AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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いろいろ言われているけど「マーベルズ」好きだよ。


Eyes of Nunnish:interlude〔3〕

時計仕掛けの惑星(クロックワーク・プラネット) in スクラル◆

 

 

浅上藤乃がタロスに提案した惑星への移住計画については、意外にもあっさりとスクラル人に受け入れられた。というよりも、受け入れざるをえなかった。

 

既に故郷である惑星スクラロスは滅び、散り散りとなった同胞達は様々な惑星に逃げ延びたものの、どの惑星においても難民という扱いで、本質的に受け入れては貰えないことがほとんど。結局、新しい故郷にはなり得なかったためだ。

 

そんな時に降って湧いた『惑星の提供』といううますぎる(・・・・・)話。当然、誰もが警戒するが、将軍タロスを筆頭にドロージ皇帝が受け入れたことをを切っ掛けとして、その惑星へと移住をすることが決定したのだった。

 

 

★☆★

 

 

《スクラル人居住地・開拓現場》

 

 

「オーライ、オーライ、ストップ!」

 

「おーい! この資材はどこに持っていけばいい?」

 

「あっちの倉庫! ベトが担当してるから詳しくはそっちで聞いて!」

 

「ちくわ大明神」

 

「そろそろ飯の時間だから、順番に休憩に入れよー!」

 

「やったぁ! お先にいただくわね!」

 

「俺も俺も。腹が減ってしかたがねぇよ」

 

 

喧騒の中、数多のスクラル人が新たな居住地で建設作業を行っていた。惑星と一緒に提供された簡易宿舎で寝泊まりしながら家を作るという厳しい環境で、難民として扱われていた時よりも柔らかな笑顔を浮かべながら作業を続けていく。

 

そんな彼らを眺めながら、スクラル軍として現場監督を勤めているグラヴィクは僅かに口角を上げる。

 

 

「グラヴィク……グラヴィク! 手が止まってるわよ。ほら、こっちの資材を確認して。もうすぐ次の避難民が到着するんだから」

 

「あ、あぁ……悪い、ぼぅっとしていた」

 

「どうしたのよ、気持ち悪い笑顔なんか浮かべて」

 

「酷いな、ガイア」

 

 

ガイアと呼ばれたスクラル人はチェックシートをグラヴィクに手渡すと、届いた資材の数を一つ一つ確認していく。

 

 

「いや……あれだけ苦労した故郷探しが、こんなに呆気なく見つかったなんて言われたら、な」

 

「拍子抜け?」

 

「ああ、裏がありそうだ」

 

「間違いなくあるでしょうね。地球から派遣された面子があの『翼付き(エンジェロイド)』や『黒目隠し(アンドロイド)』なのも、私達に擬態されないようにするためだろうし」

 

 

──スクラル人は他人の姿に擬態できる。視認した対象からDNA情報を読み取ることで、よほどの体格差が無ければ姿から能力までDNAレベルに精密な擬態が可能だ。

 

だが、逆に言えばDNAの無い相手に擬態することはできない。アイアンマンのスーツに擬態することはできないし、人工生命体のような体内にDNAを保持していない相手に擬態することも不可能だ。

 

 

「だが、ここに来なければ彼らの笑顔を見ることは無かっただろうことも事実。……やはり、故郷は必要だな」

 

 

グラヴィクは周囲の同胞達を眺めて呟く。移住前は地球に住んでいたグラヴィクだが、そこでの暮らしはとても良いものでは無かった。地球人を避けるように暮らしていたこともあり、負担が大きく、とても笑顔を浮かべられる環境ではなかったのだ。

 

けれど、今ここにいる彼らの笑顔は心からのものだ。イタズラに擬態をする必要も無く、自分自身の姿で生活をすることができる。常にグラヴィクの心の中に巣くっていた不安も、少しずつ和らいできていた。

 

そんな彼を見て、ガイアは肩をすくめる。

 

 

「ま、裏があるならそれでもいいわ。その時は叩き潰せばいいのよ」

 

「……お前、意外と好戦的だな」

 

「あら、意外だった?」

 

「いいや……タロス将軍の娘らしい」

 

「なによそれ」

 

「仲間思いってことだ。さて、次の船が来たぞ」

 

 

グラヴィクは話を切り上げると、空を見上げる。ジャンプ・ポイントである六角形のゲートが雷のように明滅し、一際明るい光とともに避難民を収容した宇宙船が現れた。

 

人を乗せることを優先させた、長方形の宇宙船。速度は無く、ゆっくりと全貌が明らかになる。

 

 

「……おい、なんかおかしくないか?」

 

 

グラヴィクの疑問。宇宙船がぐらりぐらりと揺れ、装甲には赤く焼けた傷跡、後方から黒い煙を吐きながら傾くと同時に、ジャンプ・ポイントから別の機体が現れる。

 

捻れた横長の巨大な宇宙船──クリー人が扱う、戦略用の巨大宇宙戦艦だ。かつてザンダーを襲ったロナンが所有していたダーク・アスターと同規模のもの。

 

自らの力を誇示するような仰々しい戦艦、そのハッチが開く。数えきれないほどの小型宇宙船ネクロクラフトが、羽虫の群れのように空を飛び回り、砲塔の先端を地上のスクラル人へと向けた。

 

 

「に──逃げろ、みんなァ!」

 

 

グラヴィクが大きく叫ぶ。その声にびくりと肩を揺らした同胞が、弾けるように駆け出した。資材を放り投げ、ガイアが指揮を取って地下の防空壕へと押し込んでいく。

 

 

「ッ……! 避けろガイア──!!」

 

 

けれど、間に合わない。人が集まったことで狙いやすい的と化したガイアへと、レーザーガンが放たれた。グラヴィクは既に全力で駆け出していたが、それよりも先に着弾してしまうことは明白だ。

 

──せっかく惑星に出会えたのに、同胞と再会できたのに、また仲間を失うのか……! また、難民生活に逆戻りなのか……!

 

 

「く──そぉぉぉおおおッ!!」

 

 

必死に手をガイアへと伸ばす。届け、間に合えと何度も祈る。けれど──致命的に速さが足りない。グラヴィクの目の前で、まさに今、ガイアの頭蓋が光に貫かれようとしていて。

 

 

「【典開(レーゼン)】──『通行規制(アイン・ヴィーク)』──」

 

 

──レーザーとの間に割り込んできた一人の少女に、命を奪う光の線が文字通り逸らされた(・・・・・)。逸らされたレーザーはそのまま別のネクロクラフトの翼を貫いて、開拓前の誰もいない土地へと撃墜していく。

 

あり得ないものを見たかのように、ぽかんと口を開くスクラル人達。グラヴィクやガイアも例に漏れず、行き先を無くした手をゆっくりと下ろす。そんな彼らを気にすること無く、衣服の隙間から機械が覗く少女──機凱種(エクスマキナ)であるシュヴィはガイアに問い掛けた。

 

 

「……大、丈夫?」

 

「え、あ、うん。大丈夫です、はい」

 

「……良かっ、た。……あっちは、私たちに任せ、て……民間人の避難を、お願い」

 

「わ、分かったわ。……皆、今のうちに早く地下に! 子どもがいたら最優先にね!」

 

 

ガイアが指示を飛ばす様子を確認してから、シュヴィはスラスターを起動して宙に浮かぶと、迫り来るクリーの軍隊を蹴散らしに向かう。ガイアがシュヴィを目で追うと、彼女と同じ機凱種(エクスマキナ)やエンジェロイドが空からの砲撃を全て防ぎながら、ネクロクラフトを片っ端から撃墜していた。

 

地上でも黒い目隠しを装着した白髪のアンドロイド達が、逃げる時に転んだのか、怪我をしたスクラル人を担ぎながら地下への入り口へと駆けていく。

 

 

「大丈夫か、ガイア」

 

「怪我一つ無いわ。それにしても、凄いわねあの子たち」

 

 

機凱種(エクスマキナ)はレーザーや弾幕をそのまま返し、エンジェロイドは一機一機丁寧にネクロクラフトの機動力を奪い、的確に戦力を削っていく。地上へと降り注ぐレーザーの雨が宙に戻っていく姿は、まるでフィクションのようだった。

 

驚異的なのは、敵味方関係なく誰一人として死者を出していないところ。墜落した機体は爆発炎上することなく、中のクリー人が気を失うだけに留めている。

 

 

「【永久追尾空対空弾(Artemis)】──発射」

 

 

桃色の髪のエンジェロイド──イカロスが放った無限にも思える数のエネルギーの塊が巨大宇宙戦艦へと放たれた。装甲を凄まじい勢いで削り続け、わずか数十秒で機体が傾き、落下していく。

 

避難民を収容していた宇宙船も無事なようで、既に地上に着陸して到着したスクラル人をアンドロイドが地下へと誘導していた。

 

 

「……あれを叩き潰すって?」

 

「ごめん、無理」

 

 

引きつった表情の二人の前で、次々と鎮圧されていくクリー人。あまりに一方的なそれは地球の無双ゲームのようで、実際に見せられると理不尽極まりない。

 

ぼっこぼこに蹴散らされるクリー人に対し、初めて芽生えた憐れみの感情と、“こうはなりたくない”という思いに、本気で鍛えることを決意する。

 

──結果として死者0名、逃げる際に転倒して足を擦りむいたスクラル人が1名と、地上に一切の被害を出すこと無くクリーの巨大宇宙戦艦を制圧したのだった。

 

 

★☆★

 

 

《惑星中央管理搭・メイン会議室》

 

 

「この度は我が国民を守っていただき感謝いたします、ヨルハ二号B型殿、ヨルハ九号S型殿」

 

 

管理搭の上部にある会議室、大きな円卓を囲んで二組の代表が対面している。円卓の上にはいくつもの資料が並べられていて、忙しい仕事の最中であることが見て取れる。

 

恭しく頭を下げるのは、スクラル現皇帝のドロージ。人の上に立つカリスマ性があり、国民を大切にしていることで多くの民に敬愛されている人。隣にはスクラル軍の将を勤めるタロスや、各部門を代表するメンバーが並んでいる。

 

反対側に座るのは、黒い目隠しに黒い衣服を纏った男女が二人。互いに白髪を短く切り揃えており、雪のように透き通った白い肌は、髪とあわさって病弱さを感じさせる。

 

ヨルハ九号S型と呼ばれた少年は、ドロージ皇帝の言葉に薄く笑顔を浮かべた。目許が見えないため、スクラル側からでは口角が上がるだけで、どことなく胡散臭さを感じてしまう。

 

 

「気にしないでください。『スクラルの生活が安定するまで支える』のが、ドロージ皇帝と我が主の交わした契約の一つなので。僕たちは外交官を兼ねているだけのサポーターです。そんなに頭を下げられては恐縮しちゃいますよ」

 

「それでもです。民を救っていただいた感謝を忘れてしまえば、我々は人で無くなってしまう」

 

「……そうですか。では、代表として受け取りましょう──ああそれと、僕のことは9S(ナインエス)と呼んでください。彼女も2B(トゥービー)と、ね?」

 

「私も略称で構わない」

 

「それでは……9S殿、2B殿と」

 

 

さて、とドロージ皇帝は話を切り替える。側近に指示を出し、円卓の中央にホログラムで情報を映し出す。現在、地下の牢獄に収監されているクリー人たちの映像だ。

 

 

「それで、捕らえたクリー人はいかがしましょう。権利は撃退したそちらにあると思いますが……」

 

「スクラルの法律で裁いてください。ただ、『人道にもとるような行為は避けるように』というのが、僕たちが主から受けている指令ですので、くれぐれもご注意を」

 

「ええ、勿論です。遺恨があるとはいえ、我々も次の世代にそれを引き継ぐつもりは毛頭ありません。あくまでも法の下で裁くつもりです」

 

「ありがとうございます」

 

 

皇帝の隣で話を聞いていたタロスは、9Sの提案に眉根を寄せた。彼とてクリー人に対して思うところはあるが、次の世代に戦争というものを残すつもりはないし、その為なら努力を惜しまない──が、そこではなく。

 

随分とあっさり引き渡されたことに、疑念を抱く。

 

 

「…………」

 

「……? どうかされましたか、タロス将軍」

 

「いや……」

 

 

顔に出ていたか、とタロスは手の平で口許を撫でた。不思議そうに首を傾げる9S。勘づかれたのであればと、タロスは口を開く。

 

 

「何故、ここまでスクラル(こちら)に有利な条件で交渉ができる?」

 

「と、いいますと?」

 

「接収したクリーの戦艦なども全てスクラルに所有権を委譲する、と資料にある。だが、ドロージ皇帝が話したとおりアレを鎮圧したのは君たちだ。本来であれば、技術の一つでも欲しいと考えるのが普通……ましてや、戦力的にも君たちの方が立ち位置は上だろう」

 

「──つまり、信用できない?」

 

 

9Sの言葉で、一気に空気が張り詰めた。互いに視線を合わせる9Sとタロス。ドロージ皇帝は泰然自若としているが、側近たちは国際問題になるのではと動揺を隠せないでいる。

 

そして数秒、睨み合った後に9Sはにこりと笑顔を浮かべた。

 

 

「まあ、当然ですね。話がうますぎる……そう思っている、と」

 

「……そうだ」

 

「主の指示、と言っても信じてもらえないでしょうし……。そうですね、例え話ですが……タロス将軍は、目の前に泣いている子どもがいたらどうします? 手を差し伸べますか?」

 

「ああ、当然だろう」

 

「では、困っている老人がいたら?」

 

「一体何の話を──いや、まさか……本当に?」

 

 

9Sの伝えたいことに気が付いたのか、タロスは困惑した表情を浮かべた。人と星では規模が違う。利を得ず、見ず知らずの人を助けるためだけに星を差し出すなど、正気の沙汰ではない。

 

だからこそタロスは信用ができなかったのだが、あろうことか9Sはタロスの反応に対して肯定を示す。

 

 

「ええ、お察しのとおり──スクラル人が困っていて、主にはそれを解決する手段があった……だから助けた。ただそれだけの理由で、主は手を貸したんです」

 

「しかし──」

 

「……そういう馬鹿なんだ、我が主は」

 

 

なおも食い下がるタロスに、9Sの隣に座る2Bが口を開いた。視線を集めた2Bの淡々とした声色に、熱くなっていたタロスの頭が冷めていく。

 

 

「『私はなんでも見通しているぞ』……なんて顔で、困っている人を見逃せないし、身内にはとことん甘い。それでいて意志が固いから、振り回されるのはいつも私たちだ。正直、いい加減にして欲しいと思ったことはたくさんある」

 

「と、2B!」

 

「──でも」

 

 

溢れ出てくるのは、自身の主に対する愚痴。焦る9Sの制止を聞かず、勢いに任せてぶちまける。けれどその中身は主を貶すものではなく、案じるものばかりで。

 

視線を真っ直ぐにこちらへと向けるその姿に、タロスは彼女の本音を感じ取る。だからこそ──。

 

 

「私はそんな彼女を信頼しているし、尊敬している」

 

「……そうか」

 

 

──初めて見せられた彼女の笑顔を、タロスは信頼することにした。

 

 

「2B……心臓に悪いよ……!」

 

「本当のことでしょう? あと、私たちに心臓は無い」

 

「そうなんだけどさ!」

 

 

無い心臓を押さえながら、9Sは悲鳴を上げる。一歩間違えば互いの関係が途切れたかもしれない回答を、自身の感情で答えたのだ。先程までの平静さはどこへやら、9Sは見た目相応に取り乱していた。

 

そんな二人の様子に、ドロージとタロスは互いに目を合わせて思わず笑ってしまう。少なくとも、彼ら彼女らがこのように感情豊かに過ごせている場所はそう悪くないところなのだと、そう思った。

 

9Sは彼らの様子に気付くと、薄らと赤らめた頬を誤魔化すように咳払いをする。

 

 

「んんっ! ……話の続きですが、私たちにも利がない訳ではないんですよ。例えばクリーの戦艦ですが、その契約を交わす前に、ウチのエンジェロイドのニンフさんが解析を終わらせていますので」

 

「なるほど、こちらの認識が遅れただけか」

 

「解析した情報は丁度ニンフさんが技術班に渡しているようなので、後程ご確認ください」

 

「重ねて感謝いたします、9S殿」

 

「スクラルの方々とは、これからも仲良くしたいですから。……それでは、本題といきましょうか」

 

 

中央のホログラムを切り、9Sは机に肘を突いた。ここまではあくまで前座。二人がこの惑星に来ている理由は、スクラルの護衛がメインではない。

 

9Sは、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「今回のクリー襲撃のようなことは今後も起こりうるでしょう。それは、地球も例外ではありません。可能なら中立の立場でいたいですが、今回のことを考えればそうもいかないでしょう」

 

 

それが主題かと、タロスは意図を理解した。そして今現在、大きな借りが積み重なっていることを考えれば、決して断ることが出来ないとも。

 

 

「そうなれば、大きな争いとなります。……端的にお伝えしますね。互いに、互いの危機が迫った際に助け合えるよう──相互扶助の国交を結びましょう、という提案です」

 

 

にっこりと笑顔を浮かべる9Sに、この場にいるスクラルのメンバーは誰一人として断る言葉を持てなかった。とはいえ、断る必要もないだろう。これは、スクラルにとっても利のある魅力的な提案なのだから。

 

 

★☆★

 

 

《地球・■■■■■■■》

 

 

「君がこれほど広大な土地を所持しているとは思わなかったよ、浅上」

 

 

S.H.I.E.L.D.長官のニック・フューリーは、目の前に広がる光景に息を飲んだ。巨大な地下空間、数多の車両や航空機、意図の分からない機器が立ち並び、歩き回る人々も合わさって雑多な印象を抱かせる。

 

メンテナンスを行う者、試運転を行う者、謎の残骸を検査する者。それら全てが、以前フューリーを救ったススーロと同様、動物の耳や角を持つ者、現代らしからぬ衣装を身に纏っている者、機械の体を持つ者等、多様な人材で構成されており、どこか現実感の無いものとなっている。

 

まるで日本のアニメーションを見ているようだと、フューリーは心の中で独りごちた。

 

 

「バグダッドの土地を購入したのはこの為か。それに、ニューヨークを襲ったエイリアンの残骸まであるとはな」

 

「民間に流れた分を含めこちらでも半分ほど回収しましたので。遺失しているものもありますが、野放しにする訳にもいきませんし」

 

「アメリカ政府やダメージ・コントロールの役人が撃墜されたエイリアンの数と合わない、と嘆いていたぞ」

 

アメリカ(そちら)で独占されても厄介ですから。これを持つ優位性を理解しているなら、こちらでも保管することで一つの抑止力となるでしょう?」

 

 

それはそうだろうなとフューリーも納得する。アメリカという国は貪欲だ。彼自身もそうだが、国を守るためならば手段を選ばない者は多くいる。ダメージ・コントロール等は良い例だろう。

 

つまりは核と同じだ。地球とは異なる素材や技術を手に入れることで、力関係が対等であると認めさせる抑止力とする。

 

この場所の存在をフューリーに見せた理由の一つは、それをアメリカに伝えさせる為だろう。他にもあるだろうが……しかし、まだ藤乃の考えが読めない。まさか、国でも起こすつもりなのだろうか。

 

 

「君は──」

 

 

直接、何を考えているのかと問うつもりで口を開いた時、地下空間に振動が走り、同時に大きな音が鳴り響いた。ここの場所に繋がる後方の通路から金属が砕ける音が響き、反射的に銃へと手が伸びる。

 

対して藤乃は自然体のまま、来訪者を待つ。まるで、誰が来るのか知っているような態度に、フューリーは訝しげな表情を浮かべた。

 

 

「到着したようですね」

 

「フューリー!」

 

 

藤乃の言葉と同時に扉が破壊された。現れたのは、赤と青の入り交じった衣装を身に纏った金髪の女性。見覚えのある懐かしい顔に、フューリーは困惑する。

 

 

「お待ちしておりました、キャロル・ダンバース様」

 

 

大切な客人を迎えるかのように対応する藤乃。その後ろで、懐かしい記憶がフューリーの脳裏に過る。かつて、共にクリーとスクラルの問題を解決した、アベンジャーズ創設を決意した切っ掛けとなる人物──キャプテン・マーベルその人のことを。

 

そんなフューリーに気づいていないのか、自分から飛び込んできたダンバースは、見知らぬ藤乃を警戒し、厳しい表情で睨み付けながら問う。

 

 

「フューリーはどこ?」

 

「ダンバース? 何故ここに……」

 

「貴方……無事みたいね」

 

 

藤乃の後方に立っていたフューリーに気が付いたのか、その姿を見て呆気にとられる。緊急用のポケベルから通信が入ったことで慌てて来てみれば、顔を合わせていない年月によって老けて見えるが、無傷どころか異常が見当たらない。むしろ、自分の姿を見て驚いていることにダンバースは首を傾げた。

 

 

「何故って……貴方がポケベルで呼んだから来たのよ?」

 

「いや、私は起動していないが……」

 

「……どういうこと?」

 

「申し訳ありませんが、フューリー様がこちらに到着した際、所持していたポケベルを勝手ながら起動させて頂きました。ダンバース様、貴方と一度お話をしたいと思っていましたので」

 

 

割り込むような形で言葉を紡いだ藤乃。フューリーは胸ポケットに入れていたポケベルを取り出すと、確かに通信機能がアクティブにされている。

 

なるほど、釣られたのかとダンバースは理解した。藤乃に対する警戒度を上げる。良い悪いはともかく、何かしらの目的があって呼び出したのだ。典型的な日本人らしく腰が低く見えるが、その裏で何を考えているのか分かったものではない。

 

 

「貴方は誰?」

 

「浅上藤乃と申します。小さな教会の、しがないシスターをしております」

 

「ふぅん……で、そのシスターがフューリーを利用して私を呼び出したって?」

 

「ええ」

 

「胡散臭いわね、何が目的?」

 

 

ド直球。歯に衣着せない物言いに、しかし藤乃はにこにこと笑顔を崩さない。ふぅ、と息を吐いて、ダンバースの問いに答える。

 

 

「フューリー様と変わりませんよ」

 

「私と……?」

 

 

その回答に、フューリーは眉をひそめる。

 

 

「はい。この惑星を守り、未来へ継続させるために特別な力を求めているだけです。そうですね……『トロッコ問題』はご存じでしょうか」

 

「……善と悪、複数と個、どちらを犠牲にしてどちらを救うかという、倫理学上における問題提起だろう」

 

「はい。ではダンバース様、貴方は複数と個、どちらを──」

 

「私なら、トロッコを止めるわ」

 

 

毅然とした態度で、遮るようにダンバースは答えた。確かにキャロル・ダンバースであれば、直接トロッコを止めて先にいる人々を救うことができるだろう。

 

だが、問いたい内容はそこではない。藤乃が知る中で、ダンバースと同じ答えを出すことのできる者は大勢いる。だからこそ、それ以上の回答を出すことができるかを問いたいのだ。

 

続けて、藤乃はダンバースに問う。

 

 

「では百のトロッコが、世界中のあらゆる場所で同時に人を轢こうとしていた場合、どうしたらよいでしょう」

 

「それは──」

 

 

……その問いに、ダンバースは即答できない。どれだけ力が強くとも、どれだけ足が速くとも、それはダンバースに解決できる問題ではないからだ。

 

二十年も前にフューリーと別れてから、ずっと一人で星々を巡り、あらゆる諍いを一人で解決してきた彼女には答えられない。ぐっ、と歯を噛み締める。

 

そんな彼女を見ていられず、代わりに答えたのはフューリーだ。

 

 

「『仲間と力を合わせてトロッコを止める』、だろう」

 

「流石フューリー様、理想的な回答です」

 

 

両手の平を合わせ、花のような笑顔を浮かべる藤乃。何も知らなければ可愛らしさすら感じさせるその表情からは、正確な感情が読み取れない。

 

一転、真面目な表情に切り替えて藤乃は言葉を続ける。

 

 

「宇宙からの侵略、別世界からの侵食、惑星内での争い……。どれだけ強大な力を持っていても、一人で救い上げられる数には限界があります。それは、ダンバース様もご存じでしょう?」

 

「…………」

 

 

ダンバースは何も答えられない。強大なだけの敵を倒すだけであれば負けるつもりはないけれど、事実として救えなかった数多の命がダンバースの背にのしかかっている。

 

だからこそ、藤乃の言葉が痛いほど理解できてしまった。

 

 

「大勢の特異な力を持つ仲間がいるなら、全てのトロッコを止められるかもしれない。つまりですね、ダンバース様。お話というのは、私達と手を組んで協力関係を結びませんか? というお誘いなんです」

 

 

ダンバースへと手を伸ばす藤乃。握手を目的としたそれは、彼女にとっての甘い蜜だ。プライドが高く、最強ともいえるダンバースに並ぶことが出来るかもしれない、仲間という名の甘い蜜。

 

 

「詳しく聞いてみませんか?」

 

 

降って湧いた都合の良い話。動揺が目に表れる。

けれど彼女は、その手から目を逸らすことができなかった。




【本作におけるスクラルの設定】
・スクラルはDNAの接種により相手の姿や能力を真似る。
・記憶については、極最近の記憶のみコピーできる。
・DNAに肉体を同化させるタイプのシェイプ・シフターであるため、ロボットやサーヴァント、アンドロイド等は対象外。

【9S(MCU)】
・出典『NieR:Automata』
・外交官としてスクラルのサポートを行っている。

【2B(MCU)】
・出典『NieR:Automata』
・9Sの護衛。

【シュヴィ・ドーラ(MCU)】
・出典『ノーゲーム・ノーライフ』
・開拓中のスクラルの防衛担当として派遣された。

【イカロス(MCU)】
・出典『そらのおとしもの』
・開拓中のスクラルの開拓担当として派遣された。

【ニンフ(MCU)】
・出典『そらのおとしもの』
・開拓中のスクラルのシステム管理担当として派遣された。
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