AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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アイアンマンスーツはmark.5が一番好き


IRON MAN 3:girl who doesn't kill〔part1〕

──某所、トニー・スターク邸。

 

海に面したリゾート地もかくやと言わんばかりの景色と、最先端の技術を備えた屋敷の中。

その所有者であるトニー・スタークは、そんな景色には目もくれず、この数ヵ月間アイアンマンスーツを作り続けていた。その総数は40を越え、今や42機目に突入している。

 

恋人であるペッパー・ポッツに小言を言われ、サポートAIであるJ.A.R.V.I.S.にすら心配される始末。だが、スタークは手を止めなかった。いや──止められなかった。

 

先日の一件。空に開いた大穴から侵略してきた地球外生命体と、その奥に見えた膨大な宇宙艦隊。

あの時戦った敵は上澄みに過ぎず、今の自分にはどうにもできない脅威が彼方にはある。それを視てしまったスタークは、打ちのめされ、トラウマを負っていた。

 

脳に過るフラッシュバック。アイアンマンスーツが無ければ震えてしまう体。磨耗し続ける心。それでも、自分を、愛する人を護るために。動かす手を止めることはできなかった。

 

 

「J.A.R.V.I.S.、mark.42のテストを開始するぞ」

 

《トニー様、起床してから既に30時間が経過しています。一度睡眠を取るべきかと》

 

「……テストが終わってからだ」

 

《またペッパー様に叱られますよ》

 

「わかったわかった。ほら、さっさと準備を」

 

 

しろ、と。言葉を告げようとした時、屋敷にチャイムの音が鳴り響いた。誰かが正面玄関に来ているようで、J.A.R.V.I.S.はテストの準備を行いながら、カメラに映る人物を確認する。

 

 

《──トニー様、お客様がいらっしゃいました》

 

「……客? ペッパーか? ローディか? まさか、またマスコミの三流記者じゃないだろうな」

 

《いえ。先日、フューリー様より報告のあった『聖ホロウ教会』に所属している方です。名前はチサト・ニシキギ。孤児のため両親は不明ですが、風貌からアジア、名前から日本の血縁を持っていると推測されます》

 

「……なんだって?」

 

 

『聖ホロウ教会』──それは以前、ニック・フューリーから報告のあった、リヴァイアサンを捻り潰したシスター、浅上藤乃が所属している教会の名前だった。その脅威を目の前で見ていたスタークに緊張が走る。

 

J.A.R.V.I.S.の言葉に、スタークは宙に映されたモニターの映像に視線を向ける。そこには、正面玄関に設置されているカメラに手を振る一人の少女。

赤い制服、背中に鞄を背負い、ローファーを鳴らす。髪を赤いリボンで結った、至って普通の女の子、のように見える。

 

だが、彼女は先日、ロマノフが率いた戦闘員を複数名、無傷で制圧したと報告があった。その資料に添付されていた顔写真と風貌が一致する。

 

 

「何故、彼女がここに?」

 

《分かりません。ただ、先程からカメラに向かって何かを叫んでいるようです》

 

「声を拾え」

 

《かしこまりました》

 

 

スタークの命令に、J.A.R.V.I.S.はカメラ側のマイクと、部屋のスピーカーをリンクし、拾った声を流した。すると、聞き取りやすく調整された音声が、スタークの耳へと届く。

 

 

「たのもー! 御用改めである!」

 

「……」

 

 

聞こえた言葉は、どこかの映画に影響されたのか、やけに芝居がかった妙な言葉回しで。警戒していたスタークは呆気にとられて、一瞬、思考が真っ白になった。

 

 

★☆★

 

 

「いやぁ、まさか屋敷に入れて貰えるとは思いませんでした」

 

「僕も、君みたいな子を招くとは思わなかったよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「褒めてないぞ」

 

 

結局、mark.42のテストを中止し、少女──錦木を屋敷へと招き入れた。アームロボットのDUM-E(ダミー)が用意した茶と菓子を摘まみながら、大きく頭を下げる姿に頭が痛くなる。寝不足が原因か、それとも厄介事か……恐らく両方だろう。

 

 

「それで、君はここに何をしに来た?」

 

「もごもご」

 

「飲み込んでから話せ」

 

「んくっ──ふぅ。えっと、実は一つ、スタークさんに依頼したいことがありまして。まずはこれを」

 

 

背負っていた鞄からタブレット端末を取り出すと、画面をスタークへと向ける。内容は、『人工心臓』を用いた延命措置に関する実験の報告書、のように見える。

 

 

「……心臓をまるごと機械に置き換えることによる延命措置。その実験と……経過に関する報告?」

 

「で、その被験体が私なんですけど」

 

「この報告書は10年前のものだろう。君の年齢だと、少なくとも5歳の時に──」

 

「はい、合ってます合ってます。私は5歳の時に誘拐されて、被験体にされました。まぁ、もともと心臓が弱くて生きていけるかも怪しかったし、藤乃に助けて貰ったからそれは別にいいんですけど」

 

「…………」

 

 

幼い少女にとって過酷だろう体験を、トラウマすら感じさせずに話す錦木に、スタークは閉口する。

このような目に遭ってなお、屈託のない表情を浮かべることができる彼女は、どのような人生を送ってきたのだろうか。──どうやって、心の傷を払拭したのだろうか。

 

 

「それでですね。今の心臓を使い続けて12年経過して、ある問題に直面しまして」

 

「経年劣化による人工心臓の動作停止……。つまり、僕に君の心臓を作れと、そういうことか」

 

「さっすが、話が早い。いやぁ、最近は充電しても長続きしなくって、困ってたんですよ」

 

 

錦木はスタークに見せていたタブレット端末を閉じると、同じデータを入れたUSBを卓上に提示する。

しかし、分からないことがあった。確かにスタークは機械工学において比類なき才能を持つ。が、今はスターク・インダストリー社長を引退して、業務は全てポッツに任せている。なのに、わざわざこの屋敷を探してまでの手間をかけているのか。

 

 

「何故僕に依頼する? 確かに僕は機械工学の最前線に立ってはいるが、他にも作れるヤツはいるだろう」

 

「それです」

 

 

錦木の指先が、スタークの胸に埋め込まれたアーク・リアクターへと向けられていた。かつてのスターク・インダストリーが作ったそれを、さらに小型化した代物。トニー・スタークという技術者の究極。

 

 

「他の工学者の心臓では、寿命を迎えるまでに何度交換手術が必要になるのか分かりません。ましてや、歳を重ねる毎に体力は減っていき、負担も大きくなるでしょう。感染症にもかかりやすくなります」

 

 

錦木は再び鞄を漁ると、風呂敷に包まれた物体を取り出した。結び目を解くと、鈍色に輝く金属が現れる。

──ヴィブラニウム。地球上における最高の硬度と、受けた衝撃を完全に殺す特性を持つ稀少な金属だ。スタークですら手に入れるために大金を使い、ジュラルミンケース数個分しか手に入れられていないほど。

 

少女の表情は、初対面の時からは考えられないほどに真剣なものとなっており、スタークは気圧されそうになる。

 

 

「私は、死にたくない。人に貰った体を、人に貰った人生を失いたくない。だから──だから、人生50回分の心臓を動かせる発電能力を持つと言われる貴方のアーク・リアクターと、私が用意したこのヴィブラニウムを使って、絶対に壊れず、交換不要で、生涯使い続けられる心臓を作って欲しいんです」

 

 

お願いします──。少女は立ち上がると、膝をつき、頭を床に擦り付けるように大きく頭を下げた。

 

 

★☆★

 

 

それから30秒ほど、スタークは考えた。

両親を失い、心臓に爆弾を抱えて、それを機械で補っている境遇はスタークとそっくりだ。一つ違うところは、彼女はかつての出来事を受け入れており、スタークはトラウマから目をそらし、スーツに依存しているところ。

……彼女は強くて、僕は弱い。ならせめて、彼女の心臓(こころ)を作ることで、その強さの一端を得ることができないだろうか。そう、スタークは考えた。

 

 

「──いいだろう。引き受けようじゃないか」

 

 

スタークの言葉に、錦木は目を見開いて顔をあげる。正直なところ、断られるだろうと思っていたため、数秒間ぼんやりとスタークを見つめ、目を瞬かせる。

 

 

「ただし、今は無理だ。アイアンマンスーツmark.42のテスト中でね。作成はそれが終わってからだ。急ぎたいなら、完成するまで僕の助手としてテストを手伝ってくれ」

 

 

ニヒルに笑みを浮かべるスタークに、錦木は満面の笑顔で手の平をぎゅっと握り締め、嬉しそうに跳び跳ねた。

初対面でふざけたり、真剣な表情で真面目な話をしたと思えば笑顔で跳び跳ねたりと、ころころ表情が変わる娘だと、スタークは無意識に頬を緩める。

 

 

「それで構わないな?」

 

「──っ、ありがとうございます! スタークさん!」

 

 

今度は立ったまま、大きく頭を下げる錦木。スタークは立ち上がると、錦木の肩に手を置いた。

 

 

「トニーでいい」

 

「じゃ、私のことも千束と呼んで欲しいです!」

 

「ああ。よろしく頼むぞ、チサト」

 

 

握手を交わす二人。互いに得るものがあったことで、心に余裕ができたようだ。

ああでも、ペッパーが知ったらまた叱られそうだと、スタークは内心思った。

 

 

★☆★

 

 

それから、錦木──いや、千束を助手として、トニーはmark.42のテストを進めていた。とはいっても、機械工学に関する深い知識などは無いため、もっぱら屋敷に来るパパラッチの撃退や、客の応対などが主だ。

 

後は、トニーの食事の用意くらいだろうか。目を離せばすぐに簡易食料やビタミン剤で済まそうとするため、見かねた千束は台所を借り、可能な限り健康的な料理を作っている。

教会では交代制で食事当番をしていたため慣れたものであり、比較的舌の肥えたトニーも文句を言わない程度には美味しいものを作れていると自負していた。

 

 

「はーいDAM-E、机にこれ運んでどいて。U(ユー)はこっちのお皿をお願い。J.A.R.V.I.S.、トニーさんにご飯が出来たって伝えてくれる?」

 

《かしこまりました、チサト様》

 

 

駆動音を鳴らしながら台所に並べられた食事をリビングの机に運ぶアームロボット達。DAM-Eは時折水を溢したり、おっちょこちょいな面があるが、どこか小動物や子供のように思えて、可愛いなぁと千束は感じていた。

 

さて、と。粗方の準備が出来たため、食事の席につこうとエプロンを外した時、チャイムの音が響いた。千束はエプロンをくるくると纏めて台所に置くと、パタパタと玄関へと向かう。

 

 

《お待ちくださいチサト様。本日のお客様ははトニー様に出ていただくべきかと》

 

「いいよいいよ、いつも通り私が出るから」

 

《いえ、違います。恐らくチサト様が応対すると厄介なことに──あぁ、お待ちください》

 

「いらっしゃいませ! どちら様で──」

 

 

J.A.R.V.I.S.の言葉を気にも止めず、千束は玄関の扉を開いた。背の高い人影。見上げると、長い金髪の女性が千束を見て驚いたような顔で硬直し、顔を覆った。

 

ちなみに、今の千束の格好は、いつもの赤い学生服に、可愛らしいエプロンだ。傍目には、そういう関係に見えても仕方がないのかもしれない。

 

千束は首を傾げながら、記憶の中にある顔と照合する。

ペッパー・ポッツ。トニーの恋人兼元秘書で、今はスターク・インダストリーの社長の座を引き継いだ女性だ。

そんな彼女が見せる、顔を覆う指の間からの鋭い眼光に、思わず千束はすくんでしまう。

 

 

「……貴女は?」

 

「あっはい。ここ数日、住み込みでトニーさんのお手伝いをしてます、錦木千束です」

 

「そう……J.A.R.V.I.S.、トニーはどこ?」

 

《トニー様は現在、地下室で作業中です。ペッパー様、お待ちください。恐らく勘違いを──》

 

「あ、あのぉ~……」

 

「貴女はここで待ってなさい」

 

「あっはい」

 

 

美人が怒ると怖い。低い声で千束を制止したポッツは、厳しい表情で地下への階段を降りていった。それを見届けてから、千束は硬直していた体の力を抜いた。

 

 

「……とりあえず、ご飯食べよっか」

 

 

何故か千束の後ろで項垂れていたDAM-Eの頭を撫でてから、千束は椅子に座り、トーストしたパンを口にした。

地下から響いてくる声は、まぁ……とりあえずは気にしないことにしよう。

 

 

★☆★

 

 

「本当にごめんなさい!」

 

「いえいえ! 誤解が解けたのなら何よりです!」

 

 

千束が食事を終えて食器類を片付け終わった頃、トニーとポッツは地下室から出てきて、リビングに集まっていた。トニーとJ.A.R.V.I.S.から粗方の説明を受けたのか、先程までの剣呑な雰囲気はすっかり霧散しており、申し訳なさそうに頭を下げる。

とはいえ、大企業の社長に頭を下げられるといたたまれないため、千束はポッツの手を取ると、気にしていないことを伝えた。

 

 

「貴女がいいなら……」

 

「えぇ、まだ未成年とはいえ女である私が泊まることを恋人であるポッツさんに伝えてなかったトニーさんが一番悪いですから!」

 

「私のことはペッパーと呼んで、チサト。……でも、そうよね。普通、連絡くらいするわよね。J.A.R.V.I.S.経由でもいいわけだし」

 

「おいおい、僕が一番の悪者か?」

 

「とりあえず、元社長なら報・連・相くらい守って欲しいわ」

 

「……気を付ける。悪かったよペッパー」

 

 

元社長であることを出されると弱い。まぁ、社長であった頃も、一般的なビジネスルールなど守ったことは無いが。ただ、これ以上の口論は分が悪いと悟ったトニーは早々に謝ることにした。

 

 

「そうだ。せっかくなのでペッパーさんも食べていってください。今、トニーさんの分も温め直しますので」

 

「ええ、ありがとう」

 

「……それにしても、ペッパー。突然来るなんて思わなかった」

 

「あんな動画を公開されたら来るに決まってるでしょう!」

 

 

千束も見てよ、と。タブレット端末を渡された。動画サイトで、マンダリンを名乗る髭を蓄えた男性がテロの予告をしている動画だ。最近、ニュースで話題になっているため、千束も認識している。

 

次に、ロサンゼルス、チャイニーズ・シアター前での事件。突如爆発が起こり、周囲の民間人が数名犠牲になった。また、スターク・インダストリー警備部長のハロルド・ホーガンが意識不明の重体で病院に運び込まれた。これも、昨日のニュースで取り上げられていた。

 

最後に、トニー・スタークが上記の事件に対して動画サイトにマンダリンへの警告と、住所を公開して『いつでも受けてたつ』と宣戦布告を行っている動画。昨日の夜に公開されており、千束は全く知らなかった。その時には既に就寝しており、今日もまだニュースを見ていないのだ。

 

 

「初耳……というか、今ここ私も住んでるんですけど!?」

 

「ああ、巻き込むつもりはないぞ。落ち着くまで自宅待機だ。……ペッパー、君もだ。ほとぼりが冷めるまでは、一人にならず会社で過ごしてくれ。あそこならセキュリティは万全だろう。ハッピーの分は僕がやり返すさ」

 

「ちょっと! その言い種は無いんじゃないの? 大体、貴方はいつも一人で勝手に……!」

 

「君に危険な目にあって欲しくないんだ」

 

「そう思ってるのは貴方だけじゃないのよ!」

 

 

トニーに詰め寄るペッパー。だが、これは譲れないとばかりにトニーは首を横に振る。

互いに互いを大切に思っているからこそ起こってしまう諍い。ああ言えばこう言う。二人の口論は止まらない。

 

こうなってしまえば、もう千束にできることは無かった。とりあえず、一度帰宅するために荷物を纏めようと鞄に手を伸ばす。その時、ふと窓の外に視線が向いた。

 

 

「──は?」

 

 

窓の外、その奥。およそ200メートル弱ほど離れた場所に数機のヘリコプター。その下部には円筒状の、どう見てもミサイルのような弾頭が複数確認できる。

 

 

「二人とも、逃げ──っ!?」

 

 

一瞬、反応に遅れたのがいけなかった。まさか、こんなに早くテロ組織がこの屋敷に来て、ミサイルまで撃ってくるなど、想像だにしていなかった。

 

千束が駆け寄る前に、射出されたミサイルが屋敷の基礎に直撃する。

 

その衝撃で、三人の体が宙へと投げ出された。




【錦木千束(MCU)】
・心臓が弱く、生まれてから5歳まで入院生活。
・5歳の頃に誘拐され、人工心臓の被験体に。
 その際、両親を殺害される。
・7歳の頃、シスター浅上により救出される。
・以降、現在まで孤児院で過ごす。

・出典『リコリス・リコイル』
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