AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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千束は受け。異論は認める。


IRON MAN 3:girl who doesn't kill〔part2〕

屋敷の基礎に直撃したミサイルが炸裂し、屋敷が崖ごと崩壊し始めた。傾いた地面を、砕けたコンクリート片やガラスが滑り落ちる。

 

宙へと投げ出された千束は、鞄を盾にして衝撃と共に飛んでくる瓦礫を防ぎながら、傾いた地面に着地する。二人を見ると、ペッパーの体をアイアンマンスーツが覆い隠すところだった。バランスを崩したペッパーはそのまま後ろへ吹き飛び、壁にぶつかる直前にスーツに覆われた。

 

対してトニーは、スーツをペッパーに着せたために生身のまま床に激突した。受け身を取ったのか、衝撃に怯んではいるが、体はしっかりと動いている。

 

 

「トニーさん!」

 

「っ……! こっちはいい! チサト、ペッパーを連れて屋敷の外へ行け!」

 

「でも……!」

 

「ペッパーが無事なら、スーツを僕の方に戻せる! だから、早く行くんだ!」

 

「──っ、はい……!」

 

 

千束は唇を噛み、ペッパーの元へと急ぐ。声をかけ、意識があることを確認すると、手を引いて屋敷の外へと駆け出すのだった。

 

 

★☆★

 

 

屋敷から脱出した直後、ペッパーの体からスーツが外れ、いくつかのパーツに分かれて倒壊した屋敷の中へと飛んでいく。

数秒後、先程まで千束達がいたリビングがある場所から、ヘリコプターへとグランドピアノが飛び出した。弧を描き、ヘリコプターに直撃すると、金属が砕ける音が響き、墜落していく。

 

しかし、トニーの攻撃が間に合わない。二機目のヘリコプターを撃墜したと同時に、再びミサイルが屋敷へと直撃した。既に瓦礫と化した屋敷は耐えきれず、その半分以上が海へと落下していく。

 

 

「トニー!」

 

 

叫びながら屋敷へと駆け出そうとするペッパーを、千束は引き留めた。生身で今の屋敷に入れば、ただではすまない。対してトニーはスーツを着ているため、例え倒壊に巻き込まれても無事でいられるはずだ。

 

完全に崩れた屋敷を確認して、ヘリコプターは踵を返して離れていく。同時に、海からアイアンマンスーツらしきものが飛び出し、明後日の方向へと飛んでいく。

 

後に残ったのは、倒壊した屋敷と、泣き崩れるペッパーの姿だった。

 

 

★☆★

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「……えぇ、ありがとう」

 

「トニーさんは無事だと思いますよ。先程、テネシー州の方向へと飛んでいくアイアンマンスーツが見えましたから」

 

 

ペッパーの体に付着した屋敷の粉塵を払いながら、千束は見たものを伝える。ペッパーは千束に渡されたハンカチで目元を拭うと、顔を上げた。

 

 

「そう。なら、探さないと」

 

「それじゃあ私は、この騒動が終結するまでペッパーさんを護衛します。……スーツを見たのはきっと私達だけじゃない。トニーさんが生きている場合、人質として狙われる可能性が高いのは貴女です、ペッパーさん」

 

「護衛って……貴女、まだ子どもじゃない。護衛くらいこっちで用意するわよ」

 

「その護衛の中に、テロ組織のスパイが紛れていたら対処できますか? それに──私、これでも強いんですよ?」

 

 

左手を右腕に当て、腕の力こぶを強調するようなポーズをする千束に、ペッパーは少し考え込む。

彼女が人工心臓を依頼するために屋敷に泊まり込んでいたことはトニーから説明されたが、彼女の素性などはまだ知らなかった。少なくともトニーが泊まり込みを許す程度には、特殊な素性なのだろうことは予想がつく。

 

そして以前、S.H.I.E.L.D.のエージェントであるナターシャ・ロマノフがスターク・インダストリーに潜入していたことを思い出す。彼女も、似たような立場なのかもしれない。

 

 

「はぁ……それじゃ、私個人から依頼するわ。トニーが戻るまで、私を守ってくれる?」

 

「承りました!」

 

 

千束の手を取り、立ち上がる。まずは、スターク・インダストリーに戻り、トニーとの通信を試さなければ。

ペッパーは千束を連れて、屋敷前の車へ向かう。鍵以外の荷物を置いたままにしておいてよかった。砂埃にまみれてはいるが、紛失したものはなさそうだ。

 

 

「千束。私が運転するから、この端末で30分毎にトニーへ連絡してもらえる?」

 

「分かりました。試してみますね」

 

 

二人は車に乗り込み、ペッパーの運転でスターク・インダストリーへと向かう。千束は周囲を警戒しながら、一定間隔で通話を試みるが、コール音が鳴るばかりで一向に繋がらない。

それを何度か繰り返した辺りで、目的地へと到着してしまったのだった。

 

 

★☆★

 

 

一晩明けて、ペッパーの指示でスターク・インダストリーの社員全員へ数日の休暇を言い渡し、警備を残して社内の人払いを行った。防火シャッターも全て下ろし、万が一に備えてペッパーと千束は最上階の社長室に籠ることにした。

 

その都度、トニーへと連絡を試みるも、やはり繋がらない。どうしたものかと、そう思った矢先、ペッパーの端末へと着信があった。宛先は『公衆電話』。

ペッパーは机に端末を置くと、スピーカーをONにして通話を開始する。

 

 

「……はい、どちら様でしょうか」

 

『──聞こえるか? 僕だ、トニー・スターク。ペッパーの端末であってる?』

 

「っ、トニー……! 無事だったのね!」

 

『……良かった、無事みたいだな。千束と一緒に会社に戻ったのか?』

 

「ええ。高いセキュリティ設備を持っていて、かつ人払いができる場所はここだけだもの。千束も護衛として雇ったわ。──それよりも! 貴方、今どこにいるの!」

 

『うわっ!』

 

 

端末のマイクに向かっても大声を出すペッパー。スターク側のスピーカーでハウリングが起きたのか、驚くような声が返ってくる。

 

 

『……すまなかった、ペッパー。スーツの充電が無くなってしまってね。テネシー州に不時着したところだ』

 

「スタークさん、千束です。お迎えに行った方がいいですか?」

 

『いや、こっちは自分でなんとかする。君にはペッパーの護衛を継続して欲しい。僕が無事なことは敵にもバレているはずだ。ウチにミサイルを撃ち込んだテロ組織のリーダーがペッパーを人質にする可能性は高い』

 

「『テン・リングス』のマンダリンですか」

 

 

テレビ放送の電波をジャックして、テロの予告を行っている妙齢の男性。いかにも宗教団体の長、という印象が強い。

 

 

『ああ、撃退したテロ組織の下っ端から居場所を聞き出した。今から乗り込むつもりだ』

 

「無茶よ! 貴方いま、スーツが使えないのでしょう?」

 

『スーツが無いと戦えないなら、ヒーローになる資格はない。僕はアイアンマンだ。スーツが無いなんてのは些細なことさ。それに──ローディが今、スーツごと鹵獲されているらしい。助けに行かないと』

 

「なら私達も……!」

 

『ダメだ。やつらは再生能力や発熱能力を有している。それだけで厄介なんだ。ペッパー……君が捕らえられれば、それは僕にとって致命的な弱点になる。だから、僕を信じて待っててくれ。──チサト、ペッパーを頼む』

 

「ええ、大船に乗ったつもりで安心してください」

 

『それじゃ、また連絡する』

 

 

通話は途切れた。ペッパーはソファに腰かけると、背もたれに体重を預け、大きく溜め息を吐いた。

 

 

「本当、自分勝手なんだから……」

 

「トニーさんらしい。それより、再生能力と発熱能力かぁ……。任せてと言った手前情けないけれど、私だけじゃ厳しいかもなぁ──」

 

「チサト?」

 

「……ペッパーさん。少し外しますね。一度、ウチに連絡してきます」

 

「そうね。よろしく伝えて貰える?」

 

 

千束は返事してから席を立つと、廊下へと移動し、端末からアドレスを選択。数コール後、受け側で受話器を取った人物に用件を伝えた。

 

 

「あ、もしもし、私私、千束。ちょぉっとお願いがあるんだけど、今大丈夫?」

 

 

★☆★

 

 

翌朝。

 

千束は起床すると、胸元から延びている充電コードを引き抜いた。充電状況を端末で確認すると、100%の文字。しかし、併記してある稼働時間は約12時間。

 

……普通に過ごしてこれだ。激しく体を動かせば、もっと早く充電が無くなる。この状態でも、ただの人間であれば軍人達にだって勝ってみせる。が、銃が効かない相手は別だ。千束の非殺傷弾ならなおのこと。

 

 

「再生能力に発熱能力ってなんだそりゃ。こちとら一般人だぞ。ハルクみたいに変身できないってのに」

 

 

一応、対応策はある。あるが、決め手に欠ける。信条として『命大事に』を掲げる千束にとって、無力化以上の手段は無かった。

 

 

「念のため、連絡しておいてよかった……。後は、どっちが先か」

 

 

寝間着からいつもの制服に着替え、装備の点検を行う。就寝前と起床後、日に2回必ず行っているルーチン。不備が無いことを確認してから、身につける。

 

何もなければそれが一番。そう考えながら朝食の準備をするために台所へ向かおうと足を踏み出した時──部屋中の電気が途切れ、スターク・インダストリー正面入口から爆音が轟いた。

 

 

「ああもう、朝っぱらから!」

 

 

文句を言いながらも千束は反射的に駆け出すと、ペッパーの元へ向かう。社長室の扉を開くと、ペッパーが慌てた様子で端末を操作していた。

 

 

「ペッパーさん! 無事ですか!」

 

「チサト! 私は無事。建物の送電線が壊されたみたい。すぐ予備電源が入るわ」

 

 

数秒。社長室の電気が付き、モニターに監視カメラの映像が映される。

正面入口。防火シャッターが爆破され、外から10人程度の武装した人が侵入している。うち3人は装備を持たず、照明が落ちているメインホールの中を進んでおり、その体はうっすらと赤く発光していた。恐らく、トニーが言っていた発熱人間だろうと当たりをつける。

 

 

「……私が対処します。絶対、この部屋から出ないでください」

 

「なら、これを持っていって。通信機よ。監視カメラの映像から、敵の場所を伝えるわ」

 

「助かります。では──」

 

 

千束は銃を片手に、部屋を飛び出した。社長室の扉がロックされる音が鳴る。

敵は10人。こちらの場所はまだ特定されていない。進むのにも時間がかかるはず。であれば、この機に乗じて一人ずつ対処させてもらおうか。

 

 

★☆★

 

 

スターク・インダストリービル 3階。

 

先頭を行く武装した集団が銃を構えて、部屋の中を確認する。机の下、ロッカーの中、柱の陰──人影は無い。仲間に合図を出して、次の部屋へと侵入する。

 

裏の世界で仕事をする彼らへの依頼は、スターク・インダストリーCEOのペッパー・ポッツの誘拐。そして、その護衛がいれば排除。また、突撃時に3人同伴させること。

その3人も常に発光していて得体の知れない不気味なヤツらだが、金払いは良かったため、雇われることにした。

 

チームは3つに分かれており、雇われ3人が先頭、中間に4人、後方に同伴3人の計3チーム。常に連絡を取り合い、逃げ道を塞ぎながらゆっくりと上へと進んでいる。

 

 

「クリア」

 

 

この階層にはいないようだ。仲間に知らせると、階段を使って上階へ移動する。同伴の3人が別チームなのは仕事をする上で大変助かっている。こちらとしても初対面で連携は取れないため、その申し出は快く呑んだ。

 

 

「入るぞ」

 

 

4階層への扉を開き、先頭を行くメンバーが周囲のクリアリングを行う。通路の先には誰もいない。天井、床にも不審物は見当たらない。幾つか防火シャッターは下ろされているが、これまでに破ったものと違いは無さそうだ。

先頭へと指示を出し、通路へ足を踏み出そうとして。

 

 

「やぁ、元気?」

 

「な──ガッ……!?」

 

 

開いた扉の陰から聞こえた声に反応して反射的に振り向いた先頭のメンバーが、銃声と共に弾かれた。ついでとばかりに銃口を向けた2人目のメンバーも、装甲の薄い喉へ弾丸をくらい、そのまま倒れる。残りは自分一人。

 

現れたのは、明るい金髪の少女だった。赤いリボンで髪を結い、赤い制服を着用している。手にしているのは、マガジン式の一般的なハンドガン。間違いない。雇い主からの情報にあったペッパー・ポッツの同伴者だ。だが──。

 

 

「くそッ……!」

 

 

こいつが護衛かよチクショウ!!

手に持つサブマシンガンの照準を合わせ、引き金を引く。弾丸が連続で射出され、少女の体へと吸い込まれていき──そのスレスレを通って背後の壁へとめり込んだ。

 

 

「はぁ!?」

 

 

なんのことはない。原理は単純明快。少女は銃口を見て弾丸の射出方向を予測して、避けた。ただそれだけ。……それを弾丸が連続で射出されるサブマシンガン相手に実行している、という説明がつくのだが。

 

 

「バケモノめッ……!!」

 

「誰がバケモノだ誰が!」

 

 

予想外の出来事に、引き金を引いたまま銃口で少女を追いかける。だが、まるで当たらない。少女はすり抜けるように弾丸の雨の中を歩いてくる。

 

 

「ちょぉっと眠っててね」

 

「クソッタレ……」

 

 

距離にして約2m。かすり傷一つ無い少女の銃口が額へと向けられた。サブマシンガンの弾倉は空っぽ。この距離では交換も間に合わない。

悪態を一つ溢す事しかできず、銃弾を額に撃ち込まれた自分の意識は、衝撃と共に一瞬で闇の中に落ちていった。




【錦木千束(MCU)】
・原作における転換点「吉松の接触」「ミカとの生活」「たきなとの邂逅」が無かった世界線。
・血は繋がらなくとも多くの家族ができたため、原作よりも生に執着している。慕ってくれている弟妹たちのためにも、寿命まで生き抜く覚悟を決めている。
・けれど、根本は変わらない。どの世界でも千束の信条は「楽しいこと最優先」「命大事に」である。
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