リコリスinタルコフ   作:奥の手

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装備支給

「おお〜! 本格的だねぇ」

「すごい量ですし……この銃はなんですか?」

 

 楠木からのロシア遠征の話を聞いた数日後。装備の用意ができたことと、潜入開始の日程が千束とたきなに伝えられた。

 今は東京都内にあるDAの施設、三階建ての小さなビルの最上階で、用意された装備に目を通しているところである。

 

「そちらはM24A3対人狙撃銃です。軽いものが良いとおっしゃられていたので、ストックやハンドガードは強化樹脂製のオリジナルパーツで構成されています」

 

 たきなの問いに丁寧に答えながらM24A3狙撃銃──大型のボルトアクションライフルを手に取り、たきなに手渡したのは灰色のスーツ姿の女性である。千束もたきなも、この女性とは今日初めて会う。三十代半ばほど、整った顔に少しの皺が見え始め、明るい茶髪を肩口のところで揃えてカットしている。おそらくは元リコリスで、今はこうして事務仕事や現役リコリスへのサポートで生計を立てている類の人間だろう。

 

 たきなは手渡されたボルトアクションライフを抱える。

 肩にストックを押し当て、ブラインドの降りた窓に向かって構える。銃本体の上部には一倍から六倍まで可変できるスコープが乗っている。マズルの先端には中型のサイレンサーもついており、隠密性に優れている。

 

「これは……」

「いかがですか」

 

 スコープを覗いたたきなは少しの感嘆の声をもらした。スコープ越しに見た世界は大きく鮮明で、狙いやすい。レティクルは赤く発光しており、モードの切り替えができる。十字と丸を組み合わせて集弾する範囲を示せるレティクルと、シンプルな十字のレティクル。状況によって、あるいは好みによって選択できる、十分質の良いスコープであった。

 

「こちらのボルトアクションライフルの弾薬は.338ラプアマグナム弾を使用します」

「ラプアマグナムぅ!? なんでまたそんな強い弾使うのさ!!」

 

 千束が目を見開きながらたきなの構えるボルトアクションライフルを見た。たきなはスコープから目を離し、女性に言う。

 

「私が遠くまで狙えるものをと言ったからですかね」

「その通りです。安定して中遠距離を当てるには最適な弾薬です。ご用意したのはアーマーピアッシング弾ですから、もし万が一PMCの残党で、かつ高クラスのアーマーを着用している相手と戦うことになったとしても、撃ち負ける心配はありません」

「いやいやいやいや殺しちゃうでしょ。相手ぐちゃぐちゃになっちゃうよ」

「千束、安心してください。なるべく手足を狙いますから」

「1発で手も足も飛んじゃう弾なんだけど……」

「千束が死ぬよりはマシです」

 

 ええ……と千束が肩を落とすのを横目に、女性は今度は千束側の銃を手に取って渡した。

 

「こちらはケルテック社のショットガン。KSGです」

「これは一年前にも使ったから操作はわかるよ。弾もある?」

「ええ。非殺傷ゴム弾と7ミリバックショット弾を用意しています。ブルパップ式、二連チューブマガジン、このコンパクトさで装弾数14発を誇ります」

「片方のマガジンにゴム弾、もう片方に実弾という運用ですか?」

 

 たきなはボルトアクションライフルを机に置きながら千束に振り返る。千束は少し悩んだ後、

 

「まぁそうなるかな。できれば実弾は使いたくないんだけど」

「ドアブリーチにも使えますし、万が一のことがあります。実弾とゴム弾を使い分けましょう」

 

 そうだね、と千束は頷きながら渡されたショットガンを点検する。たきなの銃もこの銃も新品を用意してくれている。フォアグリップをコッキングしたり、セレクターを動かしたりして動作を確かめる。問題はなさそうだ。

 そのままストック兼レシーバーである部分を肩口に当てて構えてみる。一年前に使った時にはアイアンサイトだったが、今回は等倍ホロサイトが乗っている。

 

「お、見やすいねこれ」

「たきなさんのスコープと同じイオテック社のものを選んでおります」

 

 レティクルの明るさや種類も状況に合わせて変更でき、尚且つ見やすい、バランスの良いホロサイトである。

 しばらく右へ左で動かしたのち、机の上に戻した。

 

「銃は大丈夫そうだね」

「そのほかの装備は?」

 

 たきなが女性の方を見ながら質問を投げる。女性は机の上の装備類を指差しながら一つずつ説明した。

 身につけるものは自然の景色に溶け込めるように緑を主体とした迷彩柄で揃えられている。クラス6のアーマーリグとヘルメット、迷彩の戦闘服、大きなバックパック、衛星通信機、そしてヘッドセットとローカルな通信機まで。

 

 全ての装備の説明を受けた後、千束が、

 

「私はヘルメットはいらないかな。頭が重いと弾避けずらいし」

「そうですか。しかし、頭髪がそのままだと目立ちますよ」

「じゃあキャップかなんかにしてよ。かっこいいやつ!」

「かっこいいかは分かりませんが、では迷彩仕様のキャップを用意します。たきなさんはなにか変更はありますか?」

 

 話を振られたたきなは装備をじっと見つめたのち、

 

「いえ、大丈夫ですね。サイズも合っているようですし」

「わかりました。それでは本日は以上になります。食料品や医薬品についてはバックパックにまとめておきます。およそ二週間は補給なしで行動できる量を入れておきますね」

「はーい」

「了解です」

 

 こうして、装備点検は無事終わった。

 

 ◯

 

 それから数日後。

 いよいよ潜入開始が明日に差し迫った日の喫茶リコリコでは、出撃前の壮行会が行われていた。メンバーは千束、たきな、ミズキ、クルミ、そしてミカである。ミカの入れたコーヒーを千束とたきなが飲む。座敷の机の上には甘味やお菓子がこれでもかと並べられていた。

 

 ミカがカップのコーヒーを一口飲んだ後、千束とたきなを優しい目で見ながら口を開く。

 

「最低でも二週間。ファイルが見つからなければそれ以上の作戦行動になるらしいな」

「そうなんだよー。今までで一番長くなりそう」

「食料や医薬品は二週間分しか支給されません。現地の物資は…………あるんでしょうか」

 

 不安げなたきなの問いに答えたのはクルミだった。

 

「今のタルコフ市はネットの世界にも情報がほとんど出ていない。ってことは物品の流通なんてないようなもんだ。噂通り、奪うか奪われるかのやり取りになるだろうな」

「その場合は、やはり殺さず分けてもらうということになると思いますが……難しいでしょうか」

「どうだろうな。あくまで千束のやり方でやるとしたら、まぁゴム弾で気絶してる間にめぼしいものをかっぱらうか」

「えー! 泥棒じゃん!」

「千束、そんなことを言っていられるのは最初の二週間だけです。物資が尽きれば、私たちの命も危ういですよ」

「わかってるよもう。まぁ…………ちょっと拝借するってだけだからね。でも命は絶対に奪わないよ。気分悪いし」

「そうですね」

 

 三人の会話を尻目に、ミズキは日本酒をコップに入れてグビリと飲んだ。ミズキの前にはお菓子ではなく乾物が並んでいる。イカの干物をひとつまみして口に運び、しばらく噛んでから飲み込んだ後、千束の方へ質問を投げる。

 

「それで、現地の地形とかファイルのありそうなところとか、あんた目星ついてんの?」

「それがねー…………ね、クルミ」

「あぁ、困ったよ」

 

 視線を向けられたクルミがわざとらしくため息をつく。

 近くに置いていたタブレットを手に取って少しの間操作し、それをミズキに見えるように掲げる。

 

「封鎖前に撮影されていた衛星写真から現地の地形はおおよそ割り出せたが、ファイルの位置は皆目見当もつかない。現地入りしてぶっつけ本番の宝探しになる」

「うわ、やっぱきついわね」

「そうなんだよねー。まぁ地図があるだけでもマシだけど」

 

 千束の言葉にクルミとミズキは頷く。クルミはそのままタブレットを操作して、市街地のマップを映し出した。

 

「タルコフの中心街にはそれらしいビルが立ち並んでいる。システム開発会社を割り出して片っ端から潜入すれば見つけられるかもしれないが、ここになかった場合どこに会社があるのか、あるいはとっくの昔にファイルだけ持ち出されてどこかに隠されているとしたら、見つけるのは絶望的になる」

「クルミの技術で位置を割り出したりとか、移動させられていたとしたらその軌跡を追ったりとかはできないんですか?」

 

 たきなの純粋な問いにクルミは眉を落としながら申し訳なさそうに答える。

 

「やってはみるが、ここ数日の活動じゃ無理だった。今後も続けて、何か進展があれば衛星通信から教えるつもりだ。でも…………あまり期待しないでくれ」

「分かりました」

 

 話がひと段落して、全員が各々コーヒーやお菓子に手をだす。しばしの静寂ののち、ミカが千束とたきなの方を向いて口を開いた。

 

「拳銃は持っていくのか? 武器を支給されているようだが」

「いつものでしょ? 持っていくよ」

「室内戦も想定されていますからね。使い慣れてますし、あったほうがいいです」

「わかった。弾の在庫はあるからありったけ持っていけ」

「やった! ありがとせんせ!」

「ありがとうございます」

 

 喜ぶ二人を見ていたミズキが、思い出したように手を叩く。

 

「そういえばさ、これから経験したことない長期任務になるってわけだけど、あんたら風呂とか着替えとかどうすんの?」

 

 風呂と着替え。つまりは衛生面をどうするのかという問いだが、それに答えたのはたきなだった。

 

「着替えは持って行きます。下着は自前ので、服は支給されています。とはいえ毎日着替えるなんてことはできないでしょうから…………」

「そそ。数日おきに、汚れたら着替えるって感じかな。現地でなんとかして拠点を見つけないとね。お風呂は無理だと思うから、除菌シートをたっぷり持っていくつもり」

 

 ははーんなるほどとミズキは納得したようだった。

 

「かっこいいロシアイケメンがいても拠点に連れ込んじゃダメよ」

「んなことするかあほ!」

 

 ウインクするミズキの頭をシバいた千束は、そのままお菓子をバリボリと口に放り投げた。

 壮行会は明日に響かない程度に、夜遅くまでわいわいと続いたのであった。

 

 ◯

 

 翌日。

 日が昇ると同時に、千束とたきなを乗せた大型輸送機は日本を旅立った。

 一度ロシア国内で給油をしたのち、ノルヴィンスク地方、タルコフ市まで飛ぶ。そこで空挺降下をして、千束とたきなは現地に潜入する予定である。

 

「ねぇたきな」

 

 迷彩柄の戦闘服にクラス6のアーマーリグ、頭にはキャップとヘッドセットをつけ、手にはKSGショットガン、右の太もものホルスターには使い慣れた拳銃を収めた千束が、ヘッドセットに接続した通信機越しにたきなに話しかける。

 

 似たような格好に、頭には迷彩柄のクラス6ヘルメットを被り、その内側にヘッドセットを装着し、手にはM24A3、大型のボルトアクションライフルを持ったたきなが答える。右の太ももにはもちろん、スライドが銀色の拳銃がホルスターに収まっている。

 

「どうしました」

「なんだか、ワクワクしない? 遠足みたいでさ」

「…………」

 

 たきなは少し考えた後、

 

「私たちリコリスって、遠足なんて行事はなかったですよね」

「いやそうだけど! そうなんだけど! ほらなんかそういう感じっていう!」

「ふふ」

 

 少しの笑みを漏らしたたきなは、抱えているボルトアクションライフルに視線を落とした後、

 

「物騒な遠足ですね」

 

 これから幾度となく指をかけるであろう引き金を、そっとなぞった。

 

 

 

 

 




ちょっと調べただけじゃリコリコ×タルコフの作品って出てこないですね……。
小説はおろかイラストも。それらしいイラストが一軒発掘されただけで、なるほどこの組み合わせは珍しいのかと。
やる気が出ますね(わくわく)


感想や評価、心よりお待ちしております。めっちゃモチベ上がりますんでぇ!
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