金の笛を奏でて   作:frio

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第十四話「悲愴」

 中学生の、楽しくも虹色な毎日。

 その最後の年、黒く滲んでしまった友情と世界。

 

 暁燈は、起きたことを淡々と語った。話が進めば進むほど、その場全員の体が鉛のように重くなり、終わった瞬間、悲しさで崩れる者さえもいた。

 お昼休みの終了を告げる鐘がなる。その音はどこか、虚しく感じた。

 

「…授業、始まるよ?」

 

「…こんなこと聞いて、授業なんてやってられないわよ。」

 

 燈はまた笑い、静かに柵に向かって歩き出した。

 

 向かい先で、まふゆとすれ違う。まふゆは、何か、心が氷になるような感覚に襲われ、手を伸ばすも、手から逃れるように走り出し、柵に上った。

 

「ッツ。だめです、暁先輩!!」

 

「大丈夫、一歌。こんな形で死ぬ気はない。」

 

「ま、待ってよ燈先輩、とにかくそこから降りて、ね…?」

 

「燈先輩、だめです、早まっちゃだめぇ!!」

 

 愛莉、志歩、遥は、どこか悔しく、苦しそうに、燈の次の言葉を待つためにぐっと自分を抑える。

 咲希、一歌、えむは必死に、引き留めようと声を荒げる。

 どうすればいいのかわからず、右往左往してしまう雫と、同じくわからないが、優等生の顔はもう剥がれてしまったまふゆがいる。

 

 燈は、その様子を、困った顔で一瞥した。

 

「…ごめん、みんな。びっくりさせちゃったね。…本当に優しいんだね、みんな。私はもういなくても、みんな平気なのに。」

 

 愛莉の顔が、かあっと赤くなった。

 

「いなくても…って、あんた…それだけで、ほのめかすようなことして…!!」

 

「愛莉ちゃん。だめよ…怒っちゃダメ。」

 

「…雫?」

 

 愛莉を遮るように、雫は一歩前に進む。燈の先ほどの言葉で、雫は燈に寄り添うと決意を決めた。

 だって、誰よりも、寂しそうだから。

 

「…そうね、燈ちゃん。みのりちゃんは、もう大丈夫よ。私たちも、きっと大丈夫。…でも、燈ちゃんは…どうなの?」

 

「…そうだね、雫さん。寂しい、とっても寂しいよ。…今すぐにでも、その胸に飛び込みたいぐらい。」

 

「…なら、なんでそうしないんですか…!…これ以上、お姉ちゃんを心配させるような行為は、辞めてください…!」

 

「…私ね、もう、誰ともアンサンブル…合奏が、できないんだ。」

 

「…急に…何よ…それが、あなたにとって大事なことなの…?」

 

 燈は寂しげに頷いた。

 

「…できないって…その、さっきの話のせいで…?」

 

「わからない…でも、きっとそう。」

 

 この場にいる全員、いま彼女へ手を伸ばすための材料を持ち合わせていなかった。心の深い深いところへ、手を伸ばすことができないことに、悔しさと無力さをかみしめるしかなかった。

 

「私はもう、何も要らなくなっちゃった。友達と一緒に話してるだけで、すぐそばに、楽しそうに演奏している人たちを見るだけで、心の奥が痛む。だからもう、これで最後。」

 

「…さい、ご…?」

 

「うん…それで、みんなとはお別れ。」

 

「ま、待ってよ燈先輩!私知ってるよ?私の友達に、怖くても一生懸命立ち向かってる人…寧々ちゃんっていうんだけど…一回その人とお話してからでも、遅くないよ…!」

 

「…ありがとう、鳳さん。でも、私、疲れちゃったんだと思う。痛くて痛くて、こんなにつらいんだったら、捨てちゃおって。…弱いね、私。」

 

「ッツ!変なこと…言わないでください、暁先輩!!」

 

 一歌は、力を振り絞って立ち上がり、思う限りの想いを言葉に乗せて、燈へと叩きつける。

 

「最後って…なんですか…どうして、ただのコンサートなのに、お別れみたいな言い方をするんですか!それじゃまるで…。」

 

「そうだよ、一歌。一歌が思ってる通り…私はそこで、ずっとソロコンサートをするの。だから、私はまだここから落ちない。」

 

 中学のころから、暁燈という人物を知っている一歌は、これが嘘なんかじゃないということはわかっていた。

 

 だからこそ、もう変えることができない。いつも、どこか頑固で、でも優しい暁先輩だから、もう、決断を覆すことは、私にはできない。

 

 一歌は、無力のあまりに膝から崩れ、泣きわめくことしかできなくなった。同時に、同じく無力感に苛まれたみのり、咲希も同じく泣き崩れる。そばにいたえむとこはねは、ただ何も言わず、二人の背中を撫でることしかできない。

 

 一歌の背中を撫でる穂波を見て、燈は安心した顔をした。その顔に、志歩は耐えきれなくなり叫んだ。

 

「…ッツ!暁先輩、これ以上傷つけるのは辞めてください!!からかっているのなら、猶更…」

 

「…朝比奈さん。」

 

「…何?」

 

「…奏のこと、よろしくお願いします。」

 

「…え…あ…あぁ…。」

 

 まふゆは、寒さのあまり体を抱きしめ、ずるずると沈み落ちる。

 

「みのり。みのりなら、絶対にアイドルになれる。あきらめないで、ガンバ。」

 

「やめてください…もう、やめてください…!」

 

「鳳さん、あの魔法の言葉、元気づけられた。私は二度と忘れない。そして、こはねさんにもだけど、こんなことに巻き込んじゃってごめんね。」

 

「…うぅ…。」

 

「…そ、そんな…。」

 

「…そして、一歌。」

 

「いやだ…聞きたく、ない…!聞きたくないよぉ…!」

 

 思い焦がれたみんなと、一緒にね。

 

「あ。あぁ“…。」

 

 その言葉を最後に、燈は柵から降りて、扉へと歩き去ろうとする。愛莉は、その腕をつかんだ。

 

「…ねえ、燈。」

 

「何?」

 

「…私たちには、何もできないのね…?」

 

「…そうだよ…でもね、私幸せだよ。だって、大好きなトランペットと最後を伴にいられるんだから。」

 

 愛莉の手を振り払い、暗い顔のまま、燈はその場を去った。

 うつむき、悲しみの声で屋上はあふれる。…だが、愛莉だけは、まだその目に光を失っていなかった。

 




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「悲愴」music.オーケストラ
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