リコリスinタルコフ   作:奥の手

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伐採場

 抜けるように広がる青空に、3発の連続した甲高い銃声が響いた。

 ほぼ同時に三人の頭上を銃弾が通過する風切り音が鳴る。伏せていなければ誰かの頭が弾けているところだった。

 

「たきな! 位置!」

「伐採場中央、赤いトタンに囲まれた丸太置き場の中です! 中に一人、その後ろから南の方角へ一人移動しているのが見えました!」

「最低でも二人はいるんだね。私は丸太置き場の中の奴に近づくから、たきなは南に行った奴を追って。ジャックさんはここで敵の位置を報告して」

「分かりました」

「まかせろ」

 

 伏せていた状態から三人とも立ち上がり、即座に移動する。三人とも重たいバックパックはその場に捨てて、ジャックは近くの岩裏へ、千束は伐採場中央へ、たきなは南へ走り出した。

 

 千束が坂を滑るように降りて、丸太が積まれている横へ移動する。中央の丸太置場からは射線が切れている。一旦一呼吸おいて、右の端から中央をクイックピークする。人影を視認。手にはボルトアクションではない自動狙撃銃が握られている。先ほど三連射してきたのはおそらくこいつであろう。目深に被ったフードで表情は見えない。こちらを探している。

 一対一の状況ならまず弾に当たらない自信が千束にはあった。いかに連射されようと、まして単発武器での連射など自分にはかすりもしない。そこは問題ない。

 しかし南に走った敵が撃ってきた場合、クロスファイアになって避けるのは至極難しい。なるべく撃たせたくない。そう判断した千束はその場で姿勢を低くして、たきなの報告を待った。

 

 南へ走ったたきなは、少しの坂を飛び降りて白い煉瓦造りの小屋裏へ身を滑り込ませる。左の端へ移動して、膝立ちになって伐採場南の方角を素早く確認する。

 湖に近い方は坂になっていて射線も視界も通っていない。その奥の大きな丸太置き場は見える。中をスコープで覗いて確認する。いない。どこへ行った。

 

『たきな、南側の野外に積み上げられている丸太の裏に一人いる』

 

 ジャックからの無線。たきなは「了解です」と短く返して少し前進し、坂の手前で身を伏せた。素早くスコープを覗いて積み上げられている丸太の横に照準を合わせる。

 

「…………!」

 

 出てきた。頭には葉っぱで偽装されたブーニーハットを被っており、特殊部隊のように全身を緑で統一している。手にはVSSヴィントレスライフルを持っており、こちらに銃口が向いている。視認されているのかは定かではない。この距離で、草むらに伏せている自分の姿を視認できるとしたら相当目がいいが、果たしてどうなのか。

 

 たきなは考えるよりも先に引き金を引いた。相手がこちらを狙っていようがいまいが、こちらの弾が相手に当たって無力化できればいい。頭ではなく足を狙う。膝のど真ん中。当たれば間違いなく行動不能になる。

 たきなは一瞬息を止めて。

 

 シュカンッ! 

 

 狙いを安定させてから引き金を引いた。くぐもってはいるが大口径の弾ゆえにその音は完全には消えず、燃焼されたガスが銃口から赤く吹き出し、叩きつけるような甲高い音と腹に響くような低い轟がない混ぜになった音が伐採場南に鳴り響いた。

 

 .338ラプアマグナム弾が、ブーニーハットの男の膝に一瞬で到達。たきなの狙い通り、その膝関節を撃ち抜いた。周囲に血の煙が舞い、男の後ろに長い血の跡がべたりと伸びた。

 

 左膝を1発で抜かれた男はその場に崩れ落ち、VSSライフルを取り落とした。しかし男は諦めていないのか。即座に這って丸太の裏に隠れようとする。たきなはもう1発、今度は横たわっているVSSライフルに弾を叩き込んだ。男の主力武器は真っ二つになりながら弾け飛び、二度と使えない残骸と成り果てる。

 

「千束、南の男は無力化しました」

『了解! そんじゃいっちょやりますか!』

 

 たきなの報告を受けて千束が立ち上がる。次の瞬間には丸太裏から飛び出し、中央の丸太置場めがけて一気に走った。

 中にいた男がすぐにこちらを視認する。手にしている自動狙撃銃、SVDを構えて、即座に撃ってきた。

 

 タンタンタンッ! タンタンッ!! 

 

 3発。続けて2発。恐ろしく速い速射で、かつ正確に千束の頭と胸を狙ってくる。当たれば確実にバイタルが抜かれる連射。しかし、

 

「素直だねぇ! ありがとさん!」

 

 千束にとって、正確無比に急所を狙ってくる弾ほど避けやすいものはない。相手の銃口、目線、これまでに見せた動き、仲間の存在、それら全てを総合して射撃のタイミングから狙いまでを完璧に予測する。走りながら頭を動かし、地面を蹴ってわずかの無駄もなく体を逸らす。

 

 そして、敵の弾は1発も千束に当たらず、かすることもしなかった。敵の目に一瞬、驚きの色が見えた。

 

 敵との距離は残り四十メートルほど。千束の足なら六秒とかからず肉薄できる。

 

 千束は足を止めず突っ走った。KSGショットガンの銃口をあげる。フードの男の頭に狙いを定めながら、まず1発引き金を引いた。

 

「ちっ!」

 

 しかし当たらない。男が右へ身をかがめながら逃げた。そしてそのまま男は手にしていたSVDをその場に落とし、肩に担いでいたAK105を俊速で構える。

 

 銃口が千束に向く。千束は冷静にかつ迅速に、その場で地面を蹴って動きを止めた。

 

 ガガガガガガガガガガッッ!!!! 

 

 男の持つAK105が火を吹いた。無数に吐き出される5.45×39mm弾が千束に襲いかかる。

 

「よっ……と!」

 

 千束は右に歩き出した。今まさに銃弾の連射が襲ってきているとは思えないほど緩慢な動きであったが、弾は一瞬前に千束がいたところの頭を通過し、後ろにあった丸太に穴を開けている。

 

 今度は左へ。まるで千束の動きに合わせているかのように、弾が千束の右側を通過する。千束がしゃがむ。弾は千束の頭のあったところを通って、虚空に飛んでいく。

 

 千束が低い姿勢のまま走り出すのと、男のAK105のマガジンが空になるのは同時だった。一気に千束が肉薄する。

 三十メートル、二十メートル、十メートル。

 

 もうあと5歩で手も届こうかという位置まで来てから、千束は男にKSGショットガンの銃口を向けた。この距離、このタイミング、この狙いでなら外さない。避けさせない。

 

 千束は男の頭を狙って引き金を引こうとした。その瞬間。

 

 千束の頭にピリリと、電撃のようなものが走った。有り体な言葉を使うならば、それは〝嫌な予感〟というやつだった。

 千束は引き金を引く手を止めて、一瞬の判断でその場から後ろに飛んだ。走り込んでいた慣性が働いて体は強く前へ投げ出されそうだったが、脚力で無理やり後ろへ下がる。その直後。

 

 千束の立っていた場所に銃弾が撃ち込まれた。1発。しかしその1発は、千束がショットガンの引き金をあのまま引いていたら、頭に直撃して命を奪っていたであろう正確な1発。

 

「ふっ!!!」

 

 息を吐きながらもう2歩、3歩と後ろに距離を取る。撃ってきたのは目の前のフードの男じゃない。男は千束の動きを冷静に見て、今まさにAK105のマガジンを交換している。

 

 千束の耳に、ヘッドセットから通信が入ってきたのはその時だった。ジャックの声が少し焦りを孕んで耳に届く。

 

『もう一人いる! 伐採場西の奥から狙撃しているぞ!』

 

 その位置はたきなのいる場所からは狙えない。ジャックの銃では届かない。当然、千束のショットガンや、ましてハンドガンでは当たらない。

 

 千束は一瞬で思考した。その時間に一秒もかけない。かけていられない。半ば反射的に判断した千束の取った行動は。

 

「んんんんおおおおりゃぁああああああ!!!!」

 

 叫びながらフードの男に突進。KSGショットガンをその場に捨てて、男の胸に飛び込んでいく。

 

 フードの男がAK105の引き金を引く前に、千束がAK105のハンドガードを掴んで明後日の方向に向ける。弾が発射され、マズルフラッシュが千束の顔と男の顔を照らす。

 

「なん────っだおまえ!」

 

 男が初めて声を出した。驚愕の目をしていた。千束はそのまま神速の勢いで抜いたハンドガンを男の鳩尾に押し当てる。コンペンセイターが仕事をしているので銃口が対象に押し当てられても問題なく作動する。むしろ、千束のハンドガン────デトニクスコンバットマスター改は、至近距離で相手に銃口を押し込みながら弾丸を叩き込む戦法のために、この形をしている。

 

 装弾数は6発。千束はハンドガンを男に押し付けたまま、引き金を立て続けに6回引いた。

 

 6発の銃声が丸太置場に響き、

 

「ぐ…………ぅ…………」

 

 男の呻き声が千束の耳に届いた。

 

 男はそのまま崩れ落ちる。確実に意識を刈り取った。千束はそのことを判断するのに一秒もかけず、男の体が地面に横たわるよりも先に踵を返してKSGショットガンを拾い上げる。

 拾った勢いそのままに一度前転。その前転をしたまさに頭のあった場所に、再び1発の銃弾が撃ち込まれた。

 

『千束! 今向かっています!』

 

 ヘッドセットからのたきなの声に返事をする余裕が、今の千束にはない。

 足を止めず、まず敵の射線から身を隠す努力をする。千束の位置から敵は見えなかった。よほど離れているのか、迷彩効果が強いのか、一瞬見ただけではいかに目の良い千束でも敵を視認できない。

 

 丸太置場の中に積まれている丸太の裏に身を投げる。飛び込んで腹を下にして滑り込むと、先ほどまで自分の体のあった位置に再び弾が撃ち込まれた。

 

 恐ろしいほどの正確で研ぎ澄まされた射撃。先程倒したフードの男も精度のある射撃をしていたが、今撃ち込んでいる敵もかなりの腕を有している。

 

 体を起こしてぴたりと丸太に背中をつける。ここなら、今撃ち込んできた位置からは射線が通っていないはずだ。

 ハンドガンとKSGショットガンをリロードして、ハンドガンはホルスターへ、KSGショットガンは手元に寄せる。

 

「たきな、丸太置場内のフードの男はやったよ。奥から撃ってきてる奴のせいで今は顔が出せない」

『了解です。今伐採場東にいます。西側の敵を視認しました。撃ちます』

 

 直後にくぐもった銃声。たきなのM24A3ボルトアクションライフルが轟いている。

 2発撃ち込まれた。奥の敵からの銃声は聞こえない。

 

「やった……? 殺してない……?」

 

 無力化はしたい。でも殺したくはない。一見矛盾する、難しい感情が千束の中に走る。たきなの弾が敵の頭に当たっていたら。胸に当たっていたら。敵が即死していたら。

 

 そうなったら嫌だなという感情と、でもたきながカウンタースナイプで撃たれたら、私は死ぬまで後悔するだろうなという、どうしようもない感情がない混ぜになって襲いかかる。

 

 ヘッドセットからの報告を待つ。ほんの数秒の間が、千束には一時間にも二時間にも感じられた。

 

『千束、敵が逃げました。弾は肩に当たったようです。まだ無力化はできていません』

 

 たきなからの通信。千束はとりあえず胸を撫で下ろし、息を一つついた。そして気持ちを切り替えてたきなに伝える。

 

「逃げた敵は私が追いかける。たきなは南の敵の手当てをして。反撃できない程度に治療してあげて」

『わかりました。そっちは任せます』

 

 たきなの通信を聞いてから、千束は丸太の裏から飛び出して、敵が逃げたであろう方向へ走った。走り始めてから通信が入る。

 

『俺だ。いま北側から回り込むように敵を追い詰めている。撃つなよ』

「了解ジャックさん。敵は見える?」

『見える。薄青色の建物の西側の壁に隠れたようだ。ここから撃って北側に出ないようにする。そっちで処理してくれ』

「了解」

 

 千束は走った。伐採場の中央から見て北西に位置している、木を実際に切る建物が見える。壁は薄青色。敵はこの建物の西側の壁にいる。

 

 バラララララララ…………。

 

 ジャックのペーペーシャの音が響いた。弾が金属の壁に当たって甲高い音が鳴っている。そうなれば敵は北側には逃げられず、選択肢は西の森か、南側の壁の端から顔を出すかの二択になる。

 南側の端から顔を出せば、千束は狙える位置にいる。足は止めず、建物に向かって千束は走った。

 

「銃を捨てて! 殺さないから!」

 

 ロシア語で叫びながら建物に取り付く。南壁の端まで一気に来て、KSGショットガンを左手に構えながら壁からクイックピークで顔を出した。

 

 一瞬の視界。敵は、銃を近くに投げ出して壁に背をついて崩れ落ちていた。左肩から出血している。顔には緑迷彩のシュマグを巻いていて、表情は目からしか読み取れない。千束はKSGショットガンを下ろして駆け寄った。

 

 敵の目からは諦めとも恨みとも取れる色が伺えた。千束はしゃがみ込むと、リグに入れていた止血帯で敵の左肩を止血しはじめる。

 男がロシア語で、力無く呟く。

 

「強えな、お前ら」

「喋らないの、今止血して、鎮痛剤も使ってあげるから」

 

 千束の手が敵の血で汚れるが、千束は気にしていない。止血を続ける。

 

「なぜ助ける? 死ぬぞ、お前」

「こっちの都合なの。殺さないであげるから、仲間にも私たちに手を出さないように言ってもらえる?」

「ははは、そりゃ知らねぇよ。俺しか残ってないんじゃないのか?」

 

 男の問いに答えるため、千束はヘッドセットに話しかける。

 

「たきな、そっちはどう?」

 

 少しの間の後、たきなから返信が来る。

 

『敵の左膝は重症ですが、生きています。降参したそうですよ』

 

 千束は頷いて、目の前の男に優しく言った。

 

「生きてるよ。お仲間は二人で、君入れて三人かな?」

「あぁ、そうだ」

「全員生きてる。命は見逃してあげるから、代わりにちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

 千束の言葉に怪訝そうな目を向ける敵だったが、観念したのか、もう投げやりなのか、「なんでも聞け。答えられることには答える」と返した。

 

「ありがと。んじゃまぁ早速なんだけど、タルコフの中で外国から頼まれてシステムを作るような会社ってどこにある?」

 

 千束の問いに、男はしばし悩んだ末、

 

「そりゃ、中心街に行きゃ会社は山ほどある。外国と取引している企業なんてここじゃ当たり前だ。多すぎてわからねぇ」

「そういう話に詳しい人物とかは?」

「さぁな。工場地帯に行けば何か知ってる奴がいるんじゃないか」

「工場地帯? なんで?」

「ここがこうなっちまってから、避難した人間が集まったのが工場地帯だ。今も少なくない人間がうろちょろしている」

「はーんなるほど」

 

 千束は、これは有益な情報を得たと少しばかり喜んだ。工場地帯。そこを調べる必要がある。

 

「ありがと。んじゃ私たちはもう行くね」

「そうかい…………なんなんだ、あんたら」

「通りすがりの女子高生」

「は? あぁ、まぁ、そうか……」

 

 男は一つため息をついて、それから言葉を続けた。

 

「この伐採場にはこれ以降近づくな。俺たちが生きている限り、ここに近づく人間は殺────」

 

 直後、銃声が鳴った。連続した、それも二種類の発砲音。サイレンサーを通したくぐもった音だが確かに周囲にその銃声が響き、降り注ぐように弾丸が飛来する。

 撃ってきた場所は千束の背後、建物西の坂を登ったところの上から。距離にして三十メートルもない。

 

「ッッッ!!!」

 

 千束はすぐさま身を低くしつつその場から離れようとする。同時に背中に激痛。弾が背中に当たり、そしてクラス6のアーマーが命を守った。

 3発ほど被弾し耐え難い痛みが襲うも、千束は構わず足を進めた。耳鳴りがする。でも止まれば死ぬ。視界は一瞬滲んでしまう。

 なおも叩き込まれる銃弾の雨を掻い潜って建物の南へ退避した。

 

 壁をつたって遮蔽にする瞬間、つい先ほど手当てをし、命を繋ごうとした敵の頭が、

 

「……………………」

 

 弾に撃ち抜かれ、赤い霧を周囲に撒き散らし、壁に血が広がる光景を横目にした。千束は、奥歯が砕ける一歩手前まで歯を食いしばって、敵の銃撃から身を隠した。

 

『千束! 大丈夫か!』

 

 ジャックからの通信が耳に入るのと、伐採場北から立て続けに軽い発砲音が鳴ったのが同時だった。ジャックがペーペーシャで牽制をしている。距離が遠すぎて有効打にはなっていないが、何もせずに敵に撃たせるよりはマシである。

 

『千束! 千束! 被害は!? 今向かいます!』

 

 たきなの声も聞こえる。千束は背中の痛みで耳鳴りがするのをなんとか気合いで押さえ込んで、薄青色の建物の東側の壁に回り込んだ。ここなら敵の弾は届かない。

 

「二人とも、私は無事。私が助けようとした敵は死んだ。新手は西側から二人。二人ともサプレッサーがついてる」

 

 千束の報告に、たきなは瞬時に敵の位置を把握、伐採場東側の坂を登って、反対側の西の方角を射界に収める。

 

『私が東側から狙撃します。千束とジャックさんは撃たれないようにしながら敵を引き摺り出してください』

「了解」

『了解だ。千束と合流する。援護を頼む』

 

 ジャックが動き出したのをたきなはスコープ越しに確認した。

 薄青の建物の北西側から敵が二人、姿を表す。ジャックを狙っている。

 

「丸見えですよ…………!」

 

 たきなは呟き、息を止め、スコープにまず一人の姿を捉える。

 敵が手に持つのはアサルトライフル。DAで叩き込んだ銃の知識から、該当する名前と特徴を弾き出す。

 SIG MCXである。シグ・ザウアー社の手がけた、外見だけはM4によく似た、しかし設計は全く異なるアサルトライフル。堅実で使い手を選ばない優秀な武器。

 

 その、MCXを持つ男の足を狙って1発撃つ。しかし引き金を引く直前、男は何かを察したかのように左へ移動した。たきなの放った弾は男の元いた場所を素通りする。

 

「くっ!」

 

 1発外すとロスの大きいボルトアクションライフルである。排莢、給弾を今の自分にできる一番早い速度で行い、次弾射撃の準備をする。

 スコープを覗く。今狙った男の後ろに、もう一人の男が映る。その男が銃を構え、ジャックに向かって発砲する。

 

 男の持つ銃はMDR。ブルパップ式で5.56×45mm弾を撃ち出し、全長が短いにもかかわらずレシーバーからの銃身が長いため精度が約束されている。近距離はもちろん中距離であっても正確な射撃をしてくる脅威の武器である。

 

 移動するジャックに発砲している。足を狙っていては間に合わない。ジャックが死ぬ。そうなれば千束は少なからず悲しむことになる。そんな千束を見るのは嫌だ。

 

 たきなは一瞬で判断し、スコープの赤いレティクルを、MDRを持つ男の腹に合わせた。男は黒のアーマーを着ている。生身に撃つよりはいくらかマシだろう。

 クラス6のアーマーでも問題なく抜いてしまう自分の.338ラプアマグナムAP弾に、今ばかりは、相手の内臓を死ぬまで破壊してくれるなよと祈りながらたきなは引き金を引いた。

 

 くぐもっているが抑えきれない大音量の発砲音が辺りに響く。弾は、ジャックに向かって発砲し続けているMDRの男に、その腹に、寸分違わず吸い込まれた。

 

 男がくの字になって後ろに倒れ込む。射撃の雨が止んだジャックはさらに足を早め、無事薄青色の建物の東側に到着した。千束と合流しているのが見える。

 

「千束、一人やりました。腹に当てたので急いで治療が必要です」

『了解! もう一人は?』

「出てきません。建物南側から姿を表すかもしれません」

 

 たきなの言葉に千束が壁際に張り付き、クイックピークでのぞいているのが見える。

 自分の位置は捕捉されていないので、たきなはあえて建物北側の壁にロックした。そのまま言葉を続ける。

 

「北側は私が見ています。千束は南側から、ジャックさんは建物内部に侵入し、制圧してください」

『了解だ』

『はいよー!』

 

 二人が同時に走り出す。ジャックが建物内部を進み、千束が南側の外壁を進む。

 千束は油断なくKSGショットガンを前に構えている。いつ敵が出てもいい。撃てる。そしてこの距離なら当たる。

 

 千束がそう確信して歩みを進めた、その瞬間。

 

 敵が南側から顔を出した。同時に、手に持っていた手榴弾を千束の方へ投げる。

 千束は一瞬の判断でKSGショットガンを下ろして、踵を返した。手榴弾が転がってくる。千束は建物東側の壁、つまり自分が元いた場所に腹ばいで飛び込んだ。

 直後に背後で爆発音。無数の鉄片が辺りに縦横無尽に飛び散って、鉄の壁に穴を開ける。

 

『千束! 無事ですか!』

 

 たきなの叫びに、千束は地面を転がりながら、

 

「大丈夫! 間一髪! そんでもって────」

『敵が南から来ています!』

 

 たきなの声に、わかっているよと言わんばかりに千束は超速で仰向けになり、地面に背中をつけたままKSGショットガンを構える。と、同時に壁の角から現れた敵に、深緑色のヘルメットを被り、バラクラバで顔を隠しているその敵の顔面に、

 

「くっらえッッ!!!」

 

 非殺傷ゴム弾の嵐を叩き込んだ。

 

 

 

 

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