AVENGERS:Eyes of Nunnish   作:とむじん

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この話までで一区切りする予定だったのにな!


IRON MAN 3:girl who doesn't kill〔part3〕

「はい、おやすみ!」

 

「ぐぁ……ッ」

 

 

ハンドガンから射出された弾丸が敵の腹部へ直撃。ダメージが浅く、まだ意識があったため、確実に気絶させられるよう隙だらけの頭部へ2発、追加で撃つ。

衝撃で弾丸が砕け、赤い粉末が舞い、意識を奪う。非殺傷弾のため、命を奪うことはないが、この弾丸は当たると滅茶苦茶痛いのだ。近付かなければ当たらない、という欠点はあるが。

 

気絶した敵の装備を取り上げて、手足を拘束して無力化する。逃げ出さないよう、物置部屋へと押し込んでから、扉の前に机を置いて開かないように整えた。

 

 

「他に敵は?」

 

『いいえ、そのフロアにはいない。さっきの3人を含めて、全員みたい。残りの3人はまだ2階にいるわ。でも、別々に動いてる……?』

 

「分かりました。個別に行動しているなら好都合。各個撃破して無力化します」

 

『気をつけて』

 

 

指示に従い、千束は息を殺して下層へと進む。降り立ったのは、正面入口の真上。衝撃で床に大きな亀裂が入っており、窓ガラスは粉々に砕けている。

そこでは、スキンヘッドで大柄の男性が立っていた。トランシーバーで何処かと会話しており、こちらには気付いていない様子だ。

 

会話が終わり、通信機をしまう。その隙を突いて素早く男性の背後に移動すると、後頭部へと非殺傷弾を放つ。不意を突く奇襲。男性は衝撃で倒れそうになるが、足を踏ん張って耐えてきた。いや、これは衝撃に驚いただけでダメージはほぼ無い。

 

 

「っ、やっぱ効かないか……!」

 

「小娘がッ!」

 

 

流石に撃たれれば気付く。振り下ろしてくる丸太のような腕を避け、背後に飛ぶ。同時にハンドガンのマガジンを非殺傷弾から実弾に入れ換えると、男性の両手足を撃ち抜いた。

 

力が抜けたのか、男性は膝から崩れ落ちた。銃創からは血が流れ出している。が──しかし、その傷口は徐々に小さくなっていき、数える頃には無傷の状態に戻っていた。

 

 

「終わりか?」

 

「再生能力は反則でしょ!?」

 

 

銃が効かない以上、埒が明かない。手をこまねいていると、男性の体が明るく輝き出した。足元から焦げた匂いとともに立ち上がる煙。空気が熱くなり、呼吸が苦しくなる。

 

再び振り下ろされる腕。千束が避けると、その後ろにあった机に指先が触れ、真っ二つに切り裂いた。紙の資料が舞い上がり、男性に近付いたものから触れる前に燃えていく。

 

厄介だ。だが、同じ能力を持った敵は後2人。この瞬間にも別のルートからペッパーの元へと向かっている。たった1人に苦戦するわけにはいかない。

 

千束は背負った鞄から金属の筒を取り出し、投げつける。閃光手榴弾だ。目を庇いながらオフィス家具の陰に隠れた瞬間、激しい閃光と共に男性のうめき声が聞こえた。

男性を見ると閃光手榴弾が直撃したようで、目を押さえてうつむいている。今のうちと千束はもう一つ、別の筒を男性の足元へと放り投げた。

 

筒は熱により膨張し、鈍い音を立てて爆発し、破片が男性の足へと食い込む。だが、狙いはそちらではない。

爆発した筒から、白い煙が周囲に蔓延し始める。特製の催眠ガスだ。人1人程度であれば、数秒で昏倒できる代物。

既に千束はガスマスクをつけ、距離を取っていた。僅かでも吸い込んでしまえば、体が言うことを聞かなくなるからだ。

 

それを直に浴び、呼吸により体内に取り込んだ男性は、ふらりと大きく体を揺らすと、膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。賭けが当たった。傷は直ぐに治っても、薬物は有効らしい。耐熱性のワイヤーを使用して、男性を柱にくくりつけて拘束する。

 

 

「ふひぃ……発熱人間1人目、手間取ったぁ~」

 

『チサト、残り2人は4階に上がっているわ』

 

「了解! すぐ行きます」

 

 

ペッパーの指示に従い、非常階段を駆け上がる。2人目の場所は4階、正面を背に右側だ。足音を殺し、素早くオフィス家具の陰から陰へと移動する。

 

いた。ショートボブの長身女性。一通りフロアを確認したのか、千束が使用した非常階段へと戻ってくる。

千束は通路の陰に隠れると、閃光手榴弾を用意してタイミングを計る。足音が通路の奥からゆっくりと近付いてくる。残り3歩、2歩、1──。

 

 

「こんにちは、お嬢ちゃん」

 

「まッず――!?」

 

 

居場所がバレていた。千束が隠れていた通路の壁が抉られて、女性が飛び込んでくる。あまりの熱気に千束は顔をしかめながら、慌てて後方へと飛ぶ。

砕けた壁の破片は黒い炭と化し、床を転がっていく。獲物を見つけたような女性が、鋭い目で千束を見据えていた。

 

 

「3階の物置に傭兵どもを押し込んだのは貴女ね」

 

「……よく見つけたな?」

 

「ビルのフロア情報とGPSがあれば端末で分かるわよ」

 

 

アレクセイは見てなかったらしいけど、と呟く女性。アレクセイとは、先程拘束したスキンヘッドの男性のことだろうか。

ともかく、女性は端末をしまうと、体勢を低く構える。壁をスターティングブロックのように強く蹴ると、人とは思えない速度で千束を自身の間合いへと入り込んだ。

 

 

「ふ──!」

 

「あ──っぶな!」

 

 

顔面に向けて放たれる抜き手。持ち前の回避力で避けるものの、髪先までは避けきれず、焦げた匂いが漂う。割りと手入れに気を遣っているため、思わず女性を睨み付けた。

 

 

「おっまえ、乙女の髪に何してくれんの!」

 

「どうせ全部燃えるんだから関係ないでしょ?」

 

「ふざっけんな!」

 

 

非殺傷弾を至近距離で女性の胴体へと撃ち込む。衝撃で後ろへ下がるものの、当たり前のように効果が見られない。バックステップで距離を取り、ハンドガンのマガジンを交換する。

女性は衣服に付着した非殺傷弾の粉末を指で確認すると、呆れたような表情を千束へ向ける。

 

 

「貴女、この状況で非殺傷弾とかナメてるの?」

 

「ハンデだハンデ! 少なくとも1人は倒してるんだぞこっちは」

 

「ふぅん……それじゃあ、私も倒してみなさいな!」

 

 

瞬間。コピー用紙が千束の視界いっぱいに広がる。足元に転がっていた束を、女性が思い切り蹴り飛ばしたのだ。

激しく燃え上がる紙。そして最悪なことに、女性の姿が一瞬、その陰へと完全に隠れる。千束の視界から完全に逃れた。

 

 

「な──!?」

 

 

そして、その紙の壁から鋭い抜き手が飛び出した。虚を突いた一撃。反射的に体を捻って回避を試みるも、距離が近すぎる。咄嗟に背負っていた鞄を女性との間に挟むが、衝撃と熱によって大きな穴を開けられた。

 

だが、それによってできた一瞬の隙。千束はハンドガンを撃って牽制しながら更に距離を取る。が、女性は非殺傷弾に被弾しながら無理矢理前へと進んでくる。

 

 

「くっそ……!」

 

「分かっていれば我慢できるのよ!」

 

 

振るわれる手刀。燃え上がる紙。空気が熱せられて呼吸が苦しくなり、目が乾燥する。これ以上はダメだと、千束は思わず瞬きをする。しかし、その隙は大きすぎた。女性の蹴りが、千束へと直撃する。

 

 

「ぐ──がッ!?」

 

 

腕を盾にして防ぐが、途轍もないパワーと体格差によって、千束の体を浮遊感が襲い、大きく蹴り飛ばされた。

いくつかの机を飛び越して、背中から壁へと激突する。肺から空気が押し出され、そのまま壁にもたれ掛かるように臀部から床へと落下する。

 

 

「あら、もう終わり?」

 

『チサト、チサト! 返事をして……!』

 

「そう……それじゃ、さよならね」

 

 

強打した背中と蹴られた腕が悲鳴をあげている。通信機からペッパーの声が聞こえるが、肺の空気が足りず、空気が通る音ばかりで、上手く声が出ない。

対して女性はゆっくりと近付き、千束の前で立ち止まると、熱した腕を大きく振り上げ、頭蓋へと振り下ろし──しかし、それが千束へ届くことは無かった。

 

 

「──ッが!?」

 

 

女性の顎へ衝撃が響いた。脳が揺れ、足がもつれる。獲物を目の前にして、あまりにも大きな隙だ。

もう立ち上がることもできない──なんて思い込みで、千束の間合いに入ってきたのが間違いだった。そこは非殺傷弾を確実で撃ち込める、有効射程距離圏内。

 

千束は揺れる女性の額、人中、喉、胸部、へそと、正中線に沿って弾丸を撃ち込む。耐えられるとはいえ、無防備な体への衝撃を全て無視できる訳ではない。

呼吸を遮られた女性は、そのまま床へと倒れた。まだ意識はあるようだが、人の急所にしこたま弾丸を喰らってしまえば、動くことすらままならない。

 

だが、それもすぐ治るだろう。だから、千束は容赦無く女性の頭へ弾丸を撃ち込んだ。マガジンを交換し、更に6発。ようやく気を失ったようで、女性の体から力が抜ける。それを確認して、千束は大きく息を吐いた。

 

 

「──あ゛ぁぁ……きっつぅ……」

 

 

幸い骨や臓器へのダメージは軽微だが、打ち付けた背中や腕が痛い。動くなと悲鳴をあげている。けれど、敵は後1人残っている。このまま休む訳にはいかない。

無理矢理に体を動かして女性を耐熱ワイヤーでがんじがらめにしてから、再び非常階段を上り始める。

 

 

『チサト……貴女、ボロボロじゃない』

 

「あ、はは……それよりペッパーさん、残り1人は今どこにいます?」

 

『8階──じゃなくて! 貴女、まだ戦う気?』

 

「はい、約束したので。大丈夫、こんなところで死ぬつもりはありません」

 

 

──『命大事に』。銃を扱うようになってから、千束が信条としている言葉。生まれつき死が身近にあったことや、人工心臓という爆弾を胸に抱えたこと。そして、家族を得たことで、誰より命の時間の大切さを知った千束が自分自身への枷として守り続けているもの。

例え敵であっても、千束は人を殺すことはない。そして、守ると約束した以上は、何がなんでも守り抜く。

 

 

「絶対、守りますから」

 

『──』

 

 

今までにないほど圧のこもった強い言葉に、ペッパーは言葉を返すことができなかった。

 

 

★☆★

 

 

スターク・インダストリービル 10階。

 

痛む体を無視して駆け上がってきたフロア。千束が階段を登る間に、最後の1人はこのフロアまで確認し終えたらしく、上層への階段に向かっている。

荒くなった呼吸をゆっくりと落ち着けて、千束は通路を駆ける。物陰に隠れると、そっと相手の顔を覗き込む。

 

ざんばらな髪に十字の剃り込みが入った男性。アレクセイとかいう最初の男性よりは細身なものの、歩き方にぶれがない。それだけで、先の2人より強いことが分かる。

 

だが、まだこちらには気付いていないのか、視線は別方向に向いたままだ。千束は好機とばかりに閃光手榴弾を男性の足元へと投げ込んだ。

強い閃光と、破裂音。その音に合わせて、催眠ガス入りの筒を投げ込む。ぷしゅ、と空気が抜ける音と共に、周囲を白い煙が充満していく。

 

無防備な背後からの攻撃。直撃しているはずだけれど、伏した姿を見るまでは安心できない。煙がゆっくりと晴れていき、薄くなったところで千束は陰から男を覗く。──が、そこには男の姿がない。

 

 

「っ、どこに──」

 

『チサト、後ろ──!!』

 

 

通信機から響くペッパーの声に、千束は慌てて後ろへ振り向くが、気付くのが遅かった。振りかざされた拳が千束の腹部へと直撃し、肺の空気を全て吐き出させられ、そのまま床を転がる。

 

幸い、特殊な生地で作られた防弾、防刃、防火その他を極めた丈夫な制服であるため、熱によって燃えることも、火傷を負うこともない。しかし、人にはあり得ないはずのパワーによる打撃の衝撃までは受け切ることができず、内臓が傷付いたのか、口元から血が流れる。

 

 

「が、ごほっ……! けほ……」

 

「あん? なんだ、まだ生きてんのか?」

 

「ぐ──」

 

 

千束の顔面へと迫り来る蹴り。咄嗟に両腕を間に挟むも、防ぎきれずに蹴り上げられた。パワーが桁違い過ぎて、防御が意味を成していない。

鼻は折れてはいない。しかし、あまりの衝撃に頭が揺れて意識が途切れそうになる。

 

 

「ッチ、アイツら、こんな雑魚にやられたのかよ」

 

「ッ、つぅ……」

 

「こいつ……案外丈夫な、いや、避けるのが得意なのか。殺す気で蹴ったのに、急所を避けてやがるな」

 

 

──気付かれた。確かに、千束は避けられないと判断した上で、バレないよう急所を避けて攻撃を受けた。けれど、想像以上のダメージを受けてしまっていることもまた事実。

 

 

「ったく、めんどくせぇなぁ」

 

 

男性が懐からハンドガンを取り出した。銃口を千束の頭部へ向け、引き金を引く。慌てて体を転がして回避をするも、再び振るわれた蹴りが肩に直撃し、壁へと転がされた。足元には観葉植物の鉢植えがあり、頭上は空いているものの、男性との距離が近すぎて逃げられない。

 

 

「ペッパー・ポッツはどこにいる?」

 

「誰が、話すか……くそ、やろ……」

 

「そうか。じゃ、死ね」

 

 

再び向けられる銃口。角ばった指先で引き金が引かれる──と、その前に窓ガラスが砕け散った。

 

フロア中に拡散するガラスから咄嗟に目を守る男性。降り注ぐガラスが止むと、視線を窓の方へと向ける。

 

 

「お待たせしました、チサト」

 

 

そこには、美しい銀の髪を腰の長さで靡かせる少女が1人。明らかに窓の外から入ってきた様子で、両腕を胸元で組んでいる。それを見て千束は、間に合った、と体の力を抜いた。

 

彼女の名前はイングリス・ユークス。千束と同じく孤児院に住む戦闘狂いで、昨日千束の連絡を受けてから、マンハッタンから一晩中走ってここまでやってきた。生粋の自称:武人である。

 

そんなイングリスを見て、男性は口元をひくつかせた。

 

 

「おいおい、何階だと思ってやがる」

 

「さぁ? 光った場所に跳んだだけなので分かりかねますが……それより、チサトを圧倒する力、なるほど強者であるとお見受けします」

 

 

脚を前後に広げ、片手を腰に、片手を前に突き出し、構える。視線は男性の一挙手一投足を見逃さないよう、俯瞰的に全体を見渡し、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 

「私と一手、お手合わせ願いましょうか」

 

「ふざけろクソガキ」

 

 

男性が銃口をイングリスに向け、発砲する。それを合図にイングリスは全力で駆け出すと、男性と拳を激突させた。




【錦木千束(MCU)】
・才能は原作と同程度だが、リコリスとしての任務経験がないため、同じ年齢で比較すると原作より弱体化している。
・MCU世界によくいるそこらの軍人より強いが、サイドキックには敵わない。
・伸び代は充分。科学技術もMCU世界の方が充実しているため、今後に期待。

【イングリス・ユークス(MCU)】
・自称:武人。最強を目指す戦闘狂い。
・強い相手とは何度も闘いたいタイプのため、基本的に不殺主義。その一点により、千束との相性は良い。
・千束より年下。

・出典『英雄王、武を極めるため転生す』
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