AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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GotG編を書くか否か


CAPTAIN AMERICA TWS:crow of fluffy large sickle〔part5〕

──ニューヨーク、ヘルズ・キッチン。

 

 

宇宙からの侵略以降、スラムとなってしまった街の片隅にある小さな喫茶店。藤乃はいつものシスター服を身に付けて、店主に注文したドリンクを待っていた。ピンと姿勢をただして、机を挟んで対面に座っている黒人の男性──ニック・フューリーへと体を向けている。

 

 

「お久しぶりです、フューリー様。お体の具合はいかがでしょうか?」

 

「完治済みだ。Ms.ススーロに改めて感謝を伝えてくれ」

 

「ええ、勿論」

 

「──それでは、用件を聞こうか。世間話をするために秘匿回線へアクセスして私を呼び出した訳ではないだろう?」

 

 

店主が運んできたドリンクを口に含むと、爽やかなオレンジの香りが藤乃の鼻を抜けた。そしてひと息。フューリーへと視線を向ける。

 

 

「では端的に──なぜ、貴方はスクラルに助力を求めなかったのですか? 少なくとも、彼らの手を借りれば後手に回ることも無かったでしょう」

 

 

────。

藤乃の言葉に、フューリーはわずかに硬直した。予想外の方向から、彼女が知るはずのない単語が出てきたためだ。

 

 

「……なんのことだ」

 

「惚けずともいいですよ。『キャロル・ダンヴァース』『クリー』『スクラル』──かつて、貴方が関わった争いを私は知っていますから。胸ポケットに、彼女への通信を可能としているポケベルを常に忍ばせていることも」

 

「…………」

 

「隠し事の多い立場であることは存じていますが、それでは相手の心証が悪くなるだけです。このままでは、お仲間のスクラル人にも裏切られますよ──まだ、約束の惑星を見つけられていないのでしょう?」

 

 

フューリーの視線が鋭くなり、藤乃へと突き刺さる。巧妙に隠してきた重要機密をあっさりと看破してきたことで、警戒心が引き上げられた。衣服に隠した銃へと、無意識に手が伸びる。

 

 

「何故、それを知っている。どこで知った?」

 

「ウチの子達は天才なので。ネットワークに繋がっているのなら、例え国防省のサーバーだろうと、トニー・スタークの私用サーバーだろうと潜り込めます。S.H.I.E.L.D.のサーバーも例外ではありません」

 

「保管していたサーバーはネットワークから遮断していたはずだが」

 

「ええ、ですのでS.H.I.E.L.D.に潜入して直接クラッキングしました。変身能力者(シェイプシフター)はスクラル人だけではありませんから」

 

 

事実なのだろう。藤乃が話した内容は、フューリーが個人で管理している極小のサーバーにのみ保管してあるものだ。見つからないよう、フューリーのみが知るS.H.I.E.L.D.の最奥に隠してあり、アクセスには網膜、静脈、指紋、パスワード等による複数の鍵を開かなければ辿り着くことすらできない──のだが。

 

スタークやロマノフですら知らないそれを、彼女たちは看破した。誇るでもなく、驕るでもなく、ただの事実確認だと言わんばかりの態度は、まるで深い海底のように底が見えない。

 

──彼女達の存在を認識してから、フューリーはS.H.I.E.L.D.の諜報部に幾度となく経歴を調べさせた。生まれ、育ち、金の流れ、能力の詳細──あらゆる情報を求めたが、何度調べても浅上藤乃の情報は見つからず、唯一到達した情報は、出身が日本であることと、十数年前にイラクのバグダッドにおいて広大な土地を購入していたことのみ。それすら数年前に手放しており、土地を求めていた理由すら不明なままだ。

 

恐ろしいほど周到に痕跡が消され、手札が分からない存在が目の前にいる。その事実に、フューリーの背筋は氷を入れられたように冷たくなる。

 

 

「……何が目的だ。態々それを話したということは、相応の理由があるのだろう?」

 

「そうですね──地球を守護するため、クリーとスクラルの戦争を止めること。そのためにはまず、穏健派であるスクラル人を地球の外へと連れ出さなければなりません。彼らが地球に住んでいると、中立を保てませんから」

 

 

藤乃の目が、フューリーの後方で珈琲を飲む妙齢の男性へと向けられる。

 

 

「──でしょう? スクラルの将軍、タロス様?」

 

「──ああ、その通りだとも」

 

 

男性はカップを机に置くと、その身をスクラルのものへと切り替えながらフューリーの隣へと腰かける。頭部から縦に伸びた線が浮かぶ緑の肌に、大きく尖った耳。特徴的なスクラル人の姿だ。

 

 

「タロス!」

 

「もうバレてしまっている。店主と他の客は既に退去させた。……これ以上、隠し通せることじゃないぞフューリー」

 

「……くそ」

 

 

御手上げだ。少なくともこの場において、フューリーとタロスは藤乃の手の平の上だった。情報の収集において劣っている以上、下手な隠し事は逆効果となるだろう。

 

 

「続きを話しても?」

 

「……あぁ」

 

 

涼やかに話す藤乃の声に、フューリーは感情のままに返答した。

 

 

「では──私からの提案です」

 

 

藤乃は写真を取り出すと、二人に見えるよう机の上に提示する。写っているのは、表面が巨大な歯車に覆われた球体。背景に輝く無数の星々を見て、二人は思い至った。

 

 

「これは……惑星か?」

 

「ええ。私達(・・)が所有している人工惑星の一つ、通称『時計仕掛けの惑星(クロックワーク・プラネット)』と呼んでいます。一度死んだ星を、歯車で稼働させ続けた文明によって構築され、その文明が滅んだ後に私達が再び復活させました。中央にあるコントロールルームによって、住人が最も過ごしやすい環境を再現することが可能となっています」

 

 

ひと息に話す藤乃。言葉の単語一つ一つに確認したい事が山のように含まれていたが、最後の言葉にその疑問全てが消し飛ばされた。

 

 

「──これを、貴方達に差し上げましょう」

 

「──は……?」

 

「対価として、私達に協力をお願いします、ね?」

 

 

ニコリと微笑む藤乃の姿。フューリーとタロスには、それが悪魔のように見えた。

 

 

★☆★

 

 

──マンハッタン、教会。

 

 

「はい、約束のキーホルダーです」

 

「やっっっっった!」

 

 

全身を包帯でぐるぐる巻きにされながらも、藤乃に渡された黄金に輝くゴミ箱型のキーホルダーを片手に掲げ、重症の怪我を感じさせないテンションではしゃぐ星。窓から差す陽光が反射し、キラキラと瞳が輝く。

 

 

「大概のことは気にしないんだけどさ、ゴミ箱(それ)の何がそんなに星を引き付けるの? 考えても分からないんだけど」

 

「あ、ばか! 千束!」

 

 

なんとなく、ぽつりと思ったことを口にした千束に、怪我をした星の世話をしていた金髪の少女──蛍が慌てた様子で叫んだ。しかし、それよりも速く星はぐりん! と首を千束の方へと向け、捲し立てるように話し始める。蛍は遅かったと頭を抱えた。

 

 

「聞きたい? 聞きたいよね! それにはまず私がゴミ箱を好きになった経緯から話す必要があるんだけど、ある日道端に設置された人一人が入る大きさの円柱状の公衆ゴミ箱を見た時、道を歩く人から投げ入れられるゴミを健気に受け止める姿から、『投げ入れられる』ことにどこか高揚しているような感情がゴミ箱から伝わってきて、なんというかお淑やかで健気な様子と、ゴミを投げ入れられる存在であることに対する被虐的な様子が、清楚さとドMさの二面性を感じられて非常に興奮したんだよね。そこからずっと気になってたんだけど、その後に日本へ行く機会があってさ。本屋さんでゴミ箱の図鑑があったんだけど、あれを初めて見た時に私の世界が広がったんだ。自分がいかに狭い世界しか見ていなかったのかを思い知らされたよ。明確にゴミ箱を好きになったのはここからだったと思う。それから激安ショップに売っている小さくて可愛らしいゴミ箱に、高級ブランドが作っている木製のお洒落なゴミ箱や景観を邪魔しないように配慮されたゴミ箱とか、個性的なゴミ箱を見つける度に、世界が広がる感覚が体を駆け巡るようになって、それが癖になっちゃって。この間、ゴミ収集車も広義で見れば動くゴミ箱だと気が付いたときは震えたよね──っとごめん千束、ゴミ箱初心者に話しすぎた」

 

「お、おう」

 

「まぁ、うん。そんなところに引かれたんだ、私は」

 

 

普段のぼんやりとした雰囲気とは裏腹に、頬を染め、ゴミ箱の話とは思えないほどの熱量──いや、恋情のような感情が籠った眼差しに、千束は終始圧倒され、返事とも言えない声を返すことが精一杯だった。というかぶっちゃけドン引きした。

 

 

「だから言ったのに、もー」

 

「ごめんて」

 

 

蛍に睨まれながら、千束は謝ることしかできなかった。まさかこんなことになるとは思っていなかった上、千束自身も被害者ではあるのだが、この二人が同室を割り当てられていることを思い出したため、普段からこうなんだろうなぁと蛍に同情することとなった。

 

 

★☆★

 

 

──教会地下、医務室。

 

 

「ここじゃ、洗脳を解くのは無理かな。設備もだけど、専門知識を持つ人材が足りない。僕はあくまで外科専門だから、脳や心に関することは専門外だよ」

 

「やはりそうですか……」

 

 

ススーロと藤乃は、部屋の外からベッドで眠るエルネストを厳しい表情で見る。傷の治療をした後、暴れないようベルトで固定し、睡眠薬で眠らせていた。その側にはラファエラが座っており、沈鬱な表情でエルネストの手を握っている。

 

 

「仕方ありません、彼を『庭園』に送りましょう。そこなら、対処ができるはずです」

 

「うん、僕も同じ意見。あまり長く彼を拘束するわけにもいかないし、早い方がいいと思う」

 

「ススーロさん、早々に迎えを送ってほしいと連絡していただいてもよろしいですか?」

 

「分かった。ついでに準備もしておくから、ラファエラにちゃんと話しておいてね」

 

 

そう言い残し、ススーロは駆け足で上階へと上がっていく。藤乃はそれを見送ってから医務室の中へと入り、椅子に腰かけた。ラファエラはおずおずと藤乃に声をかける。

 

 

「藤乃、お義兄ちゃんは……」

 

「急ぎ、『庭園』に運ぶことになりました。ここの設備や人員では洗脳への手段がありませんから」

 

「そ、っか」

 

「……貴方も、一緒に行きますか?」

 

 

藤乃の言葉に、ラファエラはうつむかせていた顔を上げた。困ったような表情で、藤乃はそんなラファエラの頭を撫でる。サテン生地のようにさらりとした感触が指を通り、赤くなった目元と視線が合う。

 

 

「いいの……?」

 

「はい。ですが、しばらく教会へ戻ることはできませんよ。千束や星達とは、長期のお別れとなります。それでも宜しいですか?」

 

「それは……」

 

 

家族との別れ。ようやく義兄と会えたのに、今度は教会の皆と離れなければならないことに、ラファエラは言葉に詰まる。義兄と同じで、皆を大切な家族だと思っているラファエラにとって、非常に辛い選択だった。

 

 

「行ってきなよ」

 

 

医務室の入り口から声が聞こえた。ラファエラが振り返ると、星が立っている。その後ろには千束やアニスの姿も見えた。外で話を盗み聞きしていたようだ。

 

ラファエラは困惑したように皆へと視線を向ける。

 

 

「星? みんなも……」

 

(べっつ)に、二度と会えなくなる訳じゃないでしょ? なんなら、こっちから会いに行くからさ。今はお義兄さんの側にいてあげなって」

 

「そーそー。向こうにだって知り合いはいるんだし、安心していいと思うよ。寂しくはなるけどね」

 

「というわけだから。えーと、『ここは任せて先へ行け』?」

 

「それは違うやつ」

 

「っ……ふ、ふふ……」

 

 

千束、アニス、星からの言葉に、ラファエラは思わず口元を押さえて笑ってしまった。いつもの雰囲気と暖かい言葉に背中を押され、決して永久の別れになるわけではないと、安心感が心を満たす。

 

覚悟はできた。ラファエラは顔をあげると、藤乃達へと言葉を告げる。

 

 

「うん、ありがと、みんな。──藤乃、私、お義兄ちゃんと一緒に行くよ」

 

 

その瞳には、吹っ切れたような感情が浮かんでいた。

 

 

★☆★

 

 

「おじちゃん遊んでー!」

 

「空飛べるって藤乃言ってた! 本当ー?」

 

「わー! 力持ちだスゲー!」

 

「よーしよし、皆掴まったな? せーの、ぐるぐるぐるー!」

 

「きゃー! あはははは!!」

 

 

教会の庭で駆け回る子ども達。その中心ではサムが身体中に子ども達をぶら下げて、体を回転させていた。子ども達の笑い声が響き渡り、その周囲では他の子ども達が自分の番を今か今かと待ちわびていた。

 

そんな光景を眺めながら、藤乃とスティーブはベンチに座っていた。藤乃が淹れた紅茶を口に含むと、柔らかな香りが優しく鼻を抜けていく。

 

 

「今日はありがとうございます、子ども達と遊んでいただいて」

 

「気にしないでくれ、今回は助けてもらったからね。とはいえ、こんなことがお礼でいいのか?」

 

「ええ。子ども達の笑顔が見られるなら、それに勝るものはありません」

 

 

穏やかな表情を浮かべて子ども達を見守る藤乃の姿に、まるで本物の母親のような印象を受けたスティーブ。それは以前、彼女と話した時より、とても自然な姿に見えた。

 

そういえば、と藤乃はスティーブへと質問する。

 

 

「バーンズ様の行方は分かりましたか?」

 

「……既に国外へ出奔しているみたいでね、見つけるには時間がかかるそうだ」

 

 

──ヘリキャリアが墜落する直前、スティーブはバッキーを潰していた鉄骨を退かし、彼に手を差し伸べた。しかし動揺していたのか、バッキーはスティーブの手をはね除けると、割れた強化ガラスの隙間から河川へ飛び降り、そのまま行方を晦ました。

 

スティーブもそれを追おうとしたが、直後に到着したサムに止められて、そのままヘリキャリアの外へと脱出した。直ぐにフューリー達と合流し、事後処理を押し付けてから周囲を探したものの、結局彼は見つからず仕舞い。

 

最後に見つけた痕跡は港に残されていたが、それ以上は追うことができなかった。

 

 

「よろしければ、私も手伝いましょうか? スティーブ様の要望であれば、例え火の中水の中……」

 

「ありがとう。けれど、それには及ばない。彼は僕たちで見つけるさ」

 

「そうですか……。それでは、困ったことがあればいつでもお声がけください。今度は、私の手を貸しましょう」

 

「……ああ、その時はよろしく頼むよ」

 

「あ! 後はその、またお休みの日にお越し頂けると、子ども達も喜び、ます……」

 

 

おずおずと、恥ずかしそうな、申し訳なさそうな表情で話す藤乃。最初の得体の知れない雰囲気は既に無く、その姿は年相応に少女のような柔らかなものだった。それがなんだかおかしくて、スティーブは思わず笑ってしまう。

 

 

「勿論、またお邪魔させてもらうよ」

 

「……! ありがとうございます!」

 

 

握手を交わす二人。この時代を生きていく理由が増えたなぁと、スティーブは心の中で思いながら、走り回る子ども達の方へと視線を向ける。いつになく心が穏やかになっていることを自覚して、無意識に口元が緩んでいることにスティーブは気付かない。

 

 

「──今度は、BBQの用意でもしようか」

 

 

そんなスティーブの独り言は、誰にも届かずに空気へと溶けていった。

 

 

 

 

 

【La pluma will return】




【アニスフィア・ウィン・パレッティア(MCU)】
・休日にいきなりラファエラから呼び出されて焦った。
・ラファエラと合流直後、ヘリキャリアが墜落し始めた。落下する星が見えたため、一目散に救出した。その際、サムは役割を分担するべくスティーブの元へと向かうこととなる。

【ラファエラ・シウバ(MCU)】
・義兄との別れがトラウマとなっており、大切な人と離れることにわずかながら恐怖を感じている。けれど、あの時とは違って『会いに来てくれる』と信じられるため、離れることを決意した。

【蛍(MCU)】
・出典『原神』
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