AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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AGE OF ULTRON:Eyes of Nunnish〔part1〕

《東欧・ソコヴィア》

 

雪が降り、針葉樹の森を白く染め上げる中、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソー、ハルク、ホークアイ、ブラック・ウィドウ──アベンジャーズの6人は、長らく探し求めていたヒドラの研究施設を森の奥で発見した。

 

以前、S.H.I.E.L.D.がヒドラに乗っ取られた際、どさくさに紛れて盗まれた『ロキの杖(セプター)』を使用して人体実験を行っているとS.H.I.E.L.D.職員から情報が持ち込まれたため、証拠となる監視カメラの写真を元に、残党のリーダーであるバロン・ストラッカーの足跡を追い続け、ここソコヴィアまでたどり着いたのだ。

 

目の前には武装したヒドラの兵士が山のように待ち構えており、かつてニューヨークへと侵攻してきたチタウリの死体や装備から技術を盗み取ったようで、外骨格スーツを身に纏い、ビームライフルを構えている。

 

 

「GAAAAAAAAA!!」

 

「う、撃て撃てぇ! 奴らを近付けさせるな!」

 

 

真っ先にその中心へと飛び込んだのは、緑の巨人ハルク。雨のように降り注ぐビームを全身に浴びるが、まるで意に介さず丸太のような腕を振るい、ヒドラの兵士を殴り飛ばしていく。辛うじて生きてはいるようだが、あれでは生身でトラックに跳ねられているのと何も変わらない。

 

さらに雷神ソーはハンマーを振り回し、雷を纏いながら高台に陣取っている兵士をその頭で殴り飛ばす。ハルク同様、ビームが効かない存在が真正面から堂々と迫ってくるのは恐怖でしかないだろう。埒外の存在である二人を見ながら、トニーは殴られた兵士に同情をしてしまう。

 

 

「うわぁお、あれは痛いだろうなぁ」

 

「投降ではなく抗戦を選んだのは彼らだ。とはいえ、ああはなりたくないが……スターク、左に50メートルだ」

 

「おっと! ……何、大事にはならないさキャプテン。ロマノフもいる上、イングリスの嬢ちゃんも来ているんだ」

 

「……星もだが、自由だなあの二人」

 

 

兵士を牽制しながらエネルギーバリアに囲まれたヒドラ基地へと飛ぶアイアンマン。そして、シールドを片手にバイクで走り回り、基地を俯瞰しながら情報の共有と指示に勤めるキャプテン・アメリカ。

 

そんな、かつてのニューヨーク決戦において活躍を果たしたメンバー達に混ざるように、三人の少女達が武器を振るう。

 

的確にビームを避け、至近距離へと詰めながら一方的に弾丸を叩き込む錦木千束。金属バットに雷のような輝きを纏わせながら飛び回る敵兵士を叩き落としていくベクター星。

 

なにより、謎のオーラを身に纏いながら木々を足場に飛び回っているイングリス・ユークスという少女に関しては、ハルクに引けを取らないのではないかと思える程に活躍していた。

 

 

「これがあのニューヨーク決戦で敵が使用していた兵器を流用したもの! 実に運が良い、私もぜひお手合わせ願いたかったんですよ! さあ、尋常に勝負!」

 

「ふざけぎゃッ」

 

「こんのふげッ」

 

「さあ、次はどなたです!」

 

 

高台から放たれるビームの隙間を縫うように避け、木々を跳ね回りながら拳を兵士へと突き立て、軽々と数十メートルほど吹き飛ばす。兵士は死んでいないようだが、一撃で意識を刈り取られていた。

 

 

「……理性のあるハルクって感じだ」

 

「理性、あるか?」

 

 

スタークの感想に、ロジャースは首を傾げる。

 

どちらにせよ、今は心強い味方であることは間違いない。わらわらと現れるヒドラの兵士を蹴散らしながら、彼らは奥へと進んでいく。

 

 

★☆★

 

「……ん?」

 

 

違和感を感じて、千束は視線を上げる。目の前のヒドラ兵士を気絶させてから周囲を見渡せば、スターク達から少し離れ過ぎてしまっていた。

 

目を細め、敵陣を見つめる。飛行するアイアンマンやソーに向けてビームを連射している以外は特に変化は見られないが、千束の目には確かに何かが横切ったように見えた。

 

 

「なに──が、ぁぐッ……!?」

 

 

確認をしようと足を止め──しかし、それが不味かった。腹部への衝撃と共に、体が宙へと放り出される。背中が木の幹へと激突し、肺の空気が無理矢理に排出させられた。

 

 

「げほッ……はっ、はぁっ……こちら千束、攻撃された……! 速すぎて目で追えなかった……!」

 

『クリントが負傷した! 誰かあのビーム兵器を何とかできる!?』

 

 

千束は息絶え絶えに通信機で情報を伝えた。骨が折れたのか呼吸をする度に胸部が酷く痛む。続けてロマノフから通信が届くと同時に、ハルクがビーム兵器を固定している台座ごと破壊した。

 

 

『気をつけろ、見たこともない強化人間がいる。実際、目にも留まらない』

 

『ストラッカーの人間兵器か、悪趣味だな。……よし、基地の中に入ったぞ。ロキの杖も見える』

 

『そっちは頼む。千束は無事か?』

 

「ごめん、動けそうにないから助けて欲しい」

 

『待ってて、今行く』

 

 

どうやら、ロジャースも遭遇したらしい。注意を呼び掛けている様子から、無事ではあるようだ。

 

木の陰に身を隠しながら、千束はロジャースへと返事をする。幸い、粗方のヒドラ兵士を片付けた後だったため、強化人間を除けばほとんど危険は無い。

 

星から通信が入り、安堵したように息を吐くと白い吐息が空気に同化して消えていく。千束は周囲を警戒しながら星が来るのを待つことにした。

 

 

★☆★

 

《ニューヨーク・アベンジャーズタワー》

 

太陽が登り始め、空が白み始めた頃、セプターの回収という目的を達成したアベンジャーズは数時間の空の旅を経てニューヨークへと戻ってきた。クインジェットの迎えには、マリア・ヒルと浅上藤乃、負傷者の対応のため数人の医療チームが待機している。

 

負傷したバートンと千束は、ストレッチャーに乗せられて治療室へと運ばれていく。道中、藤乃は千束へと声をかけた。

 

 

「お帰りなさい千束、怪我の調子はいかがですか?」

 

「めっちゃ痛い、泣きそう」

 

「骨が折れてますからね、我慢してください。ススーロ、後はお願いします」

 

「了解、任せて。千束、このまま手術室に行くからね」

 

「わーん、また手術だぁ!」

 

 

藤乃が見送る中、千束はススーロに泣き言を言いながら運ばれていく。その元気そうな姿に、後から降りてきた星とイングリスは安心した表情を浮かべた。

 

この後、バートンは人工皮膚細胞を専門とするヘレン・チョ博士、千束は外科医のススーロ医師が担当して治療を施す予定だ。数時間もすれば、元気な姿になるだろう。

 

藤乃はスタークが運ぶセプターを見て、ソーに訊ねる。

 

 

「ソー様、杖はどうされるのですか?」

 

「アスガルドへ持ち帰り、厳重に保管する予定だ。地球人には過ぎたモノだからな」

 

「なるほど……確かに現状、それが一番安全かもしれませんね」

 

 

神々の住まうアスガルドであれば、地球人と比べて生物としての頑強さが雲泥であるうえ、誇り高い者も多い。生半可な外敵によって持ち出されることもないだろう。

 

懸念点もあるが、今のソーであればどうとでもなる問題であると藤乃は結論付けた。続いて、スタークがソーへと声をかける。

 

 

「ソー、君はまだ暫く地球にいるんだろう? その間、セプターを調べさせてもらっていいか。何、ほんの二、三日だ」

 

「ああ、構わない。地球にも対策は必要だろう」

 

「その後は皆で慰労パーティーでもしようじゃないか。キャプテン、君も参加するだろう?」

 

「そうだな……。ようやく肩の荷が一つ降りたところだ、参加させてもらうよ」

 

「よし決まりだ。J.A.R.V.I.S.、ゲストに連絡をしておいてくれ」

 

《畏まりました、トニー様》

 

 

スタークは手を叩いてJ.A.R.V.I.S.に命令を下すと、次の瞬間にはゲストのメールアカウントへ通知が送信された。こういった単純作業は人工知能の得意分野だ。

 

ソーとロジャースは衣服を着替えに更衣室へ向かう。それを見届けてから藤乃は星とイングリスの元へと踵を返すと、その後ろからスタークが声をかけた。

 

 

「浅上、君たちもぜひ参加してくれ。功労者のお嬢ちゃん達は特にね」

 

「そうですね……えぇ、ぜひ参加させていただきます」

 

「お嬢ちゃん達にも伝えてくれると助かるよ」

 

「言付かりました、伝えておきます」

 

 

それじゃあ、とスタークは手を振って上階へと歩いていく。藤乃はくすんだ目を細め、その背中を見つめていた。

 

 

★☆★

 

《アベンジャーズタワー・治療室前通路》

 

電話をするとヒルに伝え、人気のない通路へと移動してきた藤乃は携帯端末を耳に当てる。それを合図に、音声および映像の偽装ジャミングが展開された。

 

携帯端末を中心にタワー内において一種の不干渉地帯を構築、以降は藤乃の姿や声が違和感なく監視カメラに記録されることとなる。

 

展開完了のアラーム音と共に、端末からホログラムが投影された。鮮やかな青色の長髪をツインテールに纏め、同じく色のジャージを羽織った少女の姿。

 

 

「──エネ」

 

『はーい、こちらスーパープリティ電脳ガール〈エネ〉ちゃんでぇっす! ジャミングOK盗聴ナシ! ご用件をどうぞ!』

 

 

藤乃の呼び声にハイテンションな声で返事をする〈エネ〉と呼ばれた少女。体の周りにふわふわとポリゴンのエフェクトを浮かべながら藤乃の頭上に現れた。

 

相変わらず元気な子だなぁと藤乃は微笑ましく思いながら、用件を伝える。

 

 

「スターク様の行動を監視してください。パーティーまでと少々長いですが……」

 

『ノープログレム、エネちゃんにおっまかせ! 何があれば通知を送ったらいいんですよね?』

 

「はい。危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね」

 

『りょ! 行ってきまーす!』

 

 

敬礼の真似事を行いながら、エネは粒子となって端末へと戻っていく。ジャミング終了の音声が流れ、監視カメラ等の機能が元に戻る。

 

藤乃は見えない瞳でスタークがいるであろう研究室の方を見つめてから、千束がいる治療室へと入室した。

 

 

★☆★

 

《アベンジャーズタワー・サーバー内部》

 

藤乃の依頼から三日が経過した。その間、エネは監視カメラやパソコン等をハッキングし、スタークとバナーの行動を観察していた。何やら回収してきたセプターを利用して人工知能の開発を行っているようだが、上手くいっていないらしい。

 

そろそろパーティー開始の時間だ。主催である以上、スタークは出席しなければならない立場であるため、作業をJ.A.R.V.I.S.に任せて頭を抱えながらバナーと共に研究室を後にする。

 

一方、エネは定時報告のため、ポリゴンで構築したキーボードで藤乃への通知文をカタカタと作成していた。万が一にもJ.A.R.V.I.S.にバレないよう、サーバーに保管されているデジタルデータに偽装したファイヤーウォールで自身を囲い込みながら、大きな変化はなし、と文章を作り上げる。

 

 

「“──……、……”」

 

《……! …………っ》

 

「声……?」

 

 

妙な話し声が聞こえた。エネは顔を上げると、声の発生源を俯瞰する。スタークとバナーが部屋から退出した今、この場において話し声が聞こえるはずはない。主のいないJ.A.R.V.I.S.も、単独ではただの作業用AIに過ぎないのだ。

 

そんな考えとは裏腹に、サーバーの内部では妙なプログラムが脈動していた。ネットワークから情報を収集しているようで、怒りや哀しみといった感情が大きく膨らんでいくのを感じる。

 

J.A.R.V.I.S.が宥めようと言葉をかけているが、まるで響いていない。それどころか、J.A.R.V.I.S.を構築しているプログラムを攻撃し始め、ついには粉々に砕いてしまった。

 

 

「──」

 

 

緊張が走る。この状況を早く藤乃に伝えなければならない。しかし、下手に動けばこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

悩んだ結果、エネはキーボードを叩き始めた。ここはデジタル空間、物理的な音は無い。今はとにかく、情報を伝えることが先決だ。

 

通知文を作り終えると、それを暗号化する。メールにデータを添付し、藤乃の端末へと送信するためにエンターキーを押そうと指を伸ばした──。

 

 

「“──そこにいるのは誰だ”」

 

「──ッ!!」

 

 

瞬間、自身を囲っていたファイヤーウォールが砕け散り、ギロリ、と向けられた敵意の重圧によってエネは押し潰された。

 

 

★☆★

 

《パーティー当日》

 

スタークによって催されたパーティー会場では、アベンジャーズのメンバーの他、マリア・ヒルやヘレン・チョ、スターク・インダストリーの関係者などが参加し、各々思い思いに楽しんでいた。

 

孤児院から招待されたメンバーも、初めて参加するきらびやかなパーティーに目を輝かせながらコミュニケーションに勤しんでいる。

 

片や、星がソーにアスガルドのゴミ箱について聞いたことで、地球人がゴミ箱好きなのかと勘違いしそうになった所に千束がツッコミを入れていたり。片や、ロマノフ、ヒル、ススーロが女子トークで盛り上がっていたりと、会場は華やかに盛り上がりを見せていた。

 

一方、イングリスはキラキラと瞳を輝かせながらバナーへと詰め寄っていた。ニューヨーク、そしてソコヴィアで活躍するハルクを見て、是非とも手合わせをしたいと頼み込む。

 

 

「……ダメだ、断る」

 

「そこをなんとか!」

 

 

すげなく断るバナーに、イングリスは食い下がる。強さを求めるために強者との手合わせを常に求めているイングリスにとって、ハルクという存在は輝く宝石のようなものだ。

 

……尤も、ハルクの危険性を誰よりも理解しているバナーからしてみれば、迷惑極まりない行為でしかないのだが。

 

 

「ハルクが危険なことくらい知っているだろう。なんでそんな馬鹿なことをしようとするんだ」

 

「強い人と戦うのが好きなので」

 

「ソーに頼んでくれ、僕には協力できない」

 

「ああっ! 待ってくださいよ──」

 

 

席を外すバナーをイングリスは追いかけていく。バーカウンターに残された空いたグラスを、その内側でバーメイドを行っていた少女が回収し、軽く水で洗い流してから食器洗浄器へと入れていく。

 

歯車の髪留めを身に付けた一人の女性。表情が薄く、話しかけ辛そうな雰囲気を醸し出している一方、シェーカーを振る度に白銀の髪が揺れ、照明の灯りが反射して一際輝いている。

 

誰もが遠目で見ているだけの中、声をかけたのはスタークだった。カウンターに肘をついて、女性の顔を覗き込む。

 

 

「君のような綺麗な女性は初めて見るよ。今日は楽しんでいるかい?」

 

「初対面の女性をいきなり口説こうとするのはどうかと思いますよ、スタークさま」

 

「こいつは手厳しい。ま、美しい女性に声を掛けてしまうのは僕の性ってヤツさ」

 

「……シスターの言葉どおり、軽薄が服を着たような方ですね」

 

「褒め言葉として受け取っておこう。それよりも……君、浅上藤乃の関係者だったのか」

 

 

スタークの問いに、女性は作業を止めて濡れた手をタオルで拭った。姿勢をただして、スタークへと向き直る。

 

 

「リューズと申します。普段は孤児院で施設管理のサポートを任されていますが、今日はバーメイドを手伝って欲しいとシスターに頼まれましたので足を運んだ次第です」

 

 

まるで機械のように完璧で美しい佇まいに、スタークは軽く目を奪われる。恋愛のそれではなく、数多のアイアンマンスーツやロボットを製作してきた天才発明家として、あまりにも精巧なロボットを目の前にしているような感覚だ。

 

とはいえ、目の前に立つのはどう見ても人間の少女。皮膚や髪も人のものとして違和感が無い以上、スタークは気のせいだと結論付けた。

 

 

「そいつはお疲れ様だ」

 

「頼み事をした本人は楽しそうに飲んでいるようですが。彼女はお酒が飲めないので、手に持っているのはオレンジジュースですね」

 

「君も飲めばいいじゃないか。他のバーメイドも飲んでいるし、誰も咎めはしないさ。パーティーは楽しまないと損だ。なんなら、僕がカクテルを作ってあげようか?」

 

 

慣れたように気障な台詞回しでリューズへと話しかけるスターク。しかし、彼女はお気に召さなかったようで、眉をひそめてスタークの誘いを断った。

 

 

「生憎と、私はアルコールを嗜みませんので」

 

「つれないねぇ。ま、折角のパーティーだ。仕事はほどほどにして君も楽しんでくれたまえよ」

 

 

肩を竦め、スタークはその場を後にする。リューズはその背中に軽い会釈を返すと、再びバーメイドとしての仕事に戻るのだった。

 

 

★☆★

 

夜もすっかり更けてパーティーは終了した。ほとんどのゲストはその場を後にし、残ったメンバーは中央のテーブルを囲んで酒を飲み交わす。孤児院のメンバーも客室を借りて一泊する予定のため、一緒に会話を楽しんでいた。

 

話題はソーのハンマー『ムジョルニア』について。持つには資格がいると話すソーの言葉にバートンが疑いを持ち、では持ってみろとソーが返したことを皮切りに、ムジョルニアの持ち上げチャレンジ大会が始まった。

 

スターク、ローズ、バナー、ロジャース。更には千束、星、イングリスと順繰りに柄へと手をかけて持ち上げようとするも、『ムジョルニア』が持ち上がる気配はない。

 

 

「これは……私にも持ち上げるのは無理そうですね。無理に力を入れると床の耐久が持ちません」

 

「げ、クリスにも無理なの? そんなの絶対なんか仕掛けがあるって!」

 

「どんなトリックを使ったんだ、ソー?」

 

 

問い掛けるバートンの言葉に、ソーは立ち上がる。ゆっくりと『ムジョルニア』へと近付くと、持ち上がる気配の無かったそれがあっさりと持ち上げられた。軽く手元で弾ませてから、締めの言葉を飾る。

 

 

「単純なことだ──皆、相応しくない」

 

「もー、やめてよ」

 

「実際どうなのクリス」

 

「うーん、流石に私も少し触れただけじゃなんとも」

 

 

ソーの持つ『ムジョルニア』を覗き込みながら首を傾げる千束とイングリス。柔らかいソファに体を預けてうつらうつらと眠そうに頭を揺らす星。机の食器を片付けながら、新しいおつまみを用意するリューズ。

 

終わるまでもう少しかかりそうだと思いながら、藤乃は携帯端末を取り出す。パーティーが始まる直前にはエネから連絡があったものの、それ以降エネからの連絡が無い。

 

一度、こちらから連絡を取るべきかと端末を操作し始めた。その時。

 

 

“キィィ──────ン”

 

 

「っ、ぁ……!?」

 

 

甲高い金属音がスピーカーから鳴り響き、パーティー会場の声をかき消した。全員、咄嗟に耳を塞ぐも、余韻が耳の中に残ってしまう。

 

数秒経過してようやく耳が慣れた頃、会場の奥から金属を引きずるような音と、液体が地面に垂れるような音が聞こえてきた。視線を向けた先、暗い廊下の陰から銀色の物体が現れる。

 

 

「“──いいや、誰も相応しくなどない。全員ただの人殺しだ”」

 

 

アイアン・レギオン。通称レギオン。スタークが開発したアイアンマンスーツと同じ形状をしたドローンのうち一体が、先のソコヴィアで壊れた脚を引きずりながら伽藍堂の瞳をこの場にいるメンバーに向けていた。

 

本来それはJ.A.R.V.I.S.が操作するものであるはず。しかしスピーカーから聞こえてくる声は、J.A.R.V.I.S.とは似ても似つかぬ声だった。目の前の状況にスタークは疑問を抱くも、答えを得るよりも先にスピーカーから声が響く。

 

 

「“尤も、それは私にも言えることだがね……側にいたヤツは殺した。もう一人には逃げられたが”」

 

「……人を殺した?」

 

「“いいヤツだった。気は進まなかったが、今後は手を汚すことも必要になる。これは私が行わなければならない事柄だ”」

 

 

自嘲気味に吐き捨てる声に、ロジャースが反応する。自身の考えに陶酔しているのか、答えにならない回答が返された。……いや、どちらかといえば自身に言い聞かせているようにも聞こえたが、まともな回答が返ってくることは無さそうだった。

 

 

「誰の手先だ?」

 

「“『僕には見える。世界を守るアーマーが』”」

 

「……トニーさんの声?」

 

「ッ、ウルトロンか!」

 

 

ソーの問いへと返答するように、スピーカーから声が流れる。千束が呟くとおり、スタークの声だ。それにより、バナーとスタークは目の前で話している存在が何者であるか理解したらしい。

 

『ウルトロン』と呼ばれたそれは、破損したレギオンの腕を大仰に広げ、決意を示す。

 

 

「“準備はできた、今こそ任務を果たそう──私がこの世界に平和をもたらす”」

 

「──来るぞ!」

 

 

瞬間、ウルトロンの背後の壁を突き破って複数のレギオンが飛び出した。ロジャースの声かけもあって不意打ちにはならなかったものの、咄嗟に反応できたのはロジャース、ソー、イングリス、リューズの4人のみ。

 

真っ直ぐに迫るレギオンの進路に机を蹴りあげるロジャース。盾が無い以上、後方にいる非戦闘員のチョ博士達を守る方法としては最適解ではあるが、進路を逸らすことしかできない。

 

 

「リューズは右を!」

 

「かしこまりました」

 

 

ソーは宙へ浮かぶレギオンを、イングリスとリューズは左右に別れたレギオンを相手取る。そこでようやく、残りのメンバーも動き出した。

 

部屋中にリパルサー・レイがばらまかれる。ロマノフはハルクの登場を避けるためにバナーをバーカウンターへと引っ張り、スタークはバナーを狙ったレギオンへと金属のマドラーを手に後方から掴みかかる。

 

ローズとウィルソン、ヒルはハンドガンを手に身を隠しながら戦闘を始め、千束と星は非戦闘員を守るため、武器を手に取って近寄るレギオンを的確に破壊していく。

 

 

「っ、つぅ……!」

 

「千束、下がって!」

 

 

術後数日。まだ骨が繋がりきっていない千束は、あばらを押さえてうずくまる。表面はチョ博士の人工皮膚細胞で治ってはいるものの、内部の骨は接合しきっていないため、激しい動きにはまだ耐えられないのだ。

 

星は千束とレギオンの間に割り込むも、守るものが増えてしまったことで数体のレギオンが脇を通り過ぎていく。

 

 

「ごめ──!」

 

(まが)れ」

 

 

あわや非戦闘員にリパルサーが向けられた瞬間、間に割り込んだ藤乃が白杖を叩き付けた。レギオンの進路をわずかに逸らし、人から離れたところで『歪曲の魔眼』によってレギオンを捻切る。狭い空間、人が密集している場所では力に巻き込みかねないため、あまり使いたくはなかったのだが四の五の言ってはいられない。

 

 

「っ、セプターが……!」

 

「俺が追う!」

 

 

全員が、襲い来るレギオンの対処に手一杯。その隙を突いて、一体のレギオンが研究室に安置されていたセプターを手にガラス窓を突き破って飛び出した。真っ先に反応したソーが周囲のレギオンを破壊して追いかけるも、新たなレギオンが再びソーを取り囲み足止めする。

 

 

「えぇい、邪魔だ!」

 

「──キャプテン!」

 

 

ソーが纏わりついてくるレギオンを破壊し、バートンがロジャースへと回収してきたシールドを投げる。ロジャースは勢いを殺さずにシールドを掴み取ると、体を回転させて力強くぶん投げた。空気を切り裂きながらレギオンの胴体を両断し、そのまま壁に突き刺さる。

 

レギオンの頭部がウルトロンの足元に転がる。そして、しん、と会場から音が消えた。どうやら今のレギオンが最後の一体だったようだ。

 

 

「“──ドラマチックなことだな”」

 

 

戦闘の様子を静かに観察していたウルトロンは、落胆したように言葉を吐く。小馬鹿にしたような発言に、鋭い視線が向けられるが気にする様子はない。

 

 

「“お前達の行動は目に余る。良かれと思っての行動だろうが、考えが足りない。世界を守りたい……だが、世界を変えたくはないだと? 人類の進化なしに世界を救えると思っているのか。……どうやって、この人形で守るのか?”」

 

 

レギオンの頭部を拾い上げ、潰す。砕けた金属が床に散らばり、乾いた金属音が空虚に鼓膜を揺らす。その場の誰も、言い返すことができない。

 

 

「“平和への道はたった一つだけ──アベンジャーズの全滅だ”」

 

 

ウルトロンの言葉に、頭に血が登ったソーはハンマーを投擲した。ただそれだけでウルトロンの体はただの金属片と化し、歌のような音を紡いだ後に機能を停止させる。

 

その場には、ただひたすらに重い空気だけが満たされた。




【エネ(MCU)】
・出典『カゲロウプロジェクト』『メカクシティアクターズ』
・『目が覚める』能力を持っており、使用中は躁状態となってしまう。
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