リコリスinタルコフ   作:奥の手

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出撃準備

 裸電球のノスタルジックなオレンジ光に包まれる隠れ家に、三人の人間がいた。二人は少女。一人は大人の男。

 ちょうどよくそれぞれの食べていた食料も空になり、各々が片付ける。

 

「ゴミはここにまとめといてくれ」

 

 隠れ家の一角にポリ袋にまとめられたゴミが置かれている。ここタルコフに毎週ゴミの回収に来る人物などいないのだが、ジャックは隠れ家で出たゴミを綺麗に袋にまとめているらしい。

 

「これどうすんの?」

「適当に貯まったら表の山に捨てている。ってもあんまりゴミなんて出ないけどな。ここじゃゴミも大事な素材だ」

 

 そう言いながらジャックは自分の食べていた炊き込みご飯の缶をボロ布で拭って綺麗にした。もう後何回かは使える器の完成だ。

 千束はなるほど、という顔で手を打ったのち、自分の持っていた缶を同じく布で拭った後、ジャックが缶を置いた場所に自分の分も置いた。

 

「私のは捨てますね」

 

 たきなが食べていた乾パンの袋は流石に再利用しようがない。ポリ袋に放り込んで、綺麗に片付ける。

 食事も終わり、腹は満たされた。外はもうすっかり夜になっている。

 

 まさか今から外に出て探索というわけにもいかないだろう。千束とたきなの疲労感はそこまであるわけではないが、ジャックの方はわからない。

 千束は丸椅子に座っているジャックに近づいて、

 

「お腹は大丈夫? 痛くない?」

「あぁ。鎮痛剤のおかげで大丈夫だ。処置は今からするつもりだ」

 

 そう言いながらジャックは医薬品をまとめて置いてある机のところへ行き、赤いポーチを取り出した。横長のそれに、英語でエマージェンシーサージカルキットと書かれている。

 

 ジャックは着ていたアーマーと戦闘服の上半身を脱いで、千束が手当した止血帯を解く。ポーチから手術器具を取り出して、銃創に処置をしていく。

 手慣れた様子でやっているジャックに、たきながマットレスに座ったままつぶやいた。

 

「慣れていますね」

「まぁな。こういう場所にいると嫌でもできるようになる。訓練で教えてくれた鬼教官に感謝だ」

「何か手伝おうか? 縫ったりとかしてあげれるけど」

 

 針と糸を用意しているジャックに千束は手を貸そうとしたが、

 

「これくらい一人でやらなきゃな。お前らが死んで俺一人になった時に、生き残れない」

「それもそうだ。んじゃあ、私たちはこっちで休んでるよ」

「あぁ」

 

 千束もたきなの隣に座り、ウッズの地図を取り出して眺め始めた。たきなも千束と一緒に地図を覗く。

 

 ジャックが腹を自力で縫って、薬剤の入った注射を何本か刺して回復している間、千束とたきなは明日の行動方針を決めていた。

 

「とりあえず、明日もウッズの探索に行こうか」

「そうですね。水没村の調査と、それからUSECキャンプの南側も調べる必要があります」

「医療キャンプの方も見ないとね。こりゃ忙しいぞ」

 

 地図の東、北、西と、捜索範囲はかなりの広さになる。アップデートファイルにまつわる情報がこんな森の中で見つかるのかは甚だ疑問だが、見落としは作戦の長期化につながる。雑に探すより丁寧に探す方が良いことは明白であった。

 

 そうこうしているとジャックの自力の手術も終わったようである。

 

「無事? 大丈夫?」

「問題ない。明日も動けるぞ」

 

 頷くジャックに千束は笑顔で返した。それから思い出したように、

 

「そう言えばジャックさん、ジャックさんはウッズに何しに行ってたの? 仕事ってやつ?」

「あぁ、まぁそうだな。食料を探していたのもあるが、ついでに仕事の方もやっていた」

「それって私たちも手伝えそうなやつ?」

「そうだな…………まぁいいか。手紙を探しているんだ」

「手紙?」

 

 ジャックは頷き、言葉を続けた。

 

「メカニックと呼ばれている男からの依頼だ。そいつの友人がウッズのどこかに隠れているらしい。隠れ家を見つけて、その友人が出している手紙をメカニックに渡したら、俺を友人に紹介してくれるって話だ」

「その友人ってのはなんかすごい人なの?」

「さぁな。メカニックが言うにはタルコフがこうなっちまってから、隠遁生活を送っているらしい。ただ食料や狩猟に使う武器弾薬に強いらしくてな。つながれば利益はある」

 

 千束はたきなの方を見て、どうする? という顔をした。たきなは一度頷いてから、

 

「そのタスク、私たちも手伝います。その代わり、メカニックという人に私たちを紹介してください。できるならメカニックのご友人にも」

「別にいいが、取引に応じるかはお前ら次第だぞ。ここじゃ信頼が金よりも価値を持つ。お前ら自身でトレーダーとやり取りした方がいい」

「そりゃそうだね」

「トレーダーへの紹介はしてやる。その後は自分でなんとかしろよ」

 

 ジャックはうっすらと笑みを浮かべながらそういった。そして立ち上がって、自身のマットレスのところへ行く。手には弾の入ったM45A1を握って、布団に潜り込んだ。壁の方を向いたままジャックは眠そうに声を出す。

 

「ウッズのどこに隠れ家があって、手紙があるのかはわからない。気長に探すしかないぞ」

「りょうかーい。三人いれば目玉も六つあるからね! 見つかる見つかる」

「その理屈はおかしい気がするんですが……」

「はははは。まぁいい、また明日だ」

「おやすみジャックさん」

「おやすみなさい」

「あぁ、先に休ませてもらう。お前らも休んどけよ」

 

 千束とたきなは一度お互いに顔を見合わせて、

 

「交代で寝ましょうか」

「万が一があるからね。どっちが先に寝る?」

「千束からでいいですよ」

「あいあい。んじゃ遠慮なく」

「二時間で交代しましょう」

「おっけー」

 

 そう言って、千束もアーマーリグを脱いで、ホルスターの拳銃を手に持ってマットレスに横になった。

 たきなはマットレスの向かいにある丸椅子に座って、拳銃を手にしてそれを眺める。

 

 遠征1日目。初日にして拠点を見つけたのと、現地の元PMCと今の所は友好な関係を築いている。ジャックのことは完全に信用できるわけではないが、ジャックから見て私たちはあまり害のある存在には見えていないだろう。殺すならとっくに殺している。今だって、この手のM&Pで頭を撃てばジャックは死に、この隠れ家は私たちのものになる。

 そうしないのは、そうしたら千束が悲しむから。その一点に尽きる。

 

 たきなは隠れ家の入り口を見た。鉄格子で作られた簡素なドア。しかしそれゆえに一度や二度蹴ったくらいじゃびくともしない。敵が入ってくるとしたらここからだろう。見えた瞬間撃つ用意はできている。

 

 千束もジャックも寝息を立て始めた。二時間は短いようで長い。一人の孤独な夜に、発電機の震える音と、裸電球のじーという雑音だけが、たきなを包み込んだ。

 

 ◯

 

 朝がやってきた。とは言ってもここは崖の斜面にできた防空壕であり、地下であるこの場所に日の光は差し込んでこない。

 見張りをしていた千束は腕時計を見て、その針が午前六時を少しすぎていることを確認した。千束とたきなはそれぞれ2回ずつ、一人合計四時間の睡眠をとっている。

 

「そろそろ起こすか?」

 

 ジャックが小声で千束に話しかける。手にはクラッカーと水の入ったペットボトルを持って、交互に口にしている。

 

「そうだね。日も昇ってるだろうし、明るいうちに探索を進めないと。あ、手紙もね」

 

 千束は椅子から立ち上がって、マットレスに横になって毛布にくるまっているたきなに近づいた。しゃがんで肩に手を触れた瞬間、たきなは勢いよく起き上がった。同時に右手のM&Pのセーフティが外された。しかしそれだけだ。目の前の千束のにんまりとした顔を見て、たきなはセーフティを掛け直した。

 

「おはようございます。ジャックさんも」

「あぁ。よく眠れたか?」

「それなりには。体は大丈夫です」

 

 たきなの言葉にジャックも小さく笑顔で返す。ジャックは昨晩からしっかりと眠っており、合計で7時間は眠っている。起きたのは午前五時過ぎ。千束が見張りをしている時だった。

 

「朝食をとった方がいい。少なくてもいいから朝食べるのとそうでないのとでは、この街では生存率が変わってくる」

「そうします。千束はもう食べましたか?」

 

 たきなの問いに千束は首肯し言葉を続けた。

 

「たきなはゆっくり食べていいからね。食べながら今日の作戦を練ろう」

「そうします」

 

 マットレスから立ち上がって、近くに置いていた自分のバックから一食分を取り出す。今回は鶏めしにしている。温めている時間がもったいないので、そのまま缶を開けてスプーンで食べ始めた。

 

 二口。三口と食べていると、たきなの目の前に写真が差し出された。持っているのは千束だった。

 口の中に入っている鶏めしを飲み込んでから、たきなは疑問の声を出す。

 

「なんですかこれ?」

「ジャックさんの娘さん。かわいいでしょ? 隣に写ってるのが奥さんなんだって」

 

 女性と女の子のカラー写真、ツーショットだった。女性は茶髪の長いストレート。目は大きく、鼻筋は通っていて、表情に柔和な印象を受ける。

 女の子は、ジャックも奥さんも茶髪のためか同じように髪色は茶色く、肩より少し上のところでカットされている。少し癖があるのかウェーブがかかっていて、動きのある髪型だった。母親譲りの大きな瞳に、無邪気で元気そうな笑顔を浮かべている。とても難病にかかっているとは思わせない素敵な笑顔の写真だった。

 二人はケーキを前にしていて、そこには四歳を表すチョコレートプレートが乗っかっている。

 

「一年前の娘の誕生日の写真だ。お守りに持っている…………なんていうと笑われるかもしれないな。ここじゃ何よりも大切な俺の宝物だ」

 

 ジャックの目が遠いものになる。千束は丁寧に写真を返して、お礼を言う。本当に宝物をしまうように、ジャックは戦闘服の胸ポケットに写真をしまった。

 

「たきなが寝ている間に色々教えてもらったんだ。家族のこととか、娘さんのこととか、住んでるところとか、前の仕事のこととか」

「根掘り葉掘り聞かれてな。お返しにこっちも聞き返したんだがはぐらかされた」

「えー! ちゃんと教えたよ! 本当に私たちは孤児だし、日本のとある組織に雇われてるエージェントなんだって」

「エージェントが自分で自分のことをエージェントだって言うかよ。まぁ誰にだって言えないことの一つや二つはある。俺は気にしていない」

 

 苦笑するジャックに千束は「ちゃんと全部話しましたー」と口を尖らせている。その様子を見ていたたきなは、千束の方を少しばかり睨んだ。なんで話したんですか、と。

 二人がリコリスであることはもちろん、リコリスという組織の存在そのものを他人に知られてはいけない。DAのやり方を取るならば、この男は早急に殺した方がいいのかもしれないが、

 

「ジャックさんのことは必ず私たちが守ってあげるからね! 大船に乗ったつもりで居てよ〜!」

「別に守らなくてもいい。俺は一人でも脱出する。むしろお前らが死なないか心配なくらいだ」

 

 千束の無邪気な笑顔を見たたきなは、ジャックに、この男に鉛玉をぶち込むのはやめておいてやろうと思うのであった。

 

 ◯

 

「ってなわけで今日の方針なんだけど、とりあえず手紙とかメカニックさんの友人、えーっと、名前なんだっけ」

「イェーガーだ」

「そうそう。イェーガーさんの隠れ家を見つけるのはあくまでついでで、まずはウッズを広く探索しようってことになりました!」

 

 千束が声を張り上げる。たきなは鶏めしを食べ終えて、今は捕食としてチョコバーをもぐもぐと食べている。

 千束の説明と、合間にジャックがこれまでのウッズの探索から得た知識をまとめると次のようであった。

 

 ウッズはその範囲が広大ながら探索できる箇所は限られており、特に西の方の森は地雷原であるため立ち入りできない。湖の周りや伐採上、水没村、建物群、キャンプ地などを経由して見ていくだけでも、置いて行かれた物資や隠された物品が見つかるそうである。

 

 そうであるならば、千束とたきなの探索をメインに置いて、ジャックのタスクであるイェーガーの隠れ家と手紙を探すのはあくまでその道すがらでも問題ないだろうということである。ウッズを手早く移動して調べていけばいつかはわかる。そういう話であった。

 

「今日と、無理だったら明日の日中はウッズを探していこうかなって。たきなはどう思う?」

「いいと思いますよ」

 

 チョコバーをちょうど食べ終えて満足そうな顔のたきなは、頷きながらウッズのマップを開いて主要な探索場所に印を打った。

 

「昨日言っていた場所を含めて、東から西へ探していきましょう。あ、そうだ」

 

 たきなはバックの中を何やらゴソゴソと探して、一つの鍵を取り出した。

 

「昨日手に入れた鍵です。ジャックさん、どこの鍵かわかりますか?」

 

 ジャックに手渡す。しばらくくるくると回して表裏を見ていたジャックは、顎に手を当てながら答えた。

 

「ZB-014ってことは、ウッズの西側にある地下防空壕の入り口かもな。かなりデカくて、離れた位置に出口が繋がっているから元PMCが利用しているという噂を聞いたことがあるが」

「じゃあ、その入り口というのも探していきましょう。何か役に立つかもしれません」

「そうだな。他人の隠れ家にばったり遭遇して戦闘ってのも十分あり得る。注意が必要だ」

「了解です」

「わかったよー」

 

 それから三人は出撃の準備をした。千束とたきなは黒のバラクラバで顔を覆い、脱いでいたアーマーリグ、ヘルメットやキャップ、ヘッドセットを装備していく。それからそれぞれメインアームのKSGショットガンとM24A3ボルトアクションライフルの装填状況と弾を確認、サイドアームも弾が入っていることを確認する。

 

 ジャックは昨日持っていたM45A1をホルスターに入れて、USEC印のアーマーを着た。その上に黒色でマガジンポーチのいっぱい付いたリグを着る。ヘッドセットと灰色のヘルメットもかぶって、銃以外の用意ができた。すると、おもむろに歩いて隠れ家の一角にある木箱に寄る。中からサブマシンガンを取り出した。

 

「お、渋いの持っていくんだね。なんていう銃なの?」

 

 千束はジャックの手元を見ながら自分の装備を点検していく。ジャックはサブマシンガンのマガジンを木箱から取り出して、銃に突き刺しながら答えた。マガジンには弾があらかじめしっかりと入っている。

 

「こいつはPPSh-41だ。俺はペーペーシャと呼んでいる。連射性と弾の入手性に優れていて、扱いやすい」

 

 説明を聞いた千束はほえーと感心している。その様子を横目で見ていたたきなが、首を傾げながら質問を投げた。

 

「USECの装備にしては古い銃ではありませんか? しかもそれロシア製ですよね」

「そうだぞ。こいつはトレーダーから買ったものだ。プラパーという、ロシア連邦軍の装備や銃を横流ししている武器商人から買った。安いし、扱いやすいし、そこそこ強い。弾も大量にあって困らないし、なにより瞬間の制圧力に優れている。よくできた銃だ」

 

 ガチャン! とチャンバーに1発送り込む。ボルトが前進すると同時にこの銃はセーフティが外れ、引き金を引けば弾が出る。ジャックは人差し指をピンと伸ばしてトリガーから指を離したまま、隠れ家の入口の方へ一度ペーペーシャを構えた。そして銃口を下ろし、肩にかけた。木箱からマガジンと弾を取り出してリグに入れていく。ついでによく使う医薬品や止血帯もリグに放り込んで行った。

 

「プラパーっていうトレーダーにも私たちを紹介してくれたら嬉しいなー」

「そうですね。連邦軍の情報を知っているとなると、何かわかることがあるかもしれません。どうですか、ジャックさん」

「まぁー…………いいぜ。連絡しといてやるから足を運びな。場所はまた教える」

「あっりがとー! ジャックさん!」

「ありがとうございます」

 

 バラクラバ越しでもわかる満面の笑みの千束に、ジャックは「この顔には敵わんな」と小さく漏らした。

 

 バックパックを三人とも背負って、準備ができた。銃よし、弾よし、回復キットよし。

 隠れ家の出入り口の鉄格子を開けて、やや長い防空壕の廊下を進む。外へ出る扉に手をかけて、三人は順に飛び出した。

 

 よく晴れた空が広がっている。太陽は東の位置でさんさんと輝き、世界を照らして温めている。命のやりとりがなければ絶好のピクニック日和だっただろう。

 

「いこっか」

「ええ、気をつけて行きましょう」

「死ぬなよ、お互いにな」

 

 三人はウッズへと歩き出した。

 

 

 

 




 壊死判定からの隠れ家帰還の扱いをどうしようか迷いましたが、最終的には「鎮痛が効いていれば動けるし飯も食えるけど、完全に治すには手術による治療が必要。治さないとデバフがかかる」という扱いにしました。ゲームではハイドアウトに戻ると謎パワーで赤色まで戻るんですけどね。調整です。


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