AVENGERS:Eyes of Nunnish 作:とむじん
《ノーウェア宙域・ラヴェジャーズ宇宙艦内》
荒くれ者どもの巣窟。宇宙に名前を轟かす略奪者。金さえ手に入れられるのであれば、殺人・窃盗・密輸など、手段を問わずに活動する宇宙海賊。ラヴェジャーズとは、そのような犯罪集団だ。
そして目の前にいる青い肌をしたロングジャケットの男こそ、その一部隊を率いるケンタウリ人、ヨンドゥ・ウドンタ。クィルを部下に取り押さえさせ、陽気に口笛を吹くと、ジャケットに潜ませていた【ヤカの矢】がふわりと浮き上がり、先端がクィルの顔へ突き付けられる。
「よくもまぁ裏切ってくれたなクィル、俺に育てられた恩を忘れたか?」
「恩? 幼い俺を拐っておいて、随分な言い種だな」
「俺が雇い主に渡さなかったからお前の命があるんだろうが!」
口論を続けるクィルとヨンドゥ。先程言っていた考えというのはどこへやら。頭に血が上ってしまったクィルは、売り言葉に買い言葉で口論を続けている。
その後方には、両腕を拘束されて壁際に放置されたユナとメイプルの二人。あわあわと焦るメイプル。ひりつく空気の中、ユナは呆れた声をかける。
「……ねぇ、いつまで言い争ってるワケ?」
「黙ってな嬢ちゃん、おままごとじゃねぇんだ。ふざけるのはその格好だけにしておけ」
「──ピーター・クィルを
「……ほぅ、随分と強気な発言だな。そういう気の強い女は好きだぜ。状況が分かってねぇ馬鹿を見るのもな」
「状況? 木っ端な小悪党が群れてるだけでしょ。それに、こんなもので拘束したつもり?」
拘束具を破壊するユナ。ついでにメイプルの拘束具も握り潰すと、何事もなかったかのように立ち上がる。少なくともこの船に乗っている誰もに破壊が叶わないそれをいとも簡単に粉々に砕いたことで、船内に動揺が走る。
近くにいた髭の男が取り押さえようと腕を伸ばすが、ユナは裏拳一撃でノックアウトし、次いで怒りに任せて武器を向けてきた禿頭の男を殴り飛ばす。
並みの動きではない。小細工がある訳ではなく、ただひたすらに速く、鋭いユナの動きに、ヨンドゥは先程までの認識を改める。攻めあぐねている部下を横目にクィルを投げ捨てると、口笛と共に【ヤカの矢】を宙へと浮かべた。
口を尖らせ、音を奏でようとしたその時──。
「──双方、そこまで!!」
大きな音を立てて開かれた扉から、光波の大声が響いた。その背後にはフロストノヴァを背負ったグルートが守護霊のように距離を保って周囲を警戒している。
「なんて……いやぁ、言いたかった台詞が言えて嬉しいよ私は」
「光波!」
「やっほーメイプル、無事だった?」
「頭大丈夫なの!?」
「……え、助けに来たのに喧嘩売られてる? 買おうか?」
「えっ、あ! 違う違う! 額のガーゼのことだよ!」
「あぁ~、ごめんごめん大丈夫だよ。気にしないで」
額に貼り付けられたガーゼを軽く撫で、メイプルに軽く手を振る。吹き飛んだ金属扉にぶつかった怪我ではあるが、軽く血が出た程度で痛みも既にほとんど無くなっている。
それよりもと、光波は言い争いをしていたユナとヨンドゥの間に割り込むと、穏やかに呆れた声色で宥めるように手の平を向ける。ユナは目を丸くし、ヨンドゥは知らない少女の登場に困惑と怒りがないまぜになった表情を浮かべた。
「はーいはい、二人とも熱くなりすぎ。どうどう」
「あぁ? 誰だ嬢ちゃんたち。どっから入ってきた」
「え、正面からだけど。見張りも誰もいなかったし」
「……おいテメェら、まさか誰一人見張りを立てずに集まった訳じゃねぇよなぁ!」
ギロリと睨むヨンドゥと目付きに、周囲を取り囲む荒くれ者たちの後方で、びくりと肩を揺らした二人がそそくさと正面入口へと逃げていく。呆れで怒りが削がれたヨンドゥは、溜め息をついて光波へと問いかける。
「はぁ……で、嬢ちゃんは誰で、何の用だ?」
「山野光波。ユナとメイプル……そっちの熊と盾使いの仲間。まあ、それはいいとして、ラヴェジャーズのヨンドゥ・ウドンタさん。貴方の力を見込んで、ちょいと耳寄りな話をさせてもらえない?」
「話ぃ?」
「そうそう、具体的に言うと、オーブを手に入れられるいい話があるんだ。副賞としていくらか報償金も出ると思うよ。……報酬は、ピーター・クィルの命でどう?」
「はっ! 信用できるかよ」
「本当なんだけどなぁ、ねぇクィルさん?」
「──なに……?」
ヨンドゥの視線がクィルへと向けられる。投げ捨てられていたクィルは壁に背を預け、片膝を立てて座り込んでいた。ヨンドゥを見上げると、光波の言葉に同調する。
「あぁ、本当だ。さっきから全然話を聞いてくれないから、話す前に死んじまうかと思ったよ」
「ね? 別に損をする訳じゃないし、むしろ利益を得られるチャンスってワケ。それとも……こんな小娘と会話するのが怖い?」
──小馬鹿にするような目付き、煽るような声色。なるほど、光波と名乗った娘は俺らのような荒くれ者の扱い方に慣れている。現に、周囲にいるヤツらはこいつの言葉に怒りの表情へと切り替わっていた。馬鹿どもが、と内心で悪態を吐きながら、ヨンドゥは苛立ちを抑えて言葉を返す。
「──いいだろう。だが、こちらが納得しない内容だった場合、お前らの心臓に風穴が開くと思え」
★☆★
《宇宙船『フォーニア』艦内》
ユナとメイプルは光波に後を任せ、自分たちの宇宙船【フォーニア】へと戻ってきていた。フロストノヴァを背負うグルートを引き連れて、談話室へと入室する。
フロストノヴァをソファに寝かせるようグルートに指示しながら、ユナは医療セット、メイプルは飲料水を抱えて彼女たちを囲むように膝を立てて座る。
意識が朦朧としているのか、フロストノヴァの瞳は焦点が定まらず、額はじっとりと汗が浮かび、首に触れると非常に体温が高い。呼吸は荒く、右手は痛みに耐えるように鎖骨辺りを強く掴んでいる。ユナはその手を退かして襟を引っ張ると、そのに見えた黒い結晶に目を見開いた。
「これ、
「任せて!」
駆けていくメイプルを背に、ユナは医療セットから冷却ジェルを取り出すと首筋や脇の下、太股の間の太い血管に沿って貼り付けていく。幸い、今の症状は痛みによる体温の上昇のみ。体内のたんぱく質が壊れないように熱を下げることが優先だ。
その様子を後ろから見ていたグルート。何かの気配に気が付いたのか、後ろを向くとロケットが立っていた。小柄な体格と持ち前の素早さでいつの間にか乗り込んでいたようだ。
「フロストノヴァ、だったか? ……なるほど、ガモーラの話を聞いてまさかとは思ったが、マジで鉱石病だったとはな。感染症の不治の病だって聞いてるが……大丈夫なのか?」
「情報が古いよアライグマ」
「俺をアライグマと呼ぶんじゃねぇよ!」
「
「離せグルート!」
それとなく距離を取ったまま、訝しげに質問をするロケット。フロストノヴァに処置を施しながら返したユナの言葉に地雷があったのか、怒りのあまり飛びかかりそうになるのをグルートが慌てて取り押さえる。
「はぁ……不治の病だったのは昔の話で、これは既に治し得る病でしかない。それに、コレは空気感染しないし、源石の破片で体を引っ掻いたり、粉塵を吸い込んだりしなければ他人に感染することは皆無だよ」
「ユナー! 持ってきたよ!」
メイプルが倉庫から持ってきた箱を側に置く。その表面にはチェスの駒におけるルークと、三角形を合わせたようなロゴがプリントされている。蓋を開けると中には数本の注射器が並べられており、ユナはそのうち一本を取り出すと、フロストノヴァの腕に針を刺して薬品を注入する。
そして約一分が経過すると、効果が現れ始めたのか、フロストノヴァの呼吸が緩やかに落ち着き、握り締めていた手の力が抜けていく。ユナとメイプルは安堵の息を吐くと、側のブランケットを体にかけてあげた。
その姿を訝しげに見るロケットに、ユナは言葉を続ける。
「──医療艦ロドス・アイランド。名前くらい知ってるでしょ? そこの医師によって不治の病は既治の病になった。……ま、治療方法が特殊過ぎて、ロドス以外じゃまだまだ治療ができないんだけどね。こんなとこじゃなおさら」
「ケッ、まさか。馬鹿を言うな、ロドスなんてのは所詮噂話だろ? 少なくとも、ザンダーにある情報庫ですら眉唾物としか扱っていなかったぞ」
「それこそまさか。歴として存在しているし、なんなら今は地球に停泊してる」
でなければ鉱石病の鎮静剤なんて持っていないと、空になった箱をロケットの足元へと滑らせた。特有のロゴはザンダーの情報庫にも保管されていたが、そこでは個人が面白がって作成したものだろうと断定されていた。
だが、ユナの淡々とした言葉には裏付けるだけの自信が垣間見える。ロケットには、少なくとも彼女の言葉はただ事実を伝えているだけのように聞こえたため、言い返す事ができなかった。
ユナはフロストノヴァの体温を計る。まだ高いが、生死に関わるほどではなく、呼吸も安定してきている。峠は去ったようだが、まだ安心はできない。
「信じなくてもいいよ。とりあえず私たちはすぐにでも地球に行かないと。光波が何を話しているか分からないけど……。メイプル、戻る準備を……」
「──ま、ってくれ、ユナ」
弱々しく、フロストノヴァがユナの腕を掴む。震える腕で体を起こし、ソファの背もたれに体重を預けるが、力が入らずにふらりと揺れた体をメイプルが慌てて支える。
「ちょっと、まだ動いたらダメだって! 内臓に源石が到達している可能性があるんだから、すぐにでもロドスに向かわないと──」
「それでは、間に合わないんだ。ロナンの性格なら、奪ったオーブの力を試すはず」
「試すって、どこで……?」
「ここから最も近く、かつロナンが目の敵にしている星は一つしかない」
メイプルの疑問に、フロストノヴァは機器を操作する。モニターに映し出されたのは、少し前まで光波が商売を行うために滞在していた惑星。
「惑星ザンダー……!」
「ああ。そして、今この事実を知っているのは、私たちだけだ。ザンダーの住人は知らないだろうな」
フロストノヴァの言葉に、ユナとメイプルは言葉に詰まる。動けるのは私たちだけだと、それを否定する言葉を二人は持ち合わせていなかった。
「……通信で伝えたら?」
「私たちは一度罰金を支払っている身だ。……信用は、されないだろうな」
「で、でも! もしそれが本当なら何も知らない人達が犠牲になっちゃう。私は、それが分かっているのに何もしないのはイヤだよ……!」
「ちょっとメイプル!?」
メイプルが同調する。昔から感情に素直で優しく、思ったことをそのまま口にするタイプである彼女は、フロストノヴァの言葉に乗っかってしまう。慌ててユナが声を荒げるが、流れは止まらない。
「私もだ。もう、目の前で多くの人が死ぬところを見たくはない。今、動けるのは私たちだけだ。せめて、軍警察の体勢が整うまでの時間稼ぎを……」
「バカ! エレーナ、今自分の体がどんなか分かって──」
「ユナ」
穏やかでいて力強いフロストノヴァの声に、真っ直ぐに目を見てくる瞳の力強さに、ユナの言葉が遮られた。
「頼むよ、ユナ……私はもう、目の前の誰かを助けられないのは嫌なんだ……」
「──」
ユナは何も言えなかった。彼女の体の事を考えればダメだと言わなければいけないのに、フロストノヴァの強い感情が伝わってしまい、返す言葉が霧散する。
そんな中、大きな音を立てて部屋の扉が開かれた。
「勿論、そのつもりだよエレーナ! これからザンダーに行くぞ! 40秒で支度しな!」
「うわッ! ビックリした!」
室内へと飛び込んできたのは光波だ。驚いて肩を揺らすメイプルを横目に、つかつかとフロストノヴァの目の前へと歩みを進める。困惑する彼女達を尻目に、光波は得意気な表情を浮かべた。
「ついでにロケットとグルート、話があるってクィルさんから伝言。さっきの部屋に行ってあげて」
「あぁ? めんどくせェなったく。ほら行くぞグルート」
「私はグルート」
フォーニアから退出する二人を見届けてから、光波はユナ達に向き直り、フロストノヴァに便乗する形で話を続ける。
「──さて、続きだけど、既にクィルさんを売ってヨンドゥさんを説得したからね。彼らと共にザンダーに行って、ロナンから星を守るよ」
「ちょっと光波!?」
「ユナ、よく考えてみてよ。ロナンはクリー人だ。クリーは昔からスクラルと争っていて、それぞれの惑星の間には私たちの母星である地球がある。ロナンがオーブを手に入れたなら、間違いなく地球が狙われる。となれば、それはちょおっと看過できない話でしょ?」
「それは……」
その通りだった。宇宙に出てから知ったことではあるが、地球の外にはたくさんの人種が様々な惑星で生きており、とりわけ仲の悪いスクラル人とクリー人の確執は地球にも少なからず影響している。地球に大切な家族や仲間がいるユナ達にとって、この話は決して他人事ではない。
「つまりは、ここでロナンを止めないといけない──よね、ユナ?」
「……エレーナの命より、地球を選ぶってこと?」
「お、おいユナ……」
意地悪な質問であることは承知の上で、ユナは光波へ問いかける。フロストノヴァが諌めようとするが、それを制した光波が眉根をひそめ、呆れたような表情で答える。
「──はぁ? エレーナも地球も、両方選ぶに決まってるでしょ? ユナってそんなにお馬鹿だった? 脳みそまで熊になっちゃったの?」
「蹴り飛ばしてやろうかコイツ!」
「わー! ステイステイ! 光波も煽らないで!」
光波の軽口に、ユナの額に青筋が浮かんだ。大きな足音を立てて詰め寄るユナを、メイプルが慌てて止めに入る。その様子を他所に、光波はあっけらかんと言い放った。
「接敵してからささっとロナンを倒して、全速力で地球に向かえばそれで問題ないじゃん。ユナとメイプル、エレーナもいるんだし、それくらい出来ないわけないでしょ」
「は──」
なんの疑いもないその言葉に、ユナとフロストノヴァはぽかんと呆けた表情で固まった。フロストノヴァが苦戦した相手を『倒す』なんて、負けることなど考えていない、さも当たり前のように仲間の力を信じている光波に、2人の体から力が抜ける。
「ふふっ」
「な、なんで笑うのエレーナ」
「……さては光波お前、馬鹿だな?」
「あ、エレーナも気づいた? 光波って馬鹿なんだよね」
「お、喧嘩か? 喧嘩だな! 買ってやろうじゃないか!」
「どうどう光波! 話が進まないから!」
一転、笑いながら──嬉しそうに──馬鹿にしてくる2人に、光波は腕を捲りながら近付くも、メイプルに羽交い締めで引き止められる。すぐに落ち着いたものの、光波は納得のいかないような顔を浮かべている。
「大体さ、前衛アタッカーのユナと前衛タンクのメイプル、中衛から後衛で範囲攻撃から防御まで万能なエレーナがいてどうしてできないなんて思うの。楽勝でしょ、今回はラヴェジャーズで数のカバーもできるし」
「あれ、意外といけそう……?」
「それに、この智将ミツハ様がいるんだから何も問題ナッシング!」
「一気に不安になった」
「なんで!? いつも作戦を考えてるの私じゃん!」
「言い方、かなぁ」
微妙な味の果物を食べたような顔で答えたメイプルに、光波は叫ぶ。実績はあるのにこの言い様、再び頭に血が昇りそうになったが、話が進まないため頭を振って冷静さを取り戻した。
「ね、ユナ。これじゃダメ?」
ユナに向き合うと、光波は真っ直ぐに目を見て問いかけた。そして数秒の間の後、ユナは溜め息と共に折れた。両手を上げて降参する。
「────はぁ……。分かった、分かったよ、降参。でも、エレーナが作戦までに体調を戻すこと。戻らなかったら、絶対に置いていく。それが条件だよ、光波、エレーナ」
「ああ、肝に銘じよう」
「いよっし! そんじゃ──」
光波は拳を作って腕を伸ばす。ユナ、メイプルの順に同じく拳の先を突き合わせ、最後にフロストノヴァが拳を合わせた。全員の顔を見合せると、互いに頷く。
「『便利屋ミツハ』全員の了承をもって、ただいまよりザンダー防衛作戦を開始する! 頑張るぞー!」
「おー!」
メイプルの景気の良い返事に、全員の拳が上へと掲げられた。
目指すは──惑星ザンダー。
【ロドス・アイランド(MCU)】
・通称:医療艦ロドス・アイランド
・宇宙を巡り、不治と呼ばれたあらゆる病を治して回る組織。彼らの前には治らない病など存在しないと言われているが、表舞台に上がることが滅多にないため、半ば伝説のような扱いになっている。
・原作と違い、あらゆる惑星との交流によってついに鉱石病の治療法を確立した。どの惑星でも治療ができるよう、手順の簡素化を目指している。(そんな優しい世界があってもいい)
・現在は地球に停泊中。