まどかは思うがままに語った。過去に何があったのか、そして最近、その当人と今であったかのような夢を見たことを。
出来事は明確ではあったが、どこまでも感情を込める彼女の語りからは、怒りと悲しみに満ちているものだった。
聞いていて、あまり気分のいいものではなかったが、司だけは、今のまどかがどこかで見たことがあると感じていた。
「…なるほど、ね。それは…痛ましい話だ。」
「同情はよせ、お前たちにとっては関係のないことだろう。」
「いやぁ…確かにそうだけどさぁ、友達が苦しんでいたら、手を伸ばしたくなるって。」
「…そうか、瑞希は友達だと思っていたのだな、私と。」
「え…何々、じゃあどういう扱いなのボク。」
「屋上仲間。それ以上でもそれ以下でもありはしない。それだけの仲だと認識していた。」
ひっどー!!と瑞希がわざと明るく声を上げる。いっちょ前に傷ついている癖に、と絵名は瑞希の言動に理解をしながら、さてどうしてあげるのが正解なのか…と考え始めた。
実は、絵名にとってまどかの言い分は共感できるところが多い。さすがに、創作や演奏家本人が好きなようにするべきだとは思っているが、然るべきところで輝いていてほしいというのも、絵名の中にはあるのだ。
というよりも、勝手にこっちのこと理解した気でいられるのが、ムカつくのもあるんだけど…。絵名は父親のことを思い出し、少し不機嫌になった。
「ということは、ボクたちも同じ、屋上仲間であり、それ以上でもそれ以下でもなかったってことかな?」
「…む…いや、言われてみれば確かに、俺たちは屋上に用事があるだけで、何か遊ぶような仲ではなかった…だが、旅は道連れ世は情け、袖振り合うも他生の縁だ!困ったことがあったり、嫌なことを思い出したのであれば、余計な事は考えず俺たちに話せばいいぞ!!」
「…はぁ…元気で結構、よくわかった。」
まどかの表情が緩まる。司と類は、少し安心しながら、機材が無事かどうか調べ始めた。
「…もう、人騒がせなんだから…あれ、えむ?」
「ヒョッ!?…な、何寧々ちゃん…?」
「ちょっと大丈夫!?顔真っ青じゃないの…。」
「な。なんでもないよ?!燈先輩なんて知らないよ!?」
まどかの眼光が鋭く光る。えむは、まるで蛇に睨まれた蛙のように委縮し、謝ってしまった。
「…すまない。そういえば、あいつは宮女にいるから、知っているやつもいるだろう。…だが、私の前で二度と暁さんのことは話すな。わかったな?」
「…おい待てよ夜崎センパイ、聞いててわかったけどよ、暁…センパイでいいのか。は何も悪くねえだろ。そんな邪険にする必要ねえじゃねえか。」
「彰人に同意見だ。いくら加害者の友人であっても、その人物が悪いとは限らないだろう。聞くに、暁という人物も予想外だったはずだ。…君にとって苦いことを言われたとしても、そこまで嫌うことは…」
「…ふん。暁さんが好き勝手遊ぶような真似をしなければ、あのようなことはなかったんだ。ただでさえイラついていたところによって、被害を受けた。…二度とだ、二度とあんな目に会いたくはない。いまだに、能がない奴らに、上品な演奏を下卑た真似で遊んでいるんだろう…虫唾がはしる。」
「…ふぅん、なるほど…まどかくんはそう考えるのか。」
「…何か文句があるのか、神代。」
「いや…ないよ。」
「…あ、あのね…夜崎さん…お願い聞いて…その燈先輩が、今ピンチなの…。」
「…は?」
えむは、先ほどあった出来事を頑張って語った。えむなりの言葉で話すため、類が翻訳を行うことで、やっと詳細が伝わる。
寧々はえむがお話がしたいと言っていた理由を察した。なるほど、このまま見捨てるのはえむらしくないため、私たちも巻き込んでしまおうとしているのだろう。
とりあえず寧々は問題ないと思いながら、二人の顔を見る。…類と司も、問題なく協力を惜しまなさそうだ。
「…そ、そんなこと…大丈夫かな…こはね。」
「だ…大丈夫!だってこはねちゃんも、私たちと一緒に協力するって言ってくれたし…ってことは、こはねちゃんのお友達?…だとしたらお願いします!ぜひ募金をお願いします!」
「ってなんで募金なんだよ!?そこはボケずに協力って言えー!!」
「…ワンダーランズ×ショータイムにいると、暗いって感情を表に出している暇はないわね…。」
「でも、悪くないと思う寧々であった…そうだろう?」
「うるさい類。」
相も変わらず、神高きってのやかましい四人組であった。
杏は楽しそうだなと思いながら、さてどうしようかと考える。杏からすれば一言返事で協力しようとするが、彰人と冬弥がどう思うのかわからない。
「別にいいんじゃね。…何すればいいかわからねえが。」
「うん、俺もできることがあれば、協力しますね、えむさん。」
「…本当!?ありがとー…えっと…?」
「東雲彰人」
「青柳冬弥。よろしくね…えっと、苗字はなんていうんだい?」
「鳳えむ!よろしく~わんだほーい!!」
「「…わんだほい…?」」
杏の肩の力が降りる。いらない心配だったようだ。
さてさて自分も…と思いえむに近づこうとするが、まどかが何やら震えている。大丈夫かと話しかけようとしたが、まどかが苦しそうに笑っているということに気づいた。
「ふはは…消える…?あいつが…?あの暁燈が…?アッハッハッハッハ!!!これは傑作だ、勝手だ勝手だと罵っていれば、まさか真に勝手なやつだったとは…ふざけるなぁ!!!」
コンクリート造りの壁を、まどかは渾身の力で蹴りつける。壁が少し削れ、白い粉が舞い思わずえむがせき込んだ。
「…類、えむは無事だな?」
「…そうだね。ただの煙でむせただけだよ。」
「ならその子を抱えてどこかに行ってくれ、全員もだ…今は何もおさえることができない。」
「待ちなさい」「おい、待てよ。」
東雲姉弟の声が重なる。一瞬二人の目線がお互いに見合うことで重なる、が、息を合わせ言いたいことを連射型の弾丸のように浴びさせる。
「勝手にキレて勝手に帰れだぁ?てめえの中二病に付き合ってられるかっての…せめて鳳に謝れ。でどうしてそうなったか教えろ。責任取りやがれってんだ。」
「まったく…見ててイライラするのよあなた。…いいから、言いたいことあるなら吐き出しなさい。聞いてあげるから。」
無言で二人をにらむ。
今自分は悪役なのだろう…ならば、どこまでも非道で、慈悲がない魔王とならねば…それが、互いに傷つかずに済む。
帰らせようと口を開こうとするが、割り込むように類が口を開く。
「ねえ、夜崎くん。」
「…なんだ、神代。」
「君のイヤリング、とっても素敵だね。」
「…何を…。」
「あ、ほんとね。シンプルな割れた木の板で…あれ、でもブランド品じゃない…手作り?」
「ほんとだ~意外とおしゃれさんだね…ん?木の板…そういえば、さっきの話で木の板がどうこうって…。」
「…はい類君、えむわかりました!」
「どあぁ、近くで叫ぶなぁ!」
「うん、元気でよろしい!…では、えむ君、解答を。」
「多分、夜崎さんは今でも燈先輩のことが大大大好きなんだと思います!だから楽器の一部を飾りにして…えっと、何かの舞台演目にいっぱい嫌ってたのに、実はいっぱい大好きなキャラがいました。そういうことです!」
手を腰に置き、むふーと張り切った顔で大きな声で答えを言った。
まどかの顔は大きくゆがむ。
私が、未だに、あいつのことを、好いている…?
的外れもたいがいにしろ。誰があんなやつを…あの、何も考えていないあっぱらぱーを…?
目の前がぐらつく。思わずバランスが崩れ、その場に倒れそうになる。
しかし、倒れることはできず、東雲姉弟に肩で支えられてしまった。
「…最後まで聞けよ、逃げたら承知しねえからな…。」
「向き合うことは怖くないわ…だから、しっかりしなさい。ね?」
とどめとばかりに、類はまどかの前へと歩き出す。
「…夜崎くん…君がどうして、あの時ボクに声を掛けてきたのか、考えてみたんだ…覚えているかい?」
「…ああ…私の率直な意見と感想だった。だがそれに何の意味がある?」
「うん…夜崎くんは、そうそうこちらに意見を言うことが珍しいと思ってね。…そして、今わかったところなんだ。答え合わせと行きたいんだが…いいかな?」
類の目元が光る。
「勝手にしろ…止まる弾でもないだろう。」
「うん。…君は、きっとボクと中学のころの君と重ねたんじゃないかな?つまり、君はあの頃のように、暁くんと一緒にまた音楽がしたいんじゃないかな?」