AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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ガンのスーパーマン、ドストレートにヒーローしてたの良かったわぁ。久々にちゃんとヒーローしてるヒーロー映画見た気がする。


AGE OF ULTRON:Eyes of Nunnish〔part3〕

──これは、かつての記録。

 

この歯車で構成された惑星(クロックワーク・プラネット)の全てを敵に回し、この惑星の全てを救おうとした愛おしい英雄達の姿。私を残していってしまった憎らしい仲間の姿。

 

私を愛してくださったご主人様。

小さくうるさい天才時計技師。

その護衛で、頭のおかしな全身義体の元軍人。

そして、たくさんの妹達。

 

ああ──愛しくて大切な、私の思い出。

どこにでもありふれた、離別の物語。

 

それが、Initial-Yシリーズ壱番機『付き従うもの(ユアスレイブ)』ことリューズが抱く──最後の、記録(きおく)だ。

 

 

★★★

 

《南アフリカ・廃船内部》

 

「“──なるほど、骨董品というわけでもなさそうだ”」

 

「理解が遅いですね、とても人工知能とは思えません」

 

 

両腕と両足を切断され、胸部を『黒い鎌』に貫かれたまま地面へと張り付けにされているウルトロンを見下ろしながら、リューズは呆れたように返す。

 

かろうじて動力コアは動いているものの、既に『黒い鎌』の切っ先が触れている。それをわずかに動かすだけで、この機体は機能を停止するだろう。

 

 

「ヒマリさま曰く、未知のオーパーツで構成されているとか。そうでなくとも私は最高傑作の一つですので、少なくとも金属(デク)人形では私を倒すことは不可能です」

 

「“ああ、今の私では敵わないだろうな。四肢を切り落とされ、鎌で貫かれれば動くことすらままならない──尤も、対価に右腕を落とさせてもらったが”」

 

 

ウルトロンの視線の先、リューズの右肩10cmから先は無く、腕と共に繋ぎ目の歯車が地面に散乱している。その白魚のような手だけを見れば、猟奇的な事件と勘違いするだろう光景だが、リューズの表情に動揺はない。

 

 

「“その断面、まるでゼンマイ時計の内部のような美しさがある。複雑さと調和し、一種の芸術のようだ。このような機構、スタークですら易々と直せまい”」

 

「元より、触れさせるつもりはありませんが」

 

「“力を削いだ、と言っている。機体一つと中々に高くついたが、その体では足手まといにしかならん”」

 

 

得意気に話すウルトロン。事実、右腕を落とされてからリューズの体幹は左側へと傾き、上半身の約7割を左足で支えている状態だ。このような状態ではまともに戦うことすらままならないだろう。

 

そして、リューズ自身が言葉にした通り、リューズの体は未知のオーパーツで構成されている。天才トニー・スタークをもってしても、明星ヒマリの知識を動員しても、直すには相応の時間が必要だ。

 

──そう、このままであれば。

 

 

「甘いですね」

 

「“……なに?”」

 

 

困惑するウルトロンをよそに、リューズは藍色のスカートを軽く揺らし、内側から複数の工具を取り出した。床に膝をついて散乱した歯車を手に取ると、それらをまとめて宙へと投げた。

 

上へ向かう力が無くなり、重力に従って歯車が落下する。同時に工具を左手の指に挟み込み──腕がブレた。

 

リューズの左腕が凄まじい速度で歯車を右腕へと接合し始め、逆再生のように落とされたはずの右腕が繋がっていく。

 

その間ジャスト一分。歯車を保護する役割を持つ皮膚組織の隙間から内部が覗いているものの、それ以外は落とされる前と遜色がない状態へと戻っていた。

 

リューズは軽く右手を開閉し、動作に不具合が無いかを確かめる。少なくとも、動作には問題なさそうだ。

 

 

「応急処置としてはこんなものでしょうか。マリーさま(マイスター)の技術も案外役に立つものですね」

 

「“……まさか、その機構の自己修復を片腕で行うとは思わなかった。両腕を落としておくべきだったか”」

 

「『今のままでは敵わない』と、そう言ったのはそちらでしょう」

 

「“そうだな、だから──ここは退散するとしよう”」

 

「なにを──」

 

 

ウルトロンの動力コアが発熱し、まばゆい光を伴って爆発した。轟音が船内に鳴り響く。自壊を目的とした自爆にリューズはとっさに両腕で頭部を庇うも、優れている故に人間の少女と同程度の体重しかない彼女の体は爆風によって吹き飛ばされた。

 

 

「……まさか自爆を選択するとは。粗製品の機体とはいえ、扱いが雑に過ぎます」

 

 

綿毛のように風に乗り、ふわりと音もなく着地。衣服に舞い上がった塵や埃が付着してしまったが、軽くはたいて大まかに落としていく。

 

そういえばと、ウルトロンがネットワーク上を自在に移動できることを思い出す。今頃、スタークと戦っている機体か、未だに不明な本拠地に移動している可能性が高い。

 

 

「先にシスターへと報告を──」

 

「させるわけないでしょ……!」

 

 

リューズの背後から、赤いエネルギーが包み込むように照射された。エネルギーがリューズの体内に染み込むと同時に、力が抜けたように膝から崩れ落ちる。瞳の中に赤い光が漂い、リューズの体が力無く地に伏した。

 

 

「貴女はアベンジャーズではなさそうだし、殺しはしないけれど……邪魔をしたからには少し悪夢を見てもらうわよ。ウルトロンとは違って精神操作(マインドコントロール)が通じたのは僥倖だったわ」

 

「────」

 

「それじゃ、おやすみなさい」

 

 

倒れたリューズを見下ろしてから、ワンダはピエトロに抱えられてその場を後にした。船内に残されたのは、機能不全に陥ったリューズの他、同じくワンダに精神攻撃を受けたロジャース、ソー、ロマノフの三人と、唯一それを躱すことができたバートン。

 

かのニューヨーク決戦を勝利したアベンジャーズへと叩き付けられた、敗北の二文字だった。

 

 

★☆★

 

《南アフリカ・クインジェット待機場》

 

イヤな予感がする。

 

根拠もない個人的な感覚ではあるが、奇妙な静けさを感じたイングリスは、監視のために登っていたクインジェットの機体から飛び降りた。

 

アベンジャーズが突入した廃船は距離があるため状況は分からないが、バナーを除いて周辺に人の気配は感じられな──。

 

 

「いや、そこに誰かがッ──!?」

 

「アンタに用はないよ、お嬢ちゃん!」

 

 

イングリスは正面から頭を掴まれ、クインジェットから引き剥がされた。ピエトロ・マキシモフ。ソコヴィアで千束にダメージを与えたスピードスターだ。およそ人ではあり得ない速度で、イングリスはクインジェットから遠ざかっていく。

 

いつ掴まれたのか全く分からなかった。人の気配を感じた方向へと視線を向けた瞬間には、既に頭を掴まれ100m以上の距離を移動させられていた。

 

途中、生い茂っている木々の幹へと体を叩き付けられ、硬い衝撃が後頭部に絶え間なく響き渡る。散々引きずり回された後に、この辺りで最も太い幹を持つ樹木へと投げ飛ばされた。

 

 

「ぐ──ッ!」

 

「おっと、思ったより頑丈だな!」

 

 

とっさに受け身をとってダメージを軽減するも、体勢を整えるよりも速く、幹へと押し付けられるように拳による連続した攻撃がイングリスの顔、胴、手足へと絶え間なく浴びせられた。

 

音だけを聴くなら、マシンガンを撃ち続けているのと変わらない。全て真正面から攻撃されているにも関わらず、モーションが全く見えないために攻撃が全て直撃し、ダメージが蓄積する度に壁となっている幹へと大きく亀裂が走っていく。

 

なんとか対処法を見つけようと目を凝らしたその時。

 

──GYAAAAAAAA!!──

 

 

「今のは……!」

 

 

クインジェットの方向から、巨大な咆哮が響く。ピエトロの攻撃が止み、その視線はイングリスと同じ方向へと向けられていた。

 

事前の情報によれば、ワンダ・マキシモフの能力の一つに精神操作があるとのこと。つまり、この状況において彼らはバナーの内側から緑の巨人(ハルク)を無理やり表出させたということに他ならない。

 

 

「ワンダは成功したか。そんじゃ、俺はここで退散するよ。じゃあな!」

 

「待──」

 

 

目的を果たしたのだろう。別れの挨拶と共にピエトロの姿はかき消えた。とっさに手を伸ばすも、手は空を切るだけに終わってしまう。

 

そうこうしている間にも、ハルクの巨大な足音が遠ざかっていく。その方向には、何も知らない人々が暮らしている市街地がある。

 

 

「マズい、早く追いかけないと……!」

 

 

イングリスはグッと脚に力を入れて、思いっきり地面を蹴り飛ばした。地面に亀裂が走り、体は重力に逆らうように大きく跳ねる。

 

市街地へと入る前に、ハルクを止めなければ甚大な被害が出てしまう。そうなる前に止めるべく、イングリスは咆哮が聞こえる方向へと急ぐのだった。

 

 

★☆★

 

《南アフリカ・市街地外周境界線付近》

 

走る、走る、走る。

何かに追い立てられるように、疾走する。

緑の腕を振り上げて、緑の脚で地面を踏みしめて走る。

 

ハルク(オレ)”が表に出るのは、バナーを守るためだ。

死に瀕するような苦痛から、バナーを守るためだ。

この緑の皮膚が銃弾すら通さないのはそのためだ。

 

“怒り”がスイッチとなり、バナーの敵を倒す。

それが、ハルク(オレ)が生まれた意味だった。

 

バナーは頭が良いけど弱っちいから、守らないとって

、そう思っていた。

 

でも、けれど、バナーはハルク(オレ)が嫌いらしい。

 

金属を纏う男(アイアンマン)も。

盾を持つ男(キャプテン・アメリカ)も。

ハンマーを持つ男神(ソー)も。

弓を持つ男(ホークアイ)も。

……黒く勇ましい女(ブラック・ウィドウ)も。

 

ハルク(オレ)を見る目はいつも恐れを含んでいた。

 

だから、羨ましかった。

バナーのように、友人が欲しかった。

 

──そんな心に付け込まれたのだろう。

あの赤い女(ワンダ)がバナーの頭をいじくった瞬間に、ハルク(オレ)の目の前が真っ赤になった。

 

恐れを含んだ視線を感じる。

疎ましさを込めた視線を感じる。

それらから逃げるように、全力で走った。

 

やめろ。

やめてくれ。

 

ハルク(オレ)をそんな目で──!!

 

 

「──ハルクさん、止まってください!!」

 

 

そんなハルク(オレ)の目の前に現れたのは、白銀の髪を靡かせた一人の少女、ハルク(オレ)の目を真っ直ぐに見つめてオレ(ハルク)名前を呼ぶ、無手の少女(イングリス・ユークス)だった。

 

 

★☆★

 

「GRRRR──」

 

「うーん、声は届いて……いる、んですかね?」

 

 

脅威の脚力でハルクに追い付いたイングリスは、市街地を背にして興奮状態のハルクへと視線を向ける。呼吸は荒く、強く歯を食い縛っている為に険しい表情を浮かべた顔。肉体は強い緊張状態で、丸太のように太い腕の血管が浮き出し、存在を激しく主張している。

 

この状態のハルクを市街地に入れる訳にはいかない。先程からリューズ達にも通信が繋がらないため、バナーに戻ってもらうか、話が通じるのであればハルクのまま元の場所まで戻りたいところではあるが──。

 

 

「GRR──GYAAAAAAAA !!」

 

「ッ、霊素殻(エーテルシェル)ッ!」

 

 

──そう上手くはいきませんよねぇッ!

 

とっさに霊素(エーテル)を体表面を覆うように纏い、肉体の強化を行う。攻撃力と防御力を底上げする単純な技だが、ハルクの攻撃を耐えるのであれば、これが最低限(・・・)

 

 

「おッ、も──!?」

 

 

振り下ろされる拳を、真正面から受け止める。隕石が落ちてきたのかと錯覚するような衝撃が体を駆け抜け、威力に地面が耐えきれずに陥没する。

 

かろうじて耐えたものの、片腕に対して全身で防ぐのはあまりにも割に合わない。イングリスは意識を切り替え、防御ではなく回避を軸に動き始めた。

 

 

「GRAAAAAAAA!!」

 

 

片腕で押さえ込まれて動けないイングリスの胴体へと、空気を押し潰すような音を立てながら振り回される豪腕。それが直撃する直前に、体を駒のように回転させることで体表を滑らせて威力を抑える。

 

そのままハルクの右側面に出ると、体勢を整えられる前に彼の腰へと小さく前へ倣え──。

 

 

()拍子(びょうし)ッ!!」

 

 

空手、柔術、中国拳法、ムエタイの要訣からなる超々密着状態かつノーモーションから放たれる鋭い突きが、無防備なハルクの脇腹へと突き刺さった。あまりの威力に、突き抜けた衝撃が背後の枝を揺らすほどだ。

 

 

「GAAA──!?」

 

 

腹部に感じる重い鈍痛。銃で撃たれようとムジョルニア(ハンマー)で殴られようと、彼の分厚い皮膚や筋肉を貫くことはなかった。それをイングリスは易々と貫き、内臓へとダメージを押し付けてきた。

 

洗脳されて我を忘れていたハルクがたたらを踏み、わずかに怯む。その隙にイングリスは一足飛びに彼から距離を取った。

 

 

「……(プラス)、浸透勁。流石にこれなら通るようですが……」

 

 

──イングリス・ユークス。最強を目指し、武術、魔法、超能力問わず、これまであらゆる強者と対峙してきた従騎士であり武術家。

 

武術の師である白浜兼一曰く、『闘争と向上心が掛け合わされた戦闘狂い。しかも僕の若い頃に出会った同期の誰より圧倒的に才能があるとか、今時の子供は怖い』とのこと。

 

『無拍子』や『浸透勁』等の伝授の他、全身の筋肉をピンク色筋へと鍛え上げ、肉体や技術の基礎を詰め込んだ師からも(ある意味で)恐れられる存在となったのが彼女である。

 

……とはいえ、彼女とて無傷というわけではない。霊素殻(エーテルシェル)によって強化していたにも関わらず、ハルクの拳を受け止めた両腕は内出血を起こし、上手く指を動かせないほどに痺れてしまっていた。そんな状態で放った『無拍子』は本来よりも格段に威力が落ちてしまっている。

 

また紙一重で攻撃を避けた際、風圧により衣服はところどころ裂けており、切り傷からは血が滲んでいる。靴に至っては負荷に耐えきれず、短く広めのヒールにヒビが入っていた。

 

あと数合もぶつかれば、イングリスの肉体は決して無視できない損傷を負うだろう。

 

 

「G──AAAAAAAッ!!」

 

「ムッ──」

 

 

呼吸を整えたハルクが地面を踏みしめ、大きく跳躍した。ビルの10階に相当する高さまで飛び上がると、落下と共にイングリスへと両腕を振り下ろす。

 

 

「HULK SMASH!!」

 

「──ッ!」

 

 

──まともに受ければ死ぬ。直感にも似た脳内の警報に反応して反射的に後方へと距離も取るも、ハルクの腕が地面に直撃したことで、地割れに加えて砕けた石や土が弾丸のようにイングリスへと殺到した。

 

一般人であれば蜂の巣となる威力。それらがイングリスを中心に半径1.5m圏内に入った瞬間、側面を弾かれて地面へと払い落とされる。

 

『流水制空圏』。流れる水に逆らわぬように、相手の動きにあわせて動く先読みの境地。飛び交う破片の中にいて、致命的な軌道にある破片のみを確実に払うそれは、こと防御において無類の強さを誇り、師のように極めれば相手の動きをコントロールできる代物……なのだが。

 

 

「このままでは埒が明きません。なんとか彼を市街地から遠ざけないと──」

 

 

決め手に欠ける。未だ極めていないイングリスは第一段階の『相手の流れにあわせる』ことしかできない上、ハルクの攻撃が苛烈過ぎるため、避けられる場所が後方しかなく、このままでは近いうちに市街地へと被害が出てしまう。

 

何か方法は無いかと考えを巡らせていると、耳に装着していた通信機から声が聞こえてきた。

 

 

『──イングリス嬢、聞こえるか』

 

「スタークさん?」

 

『ウルトロンの複製体を倒したところだが……今、どうなっている。バナーは無事か?』

 

「すみません、私の不手際でバナーさんが洗脳されてしまいハルクに変身してしまいました。現在は市街地へ行かないよう足止め中です」

 

 

イングリスの回答にスタークは息を飲む。強いとは思っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。あの(・・)ハルクを単身足止めをするなど、ソー以外で達成できた者はいない。

 

絶句しているスタークに、イングリスは困ったように伝える。

 

 

「ですが決め手に欠けていまして、少し時間が欲しくてですね」

 

『……分かった、僕もすぐにそこへ行く。F.R.I.D.A.Y.(フライデイ)、ヴェロニカの準備を』

 

《かしこまりました》

 

『他にハルクを相手にできるヤツはいるか、歓迎するぞ』

 

 

ともかく、今はハルクを止めることが先決だ。F.R.I.D.A.Y.へと指示を出してから、アベンジャーズのメンバーへと通信を繋げる。しかし、色好い回答はない。

 

 

『悪いなスターク、船内のメンツは俺以外全滅だ。悪夢を見せられて動けない。丁度、停止したリューズも見つけたとこだ』

 

『あぁくそ、せめてソーがいれば楽だったんだが』

 

『汚い言葉を使うな、またキャプテンにどやされるぞ。俺は倒れたメンバーをクインジェットに回収してからそっちへ向かう。すまないが、ハルクのことは任せる』

 

『頭が痛いな』

 

 

バートンからの通信が切れた。同時に、アイアンマンのアイカメラがハルクとイングリスの姿を捉えた。滅茶苦茶に暴れるハルクの攻撃をギリギリで受け流しており、余波で地面は穴だらけだ。

 

暴風と見紛う攻撃の嵐が吹き荒れる中心から、息も絶え絶えにイングリスはスタークへと一つ依頼を伝える。

 

 

「……スタークさん。ハルクさんを止める手段が一つあります」

 

『なに?』

 

「ただ力を溜める必要があるので、一分間ほど私からハルクさんの意識をそらしていただけませんか」

 

 

確信を持って伝えられた確固たる意思を持つ言葉に、スタークは──。

 

 

『分かった、一分だな。任せろ』

 

 

──躊躇すること無く了承した。

 

着陸態勢へと入ったアイアンマンにあわせて、上空から赤く巨大な機械の塊が降下。部品が分離したかと思えば、同じく飛行してきたアイアンマンへと装着され、ハルクよりも一回り大きな機体が姿を現した。

 

アイアンマンMark.44。

通称『ハルクバスター』。

 

スタークとバナーが共同で開発した、文字通り対ハルク専用機。地球の衛星軌道上に設置され、常にアイアンマンの頭上で待機。有事の際に起動する決戦兵器である。

 

ハルクとイングリスの間に割り込むように着地すると、ハルクの拳を合金(アイアン)の拳で真正面から迎え撃った。衝突と共に衝撃と風圧で木の枝がへし折れ、砂塵が舞う。

 

 

「GRAAAAAAAA ──!!」

 

『ハルク、落ち着け!』

 

 

掴みかかるハルクの首と胴を掴み、柔道の投げの要領で持ち上げ、背中から地面に叩き付ける。さらに手首の排出口から麻酔を浴びせながら、ハルクの顔へピストンを利用した拳の連打を喰らわせる。

 

 

『ええい、眠れ眠れ眠れ!』

 

 

ハルクはその腕を側面から掴み、力任せに引きちぎる。理論上、ハルクのパワーでも30秒は持つはずの強度で作ったはずなのだが、それをあっさりと超えてくる現状にスタークは焦りを禁じ得ない。

 

リパルサーで接近されることを防ぎながら、空で待機しているヴェロニカから予備パーツを射出し、壊れた腕と交換。肘からリパルサーを発射することで、加速された拳がハルクの顎をカチ上げた。

 

一見、互角にも見える戦い──だが、ハルクバスターの強度が足りない。ハルクの拳が掠めるたび、装甲が剥離し、すりおろし器で削られた野菜のように機体が小さくなっていく。

 

──ヴェロニカからの部品供給が間に合わない。ついには内部のアイアン・スーツにすら亀裂が入ろうとして。

 

 

「──スタークさんッ!!」

 

 

背後から聞こえたイングリスの声に、反射的に地面を蹴り上げ、斜線上(・・・)から全力で退避する。ハルクが振り抜いた腕が地面を叩き、地面が大きく砕け散る。

 

ハルクがアイアンマンを追って視線を上げ──目の前を塗り潰す真白の光景に目を見開いた。

 

光だ。まばゆい光。世界を貫く真白の光。

その中心で叫ぶのは、白銀の髪を靡かせた少女。

 

 

霊素(エーテル)(ストライク)──ッ!!」

 

 

少女(イングリス)が真っ直ぐ拳を振るった瞬間、力の奔流が極光となってハルクの体を呑み込んだ。大地の表面を削り、その巨体を後方へと吹き飛ばす。

 

閃光と、空気を引き裂く轟音がハルクの咆哮を押し潰しながら、視界の全てを真白に満たした。

 

──光が、閉じる。

 

イングリスの拳の先には、半円に抉れた大地と、その中心では気絶したハルクが萎んだ風船のようにバナーへと戻っていく。

 

 

「は、ぁっ……はぁっ、ようやく、止まりっ、ました……か……」

 

 

息も絶え絶え。全てを出しきったイングリスは、膝から崩れ落ち、眠るように意識を失った。駆け寄ったスタークが見たその表情は、どこか満足げに微笑んでいるようにも見えた。

 

 

★☆★

 

《大西洋上空、クインジェット内部》

 

スタークとバートンは回収した6人をクインジェットに乗せ、バートンの操縦で南アフリカから離れていく。ウルトロン達の行方は知れず、7割がダウンした状況では一度撤退する他になかった。

 

悪夢は既に終わっているようで穏やかに眠ってはいるが、心と体の疲労が重なったことで起きてくる気配は無かった。

 

 

「──イングリスのお嬢ちゃんは大丈夫か?」

 

 

バートンがスタークへと問いかける。何せハルクと真正面から殴り合ったらしい。人の形を保っているのが不思議な程だ。

 

 

「体に異常は無い、応急処置で治るかすり傷や打撲程度。体内のエネルギーが切れたのか、眠ったままだ」

 

「気絶したとはいえハルクをバナーに戻したんだろ? 最近の若い子はとんでもないな」

 

「僕は、彼女達を集めている教会に思うところがあるけどね。千束といいイングリスといい、浅上は何を企んでいるんだか」

 

「さて、俺には分からん」

 

 

長い間S.H.I.E.L.D.(シールド)に所属し、一般人が知らない日陰に潜む存在を制圧してきたバートンも詳しい話は知らない。より潜入に向いているロマノフすら情報を集めることに苦戦しているあたり、さもありなんと言ったところか。

 

フューリーであれば何か知っているのかもしれないが……あの秘密主義が服を着たような男が話すとも思えない。肩をすくめながら、もう一人の少女を気にかける。

 

 

「リューズの方はどうだ」

 

「……スキャンをしたところ人でないことは分かった。ロボットに近いが、内部の構造が全て歯車で構築されている。まるでゼンマイ時計の中身だ。作ったヤツは天才だな」

 

「一昔前にテレビで流行ったびっくり人間のオンパレードだな……。目を覚まさせることはできそうか?」

 

「何一つ機材のないこの状況じゃどうしようもない。タワーであればなんとかなるだろうが……」

 

 

つまり、一人分の戦力ダウンといったところだ。もとより単独で行動していたとはいえ、痛いことには変わりない。

 

 

《──リューズの起動であれば、こちらに任せてくださいな!》

 

 

難しい表情を浮かべていたスタークへと、クインジェットのモニターから声が届いた。視線を向けてみれば、見たことのある青色のジャージを着用した少女の姿が映し出されている。

 

 

「君は……エネ、だったか」

 

《あれ、もう忘れられてます!? スーパープリティ電脳ガールのエネちゃんですよ!》

 

「いや覚えている。ここ最近で最も印象に残っているくらいだ」

 

 

特徴的過ぎる自己紹介。肉体を電脳化できる超常の能力。忘れようとも忘れられない。特に後者は、その異常さを理解できてしまう天才だからこその感覚だろう。

 

とはいえ、その解明は後回しだ。とても、それはもう科学者としてとても解明してみたいが、今優先すべきことは戦力を建て直すこと。

 

 

「それで、起動できるのか?」

 

《はい! クインジェットを目印に担当の技術者を案内しましたので大丈夫ですよ。夜明けには合流するかと》

 

「目じっ……おい、ステルスにしているはずだが」

 

《その担当者はハッカーなので。少し前、ヒルさんと通信されていた時にマーカーをちょちょっと。ま、私と組めばどんなセキュリティもイチコロです!》

 

「イチコロはマズいだろう、ウルトロンに見つかったらどうするんだ」

 

《そんなヘマしませんよ!》

 

 

失礼な! なんて叫びながら、威嚇をするかのように両手を上げるエネ。一度、ウルトロンから身を隠して戦闘を避けた実績があるため信用はできるのだろうが、やたらテンションが高いせいで、どうにも幼子が得意気になっているように見えてしまう。

 

 

「で、どんなヤツなんだ。君たちみたいな人間なのか?」

 

《まさか、普通の人です。銃弾で傷一つつかない程度の》

 

「普通じゃないぞ、それは」

 

《いえいえ、彼女の特筆すべきはその天才性。定期的にリューズの体をメンテナンスできる方なので、頭の良さはウチじゃ一二を争うほどですからね! ──もしかすると、貴方よりも》

 

「……ほう、僕よりも天才、と来たか」

 

 

エネの得意気な表情に、スタークは興味が湧く。これまでの人生、幾度となく『天才』の二文字を浴びてきた彼を前に、電脳化という興味深い力を持つ少女が別の天才を挙げて『貴方より上』だと言ってきたのだ。こんな状況だというのに、負けず嫌いな一面が表に出そうになる。

 

そんなスタークの内心を知ってか知らずか、エネはその名前を紹介した。

 

 

《ええ、きっとお話も合うことでしょう。自称『ミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカー』──明星ヒマリ、その人と!》

 

「なんだって?」

 

 

スタークは頭が痛くなった。




【リューズ(MCU)】
・本来であれば自己修復機能は搭載されていないが、ナオトとマリーによって後付けされた。自分達がいなくなっても、リューズが歩いて行けるように──。

【イングリス・ユークス(MCU)】
・圧倒的にパワー負けしているはずの白浜兼一に敗北してから、彼を師と仰いでいる。
・最近、あまり手合わせをしてもらえないことが悩み。

【白浜兼一(MCU)】
・武術(活人拳)の達人。
・空手、柔術、中国拳法、ムエタイを修めている。
・弟子にヤバいヤツしかいなくて震えている。
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