リコリスinタルコフ   作:奥の手

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執筆時間はあったんですが、今回の話は千束もたきなも出てこないので幕間ということにしました。
でも結構好きだこの話。出てくる人物の50%が装備募集でいただいたキャラクターという脅威の割合になっています。
リコタルは読者の皆さんのおかげで物語になっているというのが如実にわかりますねぇ(歓喜)


幕間:男達の非日常

「ちっ……! ついにイカれたか」

 

 コンクリ打ちっぱなしの小さな部屋で裸電球に照らし出されながら、男が苛立ちを隠さずに舌打ちを鳴らした。

 

 茶色い革の上着にニット帽が特徴的な、顔立ちはロシア系の男。喋る言葉は流暢な英語であった。

 

「前々からおかしいとは思っていたが……くそ。何が起きてるんだ」

 

 古い大きな通信機を前に、パイプ椅子の背もたれに大きく体を預けて投げやりなため息をつく。

 頭の上で手を組んで体を伸ばす。一気に脱力して、三秒ほど気の抜けた様子でぼーっと座ってから「よし」と言って立ち上がった。

 

「まず音声がダメ。次にメッセージがダメ。しまいにはモールス信号も死んだ。次は何が残っている? というかタルコフ市内は繋がるのか」

 

 男は携帯式の通信端末を手に取って、番号を押した。耳に当ててしばらく待つ。呼び出し音が狭い部屋に小さく何度か反響してから、電話の相手が出た。

 

『なんだ、ヒュージー』

「これはこれは、アイゼンさん。無事に戻られましたかな」

『あぁ。依頼も達成した。捕らえてはいない。こっちは一人死んだ。あと隠れ家に空き巣が入って物資を持って行かれた』

「そうですか。それはご冥福を。報酬は約束通り送りますよ」

 

 ヒュージーはロシア訛りの英語でそう言い伝えた。そのままクセのある発音で言葉を紡ぐ。

 

「確かステッチさんと言いましたかね。数日前の戦闘に続けてお仲間を失ったのは、さぞ心苦しいでしょう」

『そんなことをお前が気にする必要はない』

「えぇ、そうです。私は微塵も悲しんではいません。ただこれはビジネストーク。つまりセールスです」

『…………何が言いたい』

「装備を新調しませんか? 仲間を全て失った今、かつての戦い方ではこの街で生き残ることは難しいでしょう」

 

 電話の相手、アイゼンは押し黙った。考えているのだろう。迷っているのかもしれない。そのどちらでもある。

 ヒュージーは後押しをするように営業を続けた。

 

「本来は今お使いの武器の弾薬をご所望でしたが、一旦キャンセルして代わりに新しい武器を送ります。追加の弾は7.62mm×54Rの注文でしたから、このまま使えるSVDSを差し上げましょう。若干料金は足りませんが、お仲間を失ったあなたへの慰め料として受け取ってください」

 

 なおも、アイゼンは返答に迷っているのか無言であったが、数秒して返事をつぶやいた。

 

『それで頼む。いつ到着する』

「明日の朝にでも。場所はどうします? 以前の隠れ家はもう使えないでしょう。今度は寝込みを襲われてケツをファックされるかもしれませんよ」

『ファクトリー地帯にある3番工場の地下に送ってくれ。でかいパイプに青い紐をくくりつけておく。それが目印だ』

 

 ヒュージーはゆっくりと頷きながら、電話を持つ手とは反対の手でポケットからタバコの箱を取り出した。

 

「承知しました。そこに送らせます。また落ち着いた頃に次の仕事を依頼してもよろしいですかね?」

『構わん。────あまり危険でないものだとなお助かる』

「見繕いましょう。それでは」

 

 電話を切って、パイプ椅子に深く腰掛けた。取り出したタバコの箱から一本咥えて、火をつける。ゆっくりと煙を肺に入れて、吐き出した。

 

「…………繋がるのか。どうなっているんだ本当に」

 

しばらく無言で吸って、先端に数ミリの灰が溜まると灰皿に落としながら静かに悪態を漏らす。

 

「これじゃまるで停留所(バスストップ)の連中が研究している世界じゃないか。冗談じゃない」

 

 綺麗な発音の英語で、眉根を寄せながらヒュージーはそう独りごちた。

 

 ○

 

 ウッズと呼ばれているエリアから若干南の方へずれた森林地帯。

 土を踏み固めただけの細い道端に、地下へと続く扉があった。鋼鉄製で頑丈な電子ロックが取り付けられており、自然に囲まれているこの場所の建造物としてはかなり異質な類であった。

 そして、その扉は今しがた口を開けた。入っていくのは二人の男。元USECのシャーマンと、元BEARのイワン。

 

 扉をくぐり階段を下っていくと、小さな非常灯のような電気が足元を照らしている。

 先行するのはシャーマン。P90の銃口を油断なく進行方向に向けており、今はまだタクティカルライトを点けていない。万が一の時にフラッシュとして活用するつもりである。

 

 階段を下り切って地下フロアに着く。地上に比べて湿気があり、どこか鼻をつくカビ臭さにシャーマンは顔をしかめた。しかし気にしてはいられない。足を進める。三メートルほどの短い廊下を渡り切ると、その先に扉があった。船のハッチのようにハンドルを回すタイプである。

 

 シャーマンは薄暗い廊下で振り返ってイワンに合図した。イワンも頷きAK105を一旦下ろしてハンドルを両手で回した。軽い力で回る。金属の擦れる音がやけに大きく響き、隠密の意味など皆無であると二人が理解した時には、扉は口を開けて中と廊下を繋いでいた。

 

「久しいな、イワン。客が来ている。お前も連れてきたようだが、ここでは薬室に弾を入れることを禁止する。抜弾してマガジンを外せ」

「相変わらずそのルールは絶対なんだな。わかったザイーツ、従う。シャーマン、マガジンを抜いてチャンバーから弾を取り出してくれ」

 

 イワンからの情報通り、ザイーツはペストマスクをつけていた。くぐもった声のロシア語で部屋のルールを捲し立てたザイーツに、イワンは挨拶を返した。それからシャーマンに英語でルールを伝えた。

 シャーマンは頷き、P90からマガジンを外して弾を抜く。イワンもAK105からマガジンを抜き、弾を取り出した。

 

「アメリカ人か?」

 

 ザイーツは革製の一人用ソファに深く腰掛けたまま、訝しみながらも興味を持っている声でそう尋ねた。右手にはスコップのような近接武器が握られている。スコップとしてもナイフとしても使えるマルチツールだった。

 イワンが頷く。

 

「そうだ。あんたと別行動を余儀なくされた後に、拾ってくれた部隊の分隊員だ。残念ながらチームはバラバラになっちまったが、こいつはいいやつだ。そしてそこそこ強い」

 

 ロシア語で説明をするイワンの隣で、床にP90をおいてヘソの前で手を組んだシャーマンに、ザイーツは何度か頷きながら立ち上がった。スコップを左手に持ち替えて、右手を差し出す。

 

「私はザイーツ。歓迎しよう」

 

 ロシア語訛りの英語でそう挨拶をした。シャーマンも握手を返しながら、

 

「シャーマンと呼んでくれ。悪いがロシア語はほとんどわからない」

「かまわない。私も英語は日常会話がギリギリだ。君の発音は聞き取りやすいな」

「イワンにも言われた。嬉しいことだ」

「私は普段ロシア語で話す。通訳はイワンに頼んでくれ」

「そのつもりだ。迎え入れてくれてありがとう。俺たちは……少し前までは敵同士だったかもしれないが、大戦時は一緒にナチと戦った仲だ」

「そのとおりだ。絆には様々な形がある。私は君との絆を信じよう。イワン(部下)が世話になった」

 

 固い握手であった。手を離してから、ザイーツは元のソファに座り直した。イワンが簡素な椅子を二つ持ってきて、一つはシャーマンに、もう一つは自分が座った。

 

 シャーマンは部屋の中を見渡した。ちょうどウッズの北の方にあるスカブバンカーのような作りと広さである。

 非常電源から引っ張ってきているのであろう、あまり光量のない数個の裸電球が天井にぶら下がり、秘密基地の趣を強調している。

 目を引くのは壁際の一角に作られている祭壇だ。それが祭壇であると認められるのは、血とペンキで複雑な模様が描かれ、手前には蝋燭が立てられているからだ。

 そこには血濡れの銃や穴の空いたヘルメット、破れたグローブが置かれている。

 

 イワンがザイーツのことを〝前は〟まともだったと言っていたのを思い出した。しかし祭壇に祀られているものはかなり時間が経っているようにも思えたので、もしかしたら例のカルトにやられた部下の装備品なのかもしれない。となると〝前〟がいつのことを言っているのか怪しくなってきたが、ザイーツは思いのほか英語の聞き取りができる。

 本人の目の前で〝いつからおかしくなったんだ〟とイワンに聞くのはまずいだろう。この際気にしないことにした。

 

 そして、シャーマンとイワンの隣、少し離れたところには二人のスカブが座っていた。ご丁寧にカップには熱いコーヒーが入っており、一人がちょうど今それを飲んでいる。

 

 シャーマンの視線に気がついたのか、ザイーツがスカブの二人に手を伸ばしながら紹介を始めた。

 

「この二人は武器商人ハンスの遣いの者だ。私の装備の多くはハンスから取り寄せている」

 

 イワンが首を傾げた。

 

「前はスキーヤーと取引をしていただろ。辞めたのか?」

「そうだ。スカブを殺しすぎた。一人二人ならまだしも、あいつの仲間を三十人以上殺している。もう取引は不可能だ」

「そりゃそうだな。で、ハンスってのはどこのどいつなんだ? スカブさん達よ」

 

 イワンの視線に応えるように、スカブの一人が口を開いた。ヒゲを生やしている。

 

「ボスの詳細は教えられないが、気前のいいボスだってことは間違い無く言える。常に新規契約を快く思っているし、物資の対価は金じゃ無くてもいい」

「物々交換なのか?」

「いんや」

 

 ヒゲを生やしたスカブとは別のもう一人のスカブが首を振って否定した。キャップをかぶっている。前髪がないところを見るにハゲているようだ。

 

「対価は情報だ。新鮮なものしか受け付けないが、新鮮であれば価値がつく。あとは変わりにくい事実か。どうだ? 新人さん達。俺たちのボスの世話にならねぇか」

 

 露骨な勧誘にイワンは苦笑したが、ザイーツのペストマスクから笑い声は響かなかった。表情は見えないが真面目な顔をしているに違いない。

 イワンは「どちらにしても」と前置きをしてから、

 

「俺たちはザイーツの部隊に入る。取引を頼む。カタログはあるのか?」

 

 口角を上げながら聞いてきたイワンの態度を、キャップのスカブもヒゲのスカブも気に入ったのかお互いに見合わせながら笑い、キャップのスカブがアタッシュケースを開いた。

 

「なんなりと。これはハッピーな取引だ。ボスも喜ぶ」

「よろしく」

 

 交わされる会話の雰囲気をなんとなくシャーマンも理解し、納得したように頷いた。

 イワンに耳打ちするように体を寄せて、

 

「あとで詳しく教えてくれ」

「おう、相棒。あとロシア語教えてやろうか」

「そうだな。イワン先生のロシア語講座が必要だ。受講料は背中の警護でいいか」

「十分だ」

 

 薄暗くノスタルジックでカビ臭い隠れ家に、少し暖かい会話と空気が流れていった。

 




なんだか「1010番」とか「1087番」とか「1035番」とかの数字が朧げにチラつきますねぇ……?
なんのことでしょうかね?(シラを切る)

話は変わりますがシャーマンとイワンの関係が無茶苦茶好きです。これで二人が女の子だったら国籍を超えたリコリコですね。ちがうか、そうか。
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