リコリスinタルコフ   作:奥の手

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ごめんみんな!
ちょっと私生活がバタついてて今週は幕間だよん。
お昼のおやつくらいの感覚で読んでいっておくれ。


幕間:ある男の非日常②

 この世には〝運のいい奴〟と〝悪い奴〟の2種類がいる。

 俺は前者の人間だろう。コインの裏表を選択するときも、顔のいい女に出会うのも、銃弾が飛びまくる取引現場を抜け出すときも、等しく結果は俺の味方をしてくれている。

 

 だから周りの人間は俺のことをタラカン(ゴキブリ)と呼ぶ。しぶとく、運良く、元気に生き残るやつを妬んでその名前をつけたとしたら、言い出した奴には花束と俺のクソを送りたいね。運がつくぜ。

 

 俺は今、スキーヤーって奴の下で働いている。なかなかにクソ野郎だが能力はあるし、なによりはみだしモンをまとめ上げる確かなカリスマを感じる。その意味じゃ、運だけで世の中渡り歩いている俺よりよっぽど生きるのが上手い。多分これからも悪い奴らをまとめ上げて〝正義〟にしていくんだろうな。

 

 仕事に不満はない。時々無茶な要求はあるが、なんとかここまでやれている。信頼も厚い。豚小屋みてぇな汚い裏路地生活から、ちゃんと屋根とベットのある汚ねぇホテル生活になれた時の昇進のありがたみは噛み締めたね。

 カスタムズ郊外の四階建てビジネスホテル。鍵付き屋上付きの立派な隠れ家だ。まぁその一室だけどな。交代で見張りをしつつ二十人くらいで住んでいる。

 

 ちなみに俺はスキーヤーからの直依頼で忙しいから見張り番とゴミ拾い係は免除だ。どうだ? いいだろ? 

 

「あー…………疲れた」

 

 今日も今日とて危ない橋を渡ってきた。

 スキーヤーと取引をしている元PMCからドックタグを受け取る任務だった。正直なんでスキーヤーがUSECの連中のタグを集めてんのかよくわかんねぇけど、これに金出してんだからなんか目的があんだろうな。眺めてシコってんのかな。

 

 取引自体はスムーズにいったが、全然関係ないどっかのバカが銃弾ぶち込んできて現場はめちゃくちゃだ。取引相手の元PMCは死んじまったし、俺の護衛も二人死んだ。

 俺と、もう一人の護衛だけが生き残って、襲撃してきたバカはその護衛が始末した。俺もあいつも運が良かった。と、思っていたが殺した襲撃者から装備を剥ぎ取る時にお土産グレネードが炸裂して、生き残った護衛もミンチになっちまった。

 

 運が良かったのは俺だけらしい。殺してすぐに飛びついちゃダメなのは鉄則っちゃ鉄則だが、仕方ねぇ忘れることもあるよな。来世で頑張れ。

 

 んで、タグと死んだ奴らから使えそうな小物だけパクって帰ってきたってわけだ。物をスキーヤーに渡すのは明日だな。

 

「どうすっかなぁ」

 

 俺は冷蔵庫から今日の晩飯を見繕うことにした。別に命の危険に晒されるなんぞ日常茶飯事だから、特別な飯が欲しいわけじゃない。

 だが運ってのはいつ尽きるかわからねぇ。一週間後に死ぬのか明日死ぬのか今晩死ぬのか、誰もわからねぇ。わからねぇんだから、美味いものとやりてぇことはやれる時にやるべきだ。

 

 問題はその「美味いもの」が二つ以上ある時だ。今冷蔵庫には俺の好物が三つ入っている。どれも今晩食べるものにふさわしいし、たとえそれが最期の飯になったとしても悔いはねぇ。

 

 だがどれを選ぶかは大切だ。死んだあとに地獄でダチと会った時に、最期に何食ったかは絶対話すことになるからな。ダセェ思いはしたくない。

 

「んじゃ、これにするか」

 

 俺はドライソーセージと瓶ビールを両手に取った。

 たとえ今晩死んだとしても、最期の飯がこれなら悪くない。悔いはねぇしダチにも自慢できる。こんなクソみてぇな世界では、こんなモンでも大ご馳走だ。

 

 ベット横の小さなテーブルにメシを置いて、ポケットからタバコと拳銃を取り出してそれらも同じテーブルに投げた。

 瓶ビールを持って机の淵に引っ掛ける。そのまま勢いよく栓を飛ばし、噴き出る前に口に流し込む。

 

 半分ほど一気に飲んで、

 

「ふぃー」

 

 一息つく。うめぇよ。うめぇんだよ。これでいいんだ。

 死んだ奴らの顔はもう覚えてねぇ。俺の周りの奴らはどんどん死んでいく。いちいち覚えてなんかいられねぇし、覚えたって無駄だと思っている。

 

 あぁでも、あいつらは覚えてるぞ。女三人組だ。しかもうち二人は日本の女子高生ときた。もう一人はUSECだったな。かわい子ちゃん揃いで久しぶりにテンション上がったぜ。

 イレーネってやつはだいぶやばい空気を出していたが、ああいうやつは()()()()()()()に理解がある。と、思う。同族の匂いだ。ヤれるならヤるって価値観だ。

 つまり渡したメモが効いてりゃまた会えるだろう。この街じゃ若い女はもう絶滅レベルの貴重品だからな。ツバはつけといて損はねぇ。

 

 逆に日本の女子高生二人は、あれはマジで手出ししねぇ方がいいな。なんでここにいるのかも、どうやってここにきたのかも見えてこねぇし、そもそも()()()()()()()()()()じゃねぇ。

 俺の言えたことじゃないが、ああいう手合いの方が関わりたくないね。仕事でってなら仕方ねぇけど、プライベートでは近づきたくない。

 

「ん?」

 

 ドライソーセージをナイフで切ろうとした時、ベットの上の衛星通信機が受信信号を出した。あの光り方は暗号化されたメッセージだろう。

 俺は一旦ドライソーセージにナイフを刺したまま席を立ち、通信機を取り上げた。画面を見る。英数字とキリル文字が羅列している。

 

 なんだ。ヒュージーからか。一ヶ月ぶりの連絡じゃないか。死んだのかと思ったぞ。

 

「あぁ…………あー……」

 

 は? 

 めんどくせー。

 マジで? これやんの? 俺もうスキーヤーとズブズブなんだけど。んな時間ねぇって。

 

「うわー…………だりー…………しかもあの二人とコンタクト取れって……」

 

 めんどくせぇ……関わりたくねぇ……。

 関わりたくねぇなって今しがた思ったところにこの命令ってのは、俺本当に運がいいのか? 肝心なところで致命傷負ってないか? 

 

「まぁいいや。他でもない隊長様のご命令だ」

 

 アメリカに帰ったら女紹介してもらおう。

 通信端末に暗号化した了承のメッセージを入れて、飛ばす。俺はベットに端末を投げ捨てて、途中だったドライソーセージのカット作業を進めた。

 

 程なくして終わり、ナイフの先っちょに引っ掛けて一切れ口に運ぶ。その塩気とハーブの香りに満足しながらビールで流す。美味い。やはりこの組み合わせよ。最高だ。大好きだ。もう死んでもいいって。

 

 あーあ。

 

「明日から忙しいなぁ。いっつも忙しいけど。んーめんどくせぇ」

 

 空になったビール瓶をテーブルに置いて、タバコに火をつけながら明日の段取りを思案することにした。

 窓の外から夜空でも見ようと思ったが、窓には厚さ20ミリの鉄板が貼り付けられており、外なんぞかけらも見えなかった。

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