AVENGERS:Eyes of Nunnish 作:とむじん
──宇宙船ドッソレス。
かつて滅んだ惑星からの避難民が過ごす、巨大な船。国そのものを切り取って、そのまま船として改造した、私がかつて過ごしていた故郷。
覚えているのは、髭を蓄えた無愛想な義父と、綺麗な金髪の優しい義兄の姿。海の一部を切り取った艦内には海や砂浜も存在し、ここが宇宙船の中だなんて言われなければ気がつかない程に、美しい光景が広がっている。
けれど、そんな艦内ではキナ臭い空気が漂っていた。国を切り取ってできた宇宙船の中には、当然ながら様々な種族や地域の人が過ごしており、当たり前のように対立している人達もいて。
ある日、火が着いたように艦内で大きな争いが起こって、その衝撃に耐えられなかった船体は、これまで航行してきた時間が嘘のように、あっという間に壊れた。
「ラファエラ、ラファエラ! あぁ、こんなに血が……! 早く、避難用の船に──」
頭を打ち、ぼんやりとする意識の中、私を抱える義兄の声だけがはっきりと聞こえてくる。頭が痛い。視界が回る。けれど、体が揺れているため、私はかろうじて意識を失っていなかった。
避難用の船に到着したのか、体の揺れが収まった。義兄は私を抱えて船内に入ると、設置されている長椅子に私を寝かせ、ロープで固定する。その足で運転席に座ると、船の電源を起動させた。
「お、義兄ちゃ……お義父、さんは……?」
「っ……大丈夫、父さんは後から来るから」
私に後ろ姿を向けたまま、一瞬手を止めた義兄は震える声でそう言った。それが彼の優しい嘘なのだと察してしまえるほど、頬を伝う涙が雄弁に語っていた。
「ラファエラ。船を出すから、少しだけ揺れるよ。傷が痛むかもしれないけれど、ちょっとだけ我慢をお願い」
「う、ん……」
義兄はエンジンを噴かし、船を発進させた。ゆっくりと母艦から離れ、先の見えない航行が始まった。後方で爆発が起こったのか、小さな窓から燃え上がる宇宙船の姿が見えた。その衝撃で船体が折れ、さらに動力炉が大爆発を起こす。
「ラファエ──」
とっさに振り向く義兄。瞬間、衝撃が避難船を襲い、凄まじい速度であらぬ方向へと飛んでいく。義兄はシートベルトによって飛ばされることは免れたものの、避難船ごとシェイクされたことによって意識を失ったのか、腕が力なく座席からぶら下がっていた。
「お義兄、ちゃん」
ロープの隙間から、手を伸ばす。しかし、再び後方で爆発が起こり、避難船が揺れた。先程よりも強い揺れに、怪我をしていた私は意識を保つことができず、そのまま気を失うこととなった。
─────
───
─
ふと、目を覚ますと、そこは森の中だった。鬱蒼とした、とまではいかないが、光が遮られ、雨の音が響いてくる場所が、窓の外に見える。
頭の痛みを我慢しながら周囲を見渡す。かなり頑丈に作られているはずの船体に大きな亀裂が入り、雨が内部に入り込んでいた。壁面の機材や物資は濡れ、ほとんどが使い物になりそうもない。
視線の先を運転席に移す。義兄が座っていたが、気を失っていたはずだ。私ほどしっかりと体を固定されていた訳でもない。そんな焦燥感に満たされた心は、目の前の光景についていくことができなかった。
「ぁ、ぁあ……」
──そこには、何も無かった。
運転席があった場所には、何も無い。
首を落とされた魚のように、平らな断面があるだけで、外の木々が見え、雨の冷たい空気が流れ込んでくる。
「ぉに、お義兄ちゃ……ぁ……」
涙が溢れ、嗚咽が漏れる。体を固定するロープからなんとか抜け出すと、体を引きずって運転席があった場所へと移動する。骨が折れているのか、動く度に激痛が走る。
断面から外を見ても、避難船の破片すら見当たらなかった。誰かに連れ去られたような跡もない。見渡す限りの森と、止まない雨が視界を埋め尽くす。
「探さ、ないと……」
袖で涙を拭い、地面を掴んで体を動かす。けれど、空腹と疲労で力が入らない。あの事故から何日経過したのか、ここがどのような星なのかも分からない上、怪我による苦痛で心はとっくに限界で。
無理矢理体を動かそうとした瞬間に、体が弾け飛ぶような痛みが襲いかかり、私の意識はあっさりと闇に落ちた。
そして、再び目を覚ました時、目の前に座っていたのは濁った瞳に白杖を手にした女性だった。
★☆★
「……エラ、ラファエラ」
「ん、ぅぅ……」
「もうすぐ到着するらしいよ」
「……おきた」
「起きたってー」
星が後部座席の前方に座るスティーブに声をかける。両腕を掲げ、大きく上体を伸ばすと、頬をパチンと叩いて目を覚ます。なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。
S.H.I.E.L.D.の車両に偽装した大きめのバン。運転席にはマリアが座っており、ヒドラにバレないよう最新の変装用フィルムで顔を覆い、声を変えている。
後部座席には、スティーブ、サム、フューリー、ナターシャ、星、ラファエラが待機し、ナターシャの指示を待っているところだ。
窓の外には周囲を水路に囲まれた島の上に建設された巨大なビル、S.H.I.E.L.D.本部『トリスケリオン』が見える。ガラスに反射する太陽光が眩しい。手で光を遮っていると、隣に座るナターシャに声をかけられた。
「ラファエラ……いや、ラ・プルマだったわね」
「うん、コードネーム? ってやつ。自分で考えた」
「そ、そう……じゃあラ・プルマ、作戦は覚えているかしら?」
「えっと……フューリーとナターシャがなんとか理事の行動を押さえて、他の四人が内部の蛇さんを暴露して、その足でおっきなヘリコプターを止めるんだったよね?」
「……まぁ、合ってはいるけれど」
まぁいいわ、と一言。再び車が発進する。景色が流れ、地下駐車場に入ったことで辺りが暗くなる。無事に施設内部に侵入できたようで、バンを端に停めたマリアは後ろへと振り向いた。
「到着しました」
「よし、作戦を始めよう。ナターシャ、マリアはフューリーを護衛しながら、ピアーズの元へ。僕とサムは放送室に移動、星とラ・プルマは先んじてヘリキャリアに潜入、僕の放送にヒドラが意識を向けている隙に、可能な限りメインサーバーのコントロール・チップを交換してくれ」
「了解」
スティーブの指示に、各々が頷く。それぞれの装備を確認し、武器を手にする。
「──作戦開始!」
監視カメラを避けるように、各々が目的の場所へと足を進めた。
「あ、初めて見るタイプのゴミ箱」
「星、寄り道は無しだよ」
「わ、分かってるよ……あの、少しだけ」
「ダメ」
「はぁい……」
★☆★
──トリスケリオン、地下格納庫。
水路の真下に築かれたここには、『インサイト計画』の要となるヘリキャリアが複数台、格納されている。その周囲ではS.H.I.E.L.D.の職員が慌ただしく走り回っており、計画の成功に向けて動いていた。
そんな彼らを横目に、ヘリキャリアへ搬入予定の貨物の陰に隠れながら、ゆっくり、かつ素早くヘリキャリアへと近付いていく。ラファエラが前方を確認すると、警備員の視線が一台のヘリキャリアから離れていることが確認できる。
「星、後ろは大丈夫?」
「むー」
「まだ拗ねてる」
振り向くと、膝を抱えて地面にのの字を書いている星の姿。頬を膨らませ、眉尻を下げながら明後日の方向へと視線を向け、抗議の姿勢を見せている。
「だって、ゴミ箱見たかった」
「その趣味はよく分からないけど、帰りに見たら? それくらいの暇はあると思うよ」
「いいの?」
「仕事が終わったらね」
「よしじゃあ、あの人を気絶させて中に入ろう!」
途端にやる気を出す星。軽やかに物資の陰を駆け巡り、警備員の側まで近寄ると、手に持った金属バットで思い切り殴り付けた。警備員はそのまま倒れ付し、手に持っていた銃がもう一人の警備員の足元へと滑っていく。
「げうっ……」
「な、なん──」
『S.H.I.E.L.D.の皆、聞こえているだろうか。スティーブ・ロジャースだ』
「良いタイミング」
「ぎゃッ……」
足元の銃を見て警備員の声が漏れそうになったが、同時にスピーカーから流れたスティーブの放送により、声がかき消された。騒がれる前にラファエラが鎌を振るい、峰を叩き付けることで意識を飛ばす。
周りを見渡すも、他の警備員や職員には気付かれていない。皆、スピーカーから流れるスティーブの声に意識を取られ、視線を天井に向けたまま固まっている。
「ほらほら、行くよラファエラ!」
「星、待って。場所覚えてるの?」
「右!」
「真っ直ぐだよ」
貨物搬入用の入り口から侵入する二人。極力足音を殺しながら走る星を、指示を飛ばしながら追いかけるラファエラ。時折、道を間違えそうになる星の進む方向を修正しながら、ヘリキャリアの奥へと足を進めた。
★☆★
──トリスケリオン一階、職員食堂。
『S.H.I.E.L.D.は今、ヒドラに乗っ取られている。ピアーズ理事はこの件の首謀者で、インサイト計画も犯罪者から国民を守るためのものじゃない。ヒドラの不利益になる人間を殺すためのものだ。事実、ニック・フューリーはヒドラに撃たれた』
「何それヤバいじゃん」
赤い制服に、髪をリボンで結った少女──錦木千束は、トニー・スタークとホークアイの紹介でS.H.I.E.L.D.の訓練施設の使用を許可されていたため、時折足を運び、訓練に励んでいた。
午前中の訓練が終わり、いつものように職員用の食堂でハンバーガーを食べていると、突然キャプテン・アメリカの放送が流れてきた。秘密結社ヒドラがS.H.I.E.L.D.を乗っ取ったという、とんでもないニュースに食堂がざわつき始める。
『君達の中に、何人のヒドラが紛れ込んでいるのかはわからない。すぐ隣に座っているのかもしれない──我々が、奴らを止める必要がある』
何人かの顔色が悪くなる。恐怖に怯える者、信じきれていない者、眉を寄せて険しい表情を浮かべる者。明らかに怪しい動きを見せる職員の姿も見えたため、周囲に紛れ込めるように戸惑ったフリをする。
『敵は強大。だが、自由を得るにはいつだって代償が必要だ』
腰に手を添える者がいる。裾を捲り、隠し持っていた拳銃が鈍く光る。側の職員はそれに気が付いておらず、天井のスピーカーに意識を取られたまま。緊張が走る。きっかけがあれば、即座に爆発するだろう。
『──僕は、喜んで戦おう。君達が同じ想いだと信じている』
放送が終了した。職員や警備員がどよめく。その瞬間、食堂内にいた特殊部隊の衣服を纏った男性──おそらくはヒドラの構成員だろう──が立ち上がり、側の職員に銃口を向けた。同時に、フロア内で悲鳴が反響する。他にも紛れ込んでいたようで、一般職員に偽装したヒドラの構成員達が銃を片手に周囲を囲んでいた。
「お前ら動くな──ガッ!?」
脅しのため、大声で威嚇する特殊部隊の男性。だが、その声が発せられる前に動いていた千束は素早く男性の懐に入り込むと、防弾チョッキに守られていない頭部と銃を持った手に非殺傷弾を撃ち込んだ。赤い粉末が宙を舞い、男性は銃を落として力なく倒れる。
「てめぇ、何を──」
突然のことに、呆気に取られるヒドラの構成員達。その隙に千束は近い場所に立っている男性の手の銃を撃ち落とし、胸部と鳩尾に連射。意識を奪う。
人質を取ろうと動く女性。それなりに距離が離れているため、この弾丸では届かない。そう判断した千束は即座にカートリッジを交換すると、銃口を向け、引き金を引く。発射されたゴム弾は女性の脳天を撃ち抜き、更に跳弾して、陰に潜んでいた男性の手元に当たり、銃を弾く。
銃を取ろうと陰から出てきた男性を気絶させる。
こちらに銃口を向けた男性よりも速く撃つ。
ナイフを取り出したコックの顎に撃つ。
逃げようと駆け出した男性の後頭部に直撃。
さらに撃つ、走る、撃つ──。
「──ふぅ」
およそ30秒、相手に銃を撃たせず一方的に無力化し、周囲を見渡してヒドラらしき人がいないことを確認した上で、呼吸を整えるために息を吐いた。同時に、食堂にいた職員が沸き上がった。歓声のような声が響き渡る。
「スゲーな嬢ちゃん! 一瞬で無力化しやがった!」
「どこの所属? 見たことないけど!」
「へ? えぇっと私は──」
「知らねぇのか? 最近、ホークと一緒に訓練してる錦木千束ちゃんだぞ!」
「エージェント:バートンと訓練!? もしかして弟子だったりするのか!」
「いやいや、私は別に──イタタ! 背中叩かないで!」
周りを囲まれ、叩かれる背中に苦笑いを浮かべながら食事をしていた座席まで戻ろうと人の波をかき分ける。──嫌な予感が脳内を駆け巡り、千束は慌てて周囲の職員を押し退けた。
ヒドラ構成員が一人、残っていた。最初に気絶させた特殊部隊の男性だ。気絶が甘く、意識を取り戻したようで、側に落ちている銃を手に取ると、銃口をこちらに向けようと腕を伸ばす──が、遅い。
千束が反射的に放った弾丸が先に男性の腕に食い込むと、蓄積されていた電撃が男性の体を駆け巡った。
──トリックバレット。ホークアイのトリックアローを真似て、トニーに作成して貰った逸品。名前はすこぶるダサいと千束は思っているが、能力は一級。今回の弾丸は人体に対してわずかに食い込み、電気ショックによって気絶させる代物。『命大事に』を掲げる千束の新たな装備だった。
痙攣し、ふらつく男性。朦朧としているが、まだ意識があるようで、千束の方へと手を伸ばし──けれど手が届くことはなく、近くの机を掴んだ。
「あ、ちょ……待っ──!!」
ようやく意識が無くなったのか、男性が頭から倒れ伏した。掴んだ机と──食べかけのだったハンバーガーもろともに地面へとぶちまけられ、千束は膝をつく。
「私のハンバーガーァァァアアア!!」
──千束の慟哭が、食堂内に木霊した。
【ラファエラ・シウバ(MCU)】
・コードネームは『ラ・プルマ』(自称)
・今でも月に一週間は義兄を探している。
【ベクター星(MCU)】
・今のトレンドは『ゴミ箱』
【錦木千束(MCU)】
・新装備『トリックバレット』
・銃の腕は悪くないため、跳弾させるくらいはできる。