AVENGERS:Eyes of Nunnish 作:とむじん
幕間を挟んで、次はEoU編を書きます!
《ダーク・アスター、右舷後部》
ダーク・アスターの正面上部にある操縦室とおぼしき場所から爆炎が上り、砕けた金属片をばら撒きながら大きな船体がぐらりと揺れた。ロケットの細工も効いているようで、エンジンの勢いが緩み、船体が傾く。
「サアラさん、あれが合図です!」
『聞いていたな! スター・ブラスター連結、出力最大で海へと押し込め! 絶対に市内へ落とすな!』
サアラ隊長の指示で待機していたスター・ブラスターが連結し、巨大な網を形成する。ロナンに気付かれないよう、ダーク・アスターの右舷後部から出力最大で押し込む。
機体の質量差がありすぎて動きは遅いものの、着実に降下場所を地上から海上へと動かしていく。
「クラグリン、海上に到着したらエンジンを破壊して!」
『おい、船長は本当に大丈夫なんだろうな!』
「そのためにメイプルをペアにしたでしょ!」
『ったく──全軍対空用意! 海上に到着したら俺の合図でぶっ壊せ!』
ダーク・アスター直下で待機していたラヴェジャーズの宇宙船に搭載されている砲門が空へと向けられる。何一つ同じ装備が見当たらないのは、荒くれ者らしいちぐはぐさを感じさせる。
光波はダーク・アスターを見上げながら、不安そうな表情でいた。作戦通り、ユナ達はサカアラン兵がネクロクラフトで出動できないよう、内部で暴れたのだろう。ネクロクラフトが蝿のように飛び回ることを防ぐことができたのは大きい。
しかし、ハドロン・エンフォーサーによる爆発の後、約束した時間が経過しても内部から連絡が来る気配はなく、こちらから通信を試みようとするも、砂嵐のような音だけが聞こえるばかり。
何か予想外のトラブルが起こったのだろうが、地上における指示役を預かっている今の光波にできることは無い。
「みんな……」
光波にできることは、ただ祈ることだけだった。
★☆★
《ダーク・アスター、操縦室》
爆発の衝撃で外部への穴が開いたのか、周囲に浮遊していた粉塵が徐々に晴れていく。見えてきたのは、衝撃で抉れた地面と、ひび割れた壁面。
そして、無傷でたたずむロナンの姿。
「っ、嘘だろ……?」
クィルから驚愕の声が漏れた。ロケットがガラクタから作ったとはいえ、威力は本物だった。クリー人だろうと、本来であれば肉片すら残らないはずだ。
「ふん、不意を突いてこの程度か。妙案でも抱えて来たのかと思えば、実力差を理解していないだけとはな」
「くそッ!」
「ロナン──ッ!!」
余裕綽々と体に付着した粉塵を払うロナンに、ドラックスは雄叫びを上げながら突撃する。援護をするようにクィルはブラスターでロナンを撃つが、目眩ましにもならない。
ドラックスは短剣を振りかざし、ロナンの首を狙う。しかし届かない。ロナンはわずかに体を反らして短剣を避けると、ドラックスの首を掴み、その体を勢いよく地面へと叩き付けた。
「
フロストノヴァの歌声が室内に響き渡る。彼女のアーツを増幅させるそれは、壁や天井に反響し、空間をびりびりと振動させる。手の平を掲げると、ロナンを囲むように氷の槍が宙に生成された。
手を振り下ろす。連動するように射出された氷は、ミサイルのごとき速さでロナンへと迫る。奇しくも、その構図はノーウェアでの攻防を想起させた。
「あの時の焼き直しが、私に通用する訳が無いだろう!」
コスミ・ロッドを振るう。ただそれだけで、直撃するはずの氷の槍は砕け散った。先端に埋め込まれたオーブにより、ロナンの体はパワーに満ち溢れている。
今であれば、あのサノスにさえ勝てる。そう考えて──高揚感により、目の前の敵から意識を逸らした。
「今だッ!」
致命的な隙。オーブを手に入れる前であれば晒すことのなかったであろう隙を突き、フロストノヴァは砕けた氷の破片を寄せ集め、ロナンの足元から急速に氷を生成、首から下を完全に氷の塊で覆い尽くす。
完全に虚を突かれたロナンは、意識の切り替えによって更に隙を見せた。それを見逃すフロストノヴァではない。大きな声で、追い付いて来ていたメンバーへと合図を出す。
拳に力を込めて殴りかかるユナ。
押し潰そうと盾を振り下ろすメイプル。
ブラスターを連射するクィル。
ゴッドスレイヤーを振るうガモーラ。
【ヤカの矢】を飛ばすヨンドゥ。
手を伸ばして更に拘束しようとするグルート。
身の丈ほどのレーザーガンから特殊な弾丸を放つロケット。
ロナンが動かないよう、氷ごと抑えるドラックス。
どれか一つ取っても、彼を殺し得る威力を誇る。そんな攻撃の数々に──目を見開きながら、ロナンは吠えた。
「舐め、るなァ──!!」
コスミ・ロッドの石突きで地面を叩く。ただそれだけで、ロナンを中心に紫色の衝撃が走り、その全てが吹き飛ばされた。もろともに背後の壁へと叩き付けられる。
わずかな沈黙。ロナンは体に纏わりついていた氷を砕く。クィル達が考えた策も、フロストノヴァによる拘束も、総攻撃すら届かなかった。
霞む目を向けた先には、怒りの形相で声を荒げるロナン。倒れたクィル達を睨みながら、ゆっくりと歩を進める姿に、誰かが小さな声で悪態を吐いた。
「くそったれ……!」
「雑魚どもが! 貴様らごときが、オーブを手に入れたこのロナン・ジ・アキューザーに敵うとでも──」
──思っているのか、と言いかけた時。ダーク・アスターが大きく揺らいだ。艦内から炎が立ち上ぼり、壁や天井が大きくひび割れて崩れ始める。
ダーク・アスターはクリーが誇る巨大戦艦の一つである。本来ならば砲撃の一つや二つを受けたところで傷一つ負うことはないだろう。事実、これまでに一度だって破損したことはなく、ロナンにとってはそれが一つの誇りだった。
けれど、オーブの力は強大。クィルの【ミラノ号】により大穴が開いた上、各階層で暴れまわったユナやメイプル達……そして力に酔ったロナンが無作法に力を振り撒いた結果、内部からの衝撃に耐えきれなくなったのだ。
ロナンは舌を鳴らしながら、崩落した天井を避けるようにその場を移動しようとクィル達から視線を逸らした。
「──ッ!?」
その一瞬を、フロストノヴァは見逃さなかった。
地面を這わせていた冷気によって、ロナンの肉体を直接凍らせる。さらに、地面の氷との接地面を無理矢理結合させることで、足を完全に固定した。
目を見開き、驚きの表情でフロストノヴァへと視線を戻す。無理をすれば足ごと粉砕され、かといってゆっくりと溶かす時間は無い。その迷いは致命的で、落下する天井はすぐそこだ。フロストノヴァは笑みを浮かべ、誰に影響を受けたのか、親指を地面へと向けた。
「いい加減、潰れろ」
「貴様──」
ロナンの怒りの言葉は続かなかった。
崩落した天井がロナンを押し潰し、それが止めとなってダーク・アスターの動力は完全に停止。巨大な機体は、重力に逆らえずに真下へと落下し始めた。
★☆★
《ダーク・アスター、直下》
紫色の光と共に大きな爆発が起こった。直後、ダーク・アスターの船体に亀裂が入り、力なく墜落し始める。スター・ブラスターでの移動により機体はもう少しで海上、というところだったが、このままでは崩壊に巻き込まれてしまう。
『墜落するぞ! 全隊、早急に離脱しろ! 巻き込まれるな!』
『野郎ども! 退避、退避──!』
サアル隊長とクラグリンからの通信が飛ぶ。スター・ブラスターの連結が解除され、各機体が後方へと下がっていく。ラヴェジャーズは地上付近からの射撃を止め、落下予測地点である砂浜から早急に離れる。
光波はその光景を少し離れた場所から見て──崩壊した機体の破片が掠り、逃げ遅れているスター・ブラスターが視界に入った。エンジンブースターが故障し、煙を上げている。
このままではダーク・アスターに押し潰されてしまう。光波は自らの機体を旋回させ、スター・ブラスターの元へ到着すると、危険域から押し出した。
「よし、他に誰もいないね? 私もさっさと逃げ──」
『ジジッ……つは、ジッ…………ろ、避けろ──!!』
ノイズ混じりの通信が、運転席に響き渡る。直後に、彼女の機体を巨大な陰が覆った。真上には真っ黒な残骸の山。空を塗り潰す質量が迫ってくる。
光波の行動は速かった。レバーを引き、エンジンをフル稼働させ、アクセルを全開に踏み込んだ。ともすれば、プロのレーサーにも匹敵するであろう無駄の無い動き。
けれど、間に合わない。かろうじて直撃は免れたものの、落下の衝撃に巻き込まれてしまった。風圧によって機体はバランスを崩し、光波を振り回しながら地面へと激突。翼は無惨に折れ、機体からは炎が立ち上った。
★☆★
《ダーク・アスター、墜落跡》
大地を揺らし、海を割りながら、砂浜に乗り上げる形でダーク・アスターは地上に墜落した。数百メートルほど引きずったことで、地面は大きく抉れている。周囲には残骸が散らばり、それに紛れてクィル達が倒れ伏していた。
墜落の直前、グルートが手足を伸ばして倒れていたメンバーを枝で包み込み、フロストノヴァが氷で覆ったこと。更にメイプルが真正面に立ち、地面との激突による衝撃のほとんどを受けたことで、かろうじて人の形を保っている状態だ。
けれど、流石のメイプルでも巨大戦艦の質量を全て受けきることは不可能だった。耐久力に優れていても、膂力が足りていなかったのだ。受け流すこともできず、足場の崩落に巻き込まれてそのまま海へと落下した。
「ふ、ははははは! 策を巡らせてもこの程度! この私に傷一つ負わせられないとはな!」
一方、ロナンはダーク・アスターの残骸をかき分けて、その甲板へと姿を現した。オーブから発生させたバリアによって身を守ったのだろう。あの質量に押し潰されておきながら、その体には傷一つ見受けられない。
対してこちら側は死屍累々。傷の無いところなど無く、血に塗れ、骨には皹が入り、一部は折れている。クィル達は体を引きずりながら甲板へと登るが、その動きは遅い。
ロナンは尊大な態度で周囲を見下ろす。ノバ軍やラヴェジャーズが武器を携えて囲み、更に奥では一般の民衆が不安そうに眺めていた。
ロナンは勝利を確信した。彼らに宣言するように、オーブを掲げて声を上げる。オーブの力が荒れ狂い、紫色の光に満ちていく。
「ひれ伏せ、恐怖しろ! 私はロナン・ジ・アキューザー! 貴様らを支配する者だ!」
「おいブルーマン! まだ勝負は終わってないぞ!」
「ピーター・クィル、貴様のような半端者風情、が──……何を、している?」
「何って、ダンス勝負だけど?」
目の前の光景に、ロナンは困惑した。いや、彼の姿を見ていた周囲の人間達は全員困惑していた。ここら一帯を吹き飛ばさんとするオーブによる力の奔流の中、クィルは腕を振り腰を振り、艶かしいダンスを踊っていたのだから。
「Oh,Yeah~! はい次ガモーラ!」
ガモーラは全力で首を横に振った。経験が無いため踊ることができないという理由もあるが、この状況で踊るような頭の可笑しい行動を、プライドが全力で拒否していた。
「いいねぇ、じゃあ次は嬢ちゃんだ!」
「え!?」
ガモーラのそれをダンスと見なしたクィルが、次に指名したのは光波だった。あまりにも状況と解離した行動に、頭の中が真っ白になる。
どうする、どうする、どうする──!?
★☆★
──突如、脳内に声が響く。優しくも頼もしい、今は亡きお兄ちゃんの声。
『──波、光波。聞こえるだろうか。お兄ちゃんは今、天国から話しかけてるのだが』
『心の中のお兄ちゃん!』
『状況に混乱しているんだろう? なら逆に考えるんだ。一緒に踊ってしまってもいいやと考えるんだ』
『い、いいの? でも、失敗したら……』
『失敗ばかり考えるな! 答えが見つからないのなら、流れに乗って機を待つんだ、光波』
『──ッ、分かった!』
『頑張れ光波、お前ならやれる!』
──ここまで約0.5秒。お兄ちゃんの声が遠くへ消えていく。
光波は覚悟を決めると、腕を組み、つま先立ちでしゃがみ込む。体幹をそのままに、脚を交互に前へ伸ばし始めた。
ウクライナの伝統的な舞踊、ホパーク。『コサックダンス』とも呼ばれ、下半身を酷使する地獄のようなダンスであるそれを、光波は涼しい顔で踊り出した。
「いいね最っ高だぜ! 次はクマの嬢ちゃんだ!」
続いて指名されたユナは、溜め息を吐きながら両手を甲板につき、両足を開脚した状態で回り始めた。
アメリカで発展したストリートダンスの一つである『ブレイクダンス』の技『トーマスフレアー』。両腕を酷使するそれは体操競技でも使用され、素人でも分かる凄さを魅せることができる技である。
その流れに乗るように、メイプルも踊り出す。彼女が選んだのはポップダンス。『ロボットダンス』とも呼ばれ、体の各部位が別々にカクカクと動き、奇妙な魅力と中毒性により人を魅了する不思議な踊りである。
ロナンを取り囲みながら、踊り続ける四人の姿。周囲の人の困惑は更に深まっていく。なんだこれ。
あまりにもあんまりな光景。困惑により絶句していたロナンは、戸惑いながらもようやく疑問を口にする。
「……一体、何なんだこれは」
「さ、次はお前の番だぜロナン。クリー人はどんなダンスを踊るんだ? 俺達と一緒に踊ろうぜ!」
「ふ──ざけるな! 私は! 何を、しているのかと、聞いているんだ!!」
「何って──時間稼ぎに決まってるだろ?」
「──は?」
クィルの言葉に、ロナンの脳は追い付いて行けなかった。戦闘での高揚、クィル達の行動に対する困惑……そして再びスイッチを戦闘に戻されたことにより、空白の間が生まれる。
ドラックスがハドロン・エンフォーサーから砲弾を発射する。後方から飛来するそれに、ロナンは気が付くことが出来ない。砲弾は吸い込まれるようにコスミ・ロッドの先端に直撃し、砕け散った。
★☆★
──ロナンの敗因は、傲慢にも自身の力を誇示しようとしたことだ。有無を言わせず殺しておけば、大事になることは無かった。サノスならば、全てが終わるまで油断をすることはなかっただろう。
破壊されたコスミ・ロッドの先端から、オーブが宙に投げ出された。それに手を伸ばしたのは、クィルとロナン。あの状況から反射的に体を動かすなど驚嘆に値する。
が、ロナンの手がオーブを掴むことは無かった。視界の外から飛来したヨンドゥの【ヤカの矢】が、ロナンの手を貫いたためだ。
オーブを掴み取ったクィル。刹那、オーブの力が暴走を始めた。ロナンが持っていた時とは比べ物にならない力の奔流が、クィルを中心に渦巻き始める。
「ぐ、あああ──!?」
「馬鹿めが! テラ人ごときが、オーブを手にして無事でいられる訳がないだろう!」
掴んだ手から流れ込む力に耐えきれず、クィルの体がひび割れ始めた。このままではクィルが死んでしまう。メイプルは盾を構え、【暴食】を使用することで力を吸い取ろうとするも、一瞬で許容量を超えてしまい、使い物にならなくなる。
その状況に、他に手はないのかと光波は考えを巡らせて──飛び出したガモーラ達に目を見開いた。
ガモーラ、ドラックス、ロケット、グルートの四人が、クィルの肩を掴む。そんなことをすれば、もろともに塵と化すだろう。その、はずなのだが。
「ば、馬鹿な──」
力が、安定した。崩壊が止まり、オーブの力が中心へと集中する。驚愕に目を剥くロナン。あり得ない──。だが、目の前の光景は紛れもない現実だった。
オーブの矛先がロナンへと向けられる。抗おうとするも、もう遅い。力の奔流が流れ込み、ロナンの体は爆散する。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーによる勝利が、ザンダーに刻まれた。
★☆★
《惑星ザンダー、後日談》
ラヴェジャーズとのひと悶着はあったものの、オーブはザンダーによって厳重に保管されることになった。今回の損害とオーブの代金に充当する以上の報酬を提示されたことで、ヨンドゥもそれ以上文句を言うことは無く、早々にその場を立ち去っていった。やたらしつこくメイプルを勧誘していたのが気になったが……。
光波達も支払った罰金を返却の上、今回の報償金まで頂いたことで、収支はプラスとなった。光波とフロストノヴァは怪我を負ったものの、大事に至る程ではない。
ノバ軍との情報交換を終えた光波達は、フロストノヴァの鉱石病治療のため、地球へ帰還する準備を進めていた。一度は激痛で意識を失ったのだ。鉱石病の侵食が再発する可能性は高いため、全員の説得によりフロストノヴァは何もせず休むよう言い付けられていた。
「フロストノヴァはいるかしら」
フロストノヴァがぼんやりと椅子に座っていると、ノックと共に【フォーニア】の外から声が聞こえた。視線を向けてみれば、ガモーラが一人で立っている。
「……何をしに来た」
「謝りに来たの、貴方の仲間を殺したことを」
「不要だ。……今更謝られたところで、アイツらは帰っては来ない」
「自分勝手なことを言っているのは承知の上よ。でも、私はノーウェアで貴方に助けられたの。……助けられておいて何もしないのは、私の主義に反するわ」
「それこそ、私には関係のないことだろう」
ああ言えばこう言う。ガモーラの言葉に全く聞く耳を持たないフロストノヴァ。けれど、ガモーラも生半可な覚悟でこの場に来た訳ではない。例え殺されたとしても構わないと、そういう覚悟を持って立っている。
長いにらみ合いの末、折れたのはフロストノヴァだった。溜め息を吐き、立ち上がるとガモーラへゆっくり近付いていく。
「歯を食いしばれ」
忠告と共に、ガモーラの頬を力強く殴った。歯が頬の裏に当たり、切れた場所から口内に血の味が広がる。フロストノヴァはふん、と鼻を鳴らして、再び椅子へと戻っていく。
「これで手打ちだ。今回、ザンダーを守るために行動した事実と、今後の行動次第で許してやる。……少なくとも、貴様が悪意を持って仲間を殺した訳ではないということは理解したからな」
「……感謝するわ」
「さっさと帰れ。貴様の顔を見るのは、まだ不快なんだ」
椅子に座り、頬杖を突く。手の平を下に向けて『あっちへいけ』とジェスチャーで伝えると、ガモーラは一度頭を下げてから、踵を返した。
「話は終わった?」
ひょっこりと、奥の通路から光波が顔を出す。
「光波、聞いていたのか」
「いやぁ、準備ができたから声をかけに来たんだけど、そしたらシリアスな空気がもももももっとしてて」
「ふっ、なんだそれは」
両手を使って妙な表現をする光波に、思わずフロストノヴァは破顔した。ピリピリとした空気が弛緩し、不快感が払拭される。優しい眼差しで光波の後ろ姿を見つめ、思う。
──私はずっと、仲間を救えなかったことを後悔していた。悪夢だって見るし、あの頃を思い出すのは辛い。
──けれど、復讐に囚われて、自分を大切にしてくれる人を鑑みないなんて、それこそ
──私には、こんなにも頼もしい仲間がいるというのにな。
光波に連れられ、運転席へとやってきた。操縦席に座るユナと、助手席に座るメイプル。それぞれの後ろに光波とフロストノヴァが座り、飛行開始の衝撃に備えてシートベルトを締める。
「じゃ、行こうかエレーナ」
「そうだな」
「あれ? いつもみたいに注意しないの?」
「ああ──もう、大丈夫だから」
「そっか」
なんでもないことのように返答したフロストノヴァ──いや、エレーナに光波は微笑む。きっと自分の中で区切りがついたのだろうと思ったけれど、それを口にはしなかった。
──皆、すまない。悪いな、親父。
──でもきっと皆なら、前を向けと言うだろう?。
──皆のことは、決して忘れない。
──大切なモノを見失わないように、前を向いて生きていくさ。
「それじゃ、地球へ向かってしゅっぱぁーつ!」
メイプルの声が運転席に響いた。ユナがアクセルを踏んだ。機体が浮かび、あっという間に景色が宇宙へと変わっていく。
──誰かが、エレーナの背中を押した気がした。
振り向いた先に見えたのは、青く澄んだ惑星。
微笑むエレーナを乗せて、【フォーニア】は地球へと向かうのだった。
【光波のお兄ちゃん(MCU)】
・数年前、光波の両親と共にこの世を去った人物。
・光波が困っている時は、いつも助けてくれた。
・今回登場したのは、光波の心の中に生きる残滓。光波が困った時、『お兄ちゃんならこうするだろう』という無意識の信頼が生み出した想像上のもの。
【エレーナ《フロストノヴァ》(MCU)】
・『フロストノヴァ』と呼ばれることに拘っていたのは、過去に執着をしていたから。そう自分が呼ばれ続けている限り、仲間達がまだ生きているのではないかと思えた。
・今回の一件で、フォーニアの同乗者ではなく、光波達の仲間になれたと思えたため、名前呼びを許した。