄嗟に腕を上に伸ばすと、スティーブを運び終えたサムが落下する星に追い付いて、手首を掴んで引き上げる。

 

肩関節が抜けそうになる衝撃に歯を食い縛ること数秒。下方向への衝撃が安定し、水面に激突する前に浮かび上がることができた。

 

 

「無事か?」

 

「肩が痛いけど、うん。大丈夫」

 

「聞こえるか、ラ・プルマ。星は無事だ」

 

『あ──よ、かった……くっ──』

 

 

通信機から聞こえる安堵の声。そして、金属が空を切る音と、金属がぶつかる音が響いてくる。苦しそうな声に、苦戦していることが窺える。

 

 

「ラファエラ、すぐに戻るから──」

 

『ううん、先に他のヘリキャリアのチップを交換して。こっちは──っ、大丈夫、だから!』

 

「でも!」

 

『星、ここに何をしに来たか──っ、思い出して!』

 

 

生き別れた義兄との再会で混乱しているはずのラファエラに叱咤され、星は情けなさに唇を噛む。大きく空気を吸い込み、意識を切り替えると、サムを見上げた。

 

 

「──サム、お願い」

 

「了解。……無理するなよ」

 

「うん、ありがと」

 

 

向かうは最後のヘリキャリア。降り注ぐ弾幕を避けながら、星はサムに運ばれていくのだった。

 

 

★☆★

 

 

空気を裂く音と共に、振り下ろされる刃。ヘリキャリアの甲板を砕く威力のそれを、ラファエラは大鎌を回転させて受け流し、勢いをそのままにエルネストの体へと峰を叩き付ける。

 

一瞬、動きが鈍くなるエルネストの腹部へと蹴りを叩き込み、ラファエラは大きく距離を取った。自身よりも上背があり、膂力も勝っている相手に近距離で打ち合い続けるのは体力が持たないためだ。

 

痺れた手で大鎌を握り直し、エルネストを見る。目は虚ろ、表情は無く、動きはどこかぎこちないが、戦闘になれば途端に鋭さを増す。痛覚が無いのか鈍いのか、峰を叩き付けた衝撃以外で、目立ったダメージが見受けられない。けれど、わずかに出来た隙。ラファエラは声をあげて、エルネストへと語り掛けた。

 

 

「お義兄ちゃん。私だよ、ラファエラ。聞こえる?」

 

「…………」

 

「お義父さんのこと、覚えてるよね。パンチョ・サラス。宇宙船で一番の船乗りだったでしょ?」

 

 

体が揺らいだように見えた。鉄面皮だった顔に、困惑の表情が見てとれる。何かを考えるように、エルネストは手のひらを額に当てた。けれど──口から発せられた言葉はラファエラの心を抉るものだった。

 

 

「──誰、だ?」

 

「────っ」

 

 

たったそれだけの言葉。楽しかった思い出も、悲しかった経験も無かったかのように、ラファエラの問い掛けに対するエルネストの返答は、そんな真っ白なものだった。

 

目元が熱く、泣きそうになる。ようやく出会えた義兄に、自分や義父の記憶が無いことがこんなに辛いとは思わなかった。何もかもを投げ出したくなるような、重い感情が心を押し潰す。

 

けれど──けれど、ラファエラは目元を拭うと、睨み付けるようにエルネスト──いや、彼をこのようにした奴らに怒りを向けた。感情は既に激情へと変わり、最優先の目的はたった一つ。

 

 

「──分かった。じゃあ、無理矢理にでも連れて帰ることにする」

 

 

大鎌の先端をエルネストへと向けて、ラファエラは宣言する。もう二度と、大切な人を手放さないように。

 

 

「覚悟してねお義兄ちゃん、私の大鎌(ぶき)はかなり痛いよ」

 

 

★☆★

 

 

走る、走る、走る。チップを片手に、最後のヘリキャリア内を走り、中枢のシステムサーバーへと急ぐ。

前方には防弾装備に身を包んだ敵が複数人、アサルトライフルの銃口を星へと向けて、弾丸を発射する。

 

 

「撃て撃てェ! 敵は小娘一人だぞ!? 何故止められない!」

 

 

指揮を取るリーダーは、焦りと苛立ちを感じながら叫ぶ。既に2機、ヘリキャリアへの侵入を許しているのだ。どんな目的かはまだ不明だが、目的を達成させる訳にはいかないと、弾幕を途切れさせないよう命令を下す。

 

対して星は、物陰に隠れて弾丸の雨をやり過ごしていた。けれど、このままではサーバーへ辿り着けない。タイムリミットまであと少し。ここは──強制突破する。

 

 

「邪──魔ァ!」

 

 

一瞬、弾幕が途切れたタイミングで、星は物陰から身を乗り出し、白銀に稲妻が走る金属バットを全力でぶん投げた。唯一の武器を投擲する愚行に、リーダーらしき男はわずかに硬直する。

 

金属バットの側面が手前に並んでいた敵を複数人巻き込み、後方の敵ごと薙ぎ倒す。そして、金属バットの陰に隠れて走ってきた星は、まだ意識のある敵の頭へと通路の壁面から剥ぎ取った鉄パイプを振り回す。

 

 

「ぐぁ……!」

 

「な、なぁ──!?」

 

 

それだけで、リーダーを除く敵が全て昏倒してしまった。たった数秒で、形勢が逆転してしまう。驚愕と困惑がリーダーの頭を埋める。対して星は鉄パイプを捨て、投げた金属バットを拾う。

 

 

「く、来るな……来るなァ──!」

 

 

恐怖に怯え、アサルトライフルを掃射するリーダー。だが、震えた手で撃つ弾丸は明後日の方向へと飛び、星に直撃するコースへと飛んできたものは、あっさりと金属バットで防がれる。

距離にして1m。近距離まで接近されたリーダーの男は、頭部へと振り下ろされた金属バットによって、意識を失った。

 

 

「さて、と」

 

 

倒れた敵を置いて、通路を駆ける。ブーツの踵が通路を踏み締める度、金属音が響き渡る。チップを持っていることを確認し、システムの中枢へ繋がる扉を開いた。

 

半円球に強化ガラスで覆われた空間。円筒状のサーバーが鎮座しており、前後から通路が架けられている。その上を駆け抜けると、星はチップを取り出した。

 

 

「よし、これを交換してさっさと──」

 

 

ラファエラの元に。そう言葉を続けようとした瞬間、火薬の炸裂音と共に、左腕に衝撃が走った。手の力が抜け、持っていたチップを落としてしまう。温かく湿った感触が袖を濡らし、焼けるような痛みが広がっていく。

 

 

「ぁ……ぐぅッ!?」

 

 

再び炸裂音。今度は左股をかするように弾丸が通過し、体のバランスが取れずに星は床へと膝をついた。

痛みに耐えながら後ろを振り向くと、顔を黒いマスクで覆い隠した、左腕が金属の男の姿が扉の外に見えた。スティーブから事前に聞いていた、バッキー・バーンズ。その瞳は虚ろだが、明確な殺意を持って星を見据えている。先程見た、ラファエラの義兄と同じ瞳の色をしていた。

 

星は這うようにサーバーの後ろへ身を隠す。このサーバーを破壊した場合、ヘリキャリアが墜落する可能性があるため、無秩序に発砲することはないだろうと考えたためだ。

 

 

「……止まった?」

 

 

予想が当たり、銃声が止む。大きく息を吸って、ゆっくりと物陰から扉の様子を窺うと、既に彼の姿は見当たらない。開いたままの扉が、音を立てて揺れているだけ。

 

 

「どこに──」

 

 

金属バットを握る手に力が入り、心拍数が上昇する。なるべく死角を減らすべく、サーバーを背にしようと体を動かして。

 

──背後に立つ男の姿が見えた。

 

 

「──ッ!?」

 

 

咄嗟に金属バットを振るうが、狙いが定まっていない大振りの攻撃はあっさりと左腕で防がれる。そのまま金属バットを掴まれ、星はサーバーから剥がされるように放り投げられた。

 

──気が付かなかった! 音も出さずにどうやって……いや、銃声で足音を隠したのか……!

 

宙へ浮く体。焦りながらも近付かれた方法を考えるが、着地に意識を割ききれず、受け身も疎かに背中から強化ガラスへと叩き付けられた。

 

 

「か、ひゅっ」

 

 

肺から強制的に酸素を吐き出させられ、視界がぼやける。酸素が足りない。体が痺れ、力が入らない。強化ガラスの継ぎ目を掴み、体を動かそうともがく。けれど、思うように動かない。

 

視界の角には、こちらに銃口を向けるバーンズの姿。引き金にかけられた指を絞り、弾丸が星へと放たれた。螺旋を描いて空気を引き裂き、その弾頭は星の頭蓋へと跳んで──。

 

 

──死の予感が、星の脳裏を過った。

 

 

 

 

 

「星!!」

 

 

甲高い音が鳴り響いた。星条旗を模した円盤が星の視界を横切り、放たれた銃弾を弾く。

 

視線を動かす。星が入ってきた扉の前に、胸元に星印を携えたスーツの男性。壁や天井を跳ね返って手元に戻ってきた盾を掴み、左腕に装備した。

 

この合衆国において、自由・平等・博愛の三原則を体現する者。

 

 

「すまない、待たせた」

 

 

キャプテン・アメリカが、そこには立っていた。




【ラファエラ・シウバ(MCU)】
・考えるのは苦手。とりあえず殴れば直ると思ってる。

ラフ「私を覚えていない? しこたま殴れば思い出すよね」
千束「昭和のブラウン管テレビじゃないんだぞ」

【ベクター星(MCU)】
・自分の力がまだよく分かっていない。

星 「金属バットを振り回すとビリビリするんだけど」
千束「え、何それ、こわぁ」
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