AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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※2026/4/28
沢山の誤字修正ありがとうございます!感謝感激!
めちゃんこ助かりました!


ANT-MAN:Eyes of Nunnish

《カリフォルニア州サンフランシスコ・ピムテック》

 

燃え盛る巨大なビルから、同様に巨大な『きかんしゃトーマス』の顔が飛び出す中、消防隊や警察、野次馬に紛れるように一人の男が這い出した。

 

ミッチェル・カーソン。S.H.I.E.L.D.の元幹部であり、原子間の相対距離を縮小・拡大することのできるピム粒子に目を付け、長い期間それを求めてきた。

 

そして今、彼の胸ポケットの中には試験管に入った『クロス粒子』のサンプルが一本。ダレン・クロスがピム粒子を模倣して作成した『クロス粒子』を、ハンク・ピムが取り戻そうとして起こった騒動に紛れて盗み出したのだ。

 

駐車場に停めてある車へと駆け込む。運転手は騒動の野次馬と化しているため、カーソンは自前のキーでエンジンを始動させようとして──。

 

「動かないで」

 

後部座席から聞こえてきた女性の声。かちゃりという金属音と、後頭部へ押し付けられた硬い感触にカーソンは動きを止めた。彼自身、何度も触れてきたハンドガンが突きつけられていると理解し、心臓が跳ねる。

 

「胸ポケットのそれ(・・)、渡して貰えるかしら」

 

「ッ……! だ、誰だ貴様は……」

 

「黒蜥蜴星人──なんてね。関係ない話をしないでちょうだい。痛い目に遭いたいなら、まぁそれでもいいけれど」

 

「ぐッ、くそ……!」

 

視界の端にあるバックミラーを覗くと、顔をマスクで隠したシルクハットの女。蒼く鋭い瞳からは感情が読み取れず、場数を踏んだ手練れであることが分かる。

 

サンプルを渡すことは出来ない。……だが、この手の人間が仕事において躊躇をすることがないのは、かつてS.H.I.E.L.D.に所属していた者として嫌というほど理解していた。

 

わずかな葛藤。自身の命とサンプルを天秤にかけ、カーソンは震える手で胸ポケットからサンプルを取り出す。目的の達成は遅れるが、命を奪われればそこまでだ。

 

顔の高さでサンプルを掲げると、後部座席から伸びてきた黒い手に奪われる。

 

「ありがとう、話が早くて助かるわ」

 

「……何故、それを狙う」

 

「言う必要ある?」

 

だろうな、とカーソンは内心で吐き捨てた。彼女が口の軽い女である小さな可能性に賭けてみたが、やはり答えが返ってくることはない。

 

「眠ってて」

 

後頭部を襲う強い衝撃。意識を手放したカーソンはハンドルへと倒れ、駐車場にクラクションが鳴り響いた。

 

★☆★

《カリフォルニア州サンフランシスコ・ピム邸》

 

スコット・ラングの活躍によって、ダレン・クロスによる『クロス粒子の軍事利用』を阻止したハンク・ピム、ホープ・ヴァン・ダインの二人は、妻/母であるジャネットを量子世界から取り戻すための研究を進めていた。

 

それから数週間が経過した頃、不意に玄関からノック音が響く。ホープとハンクは顔を見合せるも、互いに心当たりがない。デリバリーは頼んでおらず、スコットは娘さんの家に顔を出すと話をしていた。

 

僅かな緊張と共に、ホープは玄関へと向かう。妙な音や気配は感じない。鍵を開け、ゆっくりと扉を開く。

 

「はじめまして」

 

目の前にいたのは三人の女性だ。白杖を手にしたシスター服の女性と、白髪と頭部に獣の耳を生やした小柄な女性。そして、ジェラルミンケースを提げてメイド服を着用した蒼い瞳の少女。

 

「……貴女達は?」

 

「浅上藤乃と申します。こちらはススーロとアンジェ。アポイントを取らずに訪れたこと、心より謝罪いたします。ハンク・ピム博士にお話があり伺った次第です」

 

「用件は何かしら」

 

「ダレン・クロスが開発したピム粒子の複製品である『クロス粒子』について、と言えば伝わるでしょうか?」

 

「っ……!」

 

不意打ちとはこのことだろう。先日、決着をつけたはずの騒動、そのやり残し。その情報を持ち得る第三者の人間が目の前に立っていることに動揺を隠せない。

 

この場に立っているということは、間違いなくこちらの情報を調べあげている。ハンクから受け取ったワスプ・スーツを使ったところで問題を解決できるとは考えにくい。

 

「──申し訳ありませんが、入れていただいても?」

 

先手を打ってきた彼女に苦い顔を浮かべるホープは、入室の許可を求める彼女の言葉を断る台詞を持ち合わせてはいなかった。

 

 

「……話を、聞かせてもらおうか」

 

リビングルームの中央、ダイニングテーブルを挟むように座る二組。ハンクとホープの空気は重く緊張を感じさせるものの、対して藤乃達は自然体のまま対面している。

 

重々しく口を開いたのはハンクだ。得体の知れない人間を前に警戒心を隠さないまま、睨むように視線を向ける。対して目の見えない(・・・・・・)藤乃は気にするでもなく言葉を返す。

 

「結論から申し上げますと、私達はピム・テックから流出したクロス粒子を所持しています」

 

「なんだと?」

 

「アンジェ、お願いします」

 

眉根を寄せるハンクの目の前に、アンジェと呼ばれたメイド服の少女が持ち込んだジェラルミンケースを置く。側面に取り付けられたパネルにパスワードを入力すると、イエローに輝くクロス粒子の入った試験管が鎮座している。

 

偽物かもしれない、という考えは杞憂であった。ピム粒子を長年取り扱ってきたハンクには、ひと目で間違いなくダレンが複製した本物のクロス粒子であると判断できてしまう。

 

「これをどこで手に入れた。アレは全て、私達の手で破棄したはずだ」

 

「先日、ピムテックで大規模な火災が発生した際、ミッチェル・カーソン氏がクロス粒子の一部を手にして逃走したことを知っていますか?」

 

「……アイツか!」

 

ハンクがS.H.I.E.L.D.を抜ける原因を作ったいけすかない男。あの日、ダレンに招待されてピム・テックに姿を現していたが、まさかクロス粒子を盗み出していたとは思わなかった。

 

「ですが幸い、ピム・テックのオフィスビルから逃げ出していたところをアンジェが拘束、クロス粒子を回収いたしました。彼自身はヒドラに関与している疑いがありますので檻の中に収監していますが──」

 

「ヤツのことはどうでもいい。それをここへ持ち込んだ目的はなんだ」

 

「──貸しを作りたかったのです」

 

隠すこともせず話す藤乃。S.H.I.E.L.D.にいた腹黒どもとは全く違う、明け透けな言葉にハンクは目を瞬かせた。耳障りの良い言葉を張り付けた上っ面の言葉ではなく、交渉ともいえないそれにハンクとホープは混乱する。

 

そんな二人の目の前に、藤乃は閉じたジェラルミンケースを差し出した。

 

「こちらはピム博士に返還いたします」

 

「……なんのつもりだ、私達に何を要求する」

 

あまりに都合が良すぎる展開。勝手にクロス粒子を回収し、それを返還する。それではあまりにも彼女達に対してメリットが無い。

 

貸しを作りたいと藤乃は言った。丁寧に返却されたクロス粒子を見るに誠実さは感じられるが、同時に好印象を与えたいという打算も言外に透けて見える。

 

目的はピム粒子の作成技術あたりだろうと目星をつけ、ため息を吐く。S.H.I.E.L.D.やハワード・スタークも似た考えを持っていた。組織として動く者の考えはいつだって変わらないと、腕を組んで泰然自若に返答を待つ。

 

「ススーロが所属している製薬会社、ロドス・アイランド製薬が運営する付属病院に特別技師として赴任していただきたいのです」

 

「特別技師……?」

 

想像と違う要望に、ハンクの懐疑的な視線が藤乃へと刺さる

 

「続きは私から説明します」

 

対して手を挙げたのは白髪の小柄な女性。青い衣服の上からポンチョのような白衣を纏っており、頭部から生えた獣の耳をぴこぴこと動かしている。

 

明らかに地球の人間ではない。ホープが玄関で目にした時は思わず面食らってしまった。頑固な考えを持つハンクの反応が心配だったが、会話が完了していないため口をつぐむ。

 

「改めて自己紹介をさせて貰いますね。私はススーロ。ロドス・アイランド製薬付属病院に医師として所属しています。種族はヴァルポ。見た目どおり地球人ではないですが、それなりに長く住んでいるので普通に接していただければ」

 

「あ、あぁ……」

 

流暢な英語。胡散臭い雰囲気を纏った藤乃とは対照的に、実に真面目な雰囲気を醸し出している。長く住んでいるというのも本当なのだろう。はきはきとした声は良く通り、わずかだがハンクの心象を和らげたようだった。

 

ススーロは革製の鞄から幾つかの資料を広げ、ハンク達へと向ける。医療には詳しくないが、内容を見る限りは病に関する治療法の改善方法をまとめたもののようだ。

 

「本題ですが、藤乃が話したとおり特別技師として赴任いただきたいのです」

 

「……具体的な内容を聞かせて貰おうか」

 

「貴方が持つ物質の縮小技術──ピム粒子をロドス・アイランド製薬で取り扱わせて欲しい。あれは間違いなく、医療分野に必要な技術です」

 

「…………」

 

ススーロの言葉にハンクは表情を崩した。理解、ではなく落胆。貸しを作って何を話すかといえば案の定、想像していたとおりの内容だ。

 

医療に役立つということには同意する。アレはスタークにすら作り出すことができなかったハンクの集大成と言ってもいい産物。適切に扱うなら、救えなかった人を救うこともできるだろう。

 

だが、そんな人間はいない。これを求める人間は大抵、軍事利用を脳裏に宿している。S.H.I.E.L.D.の連中も、スタークも、弟子だったダレンすらそうだ。

 

「……結局はそれか、大義のためと宣ったカーソンと何が違う。そう話す奴は信用ならん。その胸の中にあるのは私利私欲でしかない」

 

「そのための特別技師です。ピム粒子の精製と管理はお任せしますし、使用に際しては逐一同意をいただく──」

 

「フンッ、では何故クロス粒子を返却した? これを解析して量産すれば私などいらんだろう。それとも既に解析したのか。宇宙の技術など私には与り知らんからな」

 

嫌悪感を隠すこと無く、吐き捨てるように鼻を鳴らす。そんなハンクの姿にホープは困ったように眉を寄せるが、止めるつもりは微塵もない。

 

ススーロは口をつぐむ。噂に聞いていた以上の頑固さに、わずかな逡巡が生まれる。このまま話したところで快諾してもらえる可能性が低い。であるのならと、余計な肩書きを下ろすことにした。

 

「…………私は、ただの医者です」

 

「それがなんだ」

 

「調薬はできません。メスやピンセットのような金属の加工も、リネン生地を作ることも、病院を建築することも不可能です」

 

「……何が言いたい」

 

「私にできるのは傷を癒すお手伝いだけです。人を救うために力を尽くすことを使命としています。ですがそれは私一人では成し得ない。だからこそ、私にない技術を持つ人へ可能な限りの敬意を持ちたいのです」

 

ハンクの目を真っ直ぐ見つめてから、深々と頭を下げた。藤乃とアンジェも倣う。そこに悪意は無く、こちらを害するような思惑は感じられない。偏屈な老人ではなく、一人の科学者に対する敬意が込められていた。

 

「──どうか、力を貸していただけないでしょうか」

 

「────」

 

助けを乞う言葉。

 

彼女達の、予想外な行動にハンクはたじろぐ。数十年と悪意にまみれてきた人間を見てきた彼は、彼女へと言い返す言葉を持ち合わせてはいなかった。

 

 

結局のところ、説明を聞いた後は回答を保留にしてもらった。これまでの人生経験から即答はできなかったのだ。

 

また足を運ぶと言って屋敷を後にした彼女たちを見送ってから、ハンクは深く椅子へと座る。ホープはテーブルを挟んで対面するように座ると、口を開いた。

 

「……私は信用できると思うわ、お父さん」

 

「…………」

 

「アポイントが無かったのは非常識だったけど……そうしないと会うことすらできないと思われていたこっちにも原因はあるわけだし」

 

もっともな言葉が突き刺さる。自分が頑固であることは自覚しているし、過去の経験からあまり他人を信用することができない。ピム粒子の話題を出す輩は特にそうだ。

 

技術を盗み複製しようと企んだハワード・スターク。争いの種として扱おうとしたミッチェル・カーソン。信用を裏切り、金に目を眩ませた弟子ダレン・クロス。

 

最初は信用していた。共に歩めると思ったから同じ組織に所属していた。けれど……信頼まで漕ぎ着けることはなかった。日本の諺では、仏の顔も三度まで、というのだったか。それだけ裏切られたなら、二度と他人を信用などできようはずがない。

 

……そのはずなのに、胸の中でもやもやとしたものが燻っている。

 

「向こうの技術を学べば、お母さんを見つけられるかもしれない。行き詰まって、いるのよね……?」

 

「………………あぁ」

 

それも、ある。理論的に可能であることは間違いない。それはスコットが量子世界から戻ってきたことで証明されている。

 

問題は座標だ。量子世界のどの位置にジャネットがいるのか、それを探知する方法がない。生きているのなら向こうからも信号を送っているだろうが、サイズ差によって生じる相対距離が遠すぎて並の機器では受信できないのだ。

 

可能性を広げるためなら、ススーロ医者の要求を断って自らの力だけで助けるなどと固執する理由はない。そんなことは分かっている。分かってはいるのだが、また同じことが起こるのではと考えてしまう。

 

難しい顔をして黙り込んでしまうハンクに、ホープは問いかける。

 

「ねぇお父さん、どうしてスコットのことは信用できたの?」

 

それは──それは、手段は誤ったとはいえ、誰かのために利のない行動のできる男だったから、で──…………ああ、そうか。

 

ススーロの言葉が脳内をリフレインする。

 

『医療は万人に開かれるべきだと私は考えています。可能な限り安価かつ汎用的であることが理想です。薬一つであらゆる病や傷を癒すことができればいいのですが…………そう都合の良いものは残念ながらありません』

 

『我々の同僚には他者に治癒を施すことのできる特殊な力を持つ者もいますが、特定の個人に依存する医療は遠からず限界が訪れるでしょう』

 

『──ですがピム粒子。これほど汎用性に富んだ物質を私は知りません。個人の能力に依存せず、用法を守れば誰でも扱うことができる。この発見に敬意を持たない医者は、少なくとも私の所属する病院にはいないと思います』

 

『目の前に多くの人を救うことのできる物質があるのなら、私はいくらでも頭を下げましょう。必要なら上司を連れてきます』

 

『貴方と、貴方が発見した物質の価値に比べればこの程度、労力のうちにも入りません』

 

……徹頭徹尾、患者を救うことを考えていた。自分自身のプライドなど些細なことだと、真っ直ぐに目をあわせてきた彼女のことを人として気に入ってしまっていたのだ。

 

「だが……」

 

同時に、安易に同意できない理由もある。置いていかれた資料記載されている対価。専用の研究所の用意、資金の提供、人材の紹介など。内容だけを見たなら破格と言ってもいい。何もなければ受け入れていたほどだ。

 

最後の項目。流して読んでいた目が止まる。

 

ジャネット・ヴァン・ダインの捜索。

 

「やはり……」

 

自宅に押し掛けてきた以上、可能性は考えていたが、彼女たちはしっかりとこちらのウィークポイントを調べてきたらしい。ハンクもスコットに助力を求めた際、裏取りを行っていたため理解はする。

 

もし、会話の中にジャネットの話題を出していたなら、ハンクは頭に血が登っていただろう。けれど、嘘を吐くことも隠すこともせず、あくまで対価として資料に載せるに留めている。

 

『貸しを作りたかったのです』

 

「……そういうことか」

 

浅上藤乃の言葉はクロス粒子だけではなかった。この気遣いも含めてのことだったらしい。食えない女だと鼻を鳴らし、大きく息を吐く。

 

「ホープ、この提案だが──」

 

返事は決まった。まだ見定める段階ではあるが、少しでもジャネットの発見に近付けるなら利用してやろうと決意を固めるのだった。

 

 

「良かったの?」

 

ピム邸からの帰り道、背景に徹していたアンジェは車の運転をしながら後部座席に座るススーロへと尋ねた。結局、その場での了承を得ることはできず、後日改めて回答を伺うこととなったのだ。少なくとも、縁を結ぶことができたことはススーロにとって良い結果ではあったが、アンジェにとってはそう思えなかったらしい。

 

「あまり前に進んでいるとは思えないけれど」

 

「まぁ仕方がないよ。むしろアポイントも無しにやってきて、断られなかっただけ良かった。医療技術をちょっと前に進められる可能性が出てきたってことだからね」

 

逆にアポイントを取ろうとした場合、面会は叶わなかっただろうなとススーロは思う。事前調査で気難しい人であることは知っていたため、今回の行動は相手の不意を突いた反則技みたいなものだ。

 

不信感を持たれるのは前提。ただし怒りを生ませないこと、対話の体を崩さず話を聞いて貰うこと。そこから信頼を得られれば御の字で、結果が回答の持ち越しであったのだから上々だ。

 

「今頃は渡した資料にも目を通して貰えてるだろうから、次は研究に役立ちそうなお土産を持っていこうかな」

 

「……お土産?」

 

「対価は提示したから、後はどれだけ熱意を伝えられるかだと僕は思ってる。フリーレンに『人探しの魔術』があるか聞いてみようかな?」

 

「フリーレン様はよく旅に出ているのでしょう。今は庭園から離れているんじゃないかしら」

 

「あ……うーん、どうだろう。携帯端末は持ってると思うんだけど……先にフェルンに連絡した方がいいかもしれないね」

 

「じゃあ、戻ったら学園に連絡をしておくわね」

 

アンジェの言葉に、お願い、と返すススーロ。

 

魔術師フリーレン。世界のあらゆる魔術を収集するコレクターであり、千年を超える年月を生きてきたエルフ。庭園においても上位の実力者かつ、知識も豊富。対価は必要だが頼るには最も適した人物だろう。

 

そして弟子のフェルン。フリーレンに魔術の基礎を叩き込まれ、しばらく旅に同行した後、庭園の学園に入学した才女。その際に色々とごねた結果、フリーレンにGPSを取り付けることを条件にしたと聞いている。

 

それを辿れば、数日中にコンタクトを取ることも可能だろう。ススーロは魔術を扱うことはできないから、実際に魔術を行使するのは別の人になるだろうけれど。

 

「あぁそれと、今日はありがとねアンジェ。それに藤乃も、同行までしてもらっちゃって。今度お礼するよ」

 

「構いませんよ。私は今回、特に何もしていませんから」

 

「ううん。僕、こうやって赴いて営業するの初めてだったから、慣れてる人に側にいて欲しかったんだ。これまでは基本的に内勤がほとんどだったから緊張しちゃったし、とっても心強かったよ。お礼といっても、ご飯を奢るくらいしか思い付かないけど」

 

「それくらいなら、ぜひ」

 

「美味しいお店、探しておくね!」

 

どこがいいかな、なんて呟きながら、携帯端末を取り出して飲食店を調べ始めるススーロ。楽しそうならいいか、と笑顔の彼女を横目に、藤乃はアンジェへ声をかける。

 

「アンジェ、戻ったら新しい依頼を出しても宜しいでしょうか」

 

「ええ、予定は空いているけれど」

 

記憶していた予定表を振り返る。休みはまだ少し先で、何もなければ孤児院の清掃でもと思っていたところだ。それはドロシー辺りにでも押し付ければ問題ない。

 

声色も柔らかいため、そう大きな任務ではなさそうだと考えながら答える。早めに終われば久しぶりにシャーロットへ会いに行こうと脳内で予定を組み立てていた、のだが。

 

「それは良かったです。……実は今、国連で新しい協定の制定に向けて動きがあるのですが、内情を調べて頂きたいのです」

 

「潜入任務ね……え、国連に?」

 

「詳細は凝光様に報告いただければ」

 

「待って」

 

危うく急ブレーキをかけそうになった。一企業への潜入ならいざ知らず、数多の国が加盟する組織に潜入しろなどと言ってきた。間違っても世間話の流れで話していい内容ではなく、アンジェは顔をしかめる。

 

「……それ、長期任務よね」

 

「人員は任せます。ただ、いざこざは避けてください」

 

「……終わったら、プリンセスと長期で休みを貰うから」

 

にこりと笑顔を浮かべる藤乃に、アンジェは要望を不満を隠さずに伝えながら、大きく溜め息を吐いた。

 

★☆★

 

そして、ひと月後。

 

庭園の研究所には、ハンク・ピムとホープ・ヴァン・ダインの姿があった。




【補足】
・本作において、魔法、魔術の関係は型月世界に準拠。魔法は現在において実現不可能な出来事を可能にするもの。魔術は科学技術で実現可能なものであり、資金や時間をかければ同じ結果を得られるものを言う。

【ススーロ(MCU)】
・出典『明日方舟〈アークナイツ〉』
・ロドス・アイランド製薬付属病院所属の医者。
・孤児院に出向しており、藤乃とはよく外で食事をする程度に仲が良い。

【アンジェ・ル・カレ(MCU)】
・出典『プリンセス・プリンシパル』
・元王女で、幼い頃チェンジリングに遭い、スラムの孤児となった。本来の名前である『シャーロット』を隠し、国のスパイとなり活動していたが、国が滅びてからはシャーロットを含む数名の仲間と出奔、庭園に流れ着いた。
・学生生活のかたわら、プリンセスのメイドと庭園から委託される仕事を両立している。

【シャーロット・アルビオン(MCU)】
・出典『プリンセス・プリンシパル』
・通称プリンセス
・元スラムの孤児で、幼い頃チェンジリングに遭い、王女の肩書きを背負うことになった。本来の名前は『アンジェ』。国が滅びてからはアンジェ達と出奔、庭園に流れ着いた。

【ドロシー(MCU)】
・出典『プリンセス・プリンシパル』
・アンジェ、シャーロットと共に国を出奔した仲間の一人。

【フリーレン(MCU)】
・出典『葬送のフリーレン』

【フェルン(MCU)】
・出典『葬送のフリーレン』

【凝光(MCU)】
・出典『原神』
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