今日はクリスマスイヴ! そして明日はクリスマス!
筆者は超絶繁忙期のため死にそう! ごめん!
てなわけで、クリスマスにちなんだお話をひとつ。なのでそう……27日の更新はなしだ……ごめんよ……。
今回のお話に時系列とか舞台設定とかの小難しい話はナシだ! クリスマス! サンタさん! 不思議な街タルコフ! そんなテンションでキリスト教圏のお祭りを私たちも楽しもうじゃないか。
ふぉふぉふぉ!
ワシは世界中の子供達から「サンタクロース」と呼ばれ、慕われている存在じゃ!
気軽にサンタさんと呼んでくれて構わんぞ!
世界には何人ものサンタクロースがいて、それぞれプレゼントを配達する管轄が決まっておる。ワシは最近配属が変わって、今年は「タルコフ市」というところにプレゼントを届けることになった。
サンタの国の国王陛下から今年の配達に使う道具が毎年家に送られてくる。寒い冬の国へ行くサンタもいれば、常夏の国へ行くサンタもいるから服やソリやプレゼントを詰める袋なんてのは正直毎年変わってくるぞ。
今年は「タルコフ市」というロシアの街だから、きっとよくある暖かい赤い服だろう。そう思って届けられた装備品を開けてみてさぁびっくりじゃ。
ADAR…………クラス4アーマーリグ…………赤い登山用バックパックに申し訳程度のサンタ帽。
「なんじゃこれ……」
いや使い方わかるけど……うそじゃろ……。
「なぁおいジャスミン、これは一体どう言うことじゃ。なんでアメリカ製の民間小銃と弾が三千発も送られてくるんじゃ」
ワシは家の隣のトナカイ小屋へ行き、毎年ソリを引いてもらっているトナカイチームのリーダー、ジャスミンに聞いてみることにした。ちなみにメスじゃ。
「やぁねぇ、タルコフ市は今封鎖状態なの。そこらじゅうの人間が銃で武装して少ない物資を取り合っているわ。でもそんな街にもクリスマスは訪れるの。サンタが来ないんじゃ信仰に亀裂が入るわよ」
そう言ってジャスミンはトナカイ小屋の端の方に生えている天然物の苔をむしゃむしゃと食べ始めた。「あら、今年のは甘いのね」と漏らしている。
「いやまぁそれはそうなんじゃが、え、子供はおるんか?」
「いるらしいわよ。今回のタルコフ市には少なくとも二人は確認されているわ。日本から来ている子たちよ」
「何で日本…………」
「さぁ? 訳ありよ。でも国籍がどうであれ子供は子供。ちゃんと見つけ出してプレゼントを届けてあげないとね」
「ぬー…………銃なんぞ握ったのは何年ぶりか……」
ADARのグリップを握り、木製のストックを肩に押し当てる。さほど重くはないが、決して手に馴染むようなものではない。
レシーバーの上にはホロサイトが載っており、一応照準はしやすいように手が加えられておる。後で50mくらいでゼロインしておく必要があるのう。
がちゃがちゃとADARを操作していると、一通り苔を食べ終えたジャスミンが寄ってきて白い息を吐きながら聞いてきた。
「プレゼントは? 何を用意しろって?」
「おお、陛下からのメモがあったな…………どれ…………〝たきな〟という子の欲しがっているものは、ラジアータのアップデートファイルの所在地に関する情報らしい。〝ちさと〟という子が欲しがっているのは、暖かい寝床とたくさんの食料、あとたきなの笑顔……」
「すっご」
「これワシ無理じゃろ。どうやって届けるんじゃ。なんじゃいラジアータのアップデートファイルって。そもそもラジアータが何かわからん」
「叶えられそうにないなら、適当にお菓子を詰めてあげれば?」
「いや…………それはサンタの沽券に関わる。命のかかった場所に閉じ込められた子供なんじゃろ? クリスマスくらい笑顔にさせてやりたいわい」
ワシの言葉に、ジャスミンはニコリと歯を見せながら頷いた。
「配達までまだ時間があるわ。できるだけのことをしてあげてちょうだい。私は今夜に備えてもう寝るわ」
◯
それから数時間の間に、ワシはこの二人の子供のためだけにタルコフ市への侵入準備を整えた。ADARを分解清掃し、50mでゼロイン調整を済ませ、マガジンに弾を込めていく。
アーマーリグに弾のたっぷり入ったマガジンを詰め込み、バックパックには〝たきな〟と〝ちさと〟のためのアイテムをこれでもかと詰めた。
正直何が欲しいのかよりも、これが今必要じゃろうというものをありったけ詰めた。あとは明日の夜明けまでに二人を見つければ良い。
日没前にジャスミン率いるトナカイチームにソリを引いてもらい、ワシはバックパック一つでタルコフの街に降り立った。
ん? なぜソリのまま二人のところに行かないのかって?
そりゃ家も寝床も転々としておるから情報がないんじゃ。どうやらカスタムズというエリアのどこかにおるというところまではわかっとるが、そこから先は自力で探さんとな。
「ほいじゃのジャスミン、行ってくるわい。夜明け前までには戻る」
「殺されないでよ。なんか殺されても戻ってこれるらしいけど、殺した大人に酷いことをするって陛下が言っていたわ」
「何じゃろな酷いことって。まぁ大人なら仕方がないわい」
「問題はその子たちに殺された時よ。武装してるらしいわよ〝たきな〟も〝ちさと〟も」
「そうなったら厄介じゃのう。陛下も子供には酷いことをせんで欲しいんじゃが」
「〝殺し〟をする子は残念ながらよその場所じゃ悪い子よ。この街じゃ別に当たり前だけど」
「道徳の普遍性を疑わねばならんの。まぁよいわい。殺されそうになったら一旦逃げることにするぞい」
「えぇ、がんばって。私たちはこのあたりの苔を楽しむわ」
「あとで感想聞かせておくれ」
ジャスミンに後ろ手で挨拶をして、冷え込む夜のカスタムズへとワシは足を運んだ。
◯
カスタムズの西から東へ、工場や倉庫の中をくまなく探していると、二人のPMCと出会った。
外はもう真っ暗だというのに、ナイトビジョンをつけていない。意図的につけていないのか、それともなにか理由があるのか、とにかくその二人は銃に取り付けたフラッシュライトのみで倉庫の中を照らし出し、ワシを見つけた。
先に見つけたPMC が躊躇いなく引き金を引きおった。MCXじゃな。.300ブラックアウトの堅実で精密な射撃音と共に二、三発がワシの後方に広がった。
ワシはADARの銃口をそ奴らに向けた。撃ってきたのなら撃ち返すし、悪いが〝悪い大人〟を生かしておくつもりもない。
が、夜目の効くワシの目に映ったのは、二人組のうちのもう一人、MDRを持った男がMCXを弾き飛ばす様子じゃった。
何が起きとるのか一瞬考えておる間に、MCXを吹っ飛ばしたMDRの男が声を張り上げてきた。
「すまねぇ! あんたサンタだろ! 噂の! ツレが失礼した、撃たないでくれ! 敵意はない!!」
ワシはしばらくADARを構えておったが、ふむ、どうやら本当に敵意はなさそうじゃな。
ワシはつい先ほどこの街に来たというのに、噂になっているというのは少々疑問じゃがまぁ良い。話を聞いてやろう。
◯
「俺の名前はアッキー、こっちのMCXぶっ放しやがったのはハチだ」
「すまなかった。敵だと思った」
「よく言い聞かせとくからよ。誰かれかまわず撃ってっと痛てぇ目見るぞって」
「ふぉふぉふぉ。まぁよい。こんな街に囚われておるんじゃ、仕方がないわい」
ワシはタバコの箱を二つ取り出して、それぞれ一箱ずつ渡してやった。
「メリークリスマス、お二人さん」
「ありがとよ、サンタさん」
「感謝する」
「今吸っても?」
「好きにすると良い」
アッキーは受け取ったタバコを大事そうにリグにしまい、ハチは新品の箱の封を開けてまず匂いを嗅いだ。
恍惚な表情をしてから一本取り出し、火をつけた。うまそうに目を瞑っているのをアッキーが横目で見ながら、ワシに顔を向けた。
「サンタさんよぉ、感謝している。ガキの頃から神は信じていたが、ここじゃ神より
「殊勝な心がけじゃな。素直な信仰心だけでも現代じゃ珍しい価値のあるものじゃ。それだけでもワシは満足じゃが…………一つ聞いてもいいかの?」
「なんなりと」
「この街にいる二人組の女の子を探しとるんじゃ。まだ十代の子供でな。ワシはその子たちに何としても今夜プレゼントを渡したい。お主ら何か知らんかの? 知っておったら、それこそ国王陛下のご加護かもしれんが…………」
ワシの言葉に、ハチはタバコの煙を吐きながら「知らんなぁ」と首を傾げていたが、アッキーの方はMDRを揺らしながら大きく頷いた。
「忘れるわけもねぇ。俺の腹に大穴開けた女子高生だ。変わった奴らでよ、殺ろさねぇんだよ。殺せるタイミングも状況も整ってんのに、それどころか俺を手当した。ハチは顔面に弾くらったけどよ、ゴム弾だったからしばらく飯が食えねぇだけで済んだ」
「特徴はどんなだったかの?」
「一人は白に近い金髪で、もう一人は黒髪だ。背は160cmくらいか。バラクラバをつけていたが目だけでも美人だってのがわかる。ジャックって男と一緒にいたが、そいつとはタルコフで出会った感じだった。女二人組ってだけでも珍しいのに、えらい若いのがいるなとは思ったんだ」
「ぬう……おる場所は知らんか? どのあたりに好んで潜伏するとか」
「わかんねぇな。印象に残ってんのは、特に金髪の方は殺しを極端に嫌ってるってことだ。戦闘技術もある、判断力もピカイチ、にもかかわらず敵を殺さねぇ。正直浮いた存在だが、あの女の目は嘘をついていなかった。だから……隠れるとしたらマジで人気のねぇ場所だろうな。戦闘をとことん回避できるよう生きていると思うぜ」
アッキーの情報は正直助かったわい。事前に国王陛下から寄せられたマップの知識と照らし合わせると、おそらくあの辺に潜伏しているのではないかという見当がついた。ふぉふぉふぉ! よいぞよいぞ!
「助かったぞ。それじゃあ、良いクリスマスを過ごしておくれ!」
「ありがとよサンタさん。タバコ、大事に吸わせてもらう」
「うまいなこれ。銘柄書いてねぇけどどこの国のだ?」
「それは教えられんわい。サンタの国の企業秘密じゃ」
押し笑いをする二人に手を振って、ワシは〝たきな〟と〝ちさと〟が身を潜めていそうな場所へと向かった。ADARのセーフティをかけ直して。
待っておれよ二人とも。素敵なプレゼントを届けてやるぞい。
──◯──
朝日が登った。
薄暗いとあるコンテナの中で、千束とたきなは同時に目を覚ました。寒い夜を乗り越えるために身を寄せ合って、寝袋の上から厚手の毛布を重ねて睡眠をとっていた。コンテナの前後の扉は硬く閉ざされている。
千束が寝袋のチャックを開いて、のそりと起き上がりながらたきなの方を見た。朝日が細い筋になって差し込んでおり、たきなの姿を捉える。たきなも目を開けて千束の方を見つめていた。
「…………ねぇたきな。すごい変な夢見たんだけど」
「奇遇ですね。私もです」
「どんな夢だった?」
「……サンタの、夢です。私たちにプレゼントを届けようとしている」
「うわ…………うそでしょ。一緒なんだけど。いやでも…………あれ、どんなだっけな……忘れちゃった」
デトニクスを握る右手とは反対の左手で前髪をくしゃりとかきあげながら必死に思い出そうとしていた千束だったが、ついぞ頭の中から抜け落ちたのか、数秒後には諦めたように首を振った。
たきなも寝袋から起き上がり、拳銃にセーフティをかけた。
「二人一緒に寝て、二人一緒に起きるのは久しぶりだね」
「このコンテナはやはり安全ですね。油断は禁物ですが、いい場所です」
そう言いながら静かに立ち上がり、二人はコンテナの施錠を外して恐る恐る外を見た。
人影はない。物音もない。とりあえず起き抜けに銃弾が飛び交うことはないだろう。そう安堵しつつたきなが視線を地面にやった時、
「ッ!」
激しく息を呑んだ。
千束もたきなの様子に一瞬でスイッチが入り、たきなの視線の先に拳銃を向ける。
そこには、新品同然の様々なものが置かれていた。
缶詰、飲み物、お菓子などの飲食料から始まり、薬液の入った十数本の注射器、薬、鎮痛剤や止血剤、救急セット、建材道具や素材、銃の手入れに使えそうな細かい物品、そして生理用ナプキンと大人用紙おむつ。
「いや……ナプキンあるんだけど……」
「イレーネさんから分けてもらおうって話、前に千束してましたよね」
「うん。いやそうなんだけど。えぇ…………なにこれ……なんでおむつもあるの…………」
「トイレに行けない時があるから…………とかですか」
「だとしてもそれをここに置いて────まてまてまてまて! そうじゃない! 誰が置いてったのこれ!! 何でここに! 新品だよ!!」
「そうですね…………」
たきなは拳銃をホルスターにしまって、地面に丁寧に並べられたそれらの品々を恐る恐る物色した。ワイヤーで手榴弾が引っ付けられていたり、缶詰に小さな穴が空いていて毒を盛られているなどということはない様子だった。
「…………本物のサンタが、いたんでしょうか」
大真面目な顔でそう呟いたたきなに、千束は開いた口を塞ごうともせずに混乱した頭を抱え込んだ。
「どうなってんの…………なんなのこの街…………」
「何にしても、すべて今の私たちに必要なものです。細かい経緯はどうでもいいので、ありがたく使わせてもらいましょう」
「たきなって妙なところで考え方がタフだよね」
「褒めてます?」
「褒めてるよ…………」
手際よく全ての物品をバックパックに詰めていくたきなの様子を、千束は複雑な表情で見守っていた。
どこか、遠くの空の遠くの存在から、メリークリスマスというおおらかな声が聞こえてきたような気がした。
どう考えてもそりゃ必要なものなんだけど、寝床の前にナプキン置かれてたら血の気が引くよね。誰がそこに隠れているのか置いていった奴にバレてるし〝置いていく〟ことそのものが絶妙にキモいな。赤飯炊くみたいなキモさが拭えない。
サンタさんチョイスじゃなくてジャスミン♀が助言したことにしてくれればなんぼかマイルドになりそう。
いやならねぇか……。