リコリスinタルコフ   作:奥の手

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遭遇

 アイゼンはSVDSを構えていた。

 三倍に拡張された丸い円の向こう側の世界に向かって、特別な感情は一切抱かず、自らが機械であるかのように何の躊躇いもなく引き金を引いた。

 

 赤いレティクルの中心にいたフードにフェイスマスクの男が、鮮血を散らしながら崩れ落ちる。頭の大きさが半分になっていたことを見るに、即死であろう。

 

 アイゼンが銃口を覗かせている場所は、街の中心からやや南に位置する都心部。

 集合住宅が立ち並び、低い建物でも三階、高いものでは十階を超えるような建造物が密集しているそのエリアで、アイゼンは五階部分の薄暗い一室から外に銃弾を送り込んでいた。

 

 通りを三つ挟んだ先の四階建てマンション、そこの窓際に体を晒した愚かな狂信者に、この世の苦悩からの解放チケットを一方的にプレゼントする。

「プレゼントしてやってくれ」と言いながらこの場所を指定したのはタラカンである。

 なかなか良い狙撃ポジションであったことを後で報告するつもりだった。

 

 優秀なサプレッサーが、射撃音をほとんど打ち消している。撃たれている側は、撃たれていることは認識できてもどこから撃たれているのかは見当もつかないだろう。

 強いて言えば窓のある方角からなのだが、キルフラッシュを装着したスコープは太陽光を反射することもない。つまりチラつく光で位置がバレるという初歩的なミスも起こらない。

 

 また一人、窓に人影が現れる。素早く照準を合わせ、正確な動作で頭を飛ばす。

 

 これで3人目が死んだ。そろそろ動きが出るだろうとアイゼンは顔を上げて、近くの机の上から双眼鏡を掬い上げる。

 

 カルトが潜んでいる集合住宅の窓が、次々にカーテンを閉めたり木の板が立てかけられたりしている。中には鉄板で覆う窓もあった。アイゼンはその窓の部屋の位置を手元にメモしてから、ペンを置いてポケットから棒状の小さなスイッチを取り出した。

 

 左耳にはめているイヤホンに、控えめなブザー音が鳴る。直後、アイゼンはスイッチのカバーを人差し指で跳ね上げてから、赤いボタンを下まで押し込んだ。

 

 三つ先の通りの、ベージュ色の集合住宅から衝撃波と爆音が辺りに響き渡った。一階出入り口付近に土煙がもうもうと舞い上がる。

 わずかにだが衝撃波がアイゼンの潜伏する部屋にも届き、目を細めながら粉塵の舞う爆心地を双眼鏡で注視する。

 

「ある程度は持っていったな」

 

 スイッチをリグにしまいながら、続けて双眼鏡で状況を確認しつつアイゼンは通信端末を取り出した。

 

 呼び出しをかけて右耳に当てる。相手が応答すると、双眼鏡を外して周囲の片付けを始めつつ報告を端末に向かって淡々と開始した。

 

「爆破成功。窓から三人は確実に殺した。出入り口付近のC4が何人持っていったのかは粉塵で見えない。そっちで確認してくれ」

『はいはい、了解だ。確認出来次第突入の合図をする。まぁあんた一人だし勝手にやってくれても構わんが』

「リスクは取らない主義だ。報告を待つ」

『ういっす』

 

 痕跡を残さないよう薬莢を拾い上げてリグに突っ込み、C4を起爆するために設置したタラカンお手製の信号装置をバックパックに詰め込んでからSVDSと一緒に背中に回す。

 机の上に置いていたAK101を抱え上げ、手に馴染むそれのセレクターをフルオートにする。

 

「…………」

 

 一瞬考えてから、ハンドガード下に取り付けてあるグレネードランチャーにも、40mmグレネードを装填した。

 

 手早く部屋の中を見回して、まるで人間がここに一晩潜伏していたとは思えない様相であることを確認してから、アイゼンは部屋を後にした。

 

 建物を出て、通りを超えて、つい数分前に出入り口を釘とベアリング入りのC4で爆破した集合住宅の前まで進む。道や壁に赤い染みと、ところどころに人間だったであろうものが散らばっている。

 

 わざわざ人感センサーで複数人がいることを確認してから手動で起爆する。方法そのものはアイゼンの提案だったが、爆薬含めてモノを二時間で用意してきたタラカンに、アイゼンはなかなか優秀なバックアップ要員だなと感心していた。

 出入り口付近の凄惨な状態を見るに、装置そのものも出来が良かったらしい。

 

 通信端末に接続していたヘッドセットから呼び出しが鳴る。スイッチを入れて応答した。

 

「何人だ」

『五人は死んでるぜ。頭だけ確認した形だけどな』

「となると中に残るのは十人ほどか。了解。これから入る」

『おう。死ぬなよ。ママ助けてーって叫んでも俺は助けねぇぞ』

「黙って逃げた人数を数えてろ」

 

 優秀なバックアップだが減らず口は評価できないと、アイゼンは内心でひとりごちた。

 

 血や肉片で装飾されたマンションの入り口から中に入り、真っ暗闇の廊下を進んでいく。

 くぐもった銃声、爆発音、連続した発砲音、カーテンから漏れるマズルフラッシュ。

 

 しばらく集合住宅の中身は騒がしかった。

 

 ◯

 

 カルト狩りを始めてから三日が経った。

 ヒュージーから殲滅を指示されたカルトのアジトは、全部で六つ。一日二つの要領でいけばもう終わっているところだったが、昨日のアジトが思いの外入り組んだ構造で手間取ってしまった。

 

 結果、当初の予定から一日延ばしてアイゼンは最後のカルトのアジトへと攻撃準備を始めていた。

 

 一日延びてしまったせいで、どうやらタラカンはスキーヤーという男のバイトに駆り出されたらしく、直接的な支援は望めないという。

 ヒュージーとスキーヤー、二者から仕事を受け持ち動いているタラカンに、アイゼンは改めてこの街で生き残る者がどういった人間なのかを再認識した。

 

「さて……」

 

 数時間前、殲滅予定のカルトの建物に細工をしようと、深夜の闇夜に紛れて配電盤のある場所へ赴いた。ところがその場所に一人のスカブが立ち寄っており、遭遇した距離があまりにも近く、また襲撃予定の建物のすぐ裏であったため発砲できずアイゼンは格闘戦に持ち込んだ。

 

 携行していたM-2ソードで難なく殺害を試みたが、ふと男の腹部に刃先を入れた時に妙案を思いついた。

 この男を殺さずに建物内部に送り込み、儀式を行なっているであろう中心の部屋をあらかじめ割り出しておくのはどうだろうかと。

 

 ただでさえ予定よりずれ込んだ作戦である。早く終わるに越したことはない。

 配電盤からアジトの電源を完全に消失させ、この男を半殺しのまま近くに置いておけばカルトの連中はとりあえず男を連れ込むだろう。

 連れ込んだ先が収容室になるのか死体置き場になるのか、狙い通り儀式部屋になるかは確証がなかったが、リスクゼロなのでやっておいて損はない。

 

 男の手足の腱を切断して動けなくしてから、腹部の傷口にタラカンからとりあえず何かに使えと渡された発信機を埋め込む。呻き声をあげる男には一瞥もくれず、止血処理のみしてから配電盤を破壊した。

 

 すぐにその場を離れて、裏口の様子が見える建物に潜伏する。

 窓から様子を見つつ、そして男につけた発信機の座標を小さなモニターで確認しつつ、裏口を監視すること十数時間。

 

 日が登って、街をぬくぬくと照らし、1番高いところまで登ってそして傾き始めた頃。

 

「…………」

 

 配電盤の男がやっと回収された。正直待つ必要があったのか自分で自分の判断に疑いを持ってしまったが、一人でできることなど限られている。

 むしろやはり配電盤付近にカルトの連中のルーティーンを崩す仕掛けをしたことで、一人で殲滅する難易度を下げられたのではないかと無理やり考えることにした。

 

 こういう戦闘以外の作戦立案はステッチが得意だった。いつもあいつがやっていた。コツの一つや二つ教わっていればよかったなと、活動時間の長さからややかすみがかかってきた脳内でアイゼンは愚痴をこぼす。

 

 立ち上がり移動の準備をしつつ、この後の方針を考える。まずは裏口から侵入し、一階フロアをクリアリングして、敵がいればそのまま戦闘。もしいなければ出入り口の全てに爆薬を仕掛けて一度撤退し、人感センサーに反応した出入り口を爆破して数を減らしてから再度突入、殲滅という流れを頭で組んだ。

 配電盤の男を餌にカルトに動きがあればこの作戦で何人か殺せる算段である。

 その後はまずモニターに記されている発信機の位置に行ってみる。そこが儀式部屋なら手榴弾一つで何人も片付けられるだろう。

 

 あらかじめ建物の構造はタラカンの調べで把握している。カルトの連中が配電盤の男を完全に建物内に回収したのを見計らって、アイゼンは裏口から中へと侵入した。

 

「…………」

 

 AK101を油断なく構えて、一階フロアを見て回る。音、気配、そして目視。真っ暗闇の中で、照射範囲を絞ってライトを当てつつ確認し、そしてカルトの存在がこのフロアにはないことをひとまず確信してから出入り口にC4爆薬と人感センサーを仕掛けた。

 

 出入り口は全部で二つ。表の正面エントランスと、先ほど入ってきた事務所を通過する裏口。この二つのみである。

 

 トラップがそこにあると分かっていても見つけ出すのが難しいように、周囲のゴミを使って巧妙に隠してからアイゼンはその場を離れた。裏口から出て、隣の建物から監視する。同時に起爆装置を展開する。

 

「…………」

 

 数分後、正面玄関側でセンサーに感あり。アイゼンは全く躊躇うことなくスイッチを押し込んだ。

 しかし。

 

「…………?」

 

 建物反対側から聞こえてくるであろう爆発音が全くしない。起爆装置の設定にミスがあったかとすぐに確認したが、見られる範囲で問題はない。

 

「不発か。くそ…………逃がしたか、あるいは数が増えたか」

 

 どちらにしても、正面玄関を通った者がいる。

 常識的に考えてカルトの連中が通ったと見るべきだが、想定していた事態とは異なることが起きている。

 それも、爆薬の不発という非常に面倒な事態であった。制御下にあったはずの爆薬が、そのコントロール通りに起動しないということは、意図しないタイミングで爆ぜる可能性があるということだった。

 

 あるいは。

 

 これはアイゼンにとって全く好ましくない事態だが、別のPMC、またはそれに準ずる訓練を受けた、少なくとも爆薬の起爆装置を解除することのできる人間が正面入り口から侵入した可能性があった。

 

 もしそんな人物、集団が建物に潜入しているとなれば、単身で突っ込むのは自殺行為だ。

()()()()()()()()というだけで、アイゼンはAK101を一旦机に置いて椅子に腰を下ろした。

 

 リスクは取らない。

 勝てる戦いしかしない。

 負けるということは死ぬということである。それはあってはならない。

 

 この街で生き残る人物がどんなやつか。

 それはもう決まっている。〝生きたいと思っているやつ〟である。これしかない。どんな手を使っても、たとえそれが姑息で、臆病で、狡猾で、汚い方法であったとしても。

 生きていることが唯一の勝利であり、それこそが目指すべき結果である。

 

 これより優先することなど、この街には何もない。

 

 アイゼンは椅子の背もたれに体を預け、目を瞑ってここまで続いていた緊張感と集中を少しばかり解くことにした。

 どのみち正面出入り口の爆薬は起動しない。誤作動の危険性も含めて、もう突入するなら裏口しかない。

 

 裏口の人感センサーが反応するか、建物内部で動きがあったらそれから考える。それまでは小休止。

 

 リグのマガジンポケットからチョコバーを取り出して封を開けた。

 甘ったるい匂いに少し息を吐きながら、十数時間ぶりの糖分を摂取する。体から緊張がほぐれ、少しは頭の回転にも寄与しているのかもしれないと、一口二口食べ進めるに従って表情が緩んだ。

 

 直後、建物内部で発砲音が響いた。音からするに9mm口径。単発の、拳銃のような音だった。何発か繰り返す。

 数秒後にショットガンの発砲音。続けて再び数発の9mm。一旦それで音は止んだ。

 

「やはり何者かが侵入しているのか」

 

 チョコバーを食べ終えて、水を数口飲んでから、さてそれではどうするかという話になった。

 

 カルト相手に交戦している時点で、正面出入り口を通ったのはカルトではない。そして仕掛けた爆薬を解除した可能性のある人間である。

 人数は絞れない。カルトが発砲したのか侵入者が発砲したのかもわからないゆえに、そこを判断することはできない。

 今の交戦で侵入者が死んだのなら、むしろ突入するなら今なのだが、そうではなかった場合無駄に〝実力のある〟連中とやり合うことになる。それは避けたい。

 

 結果、もう数分様子を見ることにした。裏口の爆薬も解除されているかもしれないが、万が一通る人物がいれば何者であってもミンチになってもらう予定である。起爆すればであるが。

 

 それから数分後、建物内部で激しい銃撃戦が繰り広げられた。いくつもの銃声がくぐもって響き、連続して、散発して、しばらく鳴り止んではまた鳴り響き、たまにグレネードが炸裂している。

 どの交戦でも決まって9mmが鳴っていたことから、もしかすると侵入者は9mm口径の銃を使っているのかもしれないと考えた。

 

 しかし単発のみ。まさか拳銃だけで建物内のカルトを制圧しているのかと、いやそんなまさかなとアイゼンは馬鹿げた考えを自ら反省した。情報では20人近くいるとなっている。流石に無理だろう。

 

 アイゼンは裏口の起爆スイッチを持ったまま、椅子に深く腰掛けて息をつく。

 俺の代わりに仕事をしてくれたのはありがたい。何者か知らんが相当なやり手だろう。

 

 そこは別によかったが、では建物内部がどうなっているのかを確認する時に、そのやり手と交戦になる可能性が非常に高い。

 アイゼンにも分隊がいれば難なくやりあえた。いくらでも手は尽くせる。しかし今は自分の身一つしかなく、銃口も脳みそも一つしか使えない。

 

 結果、アイゼンは通信端末を手に取った。ヒュージーにありのままを報告する。

 情報をよこしたカルトのアジトのうち、最後の制圧対象拠点の調査は今夜行うと。

 

 実力はあるだろう()()()との交戦を避けるべく、アイゼンは夜になるまで部屋で待機することにした。

 その決断から数十分後に、正面玄関の人感センサーが再び反応したが、もう無視することにした。

 

 ◯

 

 太陽が傾き、やがてその姿をビル群の向こう側に沈めて、タルコフ市中心部のやや南の街にも夜が訪れた。

 

 真っ暗闇の部屋の隅で、AK101を抱えて壁に寄りかかって寝ていたアイゼンが、アラームもなくすっと目を開ける。

 数時間の仮眠。いつ何者が部屋に入り込んで発砲してきてもおかしくないこの世界で、休養を取るにはコツがいる。アイゼンはもう体がこの世界に馴染んでいた。

 

 ゆっくりと起き上がり、まずは周囲の音を聞く。

 異常なし。他人の気配もない。この部屋に入ってきた形跡も、もちろんない。

 

 大した片付けが必要なわけではなかったが、一通り撤収作業をしてから部屋を後にした。

 

 カルトのアジトへと、その裏口に向かう。

 闇夜に乗じて近づき、入り口付近に仕掛けた爆薬の様子を確認する。

 

「…………解除していないのか」

 

 人感センサーも起動はしていたが反応はしていない。手早く起爆装置を外してC4を回収する。勿体無いのでまたどこかで使うつもりである。

 

 裏口を慎重に開ける。事務所の中にバックパックを置いて、いつ戦闘になっても問題ないように準備する。

 SVDSもここでは不要なため、バックパックと共に物陰に隠す。

 リグのインジェクターケースに、万が一カルトの連中が生き残っていて攻撃された際、最悪毒をもらうことがあるのでその解毒剤を用意している。準備に余念はない。

 

 全く光のない暗闇の廊下を、AK101に装着したフラッシュライトで照らしながらクリアリングしていく。

 慎重に進む。一階から二階へ、二階から三階へ。

 道中、カルトの連中の死体が転がっていた。どの亡骸も首や頭に穴が空いている。それが致命傷となって死んでいる死体ばかりだった。

 

 アイゼンは内心で舌打ちをした。ありえないやつが侵入し、カルトを殺して回ったと。

 暗闇の中、おそらくフラッシュライトで照らしながら殺して回ったに違いない。確実に、的確に頭か首を狙いその通りに当てて殺している。

 もう殺人ロボットか何かが通ったと言われた方がまだ納得できる。そんな()()()()だった。

 願わくば鉢合わせたくない。

 

 三階フロアに到着した時、カルトの死体に囲まれながら発信機のモニターを確認した。信号がこの階から出ている。右側の部屋らしい。とりあえずそこから見てみることにした。

 

 これだけ死んでいればもう生き残りもいない可能性が非常に高いが、仕掛けた発信機を再利用するためにもどのみち回収する必要がある。地下や建物の隅の方というわかりやすい位置ではないことから、収容室ではなく儀式部屋のような気がしてきた。

 

 信号の出ている部屋の前に立つ。ノブを回すが、押しても引いても開かない。鍵がかかっている。

 アイゼンは一度ため息をついてから、周囲への警戒は怠らずに腰のポーチからドアブリーチ用の粘土爆薬を取り出した。

 

 鍵の効いているあたりに貼り付ける。少し距離をとって、有線接続してある信管のスイッチをぱちっと繋げた。

 直後に爆発。狭い廊下に衝撃波と音が響き、アイゼンのヘッドセットが電子処理をしてから耳に通す。

 

 すぐさま走り出してドアを蹴破った。音を立てたので中に万が一生き残りのカルトがいたら確実にこちらを認識している。

 これ以上ないほどに堂々とした突撃である。リビングルームのドアをこれも蹴破って、瞬時にピークして室内を見渡した。

 

 AK101の銃口と、それにピタリと向きを合わせてライトがリビングルームを照らし出す。

 室内は蝋燭が無数に立てられていた。廊下にも蝋燭はあったが、爆風でいくつか消えたのか意識の外にあった。

 だが室内のそれは違う。アイゼンの目には、薄暗い部屋を照らす淡いオレンジの光と、これまでも見てきた壁の模様に床の魔法陣、そして折り重なっているカルトの死体と配電盤にいた男だったものが写った。

 

 鼻に付く死体と血の匂い、混じる蝋の匂いと────小便の匂いがした。

 

 部屋の中を数秒で照らし、クリアリングしているとき、突撃から二秒でアイゼンはその存在を認識する。

 

 広いダブルベットに横たわる人物。緑をベースとした戦闘服。枕に広がる白に近い金髪。幼さと快活さを足して割らないような表情を浮かべそうな少女が、今はじっとりと汗をかいて浅く荒い呼吸を繰り返しながら苦悶の表情を浮かべている。

 右足には止血帯が巻かれている。負傷していることは明らかであり、この発汗量と呼吸は、一目でカルトの毒がもたらしたものだとわかった。

 

 アイゼンは油断なくAK101を構えたままダブルベットに近づいた。フラッシュライトで強力な光をベッドの上の少女に向けたまま、そしてトリガーには指をかけ、セレクターもフルオートのまま頭の位置まで移動する。

 

 顔を覗き込み、ベッドの上の銃に目をやり、アイゼンは少しばかり目を見開いた。

 

「…………お前、〝ちさと〟か?」

 

 ウッズの伐採場での交戦を思い出す。少女が持っていた銃、ショットガン。背格好、少しばかり見えた髪色、なにより、薄く開いた目から見える瞳の色。暗闇と光の両方に対応するべく片目を瞑って、その上でAK101の弾をワンマガジン避けた、あの赤い瞳を。あの少女の存在を。

 

 それが今、汗を浮かして呼吸を荒げ、痛みに苦悶の表情を滲ませただただ死を待ち横たわる目の前の少女に。

 

 アイゼンは哀れみを抱いた。そして引き金にかけた人差し指に力を込めた。

 

 トリガーの遊びを絞り切り、もうあと1ミリ、手前に引けば目の前の少女はこの苦しみから解放される。

 その時。

 

「や……めて、アイ……ゼン…………さん」

 

 泣きそうな、弱々しい、今にも消えそうな声でそう呟いた少女に。

 アイゼンは眉根を寄せながら、引き金を引く手を止めた。

 

 

 

 




シャーマンとイワンの前では見せてなかっただけで、しっかりアイゼンも〝ヤベェやつ〟だと思う。
目的のためなら手段を選ばない。そらまぁ証拠消すために研究者を掃除した部隊の分隊長だからね。そらやるよね。
仕事だもの。ある意味すごい優秀だと思う。ヤベェ奴だけど。

んでちゃんと何話か前の伐採場の話でイレーネがアイゼンの人となりを千束に話してたわ。
すげぇ……全然記憶にない……やっぱりリコタルはキャラが勝手に活動してる……すげぇ……。
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