AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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GUARDIANS OF THE GALAXY:Problem Solver MITSUHA〔part2〕

──暗殺者、ガモーラ。

 

フロストノヴァの故郷を滅ぼしたサノス。その娘。

 

サノスが数多の星々を襲撃し、その悉くを壊滅まで追い込んだ際、その隣に立つ姿を多くの人に目撃されており、同時に数えきれない程の人を手にかけている。サノスの命令には忠実で、一度たりとも失敗をしたことがないという。

 

フロストノヴァが滅んだ惑星(こきょう)から光波達に救われた後、多くの時間をサノス達を調べることに費やした。経歴、戦力、戦闘技能、性格を含め、片っ端から頭に叩き込んだ。だから──。

 

 

その姿を目にした時、全身の血液が沸騰するような感覚と共に、目の前が赤く染まる程に強い怒りが、フロストノヴァの胸中に湧き出した。

 

 

★☆★

 

 

「凍れ──!」

 

「ちょ──エレーナ何してんの!?」

 

 

激情に呑まれるままに、フロストノヴァは右足の踵を地面へと叩き付けた。瞬間、その身に宿る氷の(アーツ)が発動する。ユナの声は既に聞こえていない。足元から地面を這うように氷の道が走り、それはわずか数秒でガモーラの足元へと到達した。

 

 

「なッ、これは……!?」

 

 

それに触れた瞬間、ガモーラの下半身は氷像へと一変した。同時に、ガモーラを追いかけていたアライグマと木のような姿のヒューマノイド、そして先ほど光波の屋台でハンバーガーを購入したピーター・クィルを巻き込み、周囲を氷の壁で囲みながら凍り付く。

 

 

「ん、だァコレ!?」

 

「私はグルート」

 

「凍ってるのは分かってるんだよ木偶の坊!」

 

 

悪態をつきながら、足を引っ張り、銃火器のグリップで氷を砕こうとするも、砕けた先から氷が覆い包んでくるため焼け石に水。クィルに至っては、木のヒューマノイドに被せられたずだ袋ごと凍り付いており、身動きが取れなくなっていた。

 

ガモーラは氷の道を目でたどり、フロストノヴァの姿を見た瞬間に驚きで目を見開いた。対してフロストノヴァは、自身の顔についた傷跡を指差して、ガモーラを睨み付ける。

 

 

「──貴様、ガモーラだろう。サノスの娘。この傷を覚えているか? 覚えていないなら、思い出させてやるが」

 

「……あの大穴に落ちて生きていたのね」

 

「覚えているか、それは良かった。心置きなく……貴様を殺すことができる」

 

 

フロストノヴァは胸に手を当て、大きく息を吸った。そして、周囲に歌声が響き渡る。氷に驚いて逃げ惑っていた民間人が思わず足を止めてしまう程に美しいそれは、彼女のアーツを増幅させる。

 

空気が変わった。フロストノヴァの周囲に黒い氷が侵食し、今までとは比較にならない程に冷たい空気が駆け抜ける。暖かな気温が一変し、彼女の周辺だけに冬が到来したかのよう。その空気に触れただけで、霜焼けのような痛みが肌に走った。

 

それは、光波達も例外ではない。怒りのあまり、敵味方関係なくフロストノヴァのアーツが降りかかる。着ぐるみを纏っているユナに効果は無く、メイプルは盾を取り出して冷気を防ぐ。けれど唯一、冷気を防ぐ手立てを持っていなかった光波は、凍って砕け散る屋台の陰で、体を震わせて凍えながら叫ぶ。

 

 

「やーめーてー! 私の屋台がー! 屋台そのものがー!」

 

「逃げて光波ー! 私が盾で防いでいるウチにー!」

 

「アンタたち結構余裕あるな!? メイプル、メイプル! 一瞬冷気を止めるから、あれどうにかして!」

 

「分かった!」

 

「【ベアファイヤー】!」

 

 

くまを模したパペット型の手袋から、くまの形をした球状の炎が放たれた。フロストノヴァを中心に、囲うように地面へと着弾した瞬間、小規模な爆発が巻き起こる。その衝撃で冷気が霧散し、凍結現象が停止する。

 

 

「今!」

 

「了解! 【パラライズシャウト】!!」

 

「ガ──!?」

 

「ぐ──!?」

 

 

メイプルは腰に下げていた短刀の刀身を鞘から半分ほど抜いて、一気に鞘の中へと押し込む。鯉口が鳴り響き、騒動を起こしていたフロストノヴァを中心に、凍り漬けにされた4人の体へ電撃が走った。苦悶の声を漏らしながら、立っていることすらままならず、痺れた体を支えきれずに倒れ伏す。

 

 

「まずいよーまずいよー! ノバ軍が来ちゃう!」

 

「ユナ、エレーナを抱えて船に行ってて! 私とメイプルでなんとか──」

 

「……いや、もう遅いよ」

 

 

動けなくなったフロストノヴァを抱えたユナが、光波の言葉に返答する。周囲を見渡すと、星の形をした小型の戦闘機が5機でこちらを囲い、搭載された制圧用の銃口を向けていた。スピーカーを通して、搭乗しているチームリーダーらしき人物から命令が飛ぶ。

 

 

「全員動くな!」

 

「わー! 違うんですぅ!!」

 

 

 

★☆★

 

 

「──今回はキルン刑務所への投獄はしないが、自己防衛のためとはいえ、あれはやり過ぎだ。ザンダーの法に従って、罰金は払ってもらうぞ」

 

「はい、申し訳ありませんでした」

 

 

ノバ軍詰所前で長い説教を受けた光波。本来、街中での争いや周囲への被害を考えると投獄でもおかしくはないのだが、たまたま追われている身であるピーター・クィルがその渦中に居たことを理由に、『屋台を壊された。フロストノヴァは仲間を守るために力を振るった』と口八丁手八丁で出来事をでっち上げ、どうにか罰金刑まで減刑をすることができた。

 

資金の半分以上を持っていかれたが、悪名高いキルン刑務所に放り込まれるよりはマシだと罰金を支払った光波は、そのまま詰所から解放された後、宇宙船を停泊している港まで戻ってきた。空は既に日が落ち、輝く星々が夜のザンダーを明るく照らしている。

 

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえり光波! 大丈夫だった?」

 

「大丈夫大丈夫。まぁ罰金は支払ったけど、とりあえず許して貰えたよ」

 

「そっかぁ、よかったぁ」

 

 

出迎えてくれたメイプル。心配そうに眉を寄せていたが、光波の返答に胸を撫で下ろす。あれだけの騒ぎを起こしてしまっていたため、どんな罰が下るのかと戦々恐々としていたのだ。例え高い金額だとしても、手持ちのユニットで解決できるのであれば安いものだった。

 

 

「あ、ご飯できてるから食べよう? それともお風呂にする? 疲れてるだろうから、両方準備しておいたよ!」

 

「ごめんね、今日は私が当番だったのに」

 

「気にしないで、一番大変な対応をして貰ったんだから! エレーナはまだ起きないし、その間にゆっくり入ってきてよ」

 

「了解、じゃあ先にお風呂貰うね」

 

 

光波はメイプルから着替えを受け取ると、風呂場へと入室した。服を脱ぎ、溜め息を吐きながら、エレーナが起きたらどう話を切り出そうかと考えを巡らせるのだった。

 

 

★☆★

 

 

──夢を、見た。

 

フロストノヴァ──エレーナの故郷が、まだ滅びる前の夢。

 

 

かつて、年中雪が降り積もる星の片隅にある小さな国で、エレーナと呼ばれていたその少女は自警団として行動していた。

 

富裕層と貧困層によって分断されているその国では、軍や警察は汚職にまみれ、貧困層の子供たちが日々虐げられている。そんな中、彼女の義父が立ち上げた自警団が中心となって、その地を守護することとなった。

 

畏敬を込めて愛国者(パトリオット)と呼ばれる義父は、元は国の軍に勤めており、その中でも異彩を放っていたと、義父と一緒に自警団を立ち上げた男は酒の席で誇りのように語っていた。

 

そんな義父を尊敬していたし、軽口を叩く程度には気を許していたエレーナは、その背を追うように自警団に入団したのだった。

 

 

「そろそろ引退を考えてもいいんじゃないか?」

 

「ふ、引きずり下ろして、みろ」

 

 

富裕層との諍いは毎日のように起こるものの、義父とのそんな日常が、エレーナにとっては幸せだった。

 

 

★☆★

 

 

その日は、郊外の村に遠征をする日だった。

 

エレーナが持つスノーデビル小隊を待機させ、訓練を兼ねて新人を連れて歩く。国の中心部からは離れており、富裕層の手が届きにくい場所ではあるが、定期的に訪れて様子を見て回っていた。

 

年に数度あるかないかの、珍しい晴れた空。鳥のさえずり。葉の擦れる音。村人の笑い声。積もった雪の静寂と、木々のざわめきが心地よい。

 

ああ、幸せだ──と、エレーナは感じていた。富裕層との諍いはあるものの、最近はそれも少なくなってきている。この村のように穏やかな生活が、もう少しで手に届くのだ。空へと手を伸ばして、頬を緩めながら目を閉じて──。

 

──国の中心部から、大きな爆発音が響いた。

 

 

「なんッ──!?」

 

 

数秒後、とてつもない衝撃が村を襲った。巻き上げられた雪と、砕けた木々が降り注ぐ。とっさに氷の壁を生み出して防ぐも、間に合わない。雪崩のような雪と土砂の塊が、エレーナごと村を押し潰した。

 

 

──────

────

──

 

 

周囲を静寂が包み込む。自身に積もった雪や木材をどかし、這い出る。顔を上げ、村を見た。村が、あるはずの場所を見た。

 

けれど、見渡しても人影は見当たらない。それどころか、家も、家畜も、村を囲むように繁っていた木々でさえ無く、どこまで見ても雪、雪、雪。

 

 

「ぁ──」

 

 

言葉が出なかった。頭が真っ白になり、心臓が激しく鼓動している。混乱する中で、脳裏に浮かんだのは義父の姿。確か、今日は自警団を取りまとめていたはずだと、エレーナは中心部へと視線を動かした。

 

 

「────」

 

 

そこには、巨大な大穴が刻まれていた。

 

 

★☆★

 

 

エレーナは必死に走る。何もかもが消え去った土地を、ただ大穴に向かって走り続けた。こうなった原因はあの場所にあるはずだと、ただそれだけを信じて。

 

近付くにつれて、見えてきたのは黒い影。

 

──そこにあったのは死体の山だった。

 

富裕層の死体があった。貧困層の死体があった。自警団の死体があった。スノーデビル小隊の死体があった。ああ、そして──義父の死体があった。

 

倒れ行く死体の先頭で、義父の死体は立ったまま。その背後には衝撃が通った形跡は無く、多くの人が形を保ったまま血を流して倒れていた。

 

 

「だれ、か。誰か、いないか……! 私だ、エレーナだ! 目を開けてくれ……!」

 

 

倒れた人を抱え上げながら、必死に声をかけていく。衣服に血や泥が付着することを厭わず。一人に声をかけ、死んでいることを確認する。次の人に声をかけ、死んでいることを確認する。何度も、何度もそれを繰り返した。

 

力無く横たわる人の重さが、腕から離れない。血の臭いが、鼻の奥にこびりつく。どのような目的で彼らが殺されたのか、エレーナの頭の中は、困惑で埋め尽くされていた。

 

 

「……ご、ほ……っ……」

 

「ッ!? しっかりしろ!」

 

 

大穴のすぐ側で、咳き込む声が聞こえた。駆け寄ると、スノーデビル小隊の隊章を衣服に刻んでいる。顔を隠しているフードを取ると、よく知る仲間の顔。古くからの仲間であるトッドだった。

 

 

「おいトッド、私の声が聞こえるか!?」

 

「……あ、姐さん……どう、して……」

 

 

泣きそうな表情のエレーナに、トッドは口をつぐんだ。衣服はぼろきれのようにやつれ、頬は凍傷で赤く染まっていることから、あの爆発がエレーナの遠征先にまで影響があったことを悟ってしまった。傷だらけの肌から、ここまで全力で走ってきたことが分かる。

 

エレーナは自分自身の傷の痛みを忘れるほどの感情に苛まれながらも、トッドの傷を止血し始める。

 

 

「ああ、くそ! いったい何があったんだ……!?」

 

「……宙から……サノスと名乗る宇宙人が……来たんです。ぐっ……会話は、聞こえませんでしたが……パトリオット団長や、貴族連中と言葉を交わした直後に、はぁ……あの……空に浮かぶ戦艦から、砲撃されて……俺たちも、何が起こったのか分からなくて……ごふっ……あ゛ぁ……」

 

「もういい、話すなトッド! 今、止血を──」

 

 

衣服の端をちぎり、傷口へと当てる。が、トッドはそれを手で制した。傷の深さから、致命傷であることは自覚できている。もう数分もすれば、自分の命が尽きることを、トッド自身が理解していた。だから、今するべきことは、これまで世話になったエレーナ隊長を生かすことだと、最後の言葉を伝えるべく、血塗れの口を開いた。

 

 

「いいえ……げほっ……この傷は、もう、助かりません……。姐さん……逃げて、ください。やつらはまだ、この辺りに──」

 

「──そう、まだ気を抜くべきではなかったわね」

 

 

けれど、トッドの言葉は間に合わない。知らない声と共に、とんっ、とエレーナは背中を押された。体が宙へと投げ出され、大穴へと落下する。

 

見上げると、トッドの側に立つ緑色の肌をした女性──ガモーラ。この星の人間でないことは一目で分かった。自身の落下を食い止めるべく、壁面へと氷を伸ばして──トッドの喉元へナイフを振り下ろすガモーラに、凍り付いた。

 

 

「やめ──っ!?」

 

 

躊躇は無かった。吹き上がる血に、トッドが絶命した事実を無理矢理突き付けられた。頭が真っ白になり、視界が明滅する。動揺により、氷が上手く精製できない。

 

その隙をガモーラが見逃すはずもなく、使い捨てのナイフがエレーナへと投擲され、顔面に直撃する。その衝撃でエレーナ意識を失い、そのまま大穴の底へと落下していく。

 

目が覚めたのは、何もかもが終わってからだった。

 

 

★☆★

 

 

大穴から這い出た際に見た光景は、地獄のようだった。血溜まりと死体、崩れ去った家屋、畑は土で埋もれ、焼け焦げた匂いが周囲に充満している。

 

体の骨が折れ、顔から血を流しながら、エレーナは一人ずつ埋葬していく。食事も取らず、寝る間も惜しんで、生み出した氷で地面を掘り続ける。

 

かかった日数は実に3日。最後の一人を埋葬し終わった瞬間、糸が切れたように倒れた。雪がクッションとなり新たに怪我をすることはなかったが、空腹と寒さ、体の怪我と心の傷に苛まれた体は、既に限界を超えていた。

 

白い雪雲に覆われた空を見上げ、ゆっくりと目を閉じる。蓄積した疲労で怒りは薄れ、何もかもを失った心は迫る『死』を受け入れようとし始めていて。

 

どれくらいの時間が経ったのだろう。雪を踏み締める音が聞こえ、まぶた越しに影がエレーナを覆った。

 

 

「──っうわビックリした!? んん……? なに……人!?」

 

 

聞こえたのは、少女の声。力なく、うっすらと目を開くと、防寒具を身に纏った長い黒髪の少女がエレーナの顔を覗き込んでいた。

 

 

「ユナぁー! メイプルぅー! 雪の中に人が埋まってるー! 掘り起こすの手伝って!」

 

 

少女が遠くへと名前を呼び掛ける。駆け足で近付いてきたのは、熊の姿をした少女と、大きな盾を持つ少女。熊の少女はエレーナの首筋に触れると、黒髪の少女に指示を出す。

 

 

「え、うわ本当だ。……まだ生きてる。光波、船で毛布を準備してくれる? 後、昨日のスープも暖めておいて。メイプルと一緒に担いで行くから」

 

「了解! 一応お湯も沸かしておくよ」

 

「よろしく。メイプル、上の雪だけ退かせる?」

 

「お安いご用だよ! 『悪食』!」

 

 

黒髪の少女が走り辛そうに駆け出した。続いて、大きな盾がエレーナを覆っている雪に触れた瞬間、盾の中へと雪の塊が吸い込まれていく。原理は不明だが、いつの間にか体を覆っていた雪は消え去り、くたびれた衣服が露になった。

 

 

「よし、じゃあ担ぐよ。辛いかもしれないけど我慢してね」

 

「すぐ(あった)かい場所に着くからね! もう少しだけ踏ん張って!」

 

 

熊の少女の柔らかな感触に包まれ、盾の少女が風除けとなって歩いていく。励ますような優しい声に、泣きそうになる。

 

久しぶりに触れた人の暖かさに気が抜けたのか、揺れる背中に体を預けて、エレーナは眠るように意識を失い。

 

 

 

──フロストノヴァは夢から目を覚ました。




【パトリオット(MCU)】
・出典『明日方舟〈アークナイツ〉』
・本名はボジョカスティ。
・元軍人で、フロストノヴァの義父。
・一対一ではサノスを圧倒していたが、護るべき民を狙われ、宇宙船からの砲撃により死亡する。
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