金の笛を奏でて   作:frio

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flebile(フレービレ)=悲しげに。哀愁を帯びた。もの悲しげに。


第十三話「flebile、わんだほい」

 同時刻、同じタイミングで、星乃 一歌と天馬 咲希に衝撃が走っていた。

 

「…と、燈先輩…い、今なんて…?」

 

「…朝ご飯は目玉焼きパン?」

 

「…えっと、そのあとですね。…楽器を持っていないと私が言ったあとです。」

 

「…朝練辞めた?」

 

 咲希は驚きのあまり、大きな声を上げた。

 通りがかる人からすれば、誰より驚いているのは金髪の少女だと思うだろう。しかし、この場において一番の衝撃をくらっていたのは一歌のほうだった。

 

「な、なんで~?!あんなに楽しんでたのに…あ、朝練だってとても楽しそうだったのに~!?」

 

「…そんなに?」

 

 燈は首を傾げた。

 

「い、いっちゃん燈先輩が…っは!いっちゃんがミクちゃんの限定グッズ買いそびれた時の顔してる?!」

 

「う…うそ…そんな…暁先輩が楽器を持っていない…朝練をしない…??」

 

「………そんなに??」

 

「ど、どうしよう、いっちゃんが心あらずだよ…だ、誰か助けて!」

 

「わんだほーい!!」

 

「「「…」」」

 

「…みんなで一緒に、わんだほーい!!!!」

 

 現場は混沌としていた。

 唐突に現れた、【鳳 えむ】という少女。彼女は、少し遠目で一部始終を見ていた。何やら元気がない女性が一人、目が遠くに行ってしまった女性が一人、慌てている女性が一人と、どう考えても元気がない人たちが三人…つまり、朝から元気になってもらうために、わんだほいという行動をえむはとった。

 

 初見の皆さんはなぜそうなったのかわけがわからないのだろう。もう少しわかりやすく言うと、鳳えむなりに元気づけようとしたのだ。初めて会う人たちに。

 

「…わんだほい?」

 

「!…いいよお姉さん、いい感じ!もっと元気よく…わんだほーい!」

 

「わんだほーい。…楽しい。これ、挨拶かなにか?」

 

「そうだよぅ?さあもっともっと、そこのお姉さんたちも、わんだほーい!」

 

 心非ずな一歌と、とりあえずどうしようもないから元気よくわんだほいする咲希。そして、普通に楽しそうな燈とえむの四人は、通行人から稀有な目で見られながら、登校することになった。

 

「…もしかして、ほなちゃんと同じクラスの…?」

 

「そうだよぅ?鳳えむって言います。よろしくね!」

 

「よろしく、鳳さん。」

 

「…その…一歌さん…だったっけ、は大丈夫?」

 

「た、多分…大丈夫だと思う…。」

 

 

 

 時間が過ぎ、お昼ご飯。レオニード、モアモアジャンプ、鳳えむと小豆沢こはねというそうそうたるメンバーが全員、燈を中心にして屋上に集っていた。

 お昼ご飯はつつがなく進み、一部の友人同士は楽し気に食べているが、ちらりと、燈の様子を見ることが多い。

 

 燈は限界になり、口を開いた。

 

「…なんで???」

 

「…みのり、暁先輩って、意外とたらしかもね。」

 

「こんなに交友関係があったなんて…燈先輩、すごい。」

 

「いや、知らない人もいる。…みのりの友達?」

 

「あ、はい。小豆沢こはねです!みのりちゃんとご飯と…思ってたら…。」

 

「一般人が巻き込まれてる。ここは解散とするべき。」

 

「却下よ。」「却下。」

 

「…ちゃんもも、志歩ちゃん怖い…小豆沢さん、ごめんね。」

 

「い、いえ、私のことはお構いなく…。」

 

 愛莉と志歩の間に挟まれる形で座っている、幸せそうな雫に視線を置くことで、燈は落ち着くことに成功していた。

 視線に気づいた雫は、燈が追い詰められたチワワのような顔を見てしまう。

 

「あ、愛莉ちゃん、志歩ちゃん。燈ちゃん怖がっちゃってるし…そんなに凄まなくたって…。」

 

「そ、そうだよ志歩ちゃん。ほら、これからお話するんだから、そんなに慌てなくても、ね?」

 

「甘い穂波。こっちは一歌が被害くらってるの。見なよあれ。」

 

「い、いっちゃん戻ってきて~!」

 

「わ、わんだほーい!一歌さん、わんだほーい!!」

 

 そこには放心状態の一歌と、お昼時間何も食べずに終わっちゃわないように、一歌の口にご飯を放り込む作業を繰り返している咲希と、ひたすら元気づけようとわんだほいするえむの姿があった。

 

「…い、一歌ちゃん…。」

 

「…雫、こっちの私たちは気になって集中できていないのよ。特にみのりが。」

 

「え!?わ、私?!」

 

「そうだね、私から見ても、このままだとみのりが成長するのにもっと時間かかっちゃうから…暁先輩、どうして楽器を持っていないのか教えてほしいかな。」

 

 全員が燈に視線を集中させる。燈は、はてさてどう答えようか、と悩んでいる間に、屋上のドアがガチャリと音を鳴らした。

 

「…見つけた、燈。」

 

「…朝比奈さん?…下の名前…。」

 

 まふゆから下の名前で呼ばれるのは初めてだった。

 そして何よりも、燈はまふゆがここまで暗い顔をしているのは見たことがなく、何があったんだと驚いた。

 

 場は戦々恐々だ。

 唐突に現れた新たな刺客。さらに優等生らしからぬ表情をしている朝比奈まふゆに、知っている者ほど大きく仰け反る。

 

「…暁さん、ここにいる人たちはお友達?今日は演奏聴かせてくれないんだ?」

 

「え?…え、えぇ??」

 

 すっと優等生の顔を被る瞬間を見た燈の頭の中はバグってしまった。

 無論、燈だけじゃない。約二人ほど、まふゆが放つオーラにやられてしまったものもいる。

 

「「ひ!」」

 

「えむちゃん?!こはねちゃん?!大丈夫!?」

 

 気づけば逃げ出したこはねとえむは、互いに庇うように抱き合った。

 

「あ、朝比奈さん!?と、燈ちゃん、ちょっと元気がないみたいで…。」

 

「大丈夫よ日野森さん。だからちょっとそこから引いてもらってもいいかしら?」

 

「え、えぇ!?朝比奈先輩、アップルパイでも食べて落ち着いてくださいぃ!」

 

「…っは、あふぁふぃふぁふぇんぱい?…はへ、ふふぃのふぁふぁおいふぃい…」

(っは、朝比奈先輩 あれ、口の中がおいしい)

 

「いっちゃんが正気に戻った!やったー!」

 

 

 三者三様、どんちゃん騒ぎ。もはやだれも修正が効かず、中に混ざらない遥でさえみんな楽しそうだなぁとデザートを食べ始める始末。

 

 愛莉と志歩のフラストレーションはピークに達した。

 

「「一回全員、落ち着いて!!」」

 

 

 

 

「まず、誰だって朝練をやめることはある。よって私が朝練をしなくてもおかしくない。きゅーいーでぃー。」

 

「…遥ちゃん、きゅーいーでぃーってなんだろうね?」

 

「証明するのが終わったよ、って意味だね。ネットでよく使われてたりするかな。」

 

「「「へ~…。」」」

 

 教える遥と聞き手に回るみのり、咲希、えむの三人組を横目に見ながら、愛莉が口を開く。

 

「…そうね、その通りよ。でも、そもそも練習が大好きだったりとか、友人関係の人たちの前で惜しげなく練習している光景を見てたこっちとしては、何かあったのか聞きたくなるものよ。」

 

 燈は目を閉じ、しばしの間静かになった。

 

「…燈先輩、眠いのかなぁ?」

 

「えむちゃん、燈先輩はきっとどうやって伝えるか考えてるんだよ。だってたまにトランペットで気持ち伝えてるのに、今持ってないもん!」

 

「そこ二人、静かに。」

 

「「はぁーい…。」」

 

 志歩がペースが崩れないように補助をしながら、愛莉は燈から聞き出そうと直接交渉をする。その様子に、雫はなんだかうれしくなり笑顔になった。

 

 燈はなかなか口を開かない。中学のころから関わり、お世話になった者たちは喉を鳴らし、少しだけ屋上で練習仲間になった者たちは見据える。音を聴いていたものはわからないが、ただただ静かに待った。

 

 ふ…っと、燈が悪い。虚を突かれ、愛莉と志歩は呆然としてしまう。

 

「桃井さん、約束、忘れた?」

 

「…その約束は破棄にしてちょうだい。あの時に、あなたはすでに関わりすぎていたのよ。…こんなふうに、お節介をされるぐらいにね。」

 

 燈は、そっか、と静かに呟いた。

 

 一番、ともに話した時間が長かった一歌は、こんなにも自信がなさそうで、ふっと消えてしまいそうな暁燈を見るのは初めてだった。思わず胸を押さえてしまう。

 

 そうだ、これは、ある種の理想が崩れてしまうのと同じ瞬間なんだ。今から暁燈という人物の化けの皮がはがれる。もし繊細な人なら、私は大きく重りを載せてしまったのかもしれない。もしかしたらその積み重ねで、暁先輩が崩れてしまったのかも…。

 

 一歌は、目をぎゅっとつむる。それでも、耳を塞ぐことはなかった。

 聞くことが、何より暁先輩のためだと、心の底から信じて。

 

「わかった、話せばいいんだね?」

 

「…そこから先は、踏み出させない感じかしら?」

 

「…ごめんね。」

 

 愛莉は大きく呼吸をする。彼女の瞳は、覚悟の色を宿していた。

 

「無理矢理でも突き進んでやるわ。だから、さっさと話しなさい。」

 

 燈は、寂しそうに笑った。

 

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