リコリスinタルコフ   作:奥の手

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あけましておめでとうございます!!
元旦だろうがなんだろうが意地でも水曜夜20時に更新する頑固なスタイルを貫きます。


装備差

 シャーマンが手にするP90は、ブルパップ方式で縮まったが故に犠牲にしてしまった命中精度を取り戻すべく、ロングバレル仕様になっていた。

 これによって、一般的な突撃銃との比較ではその取り回しの良さに優れ、一般的な短機関銃と比較すれば圧倒的な精度と射程距離を維持できる。

 

 この世に個人防衛火器(PDW)と呼ばれる銃が存在して、かつ今現在それが自分の手の中にある事実にシャーマンは心から感謝した。視界の端で頭の形がゆがんだイワンの死体を映しながら。

 

「ザイーツ、ザイーツ! こちらシャーマン。イワンがやられた。繰り返す、イワンKIA」

『了解。現在位置より西の厨房に退避しろ。敵を店舗の前まであぶり出せ』

「了解」

 

 かつては銃口を向け合った敵対勢力でも、昨日まで、さっきまで、良き友人として、良き戦友として、イワンは隣に居た。

 シャーマンのことを〝アメリカ人〟とよく呼んでいた彼も、国籍や所属を乗り越えた関係を奇妙だが良いものだと、きっとそう思っていたに違いない。

 

 そんな彼を。

 

 友人を。

 戦友を。

 良き理解者を。

 

「──よくも」

 

 良き、相棒を。

 

「よくも、殺してくれたな」

 

 厨房へと後退するシャーマンの目は、薄く赤く充血していた。

 

 ○

 

 大通りを東から西へ移動していたザイーツは、シャーマンからの報告を聞いても顔色を変えなかった。

 足を止めることも、声を荒げることも、呼吸が乱れることもなく、ただ淡々と指示を出した。

 

 カフェまでおよそ五十メートル地点で、ザイーツは道の真ん中で乗り捨てられているシルバーのセダンの後部で動きを止めた。

 前後のガラスが割れたセダンは、トランク側に立つとカフェの様子が見える。銃の弾一つ送り込むくらい造作もない。

 しかしカフェ側からはこの暗闇では車の姿が見えにくく、ましてそこから狙撃を受けているとは考え難い位置だった。

 

 ザイーツはセダンの後部座席に乗車した。ドアは開けたまま体を突っ込む。これで全く関係ない背中側の射線も切れる。

 ブースターをはめて、M4A1のサイトを覗く。ペストマスクの隙間から細く息が漏れ出す。

 

 狙うはカフェの店内。暗闇でもナイトビジョンは動く対象を鮮明に映し出す。

 ザイーツは、呼吸を最小限にとどめながら睡眠の足りていない脳で一つの明晰を噛みしめた。

 

 ──動くものが居れば、もはや誰であろうと殺す。

 

 もうこの街には、守るべき者も果たすべき義理もない。

 使い捨てのアメリカ人だけ生き残らせても仕方がない。

 愛すべき部下たちは皆試練を乗り越え、この街を標にして聖なる山へと旅立ったのだ。

 

 せめて。

 私の愛する部下たちに。

 手向けの〝華〟を捧げよう。

 

「その位置だ、シャーマン。そこなら安全だ。応戦しろ。敵を釘付けにしろ」

 

 ザイーツは淡々とシャーマンに命令した。

 イワンを殺した奴らが、確実に一人はこの手の中にあるM4A1の射線上に身を出すように。

 殺して死体を確保できるように。

 たとえそのためにシャーマンが死んだとしても、ザイーツはそれもまた良しとした。〝華〟の材料は多ければ多いほうがいい。

 

 笑いもせず、泣きもせず、ただ単調に細く長く、ザイーツはペストマスクの中で息をつき四眼ナイトビジョンから暗闇の世界を見通した。

 

 ○

 

 防毒マスクをつけて、AK-74を前方へと突き出したまま機械のように進む男が、つい先ほどグリーンスモークが焚かれた位置を目視確認して舌打ちを漏らした。

 

「不味いぜ。真っ黒野郎の死体がある」

「あいつらホテル全域に部隊を展開しているのか」

「だろうな。三人死んでいる。あと何人いるかわからんが、イレーネ達の気配がない。()()ぜこれは」

「遅かったか。減点だな」

「まだ間に合うって、萎えること言うなよ」

 

 防毒マスク越しに悪態を吐きながら、男は一度立ち止まって、

 

「敵だ」

「撃て」

 

 ロシア語での短いやり取りの末、男は歩き出してからカフェに向かって一発だけ発砲した。

 

「ダウン」

「散開」

 

 まるで毎朝のルーティンかのように。

 何度も同じことを繰り返した末の動きのような、一切の無駄も躊躇もなく防毒マスクの男はカフェの店内でこちらに銃を向けていた大柄な男の頭を弾き飛ばした。それからベースボールキャップの男と二手に分かれた。

 

 青さびた路面電車へ沿うように直進するのが防毒マスクの男。

 路面電車から遠ざかるように、西側に伸びる道路へ回り込んだのがベースボールキャップの男。二人ともカフェからの射線はもちろんのこと、西側の通りから横槍を入れられないよう警戒しながら、遮蔽から遮蔽へ、プログラムされた機械のように移動し続けた。

 

 片耳のみを覆う形で取り付けた小型の無線機に、ベースボールキャップの男が報告を投げる。

 

「西側から店内は敵影なし」

『東からも見えない。カウンター内不明』

「了解。厨房側に気を付けろ」

『袋の鼠だぞ? そんなところ行くか』

花の二人(千束・たきな)が見当たらない。ここは合流地点だ。様子がおかしい」

『了解。店内に入る。誤射に注意』

 

 防毒マスクの男が東側からカフェ店内へと侵入するために走った。

 窓枠手前にごみが散乱している。アンブッシュの可能性もあるため、防毒マスクの男はその隣の何もない窓枠から飛び込もうと近付いた。

 

 そして左肩から肩甲骨にかけて、殴られるような衝撃が走った。左半身が前に出る。バランスを崩す。

 かろうじて窓枠の前まで来た。

 自分が何者かに()()()()()()()()ということは分かった。ここで立ち止まると次は頭を撃たれる。

 一瞬でそう判断した。左手は恐らく機能しない。であるならばAK-74も撃てない。

 

 一秒に満たないわずかな時間で、防毒マスクの男は〝左腕〟と〝装備〟を捨てて自らの命を守る判断をした。

 AK-74を手放す。スリングはつけていない。銃が地面に落ちて音を立てると同時に、防毒マスクの男は窓枠から店内へ飛び込んだ。

 そのまま止まらぬ動きで床を転がり、右の大型ポケットから右手一本で拳銃を取り出す。M1911ガバメント。7発の45口径が残された戦力の全て。

 

 薄暗い店内に横ばいのまま銃口を向ける。二秒以内にそこがキルゾーンではないと判断し、次の一秒で左側にあったカウンターを背にするよう転がった。ちょうどカフェの外壁が遮蔽になって、後ろから撃ってきたやつもこの位置は捕捉できない。

 

 寝転がったまま負傷の度合いを確認する。

 

「…………ファック」

 

 すぐに舌打ちが漏れた。

 出血がひどい。この際痛みなどどうでもよく、この出血を放っておけば三分と持たず気を失う。

 

 防毒マスクの男は通信を繋いだ。

 

「現在位置、カフェ店内カウンター前。東から狙撃。左肩肩甲骨負傷。AKは捨てた」

『了解だ。射撃者の位置は』

「不明」

『人数』

「不明」

『武装』

「不明だ。カバー頼む」

『わかった、まずは止血して──』

 

 ベースボールキャップの男からの言葉を聞き終わる前に、カフェ店内が爆発した。

 防毒マスクの男には、一瞬目の前が光ったことしかわからなかった。

 店の中心で起きた爆発は、店内の椅子、テーブル、窓枠のガラスを粉々にした。無数の鉄片が無差別に穴を開けて、爆風が半径5メートル付近を焼く。

 

 店内の中心に体を向ける形で横たわっていた防毒マスクの男も、周囲の椅子や机と同じ末路を辿った。

 

 ○

 

「一人はやったか」

 

 シルバーセダンの後部座席から迅速に降りて、ザイーツはM203アンダーバレルグレネードランチャーから排莢する。煙を上げて、金属の澄んだ音をアスファルトで響かせながら大きな薬莢が転がっていった。

 そして次のグレネードを押し込み、道を西へ向かって、カフェに向かって、ザイーツは歩き出す。

 鼻歌を歌うわけでもなく、上機嫌な足取りを見せるわけもなく。ただ淡々と、次の死体を作るために。




「建物内に味方がいる」状態で「外から爆発物を撃ち込む」輩なんてそうそういませんからね。現実のパーティーでそれやったら絶交されますよ。
ザイーツ隊長? あぁ、あの人今寝不足だからね。仕方がないよね。


〜新年のご挨拶〜
改めまして。明けましておめでとうございます!!
確か昨年は「年末スペシャル」的な連投をしたんですが、今年は律儀に水曜更新です。
…………嘘です。引っ越し作業が終わらなくて生活基盤がガタガタなんです。
いやもう本当に、ハイドアウトの序盤状態です。足りないものが多すぎる。洗濯もできねぇ。飯も作れねぇ。作っても皿がない。

年始の連休でなんとかして整えます。整わなくてもリコタルは更新しますので、どうか今年も「お〜やってる? いつもの一杯!」てなノリで見ていってください。
今年もよろしくお願いします!!
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