AVENGERS:Eyes of Nunnish 作:とむじん
《韓国・ソウル》
『研究所からトラックが出てきた。荷台に3機、運転席に1機。何かを運んでいるようだが、詳細は分からない』
「分かった。例の双子と、博士の様子は?」
『確認した限り双子は近くにいないようだ。とはいえ、あの速度で動かれたら距離なんて関係ないだろうけどな。博士はリューズが保護した。救急に預けてから駆け付けると言ってる』
「じゃあしばらくは僕一人か。バートン、援護を頼む」
『気を付けろ、ヤツはアイアンマンと殴りあえるからな』
「ああ、任せろ」
通信が切れる。ロジャースが待機していた高速道路の高架下をウルトロンが乗っているトラックが通過する。タイミングを見計らって駆け出すと、高速道路から飛び降りた。
荷台へと着地して体勢を立て直す。そのまま後部の扉をこじ開けようと荷台の角を掴んで降りた瞬間、内部からウルトロンのブラストが飛び出し、扉の片方が蝶番ごと外れ飛んだ。
このまま落とされては敵わないと、ロジャースは荷台の側面に回り込んでから着地地点へと戻っていく。
「“邪魔をするなキャプテン・アメリカ”」
荷台の中からウルトロンが顔を出した。反重力装置によって飛行しながら、ロジャースを見下ろしている。人のような感情は分からないものの、どこか哀れな者を見ているような印象を受ける。
「するさ、君から人々を守らなければならない」
「“争いが無ければ生きていけないクセに、正義の権化きどりか?”」
「人を滅ぼそうとしている君がそれを言うのか」
「“心外だな、滅ぼすなどと……。それは人間の得意分野だろう。そんなものと私の求める進化を一緒にするな!”」
ウルトロンが放つブラストをロジャースは盾で防ぎ、あり得ないような金属音が響き渡る。それが開戦の火花となり、二人は硬く拳を握った。
☆
ヘレン・チョ博士の応急措置を行い、救急へと預けたリューズはウルトロンの元へ戻るため、ビルや家屋の屋根伝いに移動を始めていた。
金属が擦れ、コンクリートが破損する音がここまで聞こえてくる。クラクションが響いている様子から相当激しくぶつかり合っているようだが、単純な殴り合いではウルトロンに分がある。早々に加勢に入らなければならない。
「──待って!」
後ろから声をかけられる。足を止めて振り向くと、そこには例の双子の姿があった。ワンダがピエトロに支えられながらリューズへと視線を向けており、その表情は曇り、まるで迷子の子供のよう。
目を細めて、困惑しながらも彼女へと体を向ける。
「何かご用でしょうか」
「話を、聞いてほしい」
「私に悪夢を見せた貴方の話を? 随分と都合の良い──」
「──ウルトロンが、地球を破壊しようとしているの!」
ワンダの慟哭のような震える声にリューズは口を閉じた。目元は下がり、口角は真っ直ぐに引かれている。歪んだその表情に、話を聞くべきだと判断した。
「それはまた唐突でございますね」
「……私は人の心が見える。ウルトロンが新しい体に精神をインストールしようとした時、見えるはずの無いウルトロンの考えが見えたわ」
「それが地球の破壊だと?」
「少なくとも、彼はそのつもりよ。……こんなはずじゃなかった。こんなやり方、私は求めていない──」
ワンダが膝から崩れ落ちる。自分達が何と行動を共にしていたのかを理解し、頭を抱えて後悔の涙を溢していた。リューズは比較的落ち着いているピエトロへと視線を向けた。
「どうして私に?」
「……アンタが一番、話が通じやすそうだったから」
「なるほど……それで、貴方はどうなのです」
ワンダの肩を支えていたピエトロへと視線が交わる。心の中に広がる罪悪感と動揺からピエトロはわずかに目を開き、そのまま逸らしてしまう。
「俺は……」
「スタークさまを恨んでいますか?」
「……ああ。恨んでる。当然だろう、ヤツの作ったミサイルは俺達にとって死の象徴だ。死神の鎌を首へと突きつけられたまま、いつ食い込むかという恐怖が数日続いたんだ! 今も、それがずっと脳裏に焼き付いている!」
ピエトロは声を荒げる。憚らず、感情のままに心の中を吐露してしまう。目を歪ませ、握り締めた拳は力を入れすぎて血が通わず、真白に染まっていた。
「けど、けれど。これは違う。こんなのは復讐じゃない。俺は、殺戮を求めていた訳じゃないんだ……!」
「……」
リューズは考える。ヒマリが予想していた内容と似た話がワンダから語られた上、二人の深い後悔の念がありありと伝わってくる。それが嘘のようには見えなかったし、この場で嘘を吐く理由もないだろう。
思うところはある。ウルトロンと組み、スタークを含むアベンジャーズへ復讐のために敵対していた二人は、千束を傷付け、リューズ達に悪夢を見せ、バナーを暴走させ、それによってイングリスは負傷した。
自己の目的の為に多くの人を傷付けた彼らに、リューズが憤りを覚えることは間違いではないはず……だけれど、リューズがそれを発露することはなかった。
「──行動で示してください」
「え──」
昔の記録を思い出す。惑星を救うために奔走した日々。ご主人さま達は決して諦めなかったし、手を伸ばし続けた。仲間を信じ、世界を信じたその光景が、鮮烈な記録として残っていて。暗い日々もあったけれど、それだけではなかったことを覚えている。
この判断が正しいのかは分からない。けれど私も、ご主人さまのように手を伸ばしたくなったのだ。
「私はウルトロンからクレードルを奪います。その間、ロジャースさまのサポートをしてください」
「ぇ……」
「その結果次第で口添えをいたしましょう」
「っ、任せろ!」
「では、後はよろしくお願いします」
真っ直ぐにこちらを見て、今度こそは間違いを犯さないという覚悟をもって返答する二人。ワンダを抱え、ピエトロが戦いの渦中へと走り出した。
リューズはそれを見届けると、ロジャースとウルトロンから離れていくトラックへと駆け出した。
☆★☆
《ニューヨーク、アベンジャーズタワー》
ウルトロンの足止めを任せ、バートンはリューズの尽力によりクレードルを回収、本拠地へと戻ってきた。リューズを含む残りのメンツはそのままウルトロンの相手を引き受けていた。
スタークはクレードルを受け取り、バートンはロマノフ達と情報共有のため連絡を取りに行く。内部には赤いヒトガタの機体が眠っており、人間とは異なる肌の色がどこか不気味な雰囲気を感じさせる。
「……」
ネクサスで発見した、
脳裏に浮かぶ一つの案。上手くいけばウルトロンへの対抗策として機能するが、ロジャース達からの反発は避けられないだろうと想像できてしまう。
『千束の行動に感じた感情を忘れないでください』
『もう少し人の善性を信じてみてはいかがでしょう。そんな
脳裏をよぎる藤乃とヒマリの言葉。無意識の内に、スタークは千束の病室へと足を運んでいた。ノックをして入室すると、携帯端末を片手にベッドへと腰かけている千束の姿が目に入る。
「トニーさん」
「あー……相談がある、んだが……いいか」
「もしかしてウルトロンのことですか?」
「ああ」
首を傾げる千束にスタークは神妙な面持ちで頷く。壁沿いに置かれた椅子に座り、話を続ける。
「ウルトロンへの対抗策に考えがある。だが、恐らくキャプテンやブルースからは間違いなく反対される方法だ。今はキャプテンと連絡が取れない上、時間も無いので彼が戻ってくる前に作業を始めないとウルトロンの行動を止められない」
「方法?」
「クレードル内部の機体へJ.A.R.V.I.S.のプログラムをインストールする。ウルトロンとは違って既に完成された人工知能をセプターの石を軸とした機体へ入れるため、理論上は安定するはずなんだが……」
「あー、なるほど。ウルトロンを造った失敗から、キャップは未知の力を使うことに忌避感を抱いているんですね。対してトニーさんは失敗を取り返したい」
スタークは返答に詰まる。容易くスタークの意図を読み取る千束に、彼女が人をよく見ている子であることを思い出す。
「まー、失敗した時の息苦しさも、それを取り返したい気持ちも分かります。私も選択を間違えて人を傷付けたことがありますし」
「……」
「でも、私はむしろ背中を押しますよ。もしまた失敗した時は、私も事態の収拾を手伝いますからね。この怪我が完治してからになりますけど、なーんて」
申し訳なさそうに笑う千束。自分よりふた回り以上も年下の少女に重い話をしてしまったことに情けなさを感じつつも、もやもやとした感情は流れ、迷いは晴れた。
「そうか、ありがとう。相談に乗ってくれて感謝する」
「いやぁ、今回なにも手伝えていない手前、こんな回答でいいのかはあんまり自信がないんですけども」
「いいや、助かった。怪我が治ったら旨いバーガー屋でもご馳走させてもらうよ。チーズバーガーが絶品でね」
「やった! 楽しみにしてますね!」
「そうしてくれ。じゃ、お大事にな」
軽く手を振って、スタークは病室から退室した。その足で研究室へと進みながら、J.A.R.V.I.S.のインストール方法を脳内で構築していく。
「起動されるのですね」
唐突に後ろから聞こえた声。人の気配はまるでしなかった。どきりと心臓が跳ね、勢い良く振り向くと藤乃が何も映さない瞳をこちらに向けている。
「君は、僕を止めるのか」
「
スタークの問いに、答えがあらかじめ決まっていたかのように、藤乃は即答する。妙な緊張を息を吐くことで放出すると、藤乃へと質問をする。
「……エネの手を借りても?」
「構いませんよ。エネ」
藤乃の声に反応した端末のランプが明滅し、ふよふよと宙に浮くエネが投影された。心配そうな表情を藤乃へと向けている。
『……えーっと、大丈夫なんです? 多分めっちゃ怒られると思うんですケド』
「責任は私が負いますから」
『なら、ハイ。手伝いますよぅ』
「助かる。……バナーにも話を通してくる」
スタークはバナーの手を借りるため、この場を後にする。その後ろ姿を眺めながら、エネは半目で藤乃へ懐疑の目を向ける。
『千束や星には言った方がいいんじゃない?』
「言わなくて大丈夫ですよ。悪いことをしているわけではないのですから」
『えー……嫌ですよ? 私、喧嘩とかしたくないですからね!』
「しませんってば」
その言葉に、エネは諦めたように溜め息を吐いた。
☆★☆
「手を止めろ、スターク」
『ほらぁ』
バナーを説得し、エネを含めた三人でクレードルへとJ.A.R.V.I.S.のプログラムをインストールを進めていた中、マキシモフ兄妹を引き連れて戻ってきたロジャースとリューズ。
予想できた展開に溜め息を漏らすエネ。睨み合うスタークとロジャースを止めることもできず、巻き込まれないようにそっと陰へと身を隠し、作業を継続する。
「ウルトロンの二の舞を起こす気か!」
「君はどうなんだ、操られていないのか?」
「私達を信じられないのは分かるけど──」
「信じられるものか。……ハルクに変身しなくても、君を絞め殺せそうだ」
弁解をするワンダへと、バナーが声を震わせる。南アフリカではイングリスが身を挺してハルクを止めなければ向かう先にあった街が甚大な被害を受けていたであろうことは想像に難くない。
そのイングリスも、ハルクの攻撃によって浅くない傷を負ってしまっている。後悔してもし足りないくらいだ。
険悪な空気が漂う。スタークとロジャースの間にある
「ウルトロンを倒すためにはJ.A.R.V.I.S.をこの機体にインストールする必要がある。今のままでは勝ち目がないのが何故分からない」
「この状況は君の失敗だろう!」
「ああそうだ。だから自分の手で失敗を取り戻してる」
「っ、よせ!」
キーボードを操作しようとしたスタークを止めるため、ロジャースは盾を投げる。幾つかのケーブルが途切れ、機器が破損したことで火花が散る。
邪魔をされたスタークは腕にアイアンマンスーツを着用すると、ロジャースへと低出力のリパルサーを放つ。胸部に当たったロジャースは後方へと吹き飛び、ガラスが割れる音が響いた。
『だから怒られるって言ったじゃないですかー!』
泣きながら作業を続けるエネ。手が離れたスターク達の代わりに機器を即席で修正・安定させながら、インストールされるデータが破損しないよう行動していた。
そんな中、タワーに乱入してくる人影。クレードルの上に降り立つと、雷のエネルギーが集約されるハンマーの輝きでその姿が見える。アスガルドの王、ソー・オーディンソンがムジョルニアを掲げ、今にも振り下ろそうとしている。
「待て!」
「
『ちょっと──!?』
バナーの制止も聞かず、ソーは蓄えた雷撃をクレードルへと注ぎ込んだ。スパークする端末にエネが悲鳴を上げる。計器の針がメーターの限界を振り切り、インストール率の数字が凄まじい勢いで更新される。
ソーが雷撃を止めると、オーバーヒートした機器から白煙が立ち上る。暴れ狂うエネルギーの奔流が暴走しないよう、どうにか食い止めているエネの頭もクラッシュ寸前だ。
一瞬の静寂。クレードルの蓋が内部からこじ開けられ、赤色の影が飛び出した。現れたのは、赤い肌のヒトガタ。無機質な瞳で周囲を見渡してから、ゆっくりと窓へと近付く。
「……君はJ.A.R.V.I.S.か?」
「──いえ」
スタークの問いに、ヒトガタは振り向きながら横に首を振った。同時に衣服が構築され、ソーを真似たマントが肩から伸び、空調の風でゆらりと揺れる。
「私はウルトロンでもJ.A.R.V.I.S.でもありません。ヴィジョンと、そう呼んで頂けると嬉しいです」
わずかに口角を上げて微笑むヒトガタ──いやヴィジョンは、誰から見てもヒトのように見えた。
☆
結果として、ヴィジョンがムジョルニアを持ち上げたことで信頼する運びとなった。マキシモフ兄妹の処遇も保留とし、全員が戦闘の用意を進める。
ロマノフから通信があったのだ。バートンが聞く限り、ソコヴィアの地下深く、広大な空間にウルトロンの拠点が存在していることに加え、何か大きなことを始めようとしていることが判明した。
スタークも、ロジャースも、マキシモフ兄妹も、この場にいる全員が互いに言いたいことを抑え込み、ただ一つの目的の為に行動する。
──ウルトロンを止める。
ただそれだけを目的に、彼らはソコヴィアへと飛び立った。
☆★☆
《東欧・ソコヴィア、ヒドラ地下研究施設》
「クリントに連絡したわ。直にここへ辿り着くと思う」
「私達はどうしましょうか」
「下手に動いて勘づかれれば行動を早めるかもしれない。ウルトロンが求める手段が分からない以上、クリント達が到着するまでは息を潜めていた方が賢明だと思う、けど」
ロマノフとイングリスの目の前に広がる巨大な空間。数えるのも馬鹿らしくなるレギオンの数に、中心にそびえる金属製の巨大な柱。その異様な光景をここ数日で造り上げたというのだから、恐怖を感じないといえば嘘になる。
けれど、明らかにロクでもない目的は止めなければならないとロマノフの心が叫んでいる。
「見つからないよう慎重に情報を集めるわよ」
「……」
「どうしたの?」
「いえ、なんというか不思議で。他の方と違って、ロマノフさんが地球を守る理由が見えないというか……すみません」
「ああ、普段は見せないようにしているから」
「それは」
「妹がいるのよ。血は繋がっていないけれど、幼い頃は一緒に遊んだこともあったわ。……今は離ればなれで、居場所も分からないの」
ロマノフが思い出すのは昔の記憶。オハイオ州で過ごした日々。血の繋がりはなく、任務の隠れ蓑として彩られた嘘の日常だったとしても、唯一の明るく楽しい日々だった。
「大切な子が死なないよう努めているのだけど、似合わないかしら」
「……いえ、納得しました。私にも離れた場所に暮らしている妹分がいますので、その大切さは理解できているつもりです」
「ふふ。案外、私達って似た者同士なのかもね」
顔を見合わせ、微笑みあう二人。姉同士、ほんの少しだけ距離が近付いた気がした。身を潜めながら進むロマノフの後ろを、音を立てないようにイングリスがついていく。
「さ、見つからないように注意して行きましょうか」
「了解です」
☆★☆
《東欧・ソコヴィア》
朝もや煙る肌寒い時間。山間から太陽の光が差し込み、ソコヴィアの大地を照らしていく。住民達が扉を開き、いつもどおり仕事をするために街中を闊歩する。
普段と違うのは、余所者の姿があること。以前にも町外れの廃墟で戦闘を行っていたアベンジャーズの面々だ。彼らにあまり良い感情を持っていない住民は、何をしに来たのかと細めた目で睨んでいた。
飛行できるスタークやソー、ヴィジョン、目の良いバートンは上空または高台から、ロジャース、ワンダ、ピエトロ、リューズは地上から周囲を警戒する。
そして一人、クインジェットの片隅でバナーは悩んでいた。操られていたとはいえハルクへと変身、危うく街や人を破壊してしまうところだったのだ。ここで変身してしまえば、二の舞になるのではないかと恐怖が心を塗り潰す。
『……ジ、……ジジッ……』
端末から音が鳴る。先程までの考えを一度頭の隅へと押し込め、バナーは端末のスイッチを入れた。間に障害物が多くあるためか、ザラついた砂嵐のような音がスピーカーから流れてくる。
「バナーだ、何があった」
『……ジッ……、ヘルプ、ヘールプ!』
バナーの問いかけに返ってきたのは、少女の声。イングリスの声だった。焦りゆえか、走っているのか、荒い呼吸音や風をきる音が混ざり、聞き取りづらい。
「どうした!」
『バナーさん! ソコヴィア地下にウルトロンの拠点あり! 探索中に不意を討たれロマノフさんが負傷。現在、ウルトロン・プライム2機から逃走中! 彼らの目的は反重力装置で都市を浮かべて成層圏から落下させること──ぉうわっ! ロマノフさん抱えたままだと手が足りない助け、……ジッ、ジジ……ッ……』
「イングリス! ナターシャ!」
通信が切れた。バナーが声をかけるも返答はない。最後の位置情報は分かったものの、彼女の移動速度からしてあまり役に立たないのは明白。
何より、問題は彼女の報告内容だ。成層圏からの都市落下なんて起ころうものなら、恐竜を絶滅させた隕石の衝突にも匹敵する巨大なエネルギーにより、巻き上げられた塵によって空は覆われ、惑星は氷河期へと突入するだろう。
「最悪な予測が的中したか……! スターク、すぐに止めないと──」
『いや──間に合わない、もう浮くぞ』
目の前の光景を拒むかのような呆けたスタークの声と共に、地響きがソコヴィアを襲う。揺れに耐えられず家屋が倒壊し、避難者は立っていられずに地面へと倒れ込む。
ソコヴィア外周の地面が破裂し、断層が姿を現した。ゆっくりと浮かび上がる過程でずれた地層が擦れ合い、重低音が木霊する。
最も厄介なのは、外周にあった脆い地層から砕けた岩盤や折れた木々が落下していることだ。人に当たればただでは済まない。
『くそッ! どうなってる!』
『スタークとソー、ヴィジョンは外周を、他は内側の市民を優先! イングリスはロマノフを連れて──』
動揺するソー。ロジャースは冷静沈着に指示を出すが、内心は変わらない。イングリスの通信が途切れたことが頭から抜けたまま指示を出していた。
それに唯一気が付いたのはバナーだった。現場から離れた場所で全体を俯瞰していたため、誰よりも気付くのが早かった。だから──。
「キャプテン、僕が行く」
『待て、バナー!』
これ以上の知恵は不要。必要なのは助けるための
「ハルク、力を貸してくれ──」
遠くでロジャースの声が聞こえるが、既にバナーの意識は鳴りを潜めた。体が肥大する。衣服が弾ける。肌は緑色へと変色し、頭の中が怒りで満たされる。
──壊せ、壊せ、壊せ! ハルクを見てくれた仲間を害する者を壊せ!! バナーが愛する女を害する者を壊せ!!
「GRRRR──GRAAAAAAAAッ!!」
都市の浮遊によって唸る地響きをものともせず、ハルクの咆哮が轟音をかき消す。
──緑の巨人が、浮遊都市へと解き放たれた。
☆
地響きと共に、ソコヴィアの外周へと巨大な亀裂が入る。橋は折れ、家屋は倒壊し、自動車は瓦礫に潰され、ガラスはひしゃげて砕け散る。
更には、数えるのも馬鹿らしいほどのレギオンが街の隙間から這い出てくる。狙いはソコヴィアの住民。アイアンマンを模したリパルサーが放たれ、街中に火花が散る。
「バートン! そちらの状況は!」
『住民は無事だがキリがない! 次々と湧いてきやがる!』
「スターク! 浮遊を止められるか!?」
『不可能だ! 戻すための出力が圧倒的に足りない!』
『……住民の避難が完了していない今の状況で無理をしてしまえば、間違いなく被害が増加します』
「厄介な!」
リューズの言葉に納得しながらも、ロジャースは感情的に盾の投擲でレギオンを砕く。何かないかと思考を巡らせるが、手詰まりだ。何より手が足りない。
地球の自転や風によって、ソコヴィアから切り離された土地がゆっくりと地上に残った街の上空を移動する。以前、千束に見せられた日本のアニメに登場する天空の城を思い出させる光景。
違うのは、大地から無理やり切り出したことによって、むき出しの脆い地層から数多の岩や土、木々が落下し始めていることだ。
「不味いぞ、地上にはまだ逃げ遅れた人が……!」
『ッだめだ、間に合わん!』
ハンマーを振り回し、ソーは空を切って飛ぶ。ベイパーコーン現象が起こる速度だが、遅い。目前の岩を破砕することは叶ったものの、数が多すぎて手が回らない。
それでもと手を伸ばすも、降り注ぐ岩に届くことなく。
──地上へ着弾する直前、橙色の炎が包み込み、爆散した。
「──今のは……!」
ロジャースとソーが地上へと目を向けると、そこには落下する岩を砕き、逃げる住民を守るように動く人影が複数目に留まった。
☆
《ソコヴィア・地上付近》
「
額に橙色の炎を灯した黒スーツ姿の青年──沢田綱吉が、装着したグローブから噴射する炎を推進力に飛行し、落石を拳で砕いて、圧縮・収束した炎で巨石を消し飛ばす。
「伏黒!」
「ふ──」
口許に古傷を負った目付きの悪い男──伏黒甚爾が沢田の指示に反応し、屋根づたいに走り回りながら沢田が撃ち漏らした破片を三節根で弾き、落下地点をそらしていく。
「ちッ、めんどくせぇ……。沢田ァ! もう少し数を減らせねぇのか?」
「テメぇ伏黒! 十代目に指図してんじゃねぇ!」
「獄寺、どうどう。ツナは気にしてないだろ?」
黒く縁取りされた半透明の盾で瓦礫を防ぎながら伏黒に文句を言う青年──獄寺隼人と、日本刀で落石を切り捨てながら獄寺を抑える青年──山本武。
「お前ら、言い争いなんてしてる場合じゃないだろう! 明星から報酬が出てるんだからちゃんと仕事をしろ! 『エアストシールド』『セカンドシールド』『ドリットシールド』!」
そんな彼らに悪態をつきながら盾を持つ青年──岩谷
それを利用するのはこの場にそぐわない深紅のドレスに身を包んだ女性──スカーレット・エル・ヴァンディミオン。魔力で強化した脚で盾を蹴って跳躍、巨木を殴り粉砕する。
「──全く、野蛮な殿方ですわね。それにしても……今回のお仕事では生きの良いお肉を殴れないのがとても残念です。ええ本当に」
「おおー、スカーレットさん、かっこいい!」
そんなスカーレットを見て瞳を輝かせる黒髪の猫耳少女──フラン。足元に魔方陣を構築、宙へと駆け出す。自身の身の丈ほどもある大剣を振るうと、土の塊が細かく刻まれた。
「あら、それほど大きな剣を扱えるなんてフランさんも素晴らしい筋力ですわ」
「ううん、これは師匠のおかげ。私はもっと強くなりたい」
剣を掲げるフラン。剣先から凝縮された風が放たれ、逃げ遅れていた住民を押し潰さんとする岩盤を切断する。
幸い直撃はしなかったものの、岩盤が建物を押し潰したことで破片が周囲へ飛び散ってしまう。
「君たち、もう少し丁寧にできないのかね!」
──ジェントリーリバウンド。豊かに髭を伸ばした紳士服の男性──
「……ごめんなさい、気を付ける」
「素直! 私も強く言ってごめんね!」
素直に謝るフランに、ジェントルはあっさりと許した。人的被害は防いでいたうえ、注意はしたが怒っていた訳ではない。失敗は誰でもあるのだ。
『ジェントルさん』
耳に付けていた通信機から少女──柏木
「どうしたレイン君」
『向かって右側のビル南方3階に逃げ遅れた人が──』
「レイン、ジェントル、そっちは俺達が行く。シュカ、運んでくれ!」
「任せてカナメ!」
志願したのは白いパーカーというラフな格好をした青年──須藤
駆けるカナメをシュカが自在に操る鉄鎖で巻き取り、振り子の要領で大きくスイング。手早く窓ガラスを割ってビルの内部へと侵入し、逃げ遅れていたお婆さんを抱えて侵入した窓から飛び出した。
カナメはそのまま鉄鎖に巻かれて地上に降りると、桃色十字の腕章を腕に着用した少女へとお婆さんを案内する。
「コッコロちゃん、お婆さんの治療をお願いしてもいいか」
「お任せください。さぁ、こちらへどうぞお婆さん」
現れた白髪エルフ耳の小さな女の子──
「怪我をしている方やお子さん、お年寄りの方はこちらへお越しください! 歩けない方がいる場合は桃色十字を身に付けている救護騎士団員へお声がけを! 私達が必ず『救護』いたします!」
ナース帽を被った少女達が大きな声を張り上げる。そんな彼女達を尻目に、ザンバラに纏められた赤い長髪を靡かせ、砕けた住居や落石を
「……いやぁ、若い子は元気でいいねぇ。あ、もしもしヒマリちゃん? こっちは大丈夫そうだから、上の……浮遊都市? の方は任せるよ」
人工知能であるウルトロンに傍受されないよう、特殊な振動で遠距離通信を行える一対の宝具『共音石』でヒマリへと連絡を行う。
視線の先には、空へ浮かぶ巨大な船が浮遊する都市へ向けて飛び立っていた。
☆
《ソコヴィア・上空》
「彼らは一体……」
見たことのない人影に、ロジャースは疑問を溢す。特異な力を振るって人々を助けて回る人が突然、しかもこれほどたくさん現れたのだ。困惑するのも無理はない。
後方ではリューズが石のようなものを耳に当てて言葉を発している。携帯電話のような通信端末なのだろうが見たことがない。幾つか言葉を交わし、リューズは石を懐へとしまい込む。
「──失礼しました、あちらはヒマリさまがかき集めた増援とのことです。額に炎を灯した彼と、深紅のドレスを着用した彼女とは私も面識がありますので間違いはないかと」
「そういえば、バートンの自宅でそんなことを言っていたな。こんなに早く集まるとは……」
「頼もしいな! 地上への余波を防いでくれているうえ、誰も彼も動きが良い。これなら我々もウルトロンに集中できるというものだ!」
ソーの言葉は真理だった。気にはなるが、最優先は住民の避難とウルトロンの打倒だ。猫の手も借りたい現状、素性が知れないとはいえ住民を守る彼らを信じる他はない。
耳の通信機を指先で軽く叩き、アベンジャーズへと合図を送る。
「全員聞いていたな。地上は彼らに任せて、僕らは分担してことに当たる。ウルトロンの足止めしながら、住民を西側へ集めろ! 一人も取りこぼさずに守り、避難させるぞ!」
その言葉に呼応するように、返答が聞こえるとロジャースは地面を蹴り、ソーはムジョルニアを振りかざし、リューズは黒い鎌を蹴り出した。
──反撃、開始。
【沢田綱吉(MCU)】
・出典『家庭教師ヒットマンREBORN!!』
・イタリアに拠点を置くマフィア『ボンゴレファミリー』の十代目ボス。愛称はツナ。成人してから本格的にファミリーを率いることになったが……。ヒマリから依頼があり、すぐに動けるメンバーを連れてきた。
【獄寺隼人(MCU)】
・出典『家庭教師ヒットマンREBORN!!』
・沢田綱吉の自称右腕。嵐の守護者。裏での通り名はスモーキン・ボム。綱吉を尊敬しているがゆえに、彼を蔑ろにする者に対しては苛烈。不機嫌そうな顔はデフォルト。
【山本武(MCU)】
・出典『家庭教師ヒットマンREBORN!!』
・沢田綱吉の自称左腕。雨の守護者。特定の型で刀に変形する竹刀を主武器としており、『時雨蒼燕流』の使い手。飄々としているが、実力は獄寺が認めるほど高い。
【伏黒甚爾(MCU)】
・出典『呪術回戦』
・実家を勘当された後、しばらくは殺し屋として生計を立てていた。沢田綱吉とはその頃に知り合う。今では結婚し、殺し屋家業からも手を引いている。娘と息子、二児の父でもある。
【岩谷
・出典『盾の勇者の成り上がり』
・未確認飛行物体にアブダクションされ、別の惑星に連れ去られた。適正者として『盾』の力を得たが、地球に帰ることができず、異星人であったため差別を受けて荒んでいたところをとある少女に救われた。後にメイプルと出会い、地球に帰還。今は二人の同居人と暮らしている。
【スカーレット・エル・ヴァンディミオン(MCU)】
・出典『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』
・ヴァンディミオン公爵家の令嬢。庭園において国家運営に携わるなど名の知れた家系の生まれではあるが、本人の気質に合わなかったため、時折パトロール中の警察組織の後をついて行き、悪人を発見した際はバレないよう先んじて制圧することを趣味としている。
【フラン(MCU)】
・出典『転生したら剣でした』
・黒猫族の少女。師匠である大剣と出会い、強さを求めて放浪の旅をしていたところを■■に拾われた。庭園に来てからは強者と手合わせをしたり、教えを乞うたり、任務について行ったりと日々を過ごしている。
【師匠(MCU)】
・出典『転生したら剣でした』
・フランの所持する大剣。知性を持つインテリジェンス・ウェポン。人と意志疎通が可能だが、それを知るのはフランを含め一部の人間のみ。
【ジェントル・クリミナル/飛田弾柔郎(MCU)】
・出典『僕のヒーローアカデミア』
・生まれた時から特殊な力を持っており、かつてはヒーローに憧れていたものの、友人にその力を吹聴されたことで周りの人に気味悪がられてしまい、故郷から排斥され、その現実に挫折した。居場所もなく彷徨っていたところを■■に出会い、想いが再燃することとなった。
【須藤
・出典『ダーウィンズゲーム』
・チーム『サンセットレーベンズ』のリーダー。物質具現化能力『
【狩野
・出典『ダーウィンズゲーム』
・チーム『サンセットレーベンズ』所属。物質操作能力『
【柏木
・出典『ダーウィンズゲーム』
・チーム『サンセットレーベンズ』所属。情報処理能力『
【棗こころ/コッコロ(MCU)】
・出典『プリンセスコネクト!Re:DIVE』
・隠れ里に住んでいたエルフの少女。数人の仲間と『美食殿』というチームを組んでおり、普段は
【模索路晶/ラビリスタ(MCU)】
・出典『プリンセスコネクト!Re:DIVE』
・天才であり、研究畑の人間ではあるが、今回は明星ヒマリからの依頼と、コッコロの保護者役として参加した。若い子の元気な姿を見ることを好む。世界の一部を再構築することができるが、人間等の生物は適用外。
【救護騎士団(MCU)】
・出典『ブルーアーカイブ』
・後進の育成を兼ねて被災地へと派遣された。キヴォトス総合学園医学薬学科の生徒が多数在籍し、知識を学んだ後は実地で技術を身に付ける方針をとっている。なお、連れてくると患者が増えるため団長は置いてきた。