ちょーっと仕事が忙しくて週一更新になりそうです。落ち着いたらもうちょい投稿できるかも……?
あぁでもタルコフしたいんで未来のことはわかりません(欲望)
「…………」
たきなを殺そうとした男の死体を前にして、千束は何も言い出さなかった。
苦言も、励ましも、泣き言もない。ただただ頭のはじけた男の死体を見て、目に少しの涙を浮かべながら、じっと見つめていた。
一分くらいか。千束は動かなかった。目線も男に釘付けになったままだった。
本来であれば危険な行動である。周囲にはPMCもスカブもいる。いつどこから弾が飛んでくるかわからない戦場のど真ん中である。
それを承知でも、千束は言葉を失いながら男の死体を見つめることしかできなかった。
たきなとジャックは周囲を警戒している。忙しなくお互いに別々の方向を見ては目を凝らし、動くもの、人型のものに注視している。
すべては千束のために。今千束は、何か大きな抗いようのない感情から自分を守るために戦っているということをふたりは知っている。だからこそ声もかけないし、何か慰めるようなことや、言い訳のようなものも並べない。
敵の命は失った。でもたきなの命は助かった。敵の命を奪わなければ、たきなの命は奪われていた。
その事実がわかっているからこそ、千束の中で矛盾した感情がせめぎ合う。答えのわからない問いに、無理やり答えを出そうとしている。
平和な日常生活では取るに足らない一分間も、戦場では長すぎる時間であった。しかしその間、何かが起きたというわけではない。千束がグローブ越しに目を擦り、涙を無理やり振り払ったのと、たきなが振り返って千束の方を見たのは同時だった。
たきなが優しく呟く。
「私は生き残りました。…………それが全てだと思います」
千束は頷き、KSGショットガンを握りしめた。少し震えた声で、口をひらく。
「そうだね。うん…………生きててくれた。ありがとたきな。そうだよね」
千束が顔を上げてたきなを見る。目元に少しだけ笑顔が見えた。
千束の中で何かが変わった。それはたきなにはわかったが、どう変わったのかはわからない。不殺の意志に揺らぎがあったのか、それとも逆により確固たるものになったのか。見た目にはわからない。千束の笑顔はどちらにも見て取れた。
だからたきなは聞いた。今後どうするのか。どのようにしてこのタルコフで生き残るつもりなのか。
「千束、これでもまだ、人を殺さずに進みますか。人が死ぬたびに胸を痛めますか?」
たきなの問いかけに、千束は目元に小さな笑みを浮かべたまま答えた。
「私は私だよ。私の決めたことは、私が守ってあげるんだ。誰かじゃない。私のために、私が、守り通すんだよ。それが私のやりたいこと」
千束の言葉に、たきなは満足げに頷いた。自然と口元が緩む。そうだ。これが千束だ。私を変えてくれた、私が命を賭けてでも守りたい人間の姿だ。
千束は変わらない。変わってほしくないし、これからも変わらない。だから安心して私は千束の味方でいられる。千束のそばで戦える。
「千束のために私はいます。私はそのことを忘れません。千束は、千束のやりたいこと最優先を、いつも忘れないでください」
たきなはボルトアクションライフルを握る手に力を込めて、千束に明るい声でそう告げた。千束はこくりと確かに頷いた。
◯
検問所、そしてその南側での戦闘を経てこれから移動するという話になった時、行き先をどうするのかで千束とたきなは少し迷った。
それと言うのも、辿り着きたい場所は昨日手に入れたZB-014という地下防空壕へつながる入り口であるが、これが現在地からどの方角にあるのか、正確にはわからないのである。
検問所を目印にして自分たちがいる場所を大まかに割り出そうとしたが、地図を見るに今立っている場所に目印となりそうなものはない。
迂闊に進めば地雷原に足を踏み入れてしまうことも考えると、何か目印となるものを見つけて進んだほうがいいだろうという判断になった。
ゆえに、このまま南へ進み、ウッズと呼ばれている範囲の最南端へ向かう。一番南では地雷原に囲まれた道が一本伸びており、そこから別のエリアへ行けることがわかっているので、その最南端を見つけ次第再び北上、やや西寄りへ進む予定となった。
十何メートルもある背の高い木々に、青々とした葉っぱが茂って頭上を包んでいる。膝から下に生える草もそわそわと足に絡みついてくる森の中を、三人は警戒しながら進んでいる。
日の光はまだまだ届いているようであるが、もう数時間すると日没となる。夜間装備のないままウッズエリア内に止まるのは得策ではない。三人の足取りは気持ち早くなっていた。
しばらく進むと、進行方向から見て十一時の方向に小屋が見えた。木の板を丁寧に貼り合わせて作られた簡素な小屋である。
先程まで人がいたのか、入口の前ではドラム缶の中で木が燃えてストーブの代わりになっている。
侵入者の行手を阻むように有刺鉄線と鉄柵が備えられており、中へ入るにはそれらを避けて一部分の隙間から入るしかない。
「千束、入ってみますか?」
「そうだね。気をつけよう」
「俺が先行する」
ジャックが先頭に立って有刺鉄線の間を潜り抜ける。ドアもついていない入り口から中に入り、様子を伺う。
小屋の中にはテーブルや椅子といった類ものはなく、木の簀にナイロンのカバーがかけられているものが奥に一つ。その、見ようによってはテーブルの代わりになるかならないかの台の上に、食料と武器装備のパーツが置かれていた。
砂糖、ビタミンジュース、AR系統のサプレッサー、そして。
「お、千束、たきな。これは使えるぞ」
ジャックが手に持って渡してきたのは、一見双眼鏡のような二眼の黒い装備品。片側にレンズと丸い筒が二つついており、反対側は筒が一つだけ。
双眼鏡にしてはややずしりとくる、それは。
「二眼のナイトビジョンだ。取り付け用のアタッチメントもここにある。ヘルメットにつけるものだ」
「ということは、私のヘルメットにつきますか?」
「ここに溝があるだろう」
たきながヘルメットを外しながらその前面部を見た。ジャックが指差したところには、確かにパーツを取り付けられる溝がある。
「貸してみろ、ここにこいつをこうする…………ほらな。ぴったりだ」
ジャックが手に取って、ナイトビジョンと取り付け用のアタッチメント、そしてヘルメットを接続する。差し込んでネジを閉めると、ぐらつきもなくナイトビジョンはかっちりとヘルメットに装着できた。
「被ってのぞいてみな」
ジャックから受け取ったナイトビジョンつきのヘルメットを被り直して、顎紐を締めて固定したたきなは、ナイトビジョンをかちゃりと下ろしてみる。
目の前に降りてきた二つの穴。そこをのぞいて見える世界は、
「おぉ…………これは」
日の光がわずかにしか入ってこない、電灯も何もない薄暗い小屋の中が、緑色の世界に照らし出されている。わずかな光を検知して人工的に増幅し見せている世界は、輪郭こそややはっきりとしないものの、その濃淡、位置、距離までしっかりと見えている。
「これがあれば夜でも行動できますね。ただ、千束の分はないんですよね」
「おいてあったのはこれひとつだな。それに千束はヘルメットではなくキャップだ。どのみちあっても取り付けるには別にハーネスが必要になる。…………ナイトビジョンが必要か?」
ジャックの言葉に、千束はふっふっふと鼻を鳴らして、
「ご心配ありませーん。わたくし夜目も効くので実はちょっとでも月明かりがあれば周りが見えているのでーす。機械になんて頼らなくても歩けるし戦えるよ」
胸を張る千束にたきなとジャックは苦笑しながらも「ならいいか」と安心する。
わざわざ小屋に置いてあると言うことは誰かの所有物なのであろうが、その所有者の姿はない。取られたくなれば鍵でもかけておくべきだろう。
三人はありがたく食料と飲み物、ナイトビジョンを頂戴して、小屋を後にした。
そのまま南へ少し歩くと、木々の本数が減って開けた場所に出た。地面が隆起しておりやや高低差のある場所になっている。岩も見える。左手には大きな湖が広がっており、湖岸に簡素で短い桟橋とボートが見える。桟橋の先端は折れて湖に沈んでいた。
そのまま南の方角へ突き進むと、百葉箱のようなものが見えた後、再び木々の本数が増える中に、赤く錆びた鉄の看板が見えた。
中央にドクロ。その周りにロシア語で警告文。この先は地雷原であるから立ち入るなという看板であった。
「ここから西に行くね」
「了解です」
方向転換して三人は西へ。少し行くと何やら道の真ん中に土嚢と木箱が積み上げられているのが見えた。水の入っていたであろうプラスチックの大きな容器もある。すぐ近くにはボンネットの開いた薄いブルーの車もあるが、これは動きそうにはない。
「ここはウッズの西側の脱出口だ。この道をさらに南へ抜けられる」
ジャックの案内を聞くに、ウッズエリアから抜けて別の場所へ行くにはここを南へ進めばいいらしい。道から逸れると地雷原なので、道を正直に進む必要があると教えてもらった。
しかし今回この道は進まない。目的はここから北上した場所。地下防空壕の入り口である。
三人は道の西側に身をすすめながら北上していった。木々の数がやや減り視界が開ける。なるべく身を隠すように西へ進路をとりながら、全体としては北上していく。
少し小高い丘を慎重に登ると、目の前にボロボロの小屋が見えた。木材を貼り合わせて作ってある壁の一部が崩れて出入り口になっている。全体的に吹き曝しのほったて小屋であり、いかにも管理されていないボロ小屋であった。そして、
「スカブだな」
「数は3です。小屋の中に一人、小屋の西側に一人、南側の入り口横に一人です」
「りょーかい。西側から接近するから、たきなとジャックさんはちょっと適当に撃って気を引いてもらえない? 当てなくていいから」
丘から顔を出しながら様子を伺った三人は、そういう話で役割を決めて行動に移した。
ジャックが小屋の方へペーペーシャを構えて、引き金を引いた。バラララララと連続した音があたりに響き、弾が木建の小屋に穴をあける。
驚いたように入り口横と西側のスカブが反応して、それぞれ北の方角めがけて走り出した。建物の中にいた一人がこちらを捕捉して撃ち返してくる。たきなとジャックは丘の斜面に身を隠してやり過ごした。弾の通り過ぎる風切り音が頭上でなっている。
「千束、敵は小屋の北側に二名、中に一名です。中の一人がこちらに撃ち返してきました」
『りょうかーい。今小屋の西側に取り付いた。外の二人からやるね』
そう通信が入るやいなや、千束のKSGショットガンの乾いた発砲音が2発鳴り響く。たきなはボルトアクションライフルの銃口を小屋の方へ向けながら顔を出し、中の一人の様子を探る。千束から通信が入る。
『たきな、北側は二人やった。入り口があるから入るよ』
「了解です。中の一人はまだ外に出ていません。気をつけてください」
『まかせて』
たきなの覗くスコープの中に敵の姿はない。小屋の南側には崩落している壁の穴とは別に、建物の壁の右端にも窓がある。ガラスも何もない四角く開いているだけの窓だが、そこからも人影は見られない。ということは壁の中央の、南側からは見えないところに身を隠している。
スコープの中に千束の姿が見えたのと、小屋の中の敵が発砲したのは同時だった。
北側の部屋から歩いて入ってきた千束に無数の弾丸が浴びせられる。しかし、千束は緩慢な動きで体を左右に振って、敵の弾を全て避けた。弾切れか、敵の銃から弾が吐き出されなくなる。
「クソッタレ! なんであたらねぇんだ!!」
男の罵声と、
「はいおつかれさん」
千束の声が聞こえたのと同時に千束が発砲。KSGショットガンから非殺傷のゴム弾が発射され、男の顔面に命中。男の体が吹き飛んで倒れていくのが、右端の窓から確認できた。
『終わったよー』
「了解です。お疲れ様です」
「周囲に追加の敵は無しだ。小屋の中と敵を調べるか」
『そうだね』
たきなとジャックも小屋へ前進し、中と敵を調べた。ゴミだらけの小屋の中にめぼしいものはなく、敵の持ち物からも特にこれと言って収穫物はなかった。
早々に小屋を後にして、三人は北へ移動した。木々の数は少なく、比較的開けている。射線も通りやすい。足早に抜けていった先で、三人はコンクリートの壁が並んでいるのを発見した。壁の上部には有刺鉄線が張られている。なんのための壁か、何かの侵入を阻止しているのか、その目的はわからない。
壁の東側に沿って三人は進んだ。しばらく行くと大きな岩が見えた。ジャックの身長よりもさらに五十センチほど高い。左側には登って越えられそうな腰丈ほどの岩の集群。三人は視界の悪さを警戒して、岩の右側に回った。すると。
「お、これじゃない?」
千束が声をあげる。そこには地下に続く石造りの階段があった。階段のすぐそばに緑色の発煙筒が炊かれている。
「この発煙筒はなんでしょうか…………? 人が近くにいる……?」
「わからんな。気をつけて入るに越したことはない」
「だね。狭いだろうからサイドアームにするよ」
千束、たきな、ジャックはそれぞれメインアームの武器を体の側面に追いやって、サイドアームのハンドガンを抜いた。千束が先頭。中にジャック、最後尾をたきなの配置にして階段をゆっくり降りていく。
降りてすぐのところに暖を取るためのドラム缶が置いてあり、中で木が燃えていた。誰かが利用している。それはもう明らかだった。
歩を進める。防空壕入り口の中は狭く、そして暗い。千束は少し目を慣らしてから、よく周囲を見て進んだ。
中に入ると棒状の電灯がひとつ床に落ちていた。それを光源にして部屋の中が照らされている。人の気配は今のところない。千束は懐中電灯を取り出して、スイッチを入れた。部屋の中を照らし出す。
床に散乱する様々なゴミ、錆びたドラム缶の集団、水が入るであろう青い巨大な容器、そして奥の部屋につながる鉄格子の扉。
「たきな、あれかな」
「のようですね。鍵穴は……」
たきなが前に出て扉の様子を探る。鍵穴はすぐに見つかり、たきなは持っていた鍵を差し込んで回してみる。
かちゃりと小気味いい音と共に鍵は解除された。たきながドアを引くと、あっさりと鉄格子はその役目を終えて奥の部屋を開張した。
奥の部屋にも緑の発煙筒が焚かれており、煙が濛々と上がっている。赤錆びた酸素ボンベや木製と樹脂製のクレート、スチールの棚などが置いてある。そして、
「これだな」
ジャックの指差す先に、頑丈そうな鉄でできた、そして赤いハンドルを回すことで開く特殊な扉がそこにあった。重厚的な造りのそれを前に、三人は少し固唾を飲んだ。
ここは間違いなく人の手が入っている。誰かが使っているのか、あるいはここを拠点にしているのか。それとも脱出口としての通り道で、何者かがその出入りを管理しているのか。
鍵がなければこの扉から別のエリアへ行くことはできないのであるから、もしかすると限られた人物、集団がここを利用しているのかもしれない。
千束とたきなはもちろん、ジャックですらもこの場所は噂にしか聞いていない。防空壕を介して別の出口に繋がっているらしいという情報しかもっていない。ゆえに、この先がどうなっているのかは未知数である。
「開けるよ」
千束が赤いハンドルに手をかける。重苦しい音を響かせながらハンドルは周り、扉のロックが外れる。そのまま扉を引いて開いた。
たきな、ジャックが後方からハンドガンの銃口を向けている。何があってもいつでも撃てる。その用意がある。
扉はゆっくりと開き、その奥から澱んだ空気が顔を舐めるのを三人とも感じ取った直後。
ジャックがハンドガンのライトを点滅させ、闇を切り裂くように扉の先の廊下を照らしたのと、
「おや、見ない顔ですね」
扉の向こうから、茶色い革の上着にニット帽の男が、ロシア訛りの英語でそう話しかけてきたのは同時だった。
ジャックが目を見開く。千束が一歩下がる。たきなは引き金に指をかけて、その遊びを絞り切ってもう後すこしで撃鉄が降りるところまで力を込めた瞬間だった。
ライトに照らされた男が少し慌てながら、
「あぁ! 撃たないで。敵ではないですよ。味方でもないかもだけど、少なくとも私を殺すメリットはありません。銃を下ろして。ほら、私は銃を持っていませんよ。お腹には持っていますがね」
男はシャツの裾を持ち上げて、腹の位置にコンシールドキャリーしている拳銃をホルスターごと見せた。抜く気はないようである。
たきな、ジャック、千束の三人は少し躊躇いながらも銃口を下ろした。千束が懐中電灯で男を照らす。男は怪しげなにんまりとした笑顔を顔に貼り付けたまま、丁寧な英語で口を開いた。
「ようこそ、脱出口ZB-014へ。ここから先の安全は私、ヒュージーが保証しますよ」
タルコフのBGMを聞いたことはありますか?
私はYouTubeで見つけたプレイリストを聴きながら執筆しています。かっこいいんですよタルコフのBGM。
中でも好きなのはこれ。
https://www.youtube.com/watch?v=zr5CCXjnZ8k&list=PLHWoCotuxs61cuC0OQShmUoR0mP_8YXFx&index=7
いいですよこれ。何がいいって入りの重低音です。ぜひ低音に強いスピーカーやイヤホンでお聞きください。耳が幸せです。
ところでこのBGMはゲームの中のどの部分に使われているのかだって?
へへへ。それはね。
死んだ時に流れるんですよチュドーン。