リコリスinタルコフ   作:奥の手

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すまない……風邪ひいた……。
なので今回はめっちゃ短いですが、完全に本編なので幕間と題するのはやめました。
ホットスナック感覚でお楽しみください。


私兵

 HK G28マークスマンライフル。

 7.62×51mm弾を使用するセミオートマチックライフルであるこの銃は、高い堅牢性と耐久性からもたらされる精密な射撃精度が期待できる。

 半自動狙撃銃であるからこそ、弾薬の調達が容易でない場所でも無駄撃ちさえしなければ経戦能力に一端の長があり、使い手の錬度、部隊の連携次第でその戦い方と結果に大きな差が出る。

 

 人工的な森林公園に沿って幾度となく鳴り響く、くぐもった銃声。その銃声を発生させている三人の人間の格好は、とても装備している銃とは釣り合いの取れていない粗末で貧相な格好だった。

 

 薄汚れたシャツやトレーナー。油染みや塗料のついた穴だらけのジーンズ。汗や皮脂で色の変わったジャージ。羽織っているパーカーには吐瀉物のようなものが固まっている。ドブに付け込んだかのような色のベースボールキャップやニット帽をかぶっており、上半身には安物のリグベスト。シャツの下が少し膨れているので防弾チョッキは着ているようだが、中に着れるほどの薄さで期待できる防弾性能などたかが知れている。せいぜい育ちの悪いチンピラがポケットにねじ込んでいる拳銃の弾くらいしか防げない。

 

 彼らは紛れもなくそこらじゅうでたむろしているスカブであり、ゴミ拾いで生計を立てているこの街のゴロツキ。

 

 だがそんな連中が両手に持つ銃は、米国陸軍や世界中の法執行機関で高い評価を得た末に採用されている、紛れもなく高級で強力なマークスマンライフルであった。

 

 もとは鮮やかな緑色のニット帽だったであろう、今は汗染みと砂ぼこりでドブ川に生える藻のような色になっている毛糸の帽子をかぶった中年の男が、左右でG28を北方向に散発的に発砲している男たちに指示を出す。

 

「三十メートル後退する。公園の向かい側の狙撃手に注意。ヴィタリ、ホテルに支援要請。ユリス、このまま俺と撃ち続けろ。あの頭のねじの外れたショットガンを近づけさせるな」

「了解です」

「了解だ隊長」

 

 指示を受けた二人と、隊長と呼ばれた緑ニットの男が徐々に後ろへ下がる。

 公園を挟んだ向かい側からの射線を意識した移動。遮蔽物がない場所では一気に走り、体の左側面を隠せる場所では北に向かって発砲する。

 緑ニットの男が覗く可変倍率スコープの先には、KSGショットガンを構えながらのらりくらりと走ったり歩いたり止まったりしゃがんだりする、やや体格の小さな人間が映っている。

 

「女か……?」

 

 G28に等倍率ホロサイトを乗せた、赤いベースボールキャップの男、先ほどユリスと呼ばれた三十代と思しき男はサイトを覗きながら怪訝そうな声で呟いた。だからどうしたということもなく、容赦なく頭や胸を狙って引き金を引く。しかしなぜか当たらない。当たる直前に対象が移動し、サイトの端のほうにいる。何かの間違いか、自分の腕を疑った。

 

 ユリスと、隊長と呼ばれた男が徐々に後退するのを後ろ目に流し見しつつ、灰色のキャップを被ったヴィタリと呼ばれていた男が一足早く三十メートルの後退を終える。若い男だった。三人の中で最も健脚そうな移動であり、事実後退する際の足は速かった。

 ヴィタリが体を滑り込ませたそこは、旅行用バスと連邦軍の装甲車が西側と北側を隠す場所。つまり完全に遮蔽になっている安全地帯だった。

 

 そこでヴィタリはキャップを脱ぎ捨てて、腰に引っ提げていたヘッドセットを被る。別にキャップの上からでも装着はできそうであったが、ヘッドセットはやけに綺麗だった。まるで汚したくないが故の行動に見える。

 

 G28のグリップを右手で握り左手で通信のスイッチを入れる。一瞬の雑音の間をおいてから、伸びているマイクへ叩きつけるように話す。

 

「こちら〝アイラウ〟。司令部、応答を」

『こちら司令部。どうした』

「現在攻撃を受けている。サムイル死亡。残存3。敵はPMCと思われる。狙撃銃と散弾銃を確認。総数不明。〝ポス〟支援を要請する。指示を」

『ポスは現在動かせない。〝キーロフ〟狙撃部隊を送る。遅滞戦闘に努めよ────ヴィタリ、他の者にも伝えろ。必ず生きて帰ってこい。これは命令だ』

「……了解です、ボス」

 

 通信はそこで終わった。ヴィタリは、おそらくまだ十代の青年である彼は、()()()()()()パーカーの袖で少しためらいながらも目に浮かぶ涙をぐしりと拭った。

 薄汚れたパーカーの袖に染みを作ったとき、遅れて二人が身を隠しに来た。

 隊長と呼ばれていた緑ニットの中年男が、ヴィタリの顔を一目見て、

 

「新兵のお前にはきつい状況だろうが、心配するな。俺たちがいる。その銃を手放すなよ」

「……はい、隊長」

 

 今にも震えだしそうな声でヴィタリが俯く。命のやり取りに慣れていない、まだ誰からも殺されかけたことのない反応だった。

 そんな若造の背中を音が鳴るかならないか程の強さで、色あせた赤キャップのユリスが平手打ちした。

 

「なぁーに、とりあえず女一人とスナイパー野郎一人ぶっ殺せば大丈夫って寸法だ! そうめそめそすんなよ新兵」

 

 平手打ちしたそのままの掌でG28のマガジンを交換しながら歯を見せて笑うユリスに、隊長の男は苦笑いをしながらまぁそうだなと頷いた。それからヴィタリに支援要請の結果を聞く。

 

 ユリスが北側に銃口を向けて牽制射撃。ワンマガジン撃ち切るより早く、隊長の男は次の行動を決断した。

 

「ボスは〝キーロフ狙撃部隊〟と言ったんだな?」

「はい、確かに」

「となるとバルクライの部隊か。SVT-40を持ったゴロツキ集団だ。たぶん六人くらい来るだろうが、勝てんなこれは」

「え?」

「なるべく逃げる方向で立ち回るぞ。ショットガン女もスナイパー野郎もやり過ごせるならやり過ごす。だがこのままここで引きこもってもミンチにされるだけだ。応戦しつつ南側に移動する」

「了解です」

「ラジャー。……くそ、マジで当たらねぇどうなってんだ。ゼロインが狂ったか」

「いや、ユリス。俺も当たらなかった。多分奴は我々に〝撃たせて〟いる。ペースに飲まれて無駄弾を撃たないよう気を付けろ」

「わかったぜ隊長。顔隠してっから美人かどうかわかんねぇけど、もし勝てたらファックしていいか?」

「ボスが怒るぞ」

「へいへいやめとく」

「行動開始。気を引き締めろ」

「了解です」

「おう」

 

 三人の身なりの汚い人間は、G28を油断なく構えながらバスと装甲車で囲まれた安全地帯を南へと移動し始めた。

 公園の向かい側から、大口径の狙撃弾が飛んで来ていた。

 

 

 

 

 




熱は下がってんだけど倦怠感すげぇや。
カルトの毒でも食らったかな?(助からない未来)
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